事業の成果

教授:廣田 律子

教授:廣田 律子

ヤオ族の儀礼知識と儀礼文献の保存・活用・継承

神奈川大学 経営学部 教授 廣田 律子

研究の背景

ヤオ族は中国ばかりでなくタイをはじめとする東南アジアやアメリカ等世界各地に分散して居住しており、ヤオ族の儀礼文献・文書は、多面的で豊富な内容をもつにも関わらず、解読すること自体が充分に実現されてきませんでした。極めて複雑な儀礼内容についても、民俗学、文化人類学、歴史学、宗教学、音楽、道教研究の知見をつきあわせた学際的な研究は行なわれてきませんでした。
  中国湖南省藍山県に居住する過山系ヤオ族が伝承する儀礼の調査を通じて、儀礼の実践及び儀礼で使用される文献の両面から、ヤオ族の儀礼知識の全容を把握し、全体像を明らかにしようと取り組んでいます。

研究の成果

本研究の儀礼調査と文献の解読作業により、遠く離れる湖南のヤオ族とタイ北部やラオスのヤオ族が継承する儀礼知識が相当程度相同であることがわかってきました。これはヤオ族の儀礼が文献の読誦により進行し、文献をお手本として文書が作成されるからですが、道教的な宗教儀礼の知識が広い地域にわたり、長年維持・伝承されてきたことは驚嘆すべきことです。本研究によって、文献・文書のみならず、それが如何なる目的でどの段階でどのように作成・使用されるかという儀礼の実践との対応を明確に記録化し保存することで、宗教儀礼知識の総体を立体的に継承することが可能となりました。これまで神奈川大学プロジェクト研究所ヤオ族文化研究所を拠点として儀礼調査で収集した資料(文献及び映像資料)と研究成果について順次ウェッブサイト(http://www.yaoken.org/)上、出版物(通訊1~3号)等で公開を進め、国際シンポジウムを2009年(中国長沙)2010年(神奈川)2012年(中国長沙)で開催し、日本民俗学会第64回大会でグループ発表を行ない、さらに国際学会「地方道教儀礼実地調査比較研究」(香港大学)にも招聘を受けるなど研究交流の成果をあげてきました。
  この儀礼文献・文書の公開を通じて、ヤオ族自身が自民族の文化を再発見し再評価することに繋がり、すでに本研究の活動に呼応して、新たに湖南省瑤族文化研究センターが設立されたほか、相同の儀礼知識を伝承してきたものの継承の危機を迎えているタイのヤオ族が藍山県の儀礼の資料の提供を望んでおり、ヤオ族の儀礼伝承にさらなる展開が予想されます。このような継承の危機にある儀礼と文献・文書を収集記録保存することは、ヤオ族の社会にとどまらず人類文化の保存継承活用の観点からもその意義は大きいといえます。

図1 調査地であるヤオ族村を望む。

図1 調査地であるヤオ族村を望む。

図2 『盤王大歌』を歌う祭司達。祭壇上の供物の豚は、かつてヤオ族が渡海し遭難した際、盤王に助けを求めた神話にちなんでおり、豚の肝臓が船の碇を表わすというように船の部位を象徴している。

図2 『盤王大歌』を歌う祭司達。祭壇上の供物の豚は、
かつてヤオ族が渡海し遭難した際、盤王に助けを求めた神話にちなんでおり、
豚の肝臓が船の碇を表わすというように船の部位を象徴している。

図3 祭司としての最高の位を得る儀礼において、正装をした受礼者の前に12の灯明が飾られており、儀礼を進める祭司が経典を読んでいる。

図3 祭司としての最高の位を得る儀礼において、
正装をした受礼者の前に12の灯明が飾られており、
儀礼を進める祭司が経典を読んでいる。

今後の展望

今後さらにヤオ族の文献を収集している国内外の諸機関(バイエルン州立図書館・ボードリアン図書館・オランダ国立民族学博物館・米国議会図書館・麗水学院畬族文化研究所・南山大学人類学博物館)で資料の閲覧収集を進め、複数の異本と対校することで藍山県の文献の個性と普遍性を明確にできると考えます。諸機関との連携関係を確立し、ヤオ族文化研究所をヤオ族の儀礼と文献の保存・活用・継承に資する研究拠点とし、国際的な研究ネットワークの構築を図り、研究交流を促進したいと考えます。

関連する科研費

  • 平成20-23年度 基盤研究(B)「ヤオ族の儀礼と儀礼文献の総合的研究」

  • 平成24-26年度 基盤研究(B)「ヤオ族の儀礼知識と儀礼文献の保存・活用・継承」

(記事制作協力:科学コミュニケーター 上田 裕美子)