事業の成果

写真:沖大幹教授

教授 沖 大幹

「世界の持続的な水管理メカニズム解明のための人間活動も考慮した統合的な水循環・水資源モデルの開発」

東京大学 生産技術研究所 
教授 沖 大幹

研究の背景

 途上国を中心として世界の人口が増加し、経済発展に伴って生活・工業・農業用水のいずれの使用量も増大すると想定されています。今世紀中、地球上の限りある水資源は人類の需要を満たし得るのでしょうか。水不足のみならず、洪水などの水関連災害が成長・開発の阻害要因となる可能性はないのでしょうか。こうした問いに答えるには、地球規模の水循環と世界各国の水利用の適切な推計が必要ですが、私たちが研究を開始した頃には、そのための有効な手段がありませんでした。

研究の成果

 科学研究費補助金の支援を受けた一連の研究により、自然の水循環と人間活動による水循環への介入の両者を統合的にシミュレートできる「水循環・水資源モデル」を開発することができました。このモデルには、人工貯水池の貯留や放流を制御するモデル、灌漑取水やその推計のための作物成長モデル、氾濫も考慮した高精度な動的河川流下モデルや地下水モデルなどが含まれます。
 統合的な水循環・水資源モデルでは、雨水や河川水といった再生可能な水資源と、化石水と呼ばれるようないったん汲み上げて使ってしまうと枯渇するような水資源を分離して追跡することが可能です。この機能により、世界のどの地域でどういう水源からの水資源をどの程度使っているのか、また貿易を通じて世界にどのように配分されているのかが推計可能となりました(図1)。
 この統合的な水循環・水資源モデルを用いた将来の世界の水需給逼迫度評価や、陸域水循環に対する人間活動の介入が海面水位変化に及ぼす影響評価(図2)、氾濫や人口分布も考慮した21世紀末に至る世界の洪水リスク評価に関する研究成果はNature GeoscienceやNatureClimate Changeといった一流学術誌に掲載され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書にも引用されています。また、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)でも、本研究で開発された河川流下モデルが洪水予報用に実装されようとしているところです。

図2 1.5秒間の視線の推移

図1: 主要農畜産の生産と貿易を通じて仮想的に世界を移動する水のフローのうち、持続性が低い水源に起因するフローを世界で初めて推計。世界22地域間のフローのうち、0.5km3/年以上の値が推計された場合のみ表示。

図3 6.0秒間の視線の推移

図2: 観測された海面水位変化への様々な寄与の推計値。陸水貯留量変化の寄与も無視できない。IPCC 第4次評価報告書と本研究の推計値は1961-2003年に対して、他は20世紀後半に対してだが、Wada et al.( 2010)については1960-2000年に対する推計値。エラーバーは第4次評価報告書の海面水位収支の残差の不確実性の幅を示す。Chao et al(. 2008)の結果には貯水池から周囲への浸潤に伴う損失が含まれているが、Lettenmaier and Milly(2009)にはこの損失分は含まれていない。(N. Hanasaki, T. Inuzuka, S. Kanae, and T. Oki, 2010. An estimation of global virtual water flow and sources of water withdrawal for major crops and livestock products using a global hydrological model. J. Hydrol., 384, 232-244.)
(Pokhrel, Y. N., N. Hanasaki, P. J-F. Yeh, T. J. Yamada, S. Kanae, and T. Oki, 2012:Model estimates of sea-level change due to anthropogenic impacts on terrestrial water storage, Nature Geosci, 5, 389-392.)

今後の展望

 科学研究費補助金により開発を進めてきた統合的な「水循環・水資源モデル」は、気候変動や社会変化を考慮した将来の水災害リスク評価に利用可能であるばかりではなく、準実時間で利用可能な地球観測に基づく世界の降水量分布情報(GSMaP)などと組み合わせることによって、水関連災害の早期警戒システムとしても国内外で有効利用されようとしています。
 今後は、2020年頃の実現を目標として、社会変化、気候変動の影響を包括的に考慮しつつ、持続可能なエネルギーや食料、水などの資源、人間健康、生態系サービスなどについて過去150年、将来100年の変化を日単位で推計し、懸念される問題とそのメカニズムを全地球について1km格子といった超空間分解能で明らかにし、最終的には準実時間推計を行って、水関連災害の早期警戒にも資するシステムを開発・構築したいと考えています。

関連する科研費

  平成12-13年度 基盤研究(B)「高精度全球土壌水分分布の再解析と降水予測へのインパクト数値実験」
  平成16-17年度 基盤研究(B)「十年にわたる全球陸面エネルギー水収支データセットの構築とその検証解析」
  平成19-22年度 基盤研究(S)「世界の水資源の持続可能性評価のための統合型水循環モデルの構築」
  平成23-27年度 基盤研究(S)「統合型水循環・水資源モデルによる世界の水持続可能性リスクアセスメントの先導」