事業の成果

写真:長尾敬介教授

教授: 長尾敬介

小惑星探査機はやぶさが持ち帰った微粒子の希ガス同位体分析



東京大学 大学院理学系研究科


教授 長尾 敬介

研究の背景

2003年に打ち上げられた小惑星探査機はやぶさは、幾多の困難を乗り越えて、2010年に小惑星イトカワの試料を持って地球へ帰還しました。イトカワは長径約500メートル、ラッコのような形をした大気を持たない小さい天体です。この表面に存在した試料が、どの程度の期間にわたり太陽風や宇宙線を浴びたかを知るには、試料中の希ガス同位体比や濃度が最も有力な情報源となります。打ち上げに先立って2000年に行われたコンペティションで選抜されたはやぶさ試料初期分析チームの一員として、私は希ガス同位体分析を担当することになりました。しかし実際の測定が10年後になり、当初の予想を大きく下回る極微小試料の分析になるとは予想していませんでした。
 その名の通り、希な元素である希ガス同位体を、従来より数桁微量の試料に対して行うためのレーザー加熱法は、科研費一般研究(B)の補助を受けて1990年に開始しました。5年後に科研費基盤研究(A)の補助を受けておこなった、極微量分析に特化した希ガス質量分析装置の開発で、1マイクログラム程度の宇宙塵一粒ずつを、レーザー加熱法と組み合わせて全希ガス同位体分析することを世界に先駆けて可能にしました。今回のはやぶさ試料分析に対する科研費の補助はありませんでしたが、上記の二つの科研費サポートが、この分析を可能とした基盤となっています。

研究の成果

はやぶさ試料の一次分析では、大きさ40-60マイクロメートル(推定重量0.06-0.2マイクログラム)の粒子3個の分析を行い、これらの粒子がイトカワ表面で数100年間太陽風を浴びていたことや、1メートル程度の深さまでの表層に、高々数100万年しか存在出来ないことを明らかにしました。イトカワのような小さい天体は、表層物質を宇宙空間に失いながら痩せていき、寿命が10億年に満たないという衝撃的な結果は、大きな反響を呼んでいます。

今後の展望

今後は、はやぶさ試料の国際公募研究に応募して、国内外の研究者達と協力しながら更に詳細なイトカワの素顔と行く末を解明していきたいと思っています。


図1 測定したはやぶさ粒子の走査電子顕微鏡写真。推定重量0.06マイクログラム
図1 測定したはやぶさ粒子の走査電子顕微鏡写真。
    推定重量0.06マイクログラム
図2 はやぶさ粒子のネオン同位体比
図2 はやぶさ粒子のネオン同位体比。
    太陽風のネオンが多量に打ち込まれている。
    宇宙線で作られるネオンが検出されないことは、
    宇宙線の照射を受けた期間が短かった事を示す。

関連する科研費

  • 平成1-2年度 一般研究(B)「レーザーを用いた局所分析による炭素質隕石の希ガス原始成分とその担体の研究」

  • 平成7-8年度 基盤研究(A)「マイクログラム試料のアルゴン同位体比測定装置の製作」

(記事制作協力:日本科学未来館科学コミュニケーター 五十嵐海央)