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人文・社会科学振興プロジェクト研究事業

プロジェクト研究の成果

 
 
プロジェクト研究一覧表
 
平成18年7月作成

研究領域 5
Project Number 5-1


プロジェクト研究名:

伝統と越境−とどまる力と越え行く流れのインタラクション−

プロジェクト・リーダー名(所属):

沼野 充義
東京大学大学院・人文社会系研究科文学部・教授

平成17年度までの研究成果について

<概要>

 本プロジェクトでは、「自己表象の生成と変容」「越境と多文化」「伝統から創造へ」という3つの主題をになう3つのグループを柱に研究を進めてきた。いずれも従来の人文系の学問の既成の枠組みにとらわれることなく、様々なジャンルの研究者の出会いと相互への刺激を通じて、21世紀における芸術や文学の研究がどうあるべきか、可能な形を探る試みだといえるだろう。当然、試みは多分野にまたがり、また扱うテーマも多彩である。まだ確定的な成果を云々すべき段階ではないが、それでも各グループの研究を核にしながら、プロジェクト全体としての方向性がかなりはっきり見えてきた。
 全体としてこのプロジェクトが扱おうとしているのは、ごく広く言って、芸術や文学において伝統的の枠の中にとどまろうとする力と、伝統的な枠を超えていこうとする力との間にどのような相互作用が見られるか、そしてその複雑な過程を経て現代の芸術や文学がどのような形をとろうとしているか、見定めることである。そして、各グループそれぞれが着実にあげている研究結果を総合すると、現代の芸術や文学においては、一方で亡命・移民・多文化・異文化接触といった「越境的」な現象が著しくなっている反面、ナショナルな伝統や世界観の枠の中にとどまることによって芸術的価値を守ろうとする機運もまた高まっていることが明らかになり、現代の芸術や文学を総合的に研究するためには、相反するこの二つの傾向のどちらかだけでなく、その両方を視野にいれることが必要だということがわかってきた。
 「自己表象の生成と変容」研究グループは、美術・文学・デザインなどの領域にまたがって自己表象の問題を脱領域的に扱い、さらに様々な分野の研究者との交流も目指しているが、このグループが主題とする自己表象は究極的には、個々人のアイデンティティが社会的にどう構築されているかという問題につながっていく。その意味ではこのグループの研究は「伝統と越境」という総合的主題のうちでも、核を成す「個」における境界と越境のメカニズムを解き明かす役割を担っていると考えられる。
 それに対して、「越境と多文化」は、もう少し大きな視点から、現代において顕著な芸術や文学の越境性と多文化性に焦点をあてている。この研究が扱うべき範囲もまた非常に広く多様だが、特筆すべきは、テーマの越境性に見合うだけの柔軟かつ多分野的な構成と研究態勢をこのグループがとってきたことで、このようなパイオニア的研究においては、研究の組織しかたそのものがまた研究の重要な一部であることがよくわかる。
 3番目の「伝統から創造へ」研究グループは、「越境と多文化」研究グループとは逆に、現代において伝統が芸術創造に果たす役割を追求しており、組織上は東南アジアの伝統芸能の映像アーカイヴ構築を中心に作業を進めるサブグループ1と、様々なジャンル・地域における伝統が芸術創造にどのような可能性を持っているかを考察するサブグループ2に分かれている。一見かなり違った方向性を持つ二つのサブグループが緊密な関係を持ってプロジェクト研究を進めることによって、現代世界で伝統が果たしている役割について脱領域的・総合的な知見を深めることができた。
 これまでのところ、プロジェクトとしての活動は、上記3つのグループのそれぞれ独自の研究を核に進められているが、決してばらばらに動いているわけではない。いかなる芸術や文学の創造も、民族・言語・国家などの様々な枠組みから自由なわけではなく、そこには必然的に境界が生ずる。第2グループ「越境と多文化」がその境界を越えようとするものを主として扱うのに対して、第3グループ「伝統から創造へ」はその境界のうちにとどまることの可能性を検討する。そして第1グループ「自己表象の生成と変容」はその境界の内側に存在する個という単位そのものに焦点をあて、その中にじつは既に刻印されている「境界性」を解明しようとする。この3つのグループの成果を統合することによって、「伝統と越境」の複雑な相互作用のうちに進行している現代の芸術・文学の様相に新たな光を当てられるものと考えるゆえんである。

<学際性・社会提言・人材育成について特記すべき事項>

学際性
  本プロジェクトでは、各グループともできるだけ様々な分野の専門家を集めて、研究会やメールでの意見・情報交換を通じ、学際的な協働研究態勢を築いている。伝統と越境をめぐる研究は、もちろん個々の分野においては進められているものの、このプロジェクトのような分野横断的な形での総合的研究は類例が少ない。一見互いに異質にも見えるグループ研究をこの研究目的のもとに結び合わせ、共同作業を進めていくこと自体、個々の分野で専門化・特殊化しがちな人文科学研究の世界に対して(特に文学や芸術などの研究は、従来、ディシプリンの壁が厚い上、「個人プレー」に基づくタイプのものが多かっただけに)、インパクトを持つものと思われる。人文科学の領域横断的な再編の必要性が検討されつつある現代にあって、このようなプロジェクト的研究の意義は少なくないものと思われる。
 具体的には、以下のような点で努力が続けられている。
 (1)研究者以外(芸術家、映像専門家、文化関係機関職員など)との連携・コラボレーション。展覧会企画への関与、様々出版物への寄稿などを通じて、美術館や出版会との関係を緊密に保つこと。
 (2)外国の様々な地域の研究者との交流と国際的ネットワークの強化(欧米だけでなく、ロシア東欧や東南アジアなども広く視野に入れられている)。
 (3)他研究機関・学会などとの連携・共同研究会の開催。
 (4)国内で研究会・シンポジウムなどを開催する場合も、東京以外の場所で積極的に行い、開催地の多様化をはかることによって、より多くの研究者としての交流を活性化すること。

社会提言
 積極的に研究成果の社会還元を行ない、提言に結び付けていくためには、個別に優れた研究成果をあげることがまず必要であることはいうまでもないが、個別のグループの枠内での研究成果とりまとめにとどまらず、グループ間の相互乗り入れ、さらには他プロジェクトとの共同作業を積極的に進め、複雑な現代社会に見合うような分野横断的な知見に基づく社会提言に結びつける必要がある。
 とは言うものの、現時点では目の覚めるような斬新な提言方法は見当たらないが、以下のような点に留意して、できるだけ現代社会の必要に応えられるものにしたい。
 (1)公開ワークショップ・シンポジウムなどの開催を通じて
 「自己表象」「越境と多文化」「伝統から創造へ」の3つの研究分野いずれも、他分野(社会学、精神医学、教育学)との協働によって、具体的な社会問題や政策との関連付けを深められる。このことを前提に、ワークショップやシンポジウムを公開で開催する際にもできるだけ社会的な広がりを持つよう、多分野の研究者の参加を呼びかける。また研究者だけでなく、実際に芸術創造に関わるクリエイティヴな仕事に携わる人たちとの連携もはかる。
 (2)啓蒙的出版物を通じて
 成果を論集などとして専門家向けに出版すること以外に、商業出版物の次元では、新書といった形式によって、わかりやすく一般市民に対して啓蒙的な役割を果たす出版物を目指す。プロジェクト研究を土台とした一連の新書シリーズが刊行できれば、理想的であろう。そういった啓蒙的な書物を通じて、研究成果を社会還元し、文化・芸術政策に対する提言としての機能を果たす。
 (3)教育面に関して
 おそらく一般市民に対する啓蒙と同様、このプロジェクトにとって重要なのは、大学などの高等教育の場における研究成果の還元であろう。このプロジェクトが扱うのはいずれも、既存の人文学のディシプリンの枠にあてはまらない分野ばかりだが、そういった分野を大学で具体的にどう教えるか、指針を示すことは、このプロジェクトに可能な社会的提言の重要な柱となりえる。専門家向けの論集の刊行以外に、大学の教養課程で使えるような教科書の共同執筆や、教材の開発なども実現に向けて努力したい。

人材育成
 人材育成に関しては、次世代のリーダーとなり得る若手研究者が活躍できるような場をできるだけ作っている。第2グループではそもそもコアメンバー、シンポジウムのパネリストなどにできるかぎり若い研究者を起用し、多くが40代半ばまでの比較的若い世代である。若手の参加の形態はグループによって多少違うが、できるだけ大学院生(博士課程)を研究補助のため配備し、研究会準備・資料の整理収集などの作業を担当してもらい、また研究会での報告の機会も作るように配慮している。研究上の重要な仕事を担当してもらうことによって、研究者としての自覚をうながし、研究会や共同著作への参加を推奨している。

  

プロジェクト名:

伝統と越境−とどまる力と越え行く流れのインタラクション−

グループ名:

自己表象の生成と変容

リーダー名(所属):

柏木 博
武蔵野美術大学・造形学部・教授

組織構成:

柏木 博(武蔵野美術大学・教授、研究グループ長)
長沼 行太郎(関東短期大学・助教授、調整)
北澤 洋子(武蔵野美術大学・教授)
高橋 敏夫(早稲田大学・教授)
田中 正之(国立西洋美術館・主任研究官、企画・編集)
辻 吉祥(早稲田大学・博士課程、記録)

これまでの研究成果:

<概要>

 美術と文学の分野での<自己表象>の問題性(生成、変容、社会的機能)について、下記1.〜5.のテーマで分担研究と研究会をおこない、6.について共同討議にかけた。

  1. 肖像画と自己表象Ⅰ・・・美術史的観点から。自己の描かれ方についての研究。主に前近代。
  2. 肖像画と自己表象Ⅱ・・・美術史的観点から。自己の描かれ方についての研究。主に近現代。
  3. ものと自己表象・・・デザイン史的観点から。自己の換喩としてのモノについての研究。
  4. 伝記と自己表象Ⅰ・・・文学史的観点から。自己の語られ方についての研究。
  5. 伝記と自己表象Ⅱ・・・現代文化論の観点から。いわゆる大衆文化のなかでの自己表象の研究。
  6. 美術と文学が社会に提供した自己表象モデル・・・研究のまとめ

研究成果の公開を主に次の2つの方法でおこなった。

  • 共同著作『自己表象の生成と変容 問題の場所へ』の刊行、2006年3月。
  • 「芸術家とアトリエ」展(国立西洋美術館、2006年3月〜6月)の企画・遂行。

<学際性について>

 本研究は、これまで美術と文学が社会に提供してきた自己表象の諸モデルとその問題性を解明することを出発点に、デザイン・美術・文学が共通に自己表象を論じることができるような理論的な枠組の仮設を試みる。この理論的な枠組づくりに関しては、社会学、教育学、精神分析、建築等、他分野の専門研究者との交流(インタビュー、研究会)をはかる。交流に際しては、「隣接性――主体の換喩としてのもの」の観点を取り込みうるような枠組づくりを期待する。

<社会提言について>

 協働研究の成果をふまえ、現代における自己表象の問題性に関して、専門諸科学の研究者のみならず、臨床的・創造的分野で活躍するボランティア、クリエーター等を招き、より広い視界のなかで、コラボレーションの可能性を探り、研究プログラムの開発、さらには社会還元のためのプログラムの開発について検討する。

<人材育成について>

 (1)武蔵野美術大学・柏木博研究室内、および早稲田大学・高橋敏夫研究室内に、若手研究者のためのコーナー(デスク・PC・書棚等)を設け、自由に研究できる体制とした。
 (2)若手研究者には、研究テーマ全般にわたる研究資料の探索・収集と情報整理を依頼、また、当研究の会合、共同著作の企画・編集・執筆に参加することを促している。

  • 研究費の支給
  • 研究会への参加
  • 共同著作への参加

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

2006年秋シンポジウム予定(詳細未定)

論文、著書等:

  • 田中正之・制作の現場:マティスのアトリエ・『マティス展』カタログ(読売新聞社)・pp.94-101・2004/09
  • 北澤洋子・都美術館でフェルメール作《絵画芸術》を見る・『美史研ジャーナル 2』(武蔵野美術大学美学美術史研究室)・pp.34-36・2005/03
  • 「自己表象の生成と変容」研究グループ・自己表象の生成と変容—自画像と自伝のカルチュラルスタディーズ・pp.01-p65・2006/3
    • 柏木博 はじめに:問題提起のリゾーム的カタログをめざして
    • 柏木博 室内の観相学・自己表象としてのキャビネット
    • 北澤洋子 絵画の起源もしくは自画像のはじまり
    • 高橋敏夫 戦争の自己表象—映画と演劇にみる「戦争」の現在
    • 北澤洋子 ジャン・フーケの自画像
    • 北澤洋子 赤いターバンをつけた男の肖像/ヤン・ファン・エイクの自画像
    • 田中正之 0 自己を見つめる眼差し/2 鏡像的自己表象/3 自画像を描く画家/4 インデックス的自己表象(痕跡的自己表象)/5 自己表象と死/6 アイデンティティへの懐疑
    • 田中正之 ファルマコンの自己表象、あるいは自己表象のファルマコン
    • 長沼行太郎 近代文学と自己表象—問題の場所へ
  • 長沼行太郎・ビートルズとアップルハウスの伝説・『団塊パンチ2』(飛鳥新社)・pp.70-80・2006/07
  

プロジェクト名:

伝統と越境−とどまる力と越え行く流れのインタラクション−

グループ名:

越境と多文化

リーダー名(所属):

楯岡 求美
神戸大学・国際文化学部・助教授

関連サイト:

   http://www2.kobe-u.ac.jp/~kumi3/

組織構成:

楯岡 求美(神戸大学国際文化学部・助教授):総合企画/演劇の近代と越境

<亡命とテクスト>
阿部 賢一(武蔵大学人文学部・専任講師):ヨーロッパとディアスポラ/クレオール
林 みどり(立教大学文学部・助教授):南米におけるディアスポラ/クレオール

<演劇の近代と越境>
井上 優(日本橋学館大学人文系学部 ・専任講師):演劇の近代と越境

<多言語性と文学>
ヴァレリー・グレチコ(東京大学非常勤講師):多言語性と文学

<ナショナリズムと越境>
増本 浩子(姫路独協大学外国語学部・教授):ドイツ語文化圏の広がり

<ハリウッドと多文化性>
毛利 公美(北海道大学スラヴ研究センター・COE研究員):二十世紀と亡命文化

<事務局>
松井 真之介(神戸大学総合人間科学研究科博士課程後期在籍)
伊藤 美和子(兵庫日本ロシア協会ロシア語教師)

これまでの研究成果:

<概要>

 文化の境界を超え、異文化と接触することにより、どのような新しい芸術的創造が可能になるのか、そのメカニズムを20世紀の経験に基づいて分析し、現代世界における越境的な芸術・文化のあり方を解明すると同時に、将来の展望を探る事を目的とする。現代はグローバリズムの時代であり、多文化間の理解が不可欠な時代である。さらに、近年の地域紛争は、新たな越境者を大量に生んでいる時代状況もあり、個々の人間を、画一化されたひとつのカテゴリーに還元されない、複合的な文化的存在としてとらえる観点から多文化状況を考えることが必要とされる。移民の受け入れに関して、「寛容さを示してマジョリティーがマイノリティーをどう受け入れ、適応させるのか」というような一方的な見方は、マジョリティーの優位を保持したままにすぎず、国ごと、民族ごとに分割された個別文化の間の交流にとどまってしまう。よって、本研究では、個々の人間がどうやって自分を開き、自らのうちに多文化性を認めていくのか、またその関わりにおいて芸術創造にはどのような表現と機能の可能性が開かれているのかを考察することが重要である。
 こうした時代が直面する様々な問題を解決するためのヒントを得るために、過去、とくに20世紀的パラダイムの基礎が築かれたモダニズム期(19世紀末から第二次大戦までの期間)から現在までの亡命や移民の問題を総合的に検証する。越境者および越境先の文化を専門とする複数の研究者が共同で資料収集及び検討を行い、従来使用言語の問題でなかなか利用が難しかった資料の掘り起こしを行う。7名のコアメンバーがそれぞれの専門を生かし、越境と多文化の諸相についてテーマごとに分科会を組織した。「多文化的な場としてのハリウッド」「亡命とテクスト」「演劇の近代と越境」「多言語性と文学」「ナショナルなものへの志向と多文化」「クレオールの現状」である。これらのテーマを軸に、それぞれのコミュニティが抱える様々な問題や多文化社会における芸術のあり方をより総合的に検証し、三つの国際研究集会等の企画と3つのシンポジウムおよび小研究会を随時開いた。それらの成果の一部を報告書として刊行した(『亡命とテクスト-生産・消費・増殖-』、『「国」という枠を離れて』、『近代演劇と越境(1) 特集コミッサルジェフスキー』)。
 「越境」研究では、内外の研究者と越境の当事者が専門領域を超えて広く知的交流をもち、総合的に検証するプロセスが重要である。共同研究として他者(国外)の視点を有することは、国際化に際してしばしば指摘される日本の心理的障壁(バリア)を超克するような提言が期待できる。本プロジェクトでは、グレチコ(ロシア出身、ドイツで学位取得後、日本に移住)をメンバーに加えているほか、メイラフ(ロシア出身、フランス在住)、ヴィッテ(ドイツ人、比較文学)等を招聘し、国際学会での研究成果の海外への発信(協力者のグレチコ・毛利がポーランドのクラクフ大、ドイツのベルリン大で発表)も積極的に行なっている。

<学際性について>

 専門地域および分野が多岐にわたるように依頼するよう努力している。例えば、神戸のシンポジウム参加者である岡田浩樹は朝鮮半島を主なフィールドとして文化人類学および歴史を専門とする。中国文学研究者である濱田麻矢とともにヨーロッパ研究とアジア研究が統一テーマを論じる貴重な機会となった。また、それぞれの研究組織・学会と協力関係を強化・拡大するために、積極的に共催するようにした。結果、阪神ドイツ文学会、神戸大学国際文化学部、北大スラブ研究センター、山形大学国際交流委員会とシンポジウムや研究会を共催し、充実した意見交換の機会を得た。参加者も一部の関心に偏ることなく、広く集まっている。とくに共通のテーマを設定し、異なるアプローチから連続シンポを行った阪神ドイツ文学会との共同企画は、単なる連続シンポ以上に相互の関心を喚起する成果が感じられた。
 また、神戸、山形での研究会の際に痛感したのは、研究会の実施自体を脱中心化(東京以外での開催)することの重要性である。近年、各大学では学部内のインターディシプリンが進み、学内での特色あるスクールが形成されている。いわば、開催校となることで、歴史などの社会科学系研究者が学会を超えて聴衆として参加しやすくなり、積極的に議論に加わった。時間・予算等の制約から東京での開催が多くはなるが、今後、開催地の多様化も図っていきたい。 

<社会提言について>

 社会提言の主な方法は、現在のところ、報告書の出版(公開研究会・シンポジウム参加者への配布)、ホームページの拡充であるが、商業出版の方法も将来的には検討したいと考えている。ホームページについては、現在のページをさらに充実させると共に、海外からのアクセスを念頭に置いて多国語対応にしていくようにしたい。商業出版については、大学の教養課程レベルの教科書としても使用できる内容を想定している。過去の「越境」に関わるさまざまな現象についての総合的な知識を通して、多様な現代文化の全体像やその背景を的確に理解することができ、これからの社会や個人のあり方について考えるための一助となるような内容を目指す。他のグループとの同意が得られれば、本プログラムによるシリーズもの出版物としてまとめて出すことも可能だろう。今後、グループ間での連携を試みる中で、具体的に検討していきたい。

<人材育成について>

コメンテーターや報告者を選ぶ際、できるだけ非常勤の研究者を掘り起こすように積極的に依頼を行っている。18年度からは「若手研究者育成プログラム」として、院生が企画/運営/報告のすべてを主体的に行う研究会をシリーズ化させることによって次世代の育成を考えている。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

2005年
7月9日 "国際研究フォーラム「未来(ユートピア)への回帰」
(学部共催/阪神ドイツ文学会協力) 於:神戸大学国際文化学部 報告・コメント:前田良三(立教大教授)、浜田麻矢(神戸大助教授)岡田浩樹(神戸大助教授)、沼野充義(東大教授)、西成彦(立命館大教授)(80名)
10月1日ミニシンポジウム「演劇の近代と越境 −コミッサルジェフスキー」
於:成城大学文学部" 報告・コメント:井上優(日本橋学館大専任講師)、楯岡求美(神戸大助教授)、村田真一(上智大教授)等(20名)"

10月29日 公開国際研究会「『国』という枠を離れて」
(山形大学文学部国際交流委員会共催)於:山形大学人文学部、報告・コメント:濱崎桂子(神戸外大助教授)、望月哲男(北大教授)、増本浩子(姫路独協大教授)、水田恭平(神戸大教授)、福間加容(札幌大大非常勤)

11月19日ワークショップ「亡命とテクスト−生産・消費・増殖」
於:武蔵大学人文学部、報告・コメント:澤田 直(白百合女子大教授)、久野量一(法政大助教授)、本橋哲也(東京都立大教授)、阿部賢一(武蔵大専任講師) 等(20名)

11月19-26日 「ゲオルグ・ヴィッテ教授連続講演会」
於:早大文学部・東大文学部・神大国際文化学部 など、ゲオルグ・ヴィッテ(ベルリン自由大教授)、貝沢哉(早大教授)、沼野充義(東大教授)(のべ60名)

2月18-19日 セッション「−越境と多文化:映画の場合−」
(シンポジウム「スラブ・ユーラシアにおける東西文化の対話と対抗のパラダイム」枠内)於:北海道大学スラブ研究センター、報告・コメント:佐藤千登勢(立教大非常勤)、井上徹(千葉大非常勤)、扇千恵(同志社大非常勤)(50名)

論文、著書等:

  • 阿部賢一・林みどり(編)『亡命とテクスト−生産・消費・増殖−』(日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト」研究領域Ⅴ-1「伝統と越境−とどまる力と越えゆく流れのインタラクション」第2グループ「越境と多文化」研究報告集No.1)2006年、1−56頁。
  • 中村唯史(編)『「国」という枠をはなれて』(日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト」研究領域Ⅴ-1「伝統と越境−とどまる力と越えゆく流れのインタラクション」第2グループ「越境と多文化」研究報告集No.2)2006年、1−94頁。
  • 井上優(編)『近代演劇と越境(1) 特集 コミッサルジェフスキー』(日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト」研究領域Ⅴ-1「伝統と越境−とどまる力と越えゆく流れのインタラクション」第2グループ「越境と多文化」研究報告集No.1)2006年、1−76頁。
  

プロジェクト名:

伝統と越境−とどまる力と越え行く流れのインタラクション

グループ名:

伝統から創造へ

リーダー名(所属):

福岡 正太
国立民族学博物館

組織構成:

高松 晃子、聖徳大学、サブグループ「芸術文化における『伝統的なもの』」の総括
岡田 裕成、福井大学、植民地時代のアンデス美術における伝統研究
小塩 さとみ、宮城教育大学、日本およびベトナム音楽における伝統研究
菅 聡子、お茶の水女子大学、日本文学における伝統研究
田井 竜一、京都市立芸術大学、オセアニアおよび日本の民俗芸能における伝統研究
藤原 貞朗、茨城大学、近代フランスおよび日本美術における伝統研究
藤本 寛子、お茶の水女子大学、研究補助

これまでの研究成果:

<概要>

 「伝統」は、共同体の中で生きる人間にアイデンティティの基礎として生きる指針を与えると同時に、人々の足かせとなり新しい生き方を探る活動を否定する力ともなる。こうした「伝統」をめぐる葛藤は、芸術表現活動において先鋭的に現れてきた。この研究は、芸術諸分野における「伝統」をジャンル横断的に再検討するとともに、日本と東南アジアの研究者の協働による芸能の映像記録活動を通じて「伝統」の記録を資源化し創造的活用へとつなげていく活動の指針を構築することを目指している。サブグループ「東南アジアにおける伝統芸能を資源とした芸術創造を支える共有の知の構築」は、東南アジアの研究者とともに芸能の映像記録プロジェクトを進めながら、映像資料のアーカイブ化、芸能の伝承・教育・創造・研究等の活動における映像資料活用の諸問題について、議論を深めてきた。サブグループ「芸術文化における『伝統的なもの』」は、芸術諸ジャンルにおける「伝統」観念の生成過程やその伝承・創造過程への影響等について比較研究を行うとともに、芸術家を招いた公開講演会を開催し、研究者との対談及び実例の提示により各ジャンルの創造活動における「伝統」の実際について明らかにしつつある。

<学際性について>

 コアとなる研究メンバーに加えて、専門分野や立場を異にする多くの人々の協力を得ながら研究を進めている。サブグループ(1)においては、日本と東南アジアにおける関係者の経験を共有すること、実演家、研究者、映像作家、行政関係者など立場を異にする人々の間の相互理解を深めることに重点を置いている。サブグループ(2)においては、文学、美術、音楽等の芸術諸ジャンルを横断的に研究を進めること、芸術家と研究者の間の対話を通じて、研究会における議論を芸術家にフィードバックしながら「伝統」についての議論を深めることを実践している。

<社会提言について>

 人文・社会科学は、人類が直面する課題について唯一の解答を与えるものではない。しかし、その課題について深く理解し、それを乗り越えていくための手がかりを与えることはできるだろう。この研究においては、伝統概念の理論的研究と芸能の調査記録活動を通じた「伝統」の資源化の実践を密接に関連させることで、人文・社会科学のこうした可能性を十全に引き出し、現代社会の大きな課題となっている多文化の平和的共生を前提とした「伝統」の資源化および創造的活用の指針へ寄与することを目指している。 (1)公開シンポジウム開催、書籍刊行、映像作品公開等を通じて、日本及び海外の芸術諸ジャンルにおける「伝統」のあり方や人類の文化的活動におけるその意義について理解を深めるための手がかりを提供したい。(2)特に、日本の教育関係者に対して、「伝統」を広い視点から捉え、実際の教育課程において「伝統」とどのように向き合うべきかの1指針を示すことも目指したい。(3)東南アジア研究者と共同で制作した映像記録の公開を通じて、現代世界における望ましい伝統芸能の伝承のあり方について考える材料を提供したい。

<人材育成について>

 これまで、研究会において、若手研究者に研究発表の機会を与えること、および、研究補助として継続的に研究プロジェクトにかかわり研究プロジェクト運営の経験を積ませることを行ってきた。さらに今後、調査や映像記録プロジェクトにおいても、若手研究者の活躍の機会を作っていく予定である。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

2005年2月21日〜24日、国立民族学博物館、国際研究ワークショップ「伝統芸能の映像記録の可能性と課題」、35人
2006年2月11日、国立民族学博物館、国際研究集会「伝統芸能の映像記録の可能性と課題」、20人
2006年2月18日、聖徳大学、講演会「箏が今に伝えるもの、伝えたいもの」、110人
2006年3月18日、聖徳大学、講演会「歌のことば、女のことば−その継いできたもの」、30人

論文、著書等:

福岡正太、「伝統の継承、創造の研究と映像記録の活用−機関研究:伝統芸能の映像記録の可能性と課題」『民博通信』112号、18-19ページ、2006年。