准教授: 佐藤 泰裕 |
人口移動の功罪
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図1 人口移動の移動先の地域・国への影響
近年、国内地域間・国際間の人口移動はますます活発になっています。こうした移動は、移動元、移動先の地域・国にとって労働供給の変化を意味し、そこの労働条件(賃金や失業率など)に様々な影響を及ぼすため、多くの分析が行われてきました。例えば、米国では、移民の国内労働市場への影響が盛んに研究されています。図1に移動先への影響をまとめましたが、人口移動は、まず、流入した人々と似た職種・技能を持つ人々との競合を引き起こすため、そうした人々の労働条件を悪化させます。次に、流入した人々と補完的な職種・技能の人々の労働条件を改善します。こうした影響は、直接的・短期的なものですが、近年、これに加えて、資本蓄積や技能形成など、長期的な事象への影響も重要であることが分かってきました。

図2 実際の値と移民が無いとした場合の値との違い(%)
私たちは、人口移動の長期的影響の中で、技能形成に注目し、移民の流入先の国の労働市場への影響を詳細に分析しました。その際、技能の垂直的な違い(熟練・非熟練)だけでなく、水平的な違いも取り込みました。例えば、レストランで働く料理人を考えてみましょう。垂直的な違いは、同じ料理を作る上での腕の違いで、水平的な違いは、異なる料理を作る技能の違いを指します。すると、外国から料理人がやって来ると、よその国の料理が提供されるようになりますので、レストラン同士の競争が激しくなるだけでなく、レストランの選択肢が増えます。これは、レストラン業界が提供できる価値を引き上げる可能性があるのです。これに技能形成を考慮するということは、料理人としての修行を行う誘因を考慮するということです。こうした枠組みを用いて、移民の短期的および長期的影響を明らかにしました。更に、米国におけるここ25年間の移民の効果を数値分析しました。この期間の熟練(非熟練)労働者数の変化と近年の若年世代熟練形成比率について、実際の値と、もし移民が無かったらというシナリオの下での値とを比較しました。図2がその結果ですが、移民がない方が熟練労働者数は増え、非熟練労働者数は減っていたこと、後の世代の熟練形成比率は下がってしまうことなどが分かりました。

本研究の数値分析はまだ非常に粗い状態です。枠組みをより精緻なものに拡張し、また、詳細なデータとの比較を通じて、より細やかな数値分析を行う必要があると考えています。

平成21-22年度 若手研究(B) 「地域経済間相互依存関係の深化が人々の人的資本形成に関る意思決定に及ぼす影響の分析」