事業の成果

写真:大崎茂芳教授

教授:大崎 茂芳

クモの糸の弦でヴァイオリンを奏でることに成功

奈良県立医科大学 医学部 教授 大崎 茂芳

研究の背景

クモの糸は柔軟性があって強いという特徴を持つことから、大量生産できれば防弾チョッキ、縫合糸、ストッキングなどへの用途が考えられ、21世紀の夢の繊維として世界的に注目されています。糸のミクロな性質の研究に加えて、最近では、マクロな大量生産に向けての研究に焦点が当てられています。クモはカイコのような飼育は不可能なため、遺伝子工学的手法によってクモの糸を大量生産しようとの機運が高まってきました。現在のところ大量生産は実現していないため、集合体としてのマクロな性質は全く把握できていません。そのため、クモの糸の考えられる用途は、あくまでも夢物語に過ぎませんでした。

研究の成果

私がクモの糸に焦点を当てた35年前は分類学が主流の時代でした。その頃から私はミクロな糸の物理化学的性質を調べてきました。その結果、高弾性率、耐熱性、紫外線耐性があり、危機管理の原点(Nature, 1996. 高校教科書(現代文), 2004)、信頼性の原点、進化の問題など数々のことを明らかにしてきました。クモの腹からの糸取りは悪戦苦闘の連続でした。その間に培った経験から、糸を大量収集する方法を開発しました。この結果、実用化レベルの糸の集合体の性質の研究に焦点を当てられるようになり、ヒトがクモの糸の紐にぶら下がる実験に成功しました(2006年)。また、クモの腹から多量の長い糸を取り出すことに挑戦しました。その結果、1万本の長い糸の集合体(図1)からヴァイオリン用の均質な弦を作ることに成功し(図2)、音声信号の周波数解析によって従来の弦とは異なった柔らかい音色を出すことを明らかにしました(2010年)。

図 1

図1.クモの糸の集合体(100 cm x 3000本)


図2

図2 ヴァイオリンにセットしたクモの糸の弦
(4本のうちA, D, G線の3本)

今後の展望

今回の私の研究成果によって、クモの糸の機能性を生かした高付加価値商品としてのゴールの一つが見えてきました。今後は弦の実用化に向けての研究を進め、オーケストラで演奏できるレベルの弦の製作を目指すとともに、更なる応用を展開したいと考えています。一方、今回の研究成果によって現在伸び悩んでいる遺伝子工学手法も含めたクモの糸の大量生産に向けての研究が加速されると思われます。

関連する科研費

  • 平成13年度-平成14年度 基盤研究(C)「蜘蛛糸の固化する前の分泌腺内における液体の物理化学的研究」
  • 平成15年-16年度 基盤研究(B)「新素材としての蜘蛛の糸が紫外線で力学的に強化される機構の研究」
  • 平成17年-18年度 基盤研究(B)「新素材としての蜘蛛の糸の紫外線に対する防御システムの研究」
  • 平成19年-20年度 萌芽研究 「クモの糸から学ぶリサイクルシステム」
  • 平成21年-23年度 挑戦的萌芽研究 「クモの糸の大量収集に向けての新しい技術開発」