事業の成果

写真:小野輝男教授

教授:小野輝男

「新しいスピンダイナミクスデバイス」

京都大学 化学研究所 教授
小野 輝男

研究の背景

  19世紀初頭にエルステッドが導線を流れる電流によって方位磁針の向きが変わることを発見して以来、磁石の磁化の向きは電流によって作られる磁場で制御されてきました。コンピューターや最近のビデオに備わっているハードディスクドライブは磁化の方向で情報を蓄えていますが、ここでの情報の書き込みも磁場で行われています。

研究の成果

  私たちは、磁化の境目である磁壁といわれる部分を、磁場ではなく磁石そのものを流れる電流によって動かすことに成功しました。この現象を利用すると、図1に示すような多値メモリーデバイスを作ることが可能です。このデバイスは磁性細線(Co/Ni nano-wire)、情報書き込み部(Writing)、情報読み出し部(Reading)から構成されます。磁性細線の黒い部分は上向き磁化、白い部分は下向き磁化であり、各々が1、0のビット情報に対応します。情報書き込みは書き込み導線に電流を流して(Current for bit writing)行い、書き込んだ情報は磁性細線に電流を流して(Current for bit shift)移動させます。読み出すときは、読み出したいビットを磁性細線に電流を流して読み出し部まで移動させ、ホール抵抗を測定することで磁化の方向を検知します。このデバイスの動作実証の結果を図2に示します。グラフはホール抵抗測定によって読み出された磁化の向きであり、上述した機構によるデバイス動作が安定に行われたことを示しています。

図1 磁壁メモリーデバイスの概念図(Applied Physics Express 3 (2010) 073004より転載)

図1 磁壁メモリーデバイスの概念図(Applied Physics Express 3 (2010) 073004より転載)

図2 磁壁メモリーデバイスの動作実証(Applied Physics Express 3 (2010) 073004より転載)

図2 磁壁メモリーデバイスの動作実証(Applied Physics Express 3 (2010) 073004より転載)

今後の展望

  ここで紹介した磁壁メモリーデバイスは、従来の磁気テープやハードディスクドライブとは革新的な違いがあります。それは、磁気テープやハードディスクドライブでは情報が書き込まれたテープやディスクそのものが移動するのに対し、この磁壁メモリーデバイスでは磁性細線自体は全く動かず、その中を情報である磁壁が移動する点です。つまり、物理的可動部がないデバイスなのです。このことは壊れにくいだけでなく、消費電力が桁違いに下がることを意味します。2025年には、世界の総発電量の15%がデータセンターで消費されると予想されており、私たちはこれからの10年のうちに情報爆発によるエネルギー危機に直面しようとしています。磁壁メモリーがこのエネルギー危機の救世主となることを期待しています。



関連する科研費

平成15-16年度基盤研究(C)「構造制御されたサブミクロン磁性細線における単一磁壁のダイナミクス」
平成17-19年度基盤研究(A)「スピン分極電流を用いた物性制御」
平成19-23年度 若手研究(S)「電流誘起スピンダイナミクスとスピン能動素子への展開」
平成23-27年度 基盤研究(S)「新規スピンダイナミクスデバイスの研究」