事業の成果

写真:教授 小口 雅史

教授 小口 雅史

トゥルファン
世界中に散った吐魯番出土文字資料断片を繋ぐ!

法政大学 文学部
教授 小口 雅史

研究の背景

  20世紀初頭、吐魯番(トゥルファン)(現在の中国新疆ウイグル自治区の中央部に位置する市)などシルクロード周辺の遺跡に世界各地から多くの探検隊が乗り込み、貴重な文化的資料が欧州や日本へと運び出されました。有名なものにはロンドンのスタイン・コレクション、パリのペリオ・コレクションなどがありますが、これらには立派な典籍・古文書類が含まれ、中央アジアの文化は古来世界中で研究対象とされてきました。一方で東欧や北欧にも多数のコレクションがあるのですが、これらは断片的な資料が中心で本格的な研究対象とはなりにくかったのです。しかし断片とはいえ、遙か古代の文字資料です。これらをうまく活用できるようになれば、新たに多数の研究素材を学界に提供できるのではないか。本研究では漢字資料に的を絞って、断片を多数含むコレクションを精密に全て調査し、その新しい活用の解明を目指すこととしました。

研究の成果

  研究の対象は東欧や北欧のこれまで調査が少ないコレクション断片群ですが、事前の予備調査などから、主要なものはベルリンにあるプロイセン隊収集のコレクションと関わることが予測されていました。そこでベルリンのコレクションを中心に、各地のコレクションが一つの環につながる可能性を追究したのです。小さい断片でもいくつかつながれば、その活用の道が開けます。これまでも断片がコレクションを越えてつながる例を明らかにしたものはありましたが、私たちは、多数の断片の相互接続の可能性を機械的に一気に明らかにすることを目指し、まずは文献のデータベースが存在する仏典においてその方法論を確立しました。その結果、ヘルシンキにあるマンネルヘイム・コレクションと中国の旅順に残された大谷探険隊の収集品が相互につながるなど(図1・2)、遙か離れた全く別のコレクション内の断片が相互に接続する実例が次々と明らかになってきました。これは異なる時期に現地を訪れた探検隊が、元は同じ資料の断片をそれぞれ持ち帰ったことを示しており、資料の所有者がそれらを多くの探検隊に高値で売るために意図的に小分けにしていた可能性など、断片資料の拡散過程が明らかになりつつあります。

図1 SAT大正新脩大藏經テキストデータベースで断片の所属を特定

図1 SAT大正新脩大藏經テキストデータベース(http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/)で断片の所属を特定


図2 接続した旅順とヘルシンキの断片の一例

図2 接続した旅順とヘルシンキの断片の一例
左:LM20_1456_03_16(旅順博物館、大谷探険隊将来)
右:M58A-5(ヘルシンキ・マンネルへイム・コレクション。フイノ・ウゴル協会所蔵品)

今後の展望

  本研究により、断片研究においてはコレクションを越えた接続関係に常に留意しなければならないという事実を改めて学界に示すことになりました。断片が相互につながって大きくなっていけば、これまで無視されてきた小さな断片に新たな命が吹き込まれます。今後はその方法論をさらに磨き、仏典以外の様々な世俗文書等についても、断片接続の方法論をあみださなければなりません。

関連する科研費

  • 平成24-26年度 基盤研究(B)「学界未利用の在東欧・北欧所蔵西域出土文書を用いた、東アジア新古文書学の創造的研究」

(記事制作協力:科学コミュニケーター 福成 海央)