事業の成果

写真:齊藤英治教授

教授:齊藤 英治

電流ならぬ「スピン流」物理の開拓
―絶縁体にも電気信号を伝えることに成功―

東北大学 金属材料研究所 教授 齊藤 英治

研究の背景

現代の電子情報処理デバイスは、電荷の流れである電流により駆動されています。しかし、もともと電子には電荷以外に、電子の自転である「スピン」の自由度があり、その両方に情報を担わせることができます。私たちは従来見過ごされてきたスピンに着目することで、電荷の流れを伴うことなくスピンだけが流れるという、電流ならぬ「スピン流」を作り出すこともできるようになりました。スピン流はエネルギーの損失を抑制することが可能で、且つ量子情報を担うこともできるため、次世代省エネルギー電子情報技術の担い手として注目を集めています。

研究の成果

スピン流研究にはスピン流の生成・検出技術が必要不可欠です。私たちは、電流からスピン流を生み出す「スピンホール効果」(図1)及び、逆にスピン流から電流を生み出す「逆スピンホール効果」の物理を調べ、これを用いた極めて汎用性の高いスピン流の電気的生成・検出手法を確立しました。
 これまで金属に温度差をつけると電圧が生じるという現象(ゼーベック効果)は知られていましたが、今回電圧のスピン版ともいえる「スピン圧」が熱から生成され、スピン流の駆動力となる新しい現象「スピンゼーベック効果」(図2)を世界で初めて観測しました(Nature 455, 778 (2008))。スピンゼーベック効果は従来の熱電効果の概念を超える現象であり、熱スピン流の物理を切り拓いただけでなく、産業界からも多くの注目を集めています。

図 1

図1.スピン流とスピンホール効果

図 2

図2.スピンゼーベック効果


 さらに最近になり、スピンホール効果を利用することで電流を流さない絶縁体へすら電気的にスピン流の注入が可能であることを示しました(Nature 464, 262 (2010))。さらに逆スピンホール効果を用いることで、空間的に離れた場所においてこの絶縁体中スピン流を電気的に検出することに成功しました。この結果は、本来電流を流さないはずの絶縁体を介した電気信号輸送(図3)を実現したものであり、物質科学の概念を覆すものであるといえます。

図 2

図3.絶縁体を介した電気信号輸送

今後の展望

スピン流の生成・検出手法はごく最近確立されたものであり、多くのスピン流誘起現象が発見を待っている状況です。これまでに体系化したスピン流の生成・検出手法を駆使することでスピン流の物理を切り拓いていきます。

関連する科研費

  • 平成19-23年度 特定領域研究 「ナノ磁性体におけるスピン流-電磁場変換」
  • 平成21-23年度 基盤研究(A) 「スピンゼーベック効果と熱流-スピン相互作用の系統的研究」