事業の成果

写真:足立眞理子教授

教授 足立 眞理子

「グローバル金融危機以降のアジア経済社会の変容とジェンダー」

お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科 
教授 足立 眞理子

研究の背景

   グローバル化の進展によって、アジアの経済社会は大きく変化しました。今日、主要な経済アクターは、多国籍化した企業組織の国際的ネットワークであり、登用される人材は国境を跨いで配置され、それに伴う世帯・家族構造は国際的に拡大しながら家計を営んでいます。ジェンダー分析の視点から見れば、金融や生産の領域と同様に、再生産(生命・人間・労働力としての全生涯の再生産)領域のグローバル化が進行していることの重要性を指摘できます。これらの現象は、たとえば家事・介護・看護労働力の国際移動や、国際的に拡張しつつ維持されている世帯保持行動などに現われています。2000年代のアジアは、日系企業をはじめとする海外からの直接投資の受け皿となり、中国の「世界の工場化」をもたらしました。それでは、2008年のグローバル金融危機以降のアジアの経済社会の変化はどのようなものなのでしょうか。ジェンダー分析の視点を取り入れつつ最新の動向を把握することを目的としています。

研究の成果

   グローバル金融危機以降の変化を把握するために、ジェンダー分析の視点による、金融領域、生産領域、再生産領域の3つの領域のグローバル化の関係を把握する方法を用いています。とくに、金融と生産(産業・企業組織)の領域と再生産領域がどのように接合しているのかについて焦点を当てています。たとえば、金融と再生産領域の接合関係では、住宅金融に関する金融排除/包摂の日米比較分析として、金融機関、不動産会社、地域信用組合、地域労組、移民女性などを調査し、日韓比較分析として生命保険会社を対象とし、「顧客ケア」の重要性などが明確化してきました。また、生産・再生産領域の接合関係では、ファストファッションの縫製・衣料産業の国際移転、特に外資系企業の中国リスクへのヘッジ傾向(中国からバングラデシュなどへの二次移転)の経済環境変化が女性関連産業に与えている影響、日・中・台湾の高齢化対応産業である車椅子企業の動向(介護保険制度との関連など)を分析しています。この傾向の中で、英語使用によるB PO産業(企業のバックオフィス機能の外部化)の進展(フィリピンなど)があり、情報産業と組み合わさり、新しい現象を見ることができます。これまでの研究で、資本と労働の国際移転における、①制度設計上の差異(制度の競争)、②労働供給の差異、③ケア労働におけるアクターの位置づけ(制度と世帯組織の動向)の相違などに関して、新たな知見を得ることができました。

図1 モデルルーム内覧時の視点分布

日系縫製企業のバングラデシュ工場にて
(提供:長田華子・茨城大学)

今後の展望

   グローバル金融危機は、アジア各国の経済社会に対して、従来の政治的ヘゲモニーのあり方や経済的資源投入の意思決定などにおいて変化をもたらしています。これらの研究成果は、アジアの経済社会の発展が、ジェンダー秩序・ジェンダー関係の変容を伴いつつ、近代化論や開発主義では把握できない、21世紀のアジアの重層的で柔軟な経済社会構造の理解を深めていく一助となるでしょう。今回、ジェンダー分析としては初めて、先端的なフェミニスト経済学の知見を導入して、金融領域のグローバル化と再生産領域の接合関係の実証分析を行いました。フォーマル/インフォーマルな資金の流れとジェンダーの関係は非常に複雑ですが、金融排除と包摂の政治経済過程は、金融危機の火種となる要素を持っています。今後、これまでの知見をさらに精緻化していけば、多くの示唆を得ることができると考えています。

米国住宅金融調査 (提供:姉歯暁・駒澤大学) 米国住宅金融調査 (提供:姉歯暁・駒澤大学) フィリピンBPO協会 (提供:堀芳枝・恵泉女学園大学)
米国住宅金融調査 (提供:姉歯暁・駒澤大学) フィリピンBPO協会
(提供:堀芳枝・恵泉女学園大学)
国際シンポジウム「変動期の東アジアにおけるジェンダー主流化:現状と新たな挑戦」の風景
国際シンポジウム「変動期の東アジアにおけるジェンダー主流化:現状と新たな挑戦」の風景

関連する科研費

  平成23-26年度 基盤研究(A)「グローバル金融危機以降におけるアジア新興/成熟経済社会とジェンダー」