事業の成果

写真:澤斉教授

教授: 澤 斉

APCと微小管によるβカテニンの非対称な核局在制御



国立遺伝学研究所


教授 澤 斉

研究の背景

Wntシグナル伝達は細胞の分化や形態形成を制御している重要なシグナル経路です。この経路が活性化されるとβカテニン蛋白が細胞質から細胞核に移行し、転写が活性化されます。この経路の抑制因子であるAPC蛋白は大腸がんの主な原因遺伝子であり、APCが変位するとβカテニンが過剰に核に蓄積し、細胞は癌化します。APCはβカテニンの分解を促進することが知られています。また、APCは微小管を安定化する活性があることも知られていますが、この活性とWntシグナル伝達との関係は不明でした。

研究の成果

線虫C. elegansではWntシグナルは細胞の非対称分裂を制御しています。前後軸方向に起こる細胞分裂の終期にβカテニンは後方の核に非対称に蓄積する結果、前後の娘細胞は異なる運命を獲得します。この非対称な核局在は(核の局在と反対の)前方の細胞表層に局在したβカテニンとAPCによって制御されていることを明らかにしていました(Mizumoto & Sawa Dev. Cell, 12: 287-299)。表層のAPCが微小管を介してβカテニンの核局在を制御している可能性を検討するため、微小管阻害剤を加えると、βカテニンの非対称核局在が失われました。また野生型では分裂の終期に星状微小管の数が非対称で前側の方が多いが、APCやWntの変異体では対称になっており、APCが紡錘体の非対称性を制御していることが明らかになりました。次に紡錘体の非対称性とβカテニン核局在の非対称性との関係を明らかにするため、レーザー照射による微小管の破壊実験を行いました。後ろ側の微小管を破壊すると紡錘体とβカテニンの非対称性はともに増強され、前側の微小管を破壊すると紡錘体とβカテニンの非対称性はともに消失しました。またWntの変異体では紡錘体とβカテニンの核局在はともに対称ですが、後ろ側の微小管を破壊し、紡錘体の非対称性を回復させると、βカテニンも非対称になりました。以上の結果、細胞表層のAPCは微小管を安定化し、紡錘体の非対称性を作り出すことでβカテニンの核局在が非対称になることが明らかになりました(Sugioka et al. Cell, 146: 942-954)。

今後の展望

Wntなどの細胞外シグナル分子は細胞に遺伝子発現を誘導する以外に、微小管などの細胞骨格を変化させ、細胞の極性化や移動を制御しています。今回の発見は微小管を変化させることで遺伝子発現を調節する初めての報告であり、一種類の細胞外シグナルが細胞骨格と遺伝子発現を同時に制御することで、形態形成と細胞分化を協調させる可能性を提起しています。微小管がどのようにβカテニンの局在を制御するかは不明であり、今後βカテニンの細胞内動態の計測などにより明らかにしていきます。

図1  非対称分裂の模式図

図1  非対称分裂の模式図
    ①分裂前、②分裂中期、③分裂後期、④分裂後、
    後ろ側にできた細胞内でend-1遺伝子が転写され、
    この細胞の子孫は腸に分化する。
    前方の細胞はend-1を発現せず、その子孫は筋肉に分化する。

図2 上の写真は分裂終期での微小管の写真

図2 上の写真は分裂終期での微小管の写真。
    下の写真は細胞が二回分裂した後のend-1遺伝子の発現。

関連する科研費

  • 平成19-22年度 基盤研究(A)「非対称細胞分裂を制御する新規 Wntシグナル伝達機構の研究」

  • 平成22-26年度 新学術領域研究(研究領域提案型)「体の前後軸極性が個々の細胞の極性を同調させるロジックの解明」