事業の成果

写真:湯浅邦弘教授

教授 湯浅 邦弘

よみがえる中国古代思想 ─竹簡学の誕生─

大阪大学 大学院文学研究科 教授
湯浅 邦弘

研究の背景

  今から2000年以上前の古代中国。さまざまな思想家が夢と希望を熱く語った諸子百家の時代に、多くの文献が執筆されたと伝えられています。しかし、秦の始皇帝の焚書坑儒や相次ぐ戦乱など、文化の継承に支障を来す事態も生じました。今に伝わる古代文献は必ずしも当時の全体像を示すものではなく、むしろごく一部だったのです。また、今、私たちが閲覧できる文献のルーツは、約1000年前に盛行した木版印刷によるテキストで、諸子百家の時代からはすでに1000年以上たった時代に定着したものです。したがって、中国古代思想史にはまだまだ謎の部分があり、また読解対象とされていたテキストも、決して当時の一次資料ではなかったのです。

研究の成果

  ところが、中国では近年、竹簡に記された古代文献が相次いで発見され、研究材料として公開されるという劇的な事態を迎えています。木簡に比べて竹簡の認知度は低いのですが、数百枚、数千枚という大量の出土竹簡は、中国哲学研究の風景を一変させたといっても過言ではありま せん。
 そこで、私たちの研究グループは、これら新発見の竹簡を解読し、これまで知られることのなかった中国古代思想の実態を解明したいと考えました。その過程では、たびたび中国に渡航し、竹簡を所蔵する博物館などで資料の実見調査を進めました。今から二千数百年前の竹簡を実見し、その内容を解析する。これはたいへん困難でありながらも、心躍る作業でした。
 その結果、秦の始皇帝が文字統一を行う前の古代文字を少しずつ解明できるようになり、また、従来知られていた以上に、中国では、古くから文献が執筆され、蓄積されてきたという状況が明らかになったのです。『論語』や『老子』の成立過程に対する考察も、以前に比べれば飛躍的な展開をみせました。

図1 竹簡の実見調査(香港中文大学にて)   図2 竹簡レプリカ(郭店楚簡『老子』)   図3 出土竹簡の保存状態(郭店楚簡『太一生水

図1 竹簡の実見調査(香港中文大学にて)

 

図2 竹簡レプリカ(郭店楚簡『老子』)

 

図3 出土竹簡の保存状態(郭店楚簡『太一生水

今後の展望

  出土竹簡の発見は今も続いています。北京大学が収蔵した秦代・漢代の竹簡には、『老子』の写本が含まれており、清華大学が収蔵した戦国時代の竹簡には、『尚書』に類似した内容の文献が多く含まれています。私たちの研究グループは、これまで主として上海博物館所蔵の戦国時代の竹簡を中心に研究を進めてきましたが、今後は、さらに秦代・漢代の竹簡にも視野を広げて、研究を進めていきたいと思います。数十年後の研究者たちが振り返ったとき、私たちの活動が「竹簡学の誕生」だったと評価されるように頑張りたいと思います。

関連する科研費

平成元年度奨励研究(A)「新出土資料を中心とした中国古代兵学思想史の基礎的研究」
平成12~14年度基盤研究(C)「異文化接触から見た中国軍事思想史の研究」
平成17~20年度基盤研究(B)「戦国楚簡の総合的研究」
平成21~25年度基盤研究(B)「戦国楚簡と先秦思想史に関する総合的研究」