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人文・社会科学振興プロジェクト研究事業

プロジェクト研究の成果

プロジェクト研究一覧表

研究領域 1
Project Number 1-1

プロジェクト研究名:

平和構築に向けた知の展開

グループ名:

地域研究による「人間の安全保障学」の構築

リーダー名(所属):

黒木英充(東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・教授)

組織構成:

グループ長
黒木英充・東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・教授・全体の統括

コアメンバー
阿部健一・京都大学・地域研究統合情報センター・助教授(東南アジア・生態学)
飯島みどり・立教大学・法学部・助教授(ラテンアメリカ・政治学・文学)
飯塚正人・東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・助教授(中東・イスラーム思想)
井坂理穂・東京大学・大学院総合文化研究科・助教授(南アジア・歴史学)
石井正子・京都大学・地域研究統合情報センター・助教授(東南アジア・開発研究)
岩下明裕・北海道大学・スラブ研究センター・教授(北東アジア・政治学)
臼杵陽・日本女子大学文学部・教授(中東・政治学)
宇山智彦・北海道大学スラブ研究センター・助教授(中央アジア・政治学)
帯谷知可・京都大学・地域研究統合情報センター・助教授(中央アジア・現代史)
栗本英世・大阪大学・大学院人間科学研究科・教授(アフリカ・人類学)
黒崎卓・一橋大学経済研究所・助教授(南アジア・経済学)
河野泰之・京都大学東南アジア研究所・教授(東南アジア・農学)
小林誠・横浜市立大学・国際総合科学学部・教授(全世界・国際政治学)
酒井啓子・東京外国語大学・大学院・教授(中東・政治学)
佐原徹哉・明治大学・政治経済学部・助教授(バルカン・現代史)
床呂郁哉・東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・助教授(東南アジア・人類学)
土佐弘之・神戸大学・大学院国際協力研究科・教授(全世界・政治学)
永原陽子・東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・助教授(アフリカ・現代史)
真島一郎・東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・助教授(アフリカ・人類学)
松永泰行・同志社大学・一神教学際研究センター・客員フェロー(中東・政治学)
松野明久・大阪外国語大学・外国語学部・教授(東南アジア・政治学)
松林公蔵・京都大学・東南アジア研究所・教授(東南アジア・医学)
山岸智子・明治大学・政治経済学部・助教授(中東・現代史)
山根聡・大阪外国語大学・外国語学部・助教授(南アジア・文学)

平成18年度の研究成果

本年度は研究活動のより積極的な国際的展開を図るべく、国際シンポジウムを海外で開催する計画を立てていた。グループリーダーの黒木がセンター長として運営に関与している「中東研究日本センター」Japan Center for Middle Eastern Studies (在レバノン共和国ベイルート)が会場候補であったが、2006年7月から8月にかけてのイスラエルのレバノン攻撃のため、11月開催の予定を変更せざるを得ないこととなった。このため、会場を東京に移し、また開催時期も1月下旬に変更して国際シンポジウムを開催した(「平和構築にむけた知の展開」プロジェクト主催)。エスニックな分断状況が内戦の結果どのようにして生じたのか、あるいは現在進行中の紛争・内戦を通じてどのような分断状況が生まれつつあるのか、そしてそれはどのようにして乗り越えうるのかを、中東・バルカン地域を中心に、各国から研究者・知識人を招聘して議論した。この成果を2007年度につなげて展開したく考えている。

また、イスラエルのレバノン攻撃が開始されてから1週間後、来日・受け入れ中のレバノン人研究者を中心に緊急ワークショップを組織したが、一般・メディア関係者の間で大きな反響を呼んだ。現実の動きの速さに対して研究者が即応するのは容易ではないが、社会が情報を緊急に必要としているときに提供することができたと考えている。

研究の国際的展開という点では、セルビア社会科学院・明治大学との共催で、セルビア共和国にてワークショップを開催、バルカンのみならず中東地域からの視点も導入した民兵問題について考察した。

パレスチナ問題は人間の安全保障の観点から多様な問題群を集中的に含むものであるといえるが、これを地理学的・空間論的に把握する研究会を開催した。地道なデータ収集と、その表現技法について学ぶことの多い内容であった。

本年度も人間の安全にかかわる映像芸術を研究対象とする会議を、佐藤真監督の作品「Out of Place」を使ったドキュメンタリー映画会議として企画し、明治大学との共催で実施した。学生を中心とする若い人たちと広く議論する機会を得ることができた。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

2006年7月21日
明治大学リバティータワー(東京都千代田区)、緊急ワークショップ「中東戦争の深淵--イスラエルの対レバノン攻撃をめぐって Urgent Workshop on the Israeli Attacks against Lebanon」 約300人

2006年9月14日-16日
セルビア共和国ベオグラード・メディアセンター、ヴラーニエ市民会館、国際ワークショップ “Guerrillas in the Balkans: Freedom Fighters, Rebels or Bandits”約100人

2006年12月8日
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(東京都府中市)、臨時研究会「パレスチナ/イスラエルの地理情報学と地図」 10人

2006年12月16日
明治大学リバティータワー(東京都千代田区)、「エドワード・サイード Out of Place」上映会+講演会 122人

2007年1月28日
東京グリーンパレス(東京都千代田区)、国際シンポジウム"Ethnic Division of Polity and Society in Post-Civil War and Under-Conflict Nations: Cyprus, Lebanon, Former Yugoslavia, Iraq and Israel/Palestine" 85人

論文、著書等:

2006.4
小林誠「自衛のための戦争、人道のための戦争」安藤次男他(編)『ニューフロンティア国際関係』東信堂、71-92頁
2006.6
岩下明裕(編著)『国境・誰がこの線を引いたのか - 日本とユーラシア』北海道大学出版会、208頁
2006.9
土佐弘之『アナーキカル・ガヴァナンス』御茶の水書房、231頁
2006.10
黒木英充「レバノン - 再び迫りくる危機に向けて」『オルタ』372号、8-10頁
 
臼杵陽「終わりの見えない狂想曲」『オルタ』372号、5-7頁
2007.冬
マスウード・ダーヘル、黒木英充、佐原徹哉「緊急ワークショップ 中東戦争の深淵 - イスラエルのレバノン攻撃をめぐって」『季刊 軍縮地球市民』7号、166-177頁
2007.1
土佐弘之「グローバルな立憲秩序と逸脱レジーム- ICCプロセスの事例を中心に - 」『国際政治』147号、29-47頁
2007.2
山岸智子「テロ討伐と女性像(イメージ) - 中東研究の立場から」 植木俊哉・土佐弘之編『国際法・国際関係とジェンダー』東北大学出版会pp.299-312. ほか多数
  

グループ名:

ジェノサイド研究の展開

リーダー名(所属):

石田勇治(東京大学大学院総合文化研究科・教授)

組織構成:

木畑洋一・東京大学大学院総合文化研究科(植民地主義)
柴宜弘・東京大学大学院総合文化研究科(バルカン)
佐藤安信・東京大学大学院総合文化研究科(平和構築)
石田憲・千葉大学法経学部(国際政治)
栗本英世・大阪大学人間学部(アフリカ、スーダン)
星乃治彦・福岡大学人文学部(ジェンダー)
林博史・関東学院大学経済学部(総力戦)
狐崎知己・専修大学経済学部(ラテンアメリカ)
井上茂子・上智大学文学部(ヨーロッパ)
芝健介・東京女子大学文理学部(戦時下のジェノサイド)
木畑和子・成城大学文芸学部(ヨーロッパ)
瀬川博義・愛知産業大学経営学部(国際法)

申惠・青山学院大学法学部(国際法)

中村雄祐・東京大学大学院人文社会系研究科(ジェノサイド後の社会復興)
川喜田敦子・東京大学大学院総合文化研究科(民族浄化・強制移住)
飯島みどり・立教大学法学部(ジェノサイド後の社会復興)
廣瀬陽子・東京外国語大学大学院地域文化研究科(中央アジア)
武内進一・日本貿易振興機構アジア経済研究所(アフリカ、ルワンダ)
天川直子・日本貿易振興機構アジア経済研究所(東南アジア、カンボジア)
福永美和子・日本学術振興会特別研究員PD(国際司法システム)
清水明子・東京大学大学院総合文化研究科・産学官連携研究員(バルカン)
吉村貴之・東京大学大学院総合文化研究科・産学官連携研究員(中央アジア)
他27名

平成18年度の研究成果

2006年度は、昨年度に引き続き、世界各地のさまざまなジェノサイドの事例を実証的に精査・検証すると同時に、「ジェノサイドと近代(モダニティ)」の重層的な連関について、これまで重視してきた(1)人種主義・優生思想、(2)全体主義、(3)民族浄化・強制移住、(4)総力戦、(5)植民地支配の5つの問題系から、とくに(1)、(3)、(5)に比重をおいてアプローチし、ジェノサイドを惹起する歴史的、構造的要因の解明に取り組んだ。

これと並行して、本研究のもうひとつの柱である「ジェノサイド後の社会復興研究」の一環として、ルワンダ、グアテマラ、ドイツ(ホロコースト)に注目し、ルワンダで現在進行中の「国民和解」に関して継続的に調査を実施しながら、ガチャチャ(裁判)をめぐる研究を進め、その可能性と限界を問う国際ワークショップ(2007.1)を開催した。またグアテマラでの社会再建問題に関連して、ジェノサイドの被害補償、記憶と表象(ミュージアム)に関する研究をいっそう深めた。さらにホロコーストに関しては、生き残りの記憶とトラウマを分析するため証言の収集に取り組みつつ、アプローチ手法の開発に努めた。他方、「ジェノサイドをめぐる国際司法ガバナンス研究」の観点から、ICTY(旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所)におけるスレブレニツァ事件の取り扱い、国際刑事裁判所(ICC)成立にいたる政治過程の分析にも取り組んだ。

海外研究派遣としては、増田好純がナチ時代の収容所・強制労働の実態を究明すべくドイツで資料収集とインタビューを行い、収容所要員の社会的構成を明らかにした。また福永美和子はオランダ(ハーグ)でICC判事とのインタビューを行うなど短期の実地研究滞在を通して、国際刑事司法がジェノサイド後の社会再健や重大犯罪の防止に果たす役割と可能性について研究を深めた。

これまでの本研究を通して、ジェノサイドには、政治システムの崩壊、民兵組織の形成、残虐宣伝の流布、小型武器の流通、少年兵士の出現など「予兆」と呼べる現象が認められることが明らかになった。それらをいっそう精緻に追究し、早期警戒システムの構築に資するためには、現地のフィールド調査に基づく実証的な研究の継続と深化が求められる。これが今後の課題となろう。

本年度の具体的な成果は、昨年度の成果と統合して、英文研究雑誌Comparative Genocide Studies Vol.2 (2005/2006)において公表した。本年度も海外の研究組織との積極的な交流を行ったが、なかでもパリ第八大学、韓国ジェノサイド学会との研究連携ネットワークづくりは成果をあげた。なお当初レバノンで開催が予定されていた、平和構築研究3グループ全体の成果を中間総括するための国際シンポジウムは、現地の政情悪化のため断念せざるをえなかった。他方、国内の各種関係学会との協力・連携関係の構築にも努めた。とくに日本平和学会の支援を得て同学会内に分科会「ジェノサイド研究」を立ち上げる一方で、ドイツ現代史学会の年次大会(唐津)で本研究プロジェクトの紹介を行い、歴史研究者との協力強化をはかった。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

■シンポジウム

2006年6月1日
東京大学駒場キャンパス、「アムネスティ日本:平和へのアプローチ 『人間の安全保障』と国際刑事裁判の挑戦」(後援)、約80名

2006年11月25日
東京大学駒場キャンパス、「人種と人種主義」(共催)、約120名

■ワークショップ

2006年11月11日
山口大学吉田キャンパス、「ジェノサイドと国際刑事司法」(日本平和学会2006年度秋季研究集会・分科会「ジェノサイド研究」として開催)、23名

2007年1月9日
東京大学駒場キャンパス、「ルワンダでのガチャチャ(裁判)をめぐって」20名

論文、著書等:

2006.6
石田勇治、「ジェノサイドと戦争」『岩波講座 アジア・太平洋戦争』(8)、pp.147-176
2006.10
Ishida, Yuji(石田勇治), Genocide in Guatemala, Comparative Genocide Studies, Vol. 2 (2005/2006), pp. 56-59
 
Amakawa, Naoko(天川直子), Cambodia - Aspects of Crimes Committed during the Pol Pot Regime, Comparative Genocide Studies, Vol. 2(2005/2006), pp. 1-17
2006.4
武内進一「コンゴ内戦にみる武器移転と資源」『軍縮地球市民』No.4、pp.44-47
2006.10
Takeuchi, Shinichi(武内進一), Genocide in Rwanda - The Origins and the Perpetrators, Comparative Genocide Studies, Vol. 2(2005/2006), pp. 18-31
 
Fukunaga, Miwako(福永美和子), Germany’s Diplomatic and Judicial Policy on the Establishment of the ICC, Comparative Genocide Studies, Vol. 2(2005/2006), pp. 45-55
 
Hirose, Yoko(廣瀬陽子), Aspects of Genocide in Azerbaijan, Comparative Genocide Studies, Vol. 2(2005/2006), pp. 32-44
 
Kozaki, Tomomi (狐崎知己)& Nakamura, Yusuke(中村雄祐), Human Security in Post-Genocide Guatemala, Comparative Genocide Studies, Vol. 2(2005/2006), pp. 32-44
2006.11
Hayashi, Hirofumi(林博史), Die Verwicklung der Japanischen Kaiserlichen Regierung in das System der Militarbordelle, Barbara Drinck & Chung-Noh Gross (Hrsg.), Erzwungene Prostitution in Kriegs- und Friedenszeiten, S. 106-118, Bielefeld
2007.3
猪狩弘美「ホロコーストの生き残りと歴史学−科学と当事者の心とのはざまで−」SYMPATIA(日本学術振興会 人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業・若手の会編), pp. 10-14
  

グループ名:

「アメリカ研究」の再編

リーダー名(所属):

古矢 旬(北海道大学・大学院法学研究科・教授)

組織構成:

久保文明(東京大学・大学院法学政治学研究科・教授)現代アメリカ政治の制度=イデオロギー分析
遠藤泰生(東京大学・大学院総合文化研究科・教授)アメリカ・ナショナリズムとクレオール性
松本悠子(中央大学・文学部・教授)ナショナリズムとアメリカニゼーション
小檜山ルイ(東京女子大学・大学院現代文化研究科・教授)太平洋文化接触とアメリカ研究
トーマス・ベンダー(ニューヨーク大学・歴史学部・教授)アメリカ史の国際化
ゲアリー・ガースル(ヴァンダービルト大学・歴史学部・教授)20世紀アメリカのナショナリズム
デヴィッド・ファーバー(テンプル大学・歴史学部・教授)アメリカ・ラディカリズムの理念
スヴェン・ベッカート(バーヴァード大学・歴史学部・教授)アメリカ帝国論とヨーロッパ
マイケル・アダス(ラトガース大学・歴史学部・教授)アメリカ例外論
アラン・ドーリー(ニュージャージー・カレッジ・歴史学部・教授)アメリカ帝国とナショナリズム
西崎文子(成蹊大学・法学部・教授)国際連合とアメリカ
ダーク・ヘーダー(アリゾナ州立大学・歴史学部・教授)移民史研究の世界化
レイナルド・イレート(国立シンガポール大学・東南アジア研究科・教授)フィリピン革命とアメリカ
廬慶秀(ソウル大学校・大学院公共政策学研究科・教授)東アジア外交とアメリカ
林忠行(北海道大学・スラブ研究センター・教授)スラブ研究とアメリカ研究
酒井啓子(東京外国語大学・大学院地域文化研究科・教授)イラク研究とアメリカ研究
ヴァンサン・ミシュロ(リヨン第二大学・政治研究学部・教授)フランスとアメリカ・ナショナリズム
ロブ・クルーズ(アムステルダム大学・名誉教授)アメリカ大衆文化の世界性
デズモンド・キング(オックスフォード大学・ナッフィールド・カレッジ・教授)アメリカ・ナショナリズムの編制
モーリツィオ・ヴォーダニャ(東ピエモント大学・人文学部・教授)アメリカ・ナショナリズムと国際性
マイケル・ザッカマン(ペンシルヴァニア大学・歴史学部・教授)アメリカ・ナショナリズムと宗教
中山俊宏(津田塾大学・学芸学部・助教授)現代アメリカ右翼政治とナショナリズム
中野聡(一橋大学・大学院社会学研究科・教授)東南アジアナショナリズムとアメリカ帝国
石川敬史(北海道大学・大学院法学研究科・助手)初期アメリカ史とナショナリズム
佐々木紫代(北海道大学・大学院法学研究科・助手)事務局長、国内外研究者との事務連絡

平成18年度の研究成果

本研究は、現代世界における、各地域、各国のアメリカ理解および対米政策を、それぞれの文化的、政治的、外交的伝統、対米関係の歴史と現状、経済的・軍事的な対米依存度、アメリカ大衆文化の浸透度にまで踏み込んで比較検討することを課題としてきた。そのうえで、多様なアメリカ理解、対米政策を整理し、類型化し、統合的に一望することによって、国際政治への新たな比較史的観点を打ち出し、ともすれば対米関係に過度な比重をおいてきた戦後日本外交の視野狭窄をただし、より柔軟な対米関係、開放的、国際協調的な対外戦略の検討に素材を与えることを、社会的貢献に関する実践的目的としている。この課題の全体は、(1)アメリカ合衆国の国際的優越性を保障している主体的、客観的条件の構造的解明、(2)アメリカと他の主権国家や国際組織との関係の比較史的検討、(3)いわゆる「9・11事件」、アメリカ同時多発テロ以後のアメリカ・ナショナリズムと世界政治との変化の国際政治学的分析を三つのサブテーマとして構成されている。このような多層的な目的、課題設定から明らかなように、国際的、かつ学融合的な方法が、本研究の特色である。

以上のような研究目的に付随して、本研究はその実施の過程でアメリカ研究者の国際的ネットワークの構築をめざしてきた。従来のわが国のアメリカ学界の国際的研究活動は、合衆国をはじめとする諸外国の主導によって形成された既存のネットワークに依存して進められてきた。上述のように、本研究はこれまでのアメリカ研究の批判的再検討をとおしてこれをより広い視野に立って再編することを目的としているが、この目的において一致できる各国、各地域のアメリカ研究者、国際政治研究者間の連携関係を、日本の研究者のイニシアティヴによって構築してきた。したがって本研究の主催する国際シンポジウムやワークショップには、すぐれた幾人かの外国研究者を複数回招聘し、企画全体に継続的に参加するよう求めてきた。

以上のような学術的かつ組織的目的のもとに、2006年8月グループ長・古矢は、メンバーの西崎、マイケル・アダス(ラトガース大学歴史学部教授)、アラン・ドーリー(ニュージャージー・カレッジ歴史学部教授)と協力し、アメリカ合衆国の対外関係、国内政治をめぐるいわゆる「アメリカ例外論」をテーマとして、国際的ワークショップを札幌において開催した。このワークショップでは、アメリカ国家の存在自体を神意に基礎づけ、アメリカの国家目的を例外と見なし、それによってアメリカの対外政策を正当化するような「例外論」が生じてくる過程を、歴史的、国際的文脈において理解しなおすことが試みられた。その多角的討論の結果、「アメリカ例外論」は、現実のアメリカ政治においてこれまでつねに強力な組織象徴であり続けてきた反面、アメリカの客観的な学問的理解の枠組みとしては社会科学的妥当性にかけることが明らかにされた。このワークショップによって、本研究の一つの柱をなしてきたアメリカ・ナショナリズム研究における「アメリカ例外論」の重要性に光が当てられた。

本年度後半は、次年度の研究の集約に向けて、メール、著書、論文をとおしてのグループ・メンバー間の意見交換を活発化させた。それらの予備的な研究交流にもとづき、2007年3月には東京において、それらを総括するためのワークショップを開いた。このワークショップは、(1)アメリカ研究一般、(2)「アメリカ帝国」論、(3)アメリカ・ナショナリズムという本研究を構成してきた3つの中心的テーマについて、それぞれ4〜6名からなるパネルを設け、その討論をとおして、本グループが過去4年間にわたって展開してきた論点を整理して提示し、再検討を加えるとともに、それらについての世界的な研究動向を学際的に把握することを目的とした。それは同時に、研究最終年度に当たる次年度に本グループが予定する二つの総括的国際シンポジウム(一つはアメリカ・ナショナリズムについて、一つはアメリカ帝国について)に向けての準備作業でもあった。幸い、アジア、アメリカ、ヨーロッパのアメリカ研究学界から、過去のセミナーに継続的に参加してきたメンバーに加え、新しい第一線研究者の参加をえたこともあり、これらの所期の目的を十分に達することができた。

これらのグループ研究に加え、本年度は「平和構築に向けた知の展開」プロジェクト全体の協働で、2007年1月に東京で開かれた国際シンポジウム “Ethnic Division of Polity and Society in Post-Civil War and Under-Conflict Nations” にも参加した。それは、「アメリカ帝国」に関して本グループが従来展開してきた共同研究の全体的方向性と限界を、冷戦以後、内戦や宗派間対立や民族浄化・ジェノサイドの危険にさらされ続けてきた諸地域、とりわけ中東やバルカン半島における現地の「人間の安全保障」の観点から問い直す好個の機会を与えてくれた。ここで展開された、アメリカの「介入」に対する他国・他地域の理解と反発の実態をめぐる議論は、本グループの上記総括シンポジウムの構成にも大きな影響を及ぼすに違いない。

この共同研究が端的に示すように、本事業の開始から4年を経て、同一研究領域内、とりわけ同一プロジェクト内に配置された研究グループ間の相互交流は、定常化し、当初期待された以上に、それぞれの研究の深化と視野の拡大に大きく貢献していると考えられる。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

2006年8月5日
札幌アスペンホテル、“Considering American Exceptionalism in a Global Age” (グローバル化時代におけるアメリカ例外主義)、 30名

2007年3月11日〜12日 
東京グリーンパレス、 “Issues in American Studies Today” (今日のアメリカ研究の諸問題)、40名

論文、著書等:

2006
古矢旬「第1部 概説」アメリカ学会【編】『原典アメリカ史<8>衰退論の登場』(岩波書店)、P.3-65
 
古矢旬「概説」古矢旬【編】『史料で読むアメリカ文化史<5>アメリカ的価値観の変容』(東京大学出版会)、P.1-44
 
古矢旬「都市社会分断の危機――一九六〇年代の人種暴動」古矢旬【編】『史料で読むアメリカ文化史<5>アメリカ的価値観の変容』(東京大学出版会)、P.236-254
2007
古矢旬「インタビュー:民主党の勝利で米国は変わるか 中間選挙の結果が意味するもの」、世界760号、P.179-188