事業の成果

写真:岡本朋子特別研究員PD

特別研究員PD
岡本 朋子

「花の匂いが結ぶ植物と昆虫の相利共生系」

独立行政法人森林総合研究所 日本学術振興会特別研究員PD
岡本 朋子

研究の背景

  陸上植物の約90%を占める被子植物の多くは、花粉を雄しべから雌しべに運ぶために動物を利用しています。これらの花は、色や匂いなどの“広告”を用いて、花粉を運ぶ動物(送粉者)にその存在を示し、送粉者はそれらを手がかりに花を訪れ、蜜や花粉を得ています。私たちは、植物と送粉者の共生関係において、花の匂いが果たす役割や進化の解明を目指し研究を進めてきました。
  カンコノキ類(コミカンソウ科)では、種ごとに特定の1種のハナホソガ(ホソガ科)によってのみ花粉が運ばれています。一方、ハナホソガは、花粉媒介の報酬として、蜜や花粉ではなく、種子の一部を植物から受け取っています。そのため、ハナホソガは花粉を運ぶ際に、自ら雄花へ行って花粉を集め、雌花に授粉・産卵するといった、非常に特殊な送粉行動を示します (図1)。また、これらの間には、極めて高い種特異性がみられ、ハナホソガは、夜間に多くの植物の中からたった1種の寄主植物を選び出し、授粉を成し遂げています。

図1 キールンカンコノキの雄花で花粉を集めるハナホソガ(左)と、雌花で授粉するハナホソガ(右)。 撮影者: 岡本 朋子
図1 キールンカンコノキの雄花で花粉を集めるハナホソガ(左)と、雌花で授粉するハナホソガ(右)。
撮影者: 岡本 朋子

研究の成果

  昆虫の行動実験と花の匂いの化学分析から、ハナホソガは花が放出する独特な匂いによって、寄主植物を見つけ出していることを明らかにしました。また、種特異的な花の匂いは、隣り合って生育する近縁種間の交雑を避ける生殖隔離機構としての役割を果たしていることも示しました。これまで、動物が花粉を媒介する被子植物では、雌雄花間で形質が大きく異なることは稀であると考えられてきましたが、本研究では、ハナホソガにより花粉が運ばれるグループに、雄花と雌花の匂いが明確に異なる顕著な性的二型があることを発見しました(図2)。さらに、ハナホソガの花粉媒介の進化と、花の匂いの性的二型の進化が同時に起こっていることが明らかとなり、また、花の匂いの進化には送粉者の行動が関わってきたことを明確に示しました(図3)。

図2 雌雄花の匂いの違い。ハナアブやハチが花粉を運ぶ種では雌雄花の匂いが似ているのに対し、ハナホソガが花粉を運ぶ種では雌雄花の匂いが顕著に異なる。

図2 雌雄花の匂いの違い。ハナアブやハチが花粉を運ぶ種では雌雄花の匂いが似ているのに対し、ハナホソガが花粉を運ぶ種では雌雄花の匂いが顕著に異なる。

図 3 花の匂いによって成立するハナホソガとコミカンソウ科植物の送粉共生系。ハナホソガは花の匂いで寄主植物と非寄主植物を認識するだけでなく、雄花と雌花の匂いも嗅ぎ分けて授粉を行う。

図 3 花の匂いによって成立するハナホソガとコミカンソウ科植物の送粉共生系。ハナホソガは花の匂いで寄主植物と非寄主植物を認識するだけでなく、雄花と雌花の匂いも嗅ぎ分けて授粉を行う。

今後の展望

  カンコノキ類とハナホソガの共生関係には、極めて高い種特異性が見られ、それが花の匂いによって支えられていることが明らかになりました。しかし、なぜハナホソガが1種の植物だけを訪れ、授粉しなければならないのか?といった究極的な要因についてはまだ明らかになっていません。ハナホソガ以外にも、植物と1種対1種の密接な送粉共生関係を結ぶ昆虫はいますが、それらがなぜ高い種特異性を示すのかはいまだ不明であり、進化生態学上残された大きな謎の1つです。今後は、ハナホソガが交雑由来の種子を食べられるかどうかなどを調べることで、この謎に迫っていきます。



関連する科研費

平成 20-21年度特別研究員奨励費「花はいかにして特定の送粉者を誘引するのか–情報化学物質としての花の匂いの役割」
平成 26-28年度若手研究(B)「植物と送粉者共生系における種特異性の決定要因の解明」