事業の成果

写真:江草宏教授

教授 江草 宏

「口腔粘膜を用いたiPS細胞技術の確立と骨組織再生法の開発」

東北大学 大学院歯学研究科 
教授 江草 宏

研究の背景

  歯を失ってしまうと、歯を支えていた周囲の顎の骨は必ず吸収されます。そのため、歯科臨床の現場では、喪失した顎の骨を再生する治療法の開発が待たれています。一方で、個々の患者の体細胞から作製が可能なiPS細胞は、再生医療への応用が期待されています。iPS細胞の臨床応用には、採取の容易な組織細胞からiPS細胞を効率よく作製する技術が重要となります。また、iPS細胞を再生医療に用いるためには、iPS細胞の造腫瘍性を完全に阻止する技術の確立が重要な課題となっています。

研究の成果

  私たちは、iPS細胞の細胞資源として、歯科治療の過程で切除されて廃棄されていた口腔粘膜の歯肉に着目しました。歯肉の線維芽細胞は、高い増殖能力を持つだけでなく、口腔粘膜の創傷治癒を早めるなど、他の線維芽細胞とは異なる性質があります。研究を進めた結果、歯肉を用いると、容易に質の高いiPS細胞が樹立可能であることを見出だしました(図1)。また、歯肉の線維芽細胞は、iPS細胞を増殖させるためのフィーダー細胞としても適していることを明らかにしています。一方で私たちは、スタチン系薬剤に骨組織再生におけるiPS細胞の造腫瘍性を抑制する作用があることを見出し、この薬剤を用いて腫瘍化を回避しながら骨再生を促すことを動物モデルで可能にしました(図2)。

歯科治療で切除された歯肉を用いたiPS細胞の作製

図1 歯科治療で切除された歯肉を用いたiPS細胞の作製(Egusa et al. PLoS One, 2010より改変)



スタチン系薬剤を用いたiPS細胞の腫瘍化を回避した骨組織再生

図2 スタチン系薬剤を用いたiPS細胞の腫瘍化を回避した骨組織再生

今後の展望

  個々の患者の歯肉から容易にiPS細胞を作製する技術(特許第5514215号)は、再生医療だけでなく、患者の病態の解明や体質に合った治療法の開発に貢献することが期待されます。また、スタチン系薬剤を用いたiPS細胞の抗腫瘍化/骨芽細胞分化誘導技術(PCT/JP2012/83945)は、iPS細胞を用いた骨再生医療の実現に向けた一歩となるものと期待されます。今後は、iPS細胞の分化多能性を制御して自己組織化を誘導し、試験管内で三次元的な骨組織、あるいは歯などのより複雑な構造をもつ器官の作製を実現したいと考えています。

関連する科研費

平成22-24年度若手研究(A)「iPS細胞技術を基盤とした口腔粘膜細胞を移植材料とする歯槽堤再建技術の創生」
平成25-27年度基盤研究(B)「小分子化合物を利用したiPS細胞の腫瘍化抑制技術による歯槽骨増生法の確立」