事業の成果

写真:八木康史教授

教授 八木 康史

「歩く姿で個人がわかる「歩容認証」:未来科学捜査への期待」

大阪大学 産業科学研究所 
所長・教授  八木 康史

研究の背景

 DNA・指紋・静脈・顔などの生体情報に基づく個人認証技術の研究・開発がさかんに行われ、入退室管理や銀行ATMにおける本人確認システム、さらに種々の鑑定や犯罪捜査支援など、実応用が進んできました。その中で、人の歩き方に注目した歩容認証は、顔がはっきり映らないような低解像度歩行映像でも認証可能な技術で、広域監視に唯一利用できる生体認証として、世界的に研究開発が進んでいます。

研究の成果

 多くの人が、顔が見えないくらい遠くにいる家族や友人を、その姿や歩き方で識別できるように、歩容にはその人の個性が備わっていることがわかります(図1)。実際、図2(左)のように、歩き方には、腕の振り・歩幅の違い・姿勢の違い・動きの左右非対称性などに明確な違いが見られます。本技術は、映像から歩き方(歩容)の個性を低周波の周波数領域特徴(図2右)として抽出し、生体認証を行うもので、実世界の様々な条件下で高い性能を実現しています。そして、提案技術は、私たちが構築した世界最大の歩容データベース(世界の20倍以上の規模)で性能評価を行うことで、どの研究よりも統計的信頼性の高い結果を得ています。また、大規模データにより、歩容からの性別認証・年齢推定の可能性、歩行ゆらぎの性質など、小規模データベースでは知り得ない新たな知見も得られています。公開データベースは、米国のIEEE Biometrics Council News Letter(2013年4月)で紹介され、現在、多くの利用希望が寄せられています。
 実応用の観点では、この技術は、2009年に日本の警察史上で初(世界2例目)の科学捜査技術として活用され、それ以後、毎月数件の鑑定・捜査支援の依頼が寄せられています。2013年に、世界初の歩容鑑定システム(図3)をリリースしたところ、警察庁科学警察研究所法科学研修所主催の鑑定技術職員研修で活用され、科学警察研究所ではこのシステムの実務評価が行われています。

図1 生体認証技術と観測距離の関係

図1 生体認証技術と観測距離の関係

図2 歩き方の個性(左)と歩容特徴(右)

図2 歩き方の個性(左)と歩容特徴(右)

図3 世界初の歩容鑑定システム

図3 世界初の歩容鑑定システム

今後の展望

 歩容認証は、『2014年警察白書』でも新しい個人識別法として取り上げられ、次世代科学捜査技術として期待されています。また、歩容認証(広い意味では歩容解析)は、犯罪捜査・テロ対策、防犯・セキュリティなどの安全・安心だけでなく、商業施設での施設誘導・買い物支援、カルチャー施設や病院施設などでの利用者ケア支援、スマートハウスなどの居住施設の環境知能化など、私たちが暮らす社会全般において活用できる基盤技術です。歩容認証を、人を理解し、人と安全に接するためのブレ-クスルー技術として確立し、日本がその先導的役割を果たしながら、新たなビジネス創成につなげていきたいと願っています。

関連する科研費

  平成15年度 特定領域研究「人間の行動観察のためのセンシングシステムの構築」
  平成17-20年度 基盤研究(S)「装着型全方位ステレオ監視システムの提案」
  平成21-25年度 基盤研究(S)「レンズレス全方位センサによる装着型アンビエント監視と児童防犯への発展」