教授: 寺北 明久 |
ハエトリグモはピンぼけ像を使って奥行きを知覚することを発見
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対象物までの距離を判断する「奥行き知覚」は、重要な視覚の機能の1つです。動物は様々な視覚的な手がかりから奥行きを知覚しています。たとえば、ヒトを含む多くの動物は、左右の眼の見え方の違いを利用しています。多くの場合は、ピントの合った像を手がかりとして奥行き知覚をしますが、原理的にはピンぼけした像のぼけ量から絶対的な距離情報を得ることも可能です。しかし、このようなメカニズムを持つ動物はこれまでに知られていませんでした。

ハエトリグモは、正確なジャンプをして獲物を捕らえます。その距離測定には主眼と呼ばれる1対の大きな眼が関わっています(図1)。眼には光をキャッチする細胞が4層に積み重なった特殊な構造を持つ網膜が存在します。各細胞層には、レンズの屈折率が光の波長(色)ごとに異なること(色収差)により、異なる波長の光がフォーカスします。私たちは、それぞれの層に存在する光を受容するタンパク質の特徴を詳細に解析し、各層にフォーカスする光の波長と比較した結果、第2層は常にピンぼけ像を受け取っていると予想しました。対象物が近いほど、第2層のぼけの大きさが大きくなります(図2)。そこで、光の波長を変えると色収差の効果により第2層でのピンぼけの大きさが変わることを利用して、緑色光と赤色光の下でハエトリグモが獲物までの距離を測定し、獲物をジャンプしてとらえる行動を調べました。その結果、ハエトリグモのジャンプの距離(奥行き知覚)は光の波長によって影響を受け、その影響の程度はピンぼけ像を利用して奥行きを知覚していると仮定して計算した結果と良く一致しました。これらのことから、ハエトリグモは、第2層のピンぼけ像のぼけの大きさに基づいて奥行き知覚を行っていることが分かりました(図2)。(Science (2012), 335, 469-471)
| 図1 ハエトリグモの主眼(矢じり) |
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| 図2 ハエトリグモの主眼での奥行き知覚メカニズム:対象までの距離(片矢印)によって第2層におけるピンぼけ像のぼけ量(両矢印)が決まるため、ぼけ量からは対象までの距離を逆算することができる。 |

ぼけ量から奥行きを計算する手法は、現在、コンピュータビジョンの分野において注目されている画像技術です。ハエトリグモのピンぼけ像を利用した奥行き知覚メカニズムは、動物で初めて見つかったピンぼけからの距離測定の実例であると思われます。ハエトリグモの主眼について、光学系や網膜構造、神経ネットワークなどの研究がさらに進めば、コンピュータビジョンの分野に貢献できるかも知れません。
