事業の成果

写真:髙原淳教授

教授 髙原 淳

「天然無機ナノチューブの界面精密構造制御による新しいハイブリッド材料」

九州大学 先導物質化学研究所 
教授 髙原 淳

研究の背景

  私が教授になった当時、新しい研究室で最初にスタートした研究テーマの1つが、自然界の無機ナノ材料の表面・界面を精密制御したハイブリッド材料の創製です。背景には、恩師の故高柳教授(九大工)が提案した分子複合材料を天然ナノ材料で実現することと、1961年に九州の火山灰土壌から初めて発見された、九州発の無機ナノチューブであるイモゴライトを材料として活用したいという思いがありました。イモゴライトは、カーボンナノチューブと同様に外径がナノメートル、長さがマイクロメートルオーダーの構造をもっていますが、アルミノシリケートであるため透明性や表面の親水性をもち、比較的温和な条件で合成することができるという特徴があります。

研究の成果

  私たちは、表面・界面化学の技術を駆使してイモゴライトの表面・界面構造を制御することにより新しい材料の創製に取り組んできました(図1)。イモゴライトは、表面にAl-OH 基をもつのでリン酸基が強く相互作用することを見いだし、DNAやペプシンのようなリン酸基をもつ生体高分子とのハイブリッド・ハイドロゲル形成に成功しました。さらに、リン酸基を足がかりとして、イモゴライト表面からの原子移動ラジカル重合、イモゴライト表面への機能性オリゴマーの固定化へと展開しました。
 ハイブリッド材料の調製を目的として、無機材料合成にも積極的に挑戦しました。ポリビニルアルコール(PVA)水溶液中でイモゴライトを合成すると、イモゴライトファイバーがPVAの中で細かく分散した複合体を形成しました。ガラス繊維強化プラスチックと同様に、ナノサイズのイモゴライトとハイブリッド化することで、PVAの強度は向上し、しかもナノレベルで分散するために透明性も維持できることを見いだしました。イモゴライトは、天然由来であるため環境に対して低負荷です。PVAのような環境にやさしい高分子と組み合わせることで「グリーンハイブリッド材料」とも呼べる、次世代の高性能環境低負荷材料の創製を提案することができました。
 イモゴライトの研究は、表面がSi-O、内壁がAl-OH である天然アルミノシリケートナノチューブであるハロイサイトへと展開しました。図2に示すように、ハロイサイトの内壁の選択的なアルキルリン酸による疎水化による薬剤徐放出性有機無機ハイブリッドの創製、内壁の疎水化、表面の親水化による無機ミセルの設計、さらに難燃剤担持ハロイサイトを用いた新規難燃性材料の構築、ハロイサイトナノチューブ内壁へのリビングラジカル重合開始剤固定化と表面開始原子移動ラジカル重合によるハロイサイトナノチューブ内孔への高分子形成を行い、表面・界面制御をキーワードとして新規材料研究へと展開しています。また、JST ERATOプロジェクトとの連携により、表面疎水化ハロイサイトナノチューブを用いて極性液滴を安定に被覆した新規液体ビー玉(微粒子安定化液滴)へと展開しました。

図1 イモゴライトを用いたハイブリッド材料

図1 イモゴライトを用いたハイブリッド材料

図2 ハロイサイトを用いたハイブリッド材料

図2 ハロイサイトを用いたハイブリッド材料

今後の展望

  イモゴライトやハロイサイトは、完全微細分散への挑戦とそれにより物性がどこまで向上するかを理解することが学術的な課題です。一方、機能性材料としては、イモゴライトは無機ハイドロゲルとしての特徴を生かしたバイオマテリアルなどへの展開が、ハロイサイトはその内孔を活用した自己修復ハイブリッド、温度が上がると難燃剤を放出する難燃性ハイブリッドなどのインテリジェントハイブリッドへの展開が期待されています。ハイブリッド化は無限の組み合わせがあり、2種類の材料の長所を生かした有機無機ハイブリッドによる革新的な高分子複合材料の展開が期待できます。

関連する科研費

  平成15-18年度 基盤研究(A)「天然ナノフィラーを用いたグリーンハイブリッド材料の構築」
  平成19-22年度 基盤研究(A)「界面精密構造制御による高性能グリーンナノハイブリッド材料の構築」