事業の成果

写真:松添博准教授

准教授:松添 博

「統計多様体の幾何学と情報幾何学」

名古屋工業大学 大学院工学研究科 准教授
松添 博

研究の背景

  曲線や曲面など、曲がった図形の概念を高次元化したものを「多様体」と呼びます。統計学や情報理論などの分野では確率分布が重要な役割を果たしますが、情報幾何学では1つの確率分布を高次元空間内の点だと考えます。その結果、確率分布の集まりは高次元空間内の点の集まり、すなわち抽象的な図形である多様体と考えることができます。
  多様体では曲がった空間の内積に相当するリーマン計量や、微分に相当するアファイン接続を議論します。確率分布のなす多様体上では、通常の微分幾何学で議論されるレビ・チビタ接続とは異なるアファイン接続が有用です。このようなリーマン計量とアファイン接続を考えた構造が統計多様体です。統計多様体構造を用いると、統計学における最尤(さいゆう)推定法をはじめとして、最適化理論などを幾何学的に説明することが可能になります。
  しかしながら、これまでの情報幾何学は正規分布をはじめとして、指数型分布族と呼ばれる確率分布のなす集合に関する議論が中心でした。複雑系科学を動機とした異常統計などの分野では、新しい数学構造の議論が必要となります。

研究の成果

  指数型分布族はアファイン接続が平坦となる平坦統計多様体の構造を持ちます。異常統計に現れる変形指数型分布族は、2種類の異なる平坦統計多様体の構造を持ちます。私の研究により、統計学で用いる推定関数からこれらの平坦統計多様体の構造を構成できることを示しました。さらに、確率論や統計学で用いる期待値や独立性という概念は、統計モデルごとに修正することが自然であることも分かりました。
  一方、量子情報理論に現れる統計多様体は、曲率は0になるが、捩率(れいりつ)が消えない遠隔平行性空間になります。私の研究で、遷移確率の推定に関する統計モデルにおいても、自然に遠隔平行性空間の構造を持つことが分かりました。統計多様体の幾何学の立場からは、古典、量子という考え方は重要ではなく、推定関数の可積分性の違いが重要となります。

今後の展望

  情報幾何学の理論は、曲率が0である場合の議論が中心となっていました。異常統計の発展から、今後は確率分布の変換などが重要であり、幾何学的にはアファイン接続の射影変換をはじめとした統計多様体上の一般化した共形変形と関連があると考えています。実際の問題への応用としては、データに強い相互作用があり、外れ値を多く含む現象が考えられます。これまで適切な統計モデルが得られていなかった現象に、期待値や独立性を修正することにより、良い統計モデルを構成したいと考えています。



関連する科研費

平成23-26年度若手研究(B)「可積分系と不可積分系の統計多様体の幾何学」
平成26-30年度

新学術領域研究(研究領域提案型)「多元計算解剖学における基礎数理」(研究分担者)
研究代表者:本谷秀堅(名古屋工業大学)
図1 正規分布族のなすアファイン曲面

図1 正規分布族のなすアファイン曲面
1つの正規分布を曲面上の1点だと思い、アファイン曲面として空間に描画したもの。

図2Student t-分布族(自由度1)のなすアファイン曲面

図2Student t-分布族(自由度1)のなすアファイン曲面
正規分布族の場合とは異なり、アファイン曲面としての実現が2通り自然に得られる。
左図と右図では縦軸のスケールが異なるので、この図だけからは単純な比較はできない。