教授:光谷 拓実 |
年輪から過去の出来事を読み解く |

図1 スギの円盤標本(木口面)と年輪の顕微鏡写真
考古学や建築史、美術史などの歴史学研究は、まず最初に年代を明らかにすることが求められます。それには歴史学固有の方法に加えて、自然科学的な年代測定法が応用されます。そのなかで、唯一、±何年といった誤差を伴わない方法として、年輪年代法が注目されています。
年輪年代法は樹木の年輪を対象とし、適切なものであれば木材のもつ年輪の年代を確定し、その木材に関連する各種の歴史事象の年代を読み解くことに役立ちます。
欧米からは大きく遅れたものの1985年にはヒノキの年輪を使って、約2000年間の年代を測る物差し(これを暦年標準パターンいう)を完成させ、実用化に成功しました。これを契機に樹種別の暦年標準パターンの充実を計ることと、歴史学研究への積極的な応用を心がけてきました。現在、ヒノキでは約2900年間、スギは約3300年間の暦年標準パターンが作成されており、その先端は縄文時代の後期にまで達しています(図1)。

私は最近、奈良県奈良市に所在する元興寺禅室(国宝,図2)の屋根裏で使われている建築部材の年輪年代法による年代調査をおこなった結果、飛鳥時代初期の586年直後頃に伐採されたヒノキ材が使われていることを明らかにしました。世界でもっとも古い木材建築とされる法隆寺を約60~70年ほどさかのぼり、世界最古のしかも「現役」の建築部材として使われつづけていたのです。元興寺は国内初の仏教寺院として有名な飛鳥寺(奈良県明日香村)を前身とし、平城京遷都(710年)にともなって現在の地に移されたものです。これまで、建物は新築とされてきましたが、禅室は飛鳥寺由来の建物だった可能性が高まり、「木の文化」の国の奥深さを年輪を通して知ることができました(図3)。
図2 元興寺禅室全景(北から) |
図3 元興寺禅室屋根裏 |

年輪を利用する研究は、単に年代測定だけではありません。年輪そのものは、数百年からヤクスギのように数千年にわたって毎年の自然現象を反映しながら形成されているので、年輪を介して過去のさまざまな出来事を読み解く貴重な情報源であります。今後、年輪を利用した研究分野としては、木材流通史や林業史、古気候を推定復原する年輪気候学、火山噴火や巨大地震の発生年代を解明する年輪地形学、太陽活動や宇宙線強度の変動について推定復原する宇宙線物理学への応用、放射性炭素年代法の日本版較正曲線の作成や放射性酸素同位体による気温の推定復原法の確立など多岐にわたり、じつに魅力的な研究分野といえます。今後、大いに発展させたい研究分野です。
