事業の成果

写真:兼岡理恵准教授

准教授: 兼岡 理恵

風土記受容史 ―風土記からひもとく土地へのまなざし―



千葉大学 文学部


准教授 兼岡 理恵

研究の背景

風土記とは、和銅6年(713)に出された命によって各地で編纂された報告書です。しかしまとまった形で現存するのは常陸・播磨・出雲・豊後・肥前の5ヶ国のみ、さらにいずれも完本ではありません。こうした状況から風土記は、古事記・日本書紀・万葉集など同時代の文献に比し、研究が遅れてきました。しかし曲がりなりにも現在、風土記が存在するのは、編纂以来、人々が何らかの関心を風土記に寄せてきたからです。そこで風土記受容の諸相を具体的に解明することで、風土記とはいかなる文献として捉えられるか、という視点から研究を行ってきました。

研究の成果

編纂から近世末期まで、風土記本文を引用、あるいは風土記への言及がみられる様々な文献の分析を行いました。この考察から、各時代の文化的背景も見えてきました。すなわち10世紀頃までは地方行政上の実務書として利用されていた風土記が、12世紀末頃から中世期には、歌枕の解釈・地理比定など、歌学の参考書として用いられるようになります。近世期になると幕藩の地誌編纂事業の一貫として風土記写本の探索が行われ、さらに近世後期には、地方国学者の郷土意識の高まりとともに、自国の風土記に対する憧憬が見られるようになります。このように本研究は、単なる風土記受容史を超えて、人々の土地に対する関心の変遷を辿ることにも繋がったのです。この成果を、科研費・研究成果公開促進費(学術図書)によって『風土記受容史研究』として刊行しました(図1)。

図1 『風土記受容史研究』(笠間書院 2008)

図1 『風土記受容史研究』
(笠間書院 2008)

今後の展望
図2 本居宣長「出雲国風土記郡郷図」(本居宣長記念館所蔵)

図2 本居宣長「出雲国風土記郡郷図」
(本居宣長記念館所蔵)

風土記が「研究」の対象となったのは近世以降です(図2)。風土記が具体的にどのような場で読まれ、注釈が積み重ねられてきたのか、さらに地誌・名所記の風土記利用、各地における風土記伝播・受容など、多角的な視野からの研究が必要です。
 この度の東日本大震災において、多くの人がふるさとの景観を失いました。しかし過去の文献を繙くことで、土地の歴史・風景との対話が可能となります。これからも風土記を軸として、様々な人々の土地に寄せる思いを探ってゆきたいと考えています。

関連する科研費

  • 平成15-17年度 特別研究員奨励費「風土記の総合的研究」

  • 平成19年度 研究成果公開促進費(学術図書)『風土記受容史研究』

  • 平成19-20年度 若手研究(スタートアップ)「風土記の基礎的研究」

  • 平成23-26年度 若手研究(B)「近世における風土記の学問・受容の多角的研究」