教授:西村 いくこ |
膜融合を介した植物免疫メカニズム |

植物は、病原体の感染を受けた細胞を犠牲にすることにより、病原体が全身に蔓延することを防いでいます。この現象を過敏感細胞死と呼びます。私達は以前、ウイルス感染に対する過敏感細胞死の機構を明らかにしてきましたが(Science, 2004)、細菌による細胞死の機構は不明でした。植物細胞は、内部に発達した液胞を持ち、液胞の中に細菌を攻撃するための抗菌物質などを多量に蓄積しています。しかし、細菌は細胞の外で増殖します。植物が、細胞外の細菌を攻撃するために、どのようにして細胞内の抗菌物質を使っているかということは長らく謎のままでした。

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私達は、細菌に感染した植物(シロイヌナズナ)の細胞が、液胞膜と原形質膜という全く異質な膜同士の融合を引き起こすことを見出しました(図1)。即ち、細胞の内側にある液胞と外部とをつなぐトンネルをつくることにより、液胞内部の抗菌物質を外部に放出して細菌を攻撃すると同時に、自らの細胞を死に至らしめるという防御メカニズムが初めて明らかになりました(Genes & Development, 2009; 図2)。この膜融合がプロテアソームを介した選択的分解により制御されることも分かってきました。細胞生物学的にもこのような膜融合はこれまで知られていません。新しい植物免疫機構として、Natureの姉妹紙2誌のResearch Highlightsとして紹介されました。また、細菌は植物の表皮に存在する気孔から侵入します。私達はこの気孔の密度を増大させる分泌性ペプチドを発見し、ストマジェンと命名しました(Nature, 2010; 図3)。 |
図1.細菌感染による液胞膜と原形質膜の融合 |
図2.膜融合による新しい |
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図3.気孔密度を増加する因子ストマジェンの発見 |

免疫細胞を持たない植物はコストをかけずに外敵から身を守るために全ての細胞が備えもっている液胞を利用しているという概念が生まれてきました。環境ストレスや外敵の種類に応じて使い分けられる細胞内膜系の動態・分化の機構の解明は、植物細胞の優れた環境適応能力の理解につながるものと考えています。
