助教: 中村秀仁 |
放射線で青く光るプラスチックの開発とその応用 |

放射線が当たると蛍光を発すプラスチックシンチレータ(従来品)は放射線の測定に用いられる素材です。これについて光の理論と実測の僅かなズレを追求するため、従来品を開発したアメリカの大手企業を2007年に訪問しました。その際ベース素材となるプラスチックの提供を申し出ましたが、「100年もの歴史がある研究を今さら調べることもなかろう」とすげない回答でした。しかし帰国後、様々なプラスチックの性能評価を行ったところ、国際的にも大量に使われ非常に安価なペットボトルの材料であるPET樹脂が、放射線蛍光素材として優れていることを2010年に世界で初めて突き止めました(図1)。英国より論文として出版された翌日にはいち早く欧米で追試実験が行われ、その成果が認められました。その後、国内の大学・専門学校・企業で次々と追試実験がなされ同様の結果が報告されましたが、放射線が当たった際に発する光の量が少なく、かつ蛍光波長が紫外光であるという大きな弱点を指摘されました。

弱点を改良し、また従来品を凌駕する新素材を開発するため、プラスチックの分子構造を決定するモノマーを選択しながら重合触媒や分子量を種々変更し、多種のプラスチックを合成しました。その結果、PET樹脂中のベンゼン環をナフタレン環に変えた骨格をもつ樹脂が、極めて高性能な放射線蛍光プラスチックとなりました。これは射出成形が可能であり、量産性の高い成形方法を同時に確立しました。
従来品は放射線が当たることで発生する紫外光を、数種類の特殊な添加剤(波長変換剤)で可視光に変換する多段階方式を採用しています。しかし今回開発した放射線蛍光プラスチックは、添加剤を使わず放射線が当たるとダイレクトに青色の光を放ちます(図2)。また従来品では主要な構成要素に炭素と水素が用いられますが、それに加え更に重い酸素を用いたことでより密度が高くなり、その結果放射線検出の感度が数倍向上しました。
今回開発した放射線蛍光プラスチックは、現在販売されている高価な従来品に代替する、もしくは従来品の更新時に部品として付け替えるだけで幅広い領域へ利用できるため、今後多くの放射線検出器に応用できると期待されています。特に、空港、港湾設備、鉄道の駅などで違法な放射性物質を検査するための探知機や、低価格の診断装置、動物用の大型放射線探知機の早期開発が期待されています。
図1 ペットボトルを固めた放射線計測素子 |
この計測素子を用い、放射線源から放出される放射線(α線・β線・γ線・内部転換電子)の測定を世界で初めて成功した。 |
図2 放射線蛍光プラスチック |
蛍光試験の様子。放射線蛍光プラスチック(左)と単なるプラスチック(右) |

平成19-20年度 若手研究(B)「ガンマ線再構築を用いた超高感度位置型放射線検出器の開発」
(記事制作協力:日本科学未来館科学コミュニケーター 五十嵐海央)