事業の成果

写真:手塚育志教授

教授:手塚 育志

「高分子トポロジー化学:「かたち」からはじめる高分子材料設計」

東京工業大学 大学院理工学研究科 教授
手塚 育志

研究の背景

  高分子物質(高分子)は、20世紀に革命的な発展を遂げた合成化学分野の科学・技術のシンボルであり、広範な用途で現代の社会生活を支える材料・素材となっています。さらに、生物システムの高分子は、生命活動に不可欠な構成材料(成分)として用いられ、巧妙に形成された生体高分子の「かたち」に基づく機能発現は、長らく材料科学研究者・技術者を魅了してきました。そして、ナノスケールの柔らかい「ひも」としてイメージされる高分子で多様な「かたち」を自在につくり上げることは、21世紀の挑戦課題として今日まで引き継がれています。

研究の成果

  私たちは、高分子の「かたち」の設計プログラムの創出をめざす「高分子トポロジー化学」の体系化を進めています。とりわけ最近、単環・多環状高分子の高効率合成プロセスが次々に提案され、そのユニークな「かたち」に起因する新奇特性・機能の探索が進んでいます。たとえば、好熱性古細菌の細胞膜をもとに着想した両親媒性環状高分子ミセルによって顕著な耐熱・耐塩性の発現が示されており、自己組織化によって「増幅」する高分子の「トポロジー効果」として材料設計の新機軸となることが期待されています。
  合成高分子の複雑な「かたち」(環状トポロジー:図1)をつくり上げる手法として、私たちは、イオン性高分子前駆体(テレケリクス)の自己組織化と共有結合変換によるESA-CF法を創案しました。さらに、最新の有機合成手法(Click法、Metathesis法)と組み合わせると、多様な環状・多環状高分子トポロジーが構築できます。とりわけ、四環三重縮合高分子トポロジー(K3,3グラフ構造:図2)は、そのハイライトです。長鎖(C-20)アルカンジオールをセグメント成分とするカチオン性六官能分枝状テレケリクスの対アニオンとして2単位の三官能カルボン酸を導入し、この高分子イオン集合体を希釈して加熱・共有結合化すると、K3,3グラフ高分子とその構造異性体となる「はしご型」高分子が一段階で合成されます。さらに、K3,3グラフ高分子は著しくコンパクトな3次元サイズ(流体力学的体積)になり、リサイクルSEC法で分別・単離できます。このK3,3グラフ構造は、「非平面グラフ」としての幾何学特性に加えて、薬理活性を示す環状オリゴペプチドのジスルフィド結合による折りたたみ構造と等価なトポロジーとなることも確認されており、広範な研究分野で注目される「かたち」になってきました。

図1 複雑な多環状縮合構造高分子の「かたち」(青色の「かたち」は、これまでに報告されたもので、赤色は最近のK3,3グラフと関連する研究成果。なお、緑色には、六分岐テレケリクスの末端の連結様式を示している)。

図1 複雑な多環状縮合構造高分子の「かたち」(青色の「かたち」は、これまでに報告されたもので、赤色は最近のK3,3グラフと関連する研究成果。なお、緑色には、六分岐テレケリクスの末端の連結様式を示している)。

図2 六官能分枝状テレケリクスのESA-CF法を用いたK3,3グラフ構造高分子の構築

図2 六官能分枝状テレケリクスのESA-CF法を用いたK3,3グラフ構造高分子の構築

今後の展望

  「高分子トポロジー化学」は、基礎数学(トポロジー幾何学)と高分子化学との相互作用による新機軸の研究領域であり、科研費の特設分野研究「連携探索型数理科学」でも数学研究者を代表とする共同研究が始まっています。これを奇貨として学際的基礎研究が大きく進展することを期待しています。



関連する科研費

平成10年度萌芽的研究「新規テレケリクスの自己組織化に基づく環状構造高分子群の高効率合成」
平成13-15年度基盤研究(B)「高分子間静電相互作用の共有結合変換に基づく多環高分子トポロジーの精密設計」
平成17-20年度 基盤研究(B)「多環高分子トポロジーの精密設計に基づく高分子ナノ構造体構築」
平成23-25年度 基盤研究(B)「新奇多環状トポロジー高分子の精密設計に基づくブレークスルー機能の創出」