わたしたちが旭川で実施した「飛び出す人文・社会科学〜津々浦々学びの座〜」の参加者は、一般参加者、ゲスト参加の中学・高校の教諭(社会科、歴史担当)、主催者を合わせ、21名でした。 現在、中学・高校では受験対策が教員の主要な責務となり、正規の授業のなかで自分たちが暮らしている地域の歴史が伝えられることはまれになっています。どのようにして成り立った地域社会のなかに自分が生きているのかを知る機会は、教員があえて正規の授業時間を割くことによってしか得ることができなくなっているのです。北海道では、その試みとしてアイヌの人びとの歴史と文化を副読本に編集し、教材として提供する努力が一部の教員などによってなされてきました。しかし、「自然と調和している」などというアイヌの人びとの文化的側面を強調すると、「縄文時代以来、かれらには進歩がなかったのか」という反応があったり、逆に江戸時代の幕藩体制の下や明治以降の旧土人保護法の下の抑圧された状況を強調すると、親の世代にも根強くのこる差別感情を再生産してしまうというジレンマを現場の教員がかかえているのも事実です。その打開策として最近とりあげられるようになってきたのが、交易の民としてのアイヌ像です。もともと北東アジアに暮らす人びとの各集団を相対化して、大きな歴史の流れを描くために提示された交易関係が、あかるいアイヌ像を描くために一人歩きしてしまっているのです。 今回のサイエンスカフェは、こうした北海道の歴史のどのような側面をいかに伝えていったらよいのか、を議論することを目的として開催しました。
まず、函館工業高専の中村和之氏と新篠津中学校社会科教諭の滝川裕治氏から、教育実践の場での問題を紹介して、議論のきっかけをつくっていただいたのちに、参加者全員での話し合いにはいりました。途中、休憩をかねて、アイヌに対する表象のありかたを知っていただくために、旭川市博物館で現在すすめられている展示替えの計画とその実際の様子を旭川市博物館の瀬川拓郎氏に現場で解説していただきました。 予定の2時間半をこえて、おこなった話し合いでは、教員の方々の「ありのままに伝えること」に対する苦悩が吐露されると同時に、アイヌの参加者からは「自分たちが何者なのかを知らされぬよりは、知らされた方がよい。被差別感情などが、そこで生まれるかもしれないが、教育を受けた子供たちには将来的になんらかの形で昇華する力がきっとそなわっている」という実体験からの意見も述べられました。北海道の歴史をアイヌの人びとにだけ背負わせるのは、実際に歴史を彩ってきた人びとの存在からも現実を反映したものにはならず、「地域」の歴史として、描きなおしてみることはできないのかという提案もあり、こんごの可能性を示唆する話し合いになったのではないかと思われます。
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