事業の成果

写真:宮田真人教授

教授:宮田 真人

「最小生物、マイコプラズマ滑走運動のメカニズム 」

大阪市立大学 大学院理学研究科 教授
宮田 真人

研究の背景

  一昨年の冬に大流行したマイコプラズマ性肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」(図1)という細菌によって起こります。マイコプラズマは、最も小さなゲノムと細胞を持つことで知られており、一般的には、「極限まで単純化した生物で、栄養の豊富な培地でのみ増殖する」と理解されています。ところが実際は、代謝などを極限まで簡略化する一方で、寄生のための数々の必殺技を編み出してきた強者です。マイコプラズマは、宿主の組織など固形物の表面に張り付き、張り付いたまま滑るように動く“滑走運動”をします(図2、3)。

図1 マイコプラズマ・ニューモニエの模式図。矢印の方向に滑走する。Mebio 2012; 10: 12. (メジカルビュー社)より転載

図1 マイコプラズマ・ニューモニエの模式図。矢印の方向に滑走する。Mebio 2012; 10: 12. (メジカルビュー社)より転載

図3 マイコプラズマ・モービレの6秒間における運動軌跡。

図3 マイコプラズマ・モービレの6秒間における運動軌跡。

図2 私たちが構築しつつあるビデオアーカイブ。マイコプラズマの滑走運動や様々な生体運動が閲覧できる。“運動マシナリー”と“ビデオ”で検索のこと。
※上のバナーをクリックするとアーカイブのWEBページが開きます

図2 私たちが構築しつつあるビデオアーカイブ。マイコプラズマの滑走運動や様々な生体運動が閲覧できる。“運動マシナリー”と“ビデオ”で検索のこと。
※上のバナーをクリックするとアーカイブのWEBページが開きます

研究の成果

  私たちは毎秒4μmで滑走する、“マイコプラズマ・モービレ”の滑走運動メカニズムを1997年から研究し、以下を明らかにしました。すなわち、マイコプラズマは1μmほどの長さの菌体の片側に“滑走装置”を形成します(図4)。滑走装置表面はユニークな3種類の巨大タンパク質でできています。また、表面には、数百の滑走装置ユニットがあり、それぞれのユニットからは約50nmの柔らかい“あし”が生えていて、約10種類のタンパク質でできている内部構造とつながっています。内部構造では、ATPを加水分解して動きを作り、その動きが装置表面に伝わって、あしが宿主組織表面のシアル酸オリゴ糖をつかんだり、引っぱったり、離したりして菌体は前に進みます。このシアル酸オリゴ糖は、インフルエンザウイルスなどの標的としても知られています。さらに興味深いことに、この装置でATPを加水分解しているタンパク質は、ほとんどの生物に存在しているATP合成酵素から進化している可能性を見出しました。

図4 マイコプラズマ・モービレの模式図。矢印の方向へ滑走する。ピンク部分が滑走装置。
図4 マイコプラズマ・モービレの模式図。矢印の方向へ滑走する。
ピンク部分が滑走装置。

今後の展望

  滑走運動はマイコプラズマの寄生性に必須なことから、私たちの研究の成果はマイコプラズマ疾患の予防や治療にもつながります。また、全く新しい生体運動メカニズムとしてたいへん興味深いものです。これまでの生体運動分野では、ミオシンなどのモータータンパク質と、細菌べん毛モーターがよく調べられてきました。しかし、現在の進んだ情報と技術をもとに生物を見渡すと、マイコプラズマ以外にもこれまでに研究されていない生体運動メカニズムがたくさん存在することがわかります。現在は、私が代表を務める新学術領域「運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性」において、「新奇な生体運動」を新たな研究テーマとして発掘し、そのテーマを定着させることに取り組んでいます。



関連する科研費

平成18-20年度基盤研究(A)「マイコプラズマ滑走運動の分子メカニズム」
平成21-23年度基盤研究(A)「マイコプラズマ滑走運動の分子メカニズム」
平成24-28年度 新学術領域研究(研究領域提案型)「運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性の総括」
平成24-28年度 新学術領域研究(研究領域提案型)「マイコプラズマ滑走運動のメカニズム」