事業の成果

写真:宮本みち子教授

教授 宮本 みち子

「労働市場から排除された若者を支援する政策手法とその評価に関する国際比較研究」

放送大学 教養学部 教授
宮本 みち子

研究の背景

  多くの若者が安定した仕事の世界に着地するまでに長い時間を必要とし、失業や一時的労働従事者が増加するようになりましたが、その波をもろにかぶったのは、中流層に属さない若者たちでした。しかも、新自由主義の流れのなかで、自己選択と自己責任の圧力が強化され、若者のなかでも不利な状況に置かれた層の周辺化が進みました。

研究の成果

  私たちは、次の3つの研究目的を設定しました。第1は、労働市場への参入困難層の実態を把握し、社会的支援の対象とすべき若年層を明らかにすること、第2は、現行の支援方策に関する評価を行い、地域の包括的若者自立支援システムのモデルを構築すること、第3は、若者政策および支援手法を国際比較によって類型化し、日本の構造的特性と課題を明らかにすることです。

1)海外における若者支援の取り組み
  海外に関しては、スウェーデン、デンマーク、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国で、労働市場から排除されがちな若者の実態と若者政策、支援の取り組みを調査しました。その結果、学校と仕事の世界をゆるやかに架橋する、分野横断的で包括的な支援体制が有効であり、また早期発見・継続的支援体制が重要と認識され、制度改革が進んでいます。さらに、従来の学校制度にとらわれないオルタナティブな教育・訓練機会が拡大しています。技能と職業能力を高めるための学習機会は、単に仕事に就くためだけではなく、個人の生活を豊かにし、市民としての能力や社会生活に必要な能力を獲得するという意味でも重要です。(図1)

図1 自立に向けたオルタナティブな学びの場

図1 自立に向けたオルタナティブな学びの場


2)若者に対する政策体系の類型化と日本の特徴
  若者に対する政策体系を、所得保障と雇用サービスの関係にフォーカスして3つに類型化した結果、日本とオランダは「保険型」、オーストラリアは「扶助型」、イギリスとフィンランドは「混合型」に分類されました。日本の特徴は、若者の所得保障の捕捉率が低い点にあります。日本の現状では、若者の自立を担保する社会保障制度はきわめて弱体で、就労による自立に失敗した場合のセーフティネットは、事実上家族(親)であるという点で西欧諸国とは異なっています。社会的に孤立し就労困難な若者の増加に歯止めをかけるためには、所得保障と就労支援サービスのセット、教育・福祉・労働・保健医療制度の緊密な連携が必要だというのが本研究の結論です。

3)若者支援手法の検討
  国内におけるすぐれた若者支援の取り組みを調査した結果、教育、福祉、労働、保健医療分野が連携しつつ地域コミュニティの経済活動のなかに若者を位置づけることができる段階に達した事例においてもっとも効果が認められました。そこには3つの要素がみられます。①官民共同で資源を持ち合っていること、②支援団体や経済活動が集積しており、密接な関係を作っていること、③地域をデザインし、人や団体・企業をつなぐすぐれた民間団体などの媒体があることです。また、支援の必要な若者とできるだけ早くつながるための仕組み(学校との連携はきわめて重要)、若者が抱えている多面的ニーズに対する包括的サポートという手法、そして中間的就労の場を作ることと、その後の出口を開拓することが重要であり、これらが支援者に求められている力量であることがわかりました。(図2)

図1 生きづらさを乗り越えるための学校から仕事への移行を支える中間的就労

図2 生きづらさを乗り越えるための学校から仕事への移行を支える中間的就労


今後の展望

  これまでの研究成果を踏まえて、新たに3つの課題をたてて研究をしたいと考えています。①学校と労働市場で排除のリスクを抱える若者の具体像を個別データに基づいて分析をする。②これらの若者の支援記録から、若者に関係のある現行の社会諸制度の有効性と限界性、あるいは陥没について詳細に分析する。③社会的排除のリスクを抱える若者の増加に歯止めをかけ、青年期から成人期への移行と自立を保障する社会保障制度を構想することです。 日本では、人生前半期の社会保障制度の強化へ方向転換すべき段階にありますが、本研究はその制度設計に貢献できると考えています。

関連する科研費

平成13-15年度基盤研究(B)「イギリス・スウエーデン・イタリアの若者の実態と社会政策の展開」
平成19-21年度基盤研究(B)「社会的経済セクターを通じた若者の社会的包摂に関する国際比較研究」
平成26-29年度基盤研究(B)「若者期の生活保障の構築に向けた国際比較研究~社会的に排除される若者層を中心に~」