事業の成果

写真:辻 孝教授

教授:辻 孝

次世代再生医療としての歯の再生治療の実現を目指して

東京理科大学・総合研究機構 教授 辻 孝

研究の背景

21世紀の新たな医療システムとして再生医療が期待されています。現在、再生医療では、「幹細胞」を部分的に損傷した部位へ移植する「幹細胞移入療法」を中心に、臨床応用化研究が始まっています。さらに再生医療の最終的なゴールは、病気や傷害によって機能を果たせなくなった臓器や器官を、再生器官とまるごと置き換える「臓器置換再生医療」と考えられています。歯科領域においても、喪失した歯を再生により取り戻す「歯科再生治療」の研究が進められており、臓器置換再生医療のモデルケースとして期待されています。
 歯は、胎児期の上皮細胞と間葉細胞の相互作用によって誘導される歯の元となる「歯胚」(歯のタネのようなもの)から発生します。歯を再生するには三次元的な細胞操作によって歯胚を再生し、生物の発生システムを利用して再生歯をつくるという戦略からすでに30年以上にわたり研究されてきました。

研究の成果

私たちは、天然の歯と変わらない構造をした再生歯を発生させる「器官原基法」を開発し、人為的な細胞操作によって歯胚を再生できることを示しました(Nature Methods 4, 227-230, 2007)。歯科再生治療の実用化のために期待される再生歯の機能は、再生歯胚が歯を喪失した部位で発生して生えてくること、反対側の歯(対合歯)と咬み合わせ(咬合)をとって噛むことができる硬さを有すること、また歯を支える骨(歯槽骨)と歯根膜によって結合して成長や加齢に伴う変化に対応すること、外部からの侵害刺激を感知することです。私たちは、再生歯胚を成体マウスの歯喪失部位に移植し、移植後37日目には再生歯が生え(萌出)、49日目には天然歯と同等の硬度を有する再生歯が対合歯と咬合するまでに成長することを明らかにしました(図1、図2、Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 106, 13475-13480, 2009)。また、再生歯に力を加えて実験的矯正をすると、再生歯の歯根膜は天然歯と同様に骨をリモデリングして歯を移動させられる機能を有することを明らかにしました。さらに再生歯には天然歯と同様に神経が侵入しており、矯正による圧迫や歯を削る刺激により痛みを感知し、脳(中枢)に伝達することが示されました。

図 1

図1 マウスの口腔内で萌出・咬合した
GFP発現細胞による再生歯

図2

図2 マウスの口腔内で萌出・咬合した再生歯
▲:再生歯、 Scale bar, 200μm

今後の展望

これまでの研究成果から、再生歯胚から発生した再生歯は、完全に機能的な歯であることが明らかになり、歯科再生治療の実現可能性が示されました。今後、臨床応用化に向けて、患者さん由来の免疫学的拒絶のない細胞の探索や、生体外において移植可能な再生歯を製造する技術開発など、基盤技術開発と臨床応用化研究を推進し、歯科再生治療の実現を目指します。

関連する科研費

  • 平成18-19年度 特定領域研究「歯の器官形成システムの分子機構」
  • 平成20-21年度 特定領域研究「細胞操作による歯の形態制御技術の開発」
  • 平成20-22年度 基盤研究(A)「歯の再生医療システムに向けた基盤技術の開発」