事業の成果

写真:堂免一成教授

教授 堂免 一成

「可視光照射下で水を分解して水素を製造する光触媒系の開発」

東京大学 大学院工学系研究科
教授 堂免 一成

研究の背景

  太陽光を利用して水を水素と酸素に効率よくかつ大規模に分解できれば、真にクリーンな水素を製造できることになり、エネルギー・環境問題を根本的に解決できる可能性があります。光触媒微粒子を用いて水を分解できることは35年ほど前に見出されていましたが、水の分解が可能な光触媒のほとんどは酸化物で、太陽光にごくわずかしか含まれていない紫外光照射下でしか動作しないものでした。そこで、太陽エネルギーを有効に利用するには、太陽光の大部分を占める可視光の照射下で水を分解できる光触媒の開発が求められていました。

研究の成果

  私たちは、酸化物の酸素の一部(または全部)を窒素や硫黄で置き換えることで、可視光を吸収し、かつ水を分解できる光触媒を開発しようと考え、(酸)窒化物や(酸)硫化物といった光触媒材料に注目して研究開発を行ってきました。
 水を分解する有望な光触媒として様々な材料を開発してきましたが、その中で、GaN:ZnOの固溶体を用いると、可視光の、照射下で安定して水を分解できることを世界で最初に実証することができました。ただし、GaN:ZnOは波長約500 nm以下の可視光を利用できますが、太陽エネルギーの有効利用という観点からは、600 nmや700 nmといったより長波長の可視光を利用できる光触媒の開発が求められています。
 可視の光照射下で水の分解を達成するには、有望な光触媒材料を見出すだけではなく、その結晶性や組成、粒子の大きさや形態の制御、光触媒表面の修飾など、様々な検討が必要です。さらに、光触媒内部や、光触媒と水との固液界面での光励起キャリアの挙動の理解も必要です。こういった様々な検討を行った結果、LaMg1/3Ta2/3O2Nという光触媒材料を用いて、約600 nmの可視光により水分解を達成することができました(図1)。また、Ta3N5という光触媒材料をナノロッド化し(図2)、水分解用の光電極として利用することにより、1.5%を超える太陽エネルギー変換効率を達成することができました。

図1 LaMg1/3Ta2/3O2Nを用いた可視光照射下<br />
  (≤600nm)での水分解反応の経時変化

図1 LaMg1/3Ta2/3O2Nを用いた可視光照射下
  (≤600nm)での水分解反応の経時変化

図2 可視光(≤600nm)で酸素を発生するTa3N5ナノロッドの断面SEM写真

図2 可視光(≤600nm)で酸素を発生するTa3N5ナノロッドの断面SEM写真

今後の展望

  太陽光を利用し光触媒によって水から水素を製造することは、私たち化学者や人類が夢に描いてきた人工光合成の1つの形態です。さらなる高効率化および長寿命化への研究開発が必要ですが、人工光合成によるクリーンで持続的なエネルギー供給が、近い将来、現実のものとして検討段階を迎えることになると考えています。

関連する科研費

  平成17-19年度 基盤研究(A)「水を高効率で分解するオキシナイトライド型薄膜光触媒の精密合成」
  平成23-27年度 特別推進研究「固液界面での光励起キャリアダイナミクスに基づいた革新的水分解光触媒の開発」