事業の成果

写真:西中村隆一教授

教授 西中村 隆一

「腎臓の起源同定による3次元腎臓組織の試験管内誘導」

熊本大学 発生医学研究所 
教授  西中村 隆一

研究の背景

  腎臓は血液を濾過して尿を産生することで、体液バランスの維持や血圧調整に重要な役割を果たしています。しかしながら、腎臓は、一度機能を失うと再生せず、人工透析がなければ生命が維持できない状況に陥ってしまいます。そのため、人工透析を受ける患者数は増加の一途で、国内で31万人に上っており、医療費も年間1兆円と医療経済的問題にもなっています。人工透析患者にとって腎臓移植は唯一の根治療法ですが、慢性的にドナーが不足しており、再生医療への期待が高まっています。しかし、人工的に腎臓を作ることは極めて困難とされてきました。

研究の成果

 腎臓の機能は、血液を濾過する糸球体やそこから必要なものを再吸収する尿細管などによって司られています。以前に私たちは、これらの元になる腎臓の前駆細胞が胎児に存在することを証明していました。今回、この細胞の起源が、教科書の定説だった中間中胚葉ではなく、胎児の下半身のもととなる体軸幹細胞様細胞であることを見いだしました。さらにここから腎臓がどうやってできていくかを解明しました。そして、5つの誘導因子を適切な組み合わせと濃度にして、5段階に投与することで(図1)、マウスES細胞およびヒトiPS細胞から、体軸幹細胞様細胞を経由して腎臓前駆細胞を誘導し、さらに糸球体と尿細管という3次元の腎臓組織を試験管内で作ることに成功しました(図2)。

国際シンポジウム「変動期の東アジアにおけるジェンダー主流化:現状と新たな挑戦」の風景
図1 試験管内での腎臓作成法
国際シンポジウム「変動期の東アジアにおけるジェンダー主流化:現状と新たな挑戦」の風景
図2 ヒトiPS細胞から作成した腎臓組織(桃/黄色:糸球体、緑:尿細管)
(右) 糸球体の拡大写真(淡青/桃色)

今後の展望

 この研究は、腎臓の前駆細胞が胎内で形成される仕組みを明らかにするとともに、試験管内での3次元腎臓組織の構築を実現したものです。糸球体と尿細管を含む3次元の腎臓組織を作ったという報告は世界で初めてで、腎臓の再生医療の扉を開く成果です。この方法を使えば、腎臓の病気を試験管内で再現できる可能性があるので、病因の解明と創薬開発につながることが期待されます。
 今回の成果は私が20年間追い求めていたものですが、現時点では大きさも成熟度もまだまだです。実用化のためには、もうひとつの腎臓構成要素である尿管芽を作って、腎臓前駆細胞と組み合わせ、本当の3次元の腎臓を作らねばなりません。さらに、そこに血管を通して尿を作らせ、機能を持たせる必要があります。これにはまだ長い時間がかかるかもしれませんが、試験管内での腎臓作成という私の夢は、「夢物語」ではなく達成可能な「目標」になったのだと思っています。

関連する科研費

  平成17-18年度 特定領域研究
  「新規コロニーアッセイ法による腎臓前駆細胞の単離と誘導」
  平成20-22年度 基盤研究(B)「胚性幹細胞からの中間中胚葉及び腎臓前駆細胞の誘導と単離」
  平成23-24年度 挑戦的萌芽研究「発生期腎臓細胞を用いた3次元構造の再構築」