事業の成果

写真:髙橋絵里香准教授

准教授
髙橋 絵里香

「ケア“ワーク”としての家族介護: フィンランドの自治体レベルでの支援制度から考える 」

千葉大学 文学部 准教授
髙橋 絵里香

研究の背景

  現在の日本では、「介護の社会化」というスローガンに代表される通り、従来は家族が担ってきた高齢者介護の専門職への役割移行が訴えられてきました。それは、介護は愛情に基づく無償の自発的行為であるとすることで、家族が経験してきた大きな負担を減らすという意味で重要なことです。ただ、家族介護が「アンペイド・ワーク(無償の労働)」であるとすれば、それを有償化した場合にどのような展開が予想されるのだろうか、という議論は、あまり進められてきませんでした。

研究の成果

  そこで私は、北欧型福祉国家として知られるフィンランドの「親族介護者支援制度」について、文化人類学的なフィールドワークを行ってきました。福祉国家が高齢者ケアを一義的に担うフィンランドでも、財政難と人手不足を背景に家族介護者の支援制度が急速に整いつつあります。特に2005年の「親族介護支援法」の制定以来、家族介護者をケアワーカーに準じる存在として扱い、給付や休暇といった労働の保障を与えることで、家族介護者を含むすべてのケアテイカーを公の領域でサポートしようとしています。
  こうした近年の変動の中の家族の姿を知るために、私は実際に高齢者とその介護者にインタビューを行い、彼らをサポートする行政の担当者やレスパイトケア(家族介護者へのケアのため、一時的にケアを代替する支援サービス)のスタッフの仕事に同行し、家族と行政の間で開かれるケアミーティングにも同席しました(図1~2)。現場の活動への参加からわかったのは、「親族介護者」と呼ばれている人々が、必ずしも同居していない場合もあり、親族でなく友人間の介護であっても支援の対象になっているということです。
  つまり、制度化されることで従来の「家族」の定義が広がりつつあると言えます。一方で、特に老老介護の場合、介護者側も身体的に衰えていく中で、いつまで「親族介護者」として認定し続けるのか、といった「親族介護者」のスキルをめぐる問いも浮上していることが明らかになりました。

図1 夫の帽子を直す家族介護者   図2 靴下を履くための補助具を試している高齢者とその家族介護者、作業療法士
 

図1 夫の帽子を直す家族介護者

 

図2 靴下を履くための補助具を試している
高齢者とその 家族介護者、作業療法士

 

今後の展望

  フィンランドの「親族介護支援制度」の事例は、パートナーや子供を持たない人でも、多様な形で介護のネットワークを構築できる可能性があることを示しています。同時に、行政の在宅介護が充実した状況で、なおかつ家族が介護を行うのは、非常に自立生活程度の低い高齢者が在宅を続けていくために家族の手を借りているケースが多く、施設から在宅への移行が抱える課題について研究を続けていく必要があります。今後は、家族介護に限らず、自宅生活が困難な高齢者が在宅生活を続けるための支援の様相について、フィンランドでの調査を続けたいと考えています。



関連する科研費

平成21-24年度特別研究員奨励費「フィンランドの家族介護とイエ・親族-福祉国家における老いの人類学的研究-」
平成25-26年度研究活動スタート支援「フィンランドにおける家族介護支援の認定プロセスについての人類学的研究」