事業の成果

写真:高田秀重教授

教授:高田秀重

「海洋漂流プラスチックによる化学物質汚染と生物影響」

東京農工大学 農学研究院 教授
高田 秀重

研究の背景

  全世界で年間に2億8000万トンのプラスチックが生産されていますが、陸上での廃棄物管理が不十分なことから、大量のプラスチック廃棄物が海洋へ流入しています。その一部を海鳥やクジラなど多種の海洋生物が、餌と区別をつけられずに摂食しており、海洋漂流プラスチックの生物への影響、特に、化学的・毒性学的影響が懸念されています。海洋漂流プラスチックには、もともと製品に配合された添加剤が残留しており、さらにプラスチックは親油性のため、周辺海水中から疎水性の汚染物質を吸着しています。そのため、海洋漂流プラスチックでの汚染物質の濃縮が、地球規模で起こっていることがInternational Pellet Watch(http://www.pelletwatch.org/)という調査(科研費(萌芽研究)で開始)から明らかにされています(図1)。

図1 世界中の海岸に漂着しているプラスチック粒中の有害化学物質PCBs濃度(ng/g) 図1 世界中の海岸に漂着しているプラスチック粒中の有害化学物質PCBs濃度(ng/g)

1. Yamashita et al. (2011) Marine Pollution Bulletin, 62, 2845-2849.

研究の成果

  生物が摂食したプラスチックから有害化学物質が生物の体内に移行するのかどうか、さらにそのメカニズムを明らかにすることを目的に次の科研費(基盤研究(B))による研究に取り組みました。ベーリング海で混獲により採取したハシボソミズナギドリという海鳥を対象に調査したところ、12個体の全ての消化管からプラスチックが検出されました(図2)。さらに、胃内のプラスチック量が多いと脂肪中のポリ塩化ビフェニル(PCBs)の濃度が高いという、結果が得られました。プラスチックから生物への汚染物質の移行が示唆されましたが、より決定的な証拠を得るため、餌生物には含まれずプラスチックにのみ含まれる化学物質として、難燃剤として添加されている臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)、特に高臭素のPBDEsに注目しました。12個体中3個体の脂肪から高臭素のPBDEsが検出され、またそれらの個体の胃内プラスチックからも同じ高臭素PBDEsが検出されました。これらのPBDEs組成が一致し、プラスチックを摂食した鳥の脂肪へプラスチック中のPBDEsが移行していることが明らかになりました。

 図2 ハシボソミズナギドリの消化管内で検出されたプラスチック 図2 ハシボソミズナギドリの消化管内で検出されたプラスチック

2. Tanaka et al. (2013) Marine Pollution Bulletin, 69, 219–222.

今後の展望

  このように、ベーリング海で混獲されたハシボソミズナギドリの調査によって、プラスチックから生物への化学物質の移行が確認されました。しかし、この現象の広がりや規模、そして生物への影響を明らかにすることはまだこれからの課題です。国連の海洋環境に関する専門家会合でも、「化学物質の生態系への移行の規模と範囲を明らかにすることが、海洋汚染の分野では緊急にして不可欠の課題である」としています(GESAMP working group report, 2014)。さらに、移行した化学物質の生物影響については、ほとんど明らかにされていません。今はまだ影響は軽微かもしれませんが、このまま何も手を打たなければ、海洋へ流入するプラスチック量は、今後20年で10倍に増加すると推定されています。たとえわずかであっても、影響を察知して、将来予測を行い、さらに警鐘を鳴らすことで、プラスチックの使用の削減・再利用・リサイクル(3R)の促進などのプラスチック汚染低減対策につなげていきたいと考えています。



関連する科研費

平成17-18年度萌芽研究「海岸漂着プラスチック小粒を用いた海洋POPs汚染の地球規模モニタリング」
平成23-26年度基盤研究(B)「海洋漂流プラスチック中の化学物質の存在・分布と海洋生物への移行」