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人文・社会科学振興プロジェクト研究事業

プロジェクト研究の成果

 
 
プロジェクト研究一覧表
 
平成18年7月作成

研究領域 2
Project Number 2-3


プロジェクト研究名:

グローバル・ガバナンスの解明

プロジェクト・リーダー名(所属):

遠藤 乾
北海道大学・公共政策学連携研究部・教授

平成17年度までの研究成果について

<概要>

 本プロジェクトは、「帝国とネットワーク」(籠谷)グループと「重層的秩序の理念と現実」(遠藤)グループから成る。
 「帝国」グループでは、グローバル・ガバナンスに関する史的観点からリサーチを重ね、これまでにアジア旧帝国(中国・インド)、ヨーロッパ近代的帝国主義の東漸、20世紀アメリカ覇権などの歴史マクロ的な視点を考察してきた。また、これらの時代に伸張したアジア商人のネットワークの役割について議論した。
 「理念と現実」グループでは、グローバル・ガバナンスに関する多様な現実について広範にリサーチを重ね、感染症管理、海外送金・マネーロンダリング、FTA(自由貿易協定)、平和構築、世界標準形成など、幅広い論点を実験的に検討してきた。
 さらに両グループは、共同して思想的・理念的・概念的検討を行っており、、具体から抽象へ、イシューそのものから接近法へ、研究を深めて。具体的には、

  • 国際・世界標準化の歴史的考察、
  • 帝国理念と実態の検討

などの領域で、東アジア地域に重点を置きながら、思想や歴史の側面を重視して分析の枠組を構築し、それに基づいた形で、優れて現代的な現象であるグローバル・ガバナンスを分析することにより、その通時的・同時代的意義、課題構造を明らかにしようとしている。

<学際性・社会提言・人材育成について特記すべき事項>

 このプロジェクトにおける社会提言では、プロセス重視の新しいかたちの成果を求め、経験的事実の検証の過程から実務家やメディア、あるいは若手研究者が広く関与するように工夫する中で、とくに実務家、ジャーナリスト・出版社、国際フォーラムとの接触・協働を試み、恒常的な意見交換を通じて社会的なインパクトを形成することを心がけたい。同時に、世界的な研究ネットワークであるグローバル・ガバナンス・ネットワークのなかで、競争的な位置を占めるように、特にアジア地域の特性などに重点を置きながら、海外発信を目指したい。
 社会提言の内容としては、遠藤・籠谷両グループ間のシナジーを作り出し、世界的・地域的なガバナンスの制度(レジームやネットワークなど)構築の見取図づくりを試みたい。とくに、東アジア地域のレジーム(FTAや通貨協力)や社会的ネットワークと、疫病や海外送金等のイシューに関する経験的研究を融合し、提言をまとめたい。

  

プロジェクト名:

グローバル・ガバナンスの解明

グループ名:

重層的ガバナンスの理念と実態の解明

リーダー名(所属):

遠藤 乾
北海道大学・公共政策学連携研究部・教授

組織構成:

<リーダー>
遠藤 乾(北大法学研究科教授)…補完性、標準化、帝国等

<現状>
田所 昌幸(慶応大学法学部教授)…アジア、FTA、金融・送金、文化外交
城山 英明(東大法政研究科助教授)…標準化、国際行政、他領域との連携
篠田 英朗(広大平和研究所研究員)…法の支配と平和構築、思想班兼
元田 結花(東大法政研究科講師)…国際開発協力、保健衛生
高安 健将(成蹊大学法学部助教授)…相互依存下の国家(指導)
坂根 徹 (東大法政研究科院生)…国際機関・PKOの調達・財政
柴田 晃芳(北大法学研究科院生)…安全保障と帝国、事務局

<思想>
寺谷 広司(東大法政研究科助教授)…ICC、平和構築、現状班兼
安武 真治(関西大学法学部助教授)…「帝国」理念の検討
ベン・ミドルトン(フェリス女学院講師)…トランスナショナルな社会概念
山崎 望 (東大法政研究科院生)…グローバル・ガバナンスの思想

これまでの研究成果:

 

<概要>

 本グループには、以下の3つの目的がある。

  1. ヒト・モノ・カネ・情報・疫病などの国境横断的な移動に伴う社会的諸現象を実証的に分析すること。
  2. そのガバナンス(統治)のあり方の考察。特に、世界的レジーム、帝国、地域、国家、地方、私的な団体などの多層にわたる対応主体や、異なる対応形態の検討。
  3. これらの人文社会科学に対する含意の検討。国家中心的概念枠組の射程の再考。

 とりわけ、現状のGGに関する分析を、歴史的現象の研究や概念理念的な検討と接続することを目指しており、これまで、グローバル・ガバナンスに関する多様な現実について広範にリサーチを重ね、感染症管理、海外送金・マネーロンダリング、FTA(自由貿易協定)、平和構築、世界標準形成など、幅広い論点を実験的に検討してきた。

<学際性について>

 メンバーは、政治、社会、国際関係、行政、法など多岐にわたる専門領域から募っており、GGプロジェクトのもうひとつのグループによる歴史・経済的な分析と合わせて、意図的に各専門領域を超えるようにデザインされている。
 社会連携としては、実務家や出版社、ジャーナリストが研究段階から関与するプロセスを重視し、また国際的な学会・ワークショップにおいて報告等を試み、積極的に関与する。また、「帝国とネットワーク」(籠谷)グループ(グローバル・ガバナンス・プロジェクト内のもうひとつのグループ)との連携を重視するのはもちろんのこと、平和構築や科学技術等の他のグループとも連携を深めてゆく。

<社会提言について>

 このプロジェクトにおける社会提言は、プロセス重視の新しいかたちの成果を求め、経験的事実の検証の過程から実務家やメディア、あるいは若手研究者が関するように工夫する中で、とくに実務家、ジャーナリスト・出版社、国際フォーラムとの接触・協働を試み、恒常的な意見交換を通じて社会的なインパクトの形成を目指す。同時に、世界的な研究ネットワークであるグローバル・ガバナンス・ネットワークのなかで、競争的な位置を占めるように、特にアジア地域の特性などに重点を置きながら、海外発信を目指したい。
 社会提言の内容としては、籠谷Gとの協力から、世界的・地域的なガバナンスの制度(レジームやネットワークなど)構築の見取図づくりを試みたい。とくに、東アジア地域のレジーム(FTAや通貨協力)や社会的ネットワークと、疫病や海外送金等のイシューに関する経験的研究を融合し、提言をまとめたい。

<人材育成について>

 すでに現在大学院生や講師として研究活動を行っている若手研究者が複数参加しているが、今後もこうした若手研究者を随時引き入れることで次世代の研究への連結を実現したい
  また、個別の研究テーマごとに研究者のみならず多くの実務家、ジャーナリストの参加が得られており、こうした異分野の人的交流は、専門性とともに分野を横断する能力を持つ人材の育成につながると考えており、これは今後社会の多方面にわたってインパクトを持ちうるものと期待される。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

  • 2004/10/5-6 "Risk Management and Global Governance of Zoonosis"(札幌 北海道大学)
  • 2004/10/16「世界標準設定のポリティクス−グローバル・ガバナンスの解明に向けて−」(日本国際政治学会分科会、兵庫県 淡路島)
  • 2004/12/5 「米国覇権と国際刑事裁判所」 (東京 四谷学振会議室)
  • 2005/1/15 "Remittances Workshop" (東京 四谷学振会議室)
  • 2005/5/10 "Global Householding Workshop" (東京 四谷学振会議室)
  • 2005/7/29-30「ワークショップ グローバル・ガバナンスの思想、戦後東アジアの帝国秩序」(札幌 北海道大学)
  • 2005/7/31-8/1「グローバル・ガバナンスの史的形成に関する研究合宿」(赤井川 キロロ)
  • 2005/12/9-11 "Workshop: Epidemic Diseases, Environmental Changes and Global Governance in the Historical Perspective"(大阪 国際ハウス)
  • 2006/2/7-8 "Symposium: Global Householding: Comparisons among in High-Income Economies of East Asia"(札幌 北海道大学)

論文、著書等:

  • 遠藤乾、「感染症はいかにして国際政治の問題足りうるか」、『科学』、岩波書店、75巻1号、2005年1月、11-2頁。
  • 遠藤乾、「フランス・オランダ国民投票による欧州憲法条約否決」、『生活経済政策』、104号、2005年、2-8頁。
  • 遠藤乾、「主権、帝国(主義)、民主主義−〈帝国〉の射程−」 『非対称化する世界−〈帝国〉の射程−』、以文社、2005年、53-84頁。
  • 遠藤乾(編著)、『帝国/グローバル化時代のデモクラシー』、北海道大学法学研究科附属高等法政教育研究センター、Booklet No.16、2005年。

(グループリーダー分のみ掲載。後日メンバーの業績も掲載予定)

  

プロジェクト名:

グローバル・ガバナンスの解明

グループ名:

帝国とネットワーク−アジア地域秩序の解明

リーダー名(所属):

籠谷 直人
京都大学・人文科学研究所

組織構成:

<旧帝国論>
岡本 隆司(京都府立大学・文学部・助教授)(清朝海関)
久保 亨(信州大学・人文学部・教授)(国民党経済政策)
脇村 孝平(大阪市立大学・経済学研究科・教授)(インド・環境史)
岩井 茂樹(京都大学・人文科学研究所・教授)(明清財政)
村上 衛(横浜国立大学・経済学部・助教授)(ネットワーク論)
藪下 信幸(近畿大学・商経学部・助教授)(東インド会社)
城山 智子(一橋大学・経済学研究科・助教授)(銀流通)
Mark Harrison(Wellcome Unit for History on Medicine,Green College, Oxford, Reader)(インド帝国論)

<帝国主義論>
石田  憲(千葉大学・法経学部・教授)(イギリス・ガバナンス)
水野 祥子(九州国際大学・文学部・講師)(イギリス・環境史)
西村 雄志(松山大学・経済学部・講師)(銀流通)
川村 朋貴(富山大学・人文学部・助教授)(イギリス世界金融論)
松浦 正孝(北海道大学・法学研究科・助教授)(政治史)
木谷 名都子(立命館大学・非常勤講師)(インド)

<覇権論>
宮城 大蔵(政策大学院大学・助教授)(インドネシア)
井口 治夫(名古屋大学・環境学研究科・助教授)(戦後覇権論)
小野沢 透(京都大学・文学研究科・助教授)(アメリカ覇権)
篠原 初枝(早稲田大学・アジア太平洋研究科・教授)(戦後覇権論)
Thomas W. Zeiler (The University of Colorado at Boulder, Department of History, Chair)(戦後覇権論)

<ネットワーク論>
大石 高志(神戸市外国語大学・助教授)(ムスリム)
陳 来幸(兵庫県立大学・経済学部・教授)(ネットワーク論)
陳 天璽(国立法人民族学博物館・助教授)(ネットワーク論)
上田 貴子(近畿大学・文芸学部・講師)(ネットワーク論)
溝口 歩(神戸大学・総合人間科学研究科・博士後期課程)(ネットワーク論)
石川 亮太(佐賀大学・経済学部・助教授)(朝鮮華僑)
帆刈 浩之(川村学園女子大学・文学部・助教授)(広東系華僑)
神田 さやこ(慶應義塾大学・非常勤)(ベンガル経済)
林 満紅(中央研究院・近代史研究所・研究員)(ネットワーク)
鐘 淑敏(中央研究院・台湾史研究所・準研究員)(台湾籍民)
李 培徳(香港中文大学・文学部・助教授)(広東系華僑)
劉 宏(マンチェスター大学・歴史系・準教授)(広東系華僑)
呉 小安(北京大学・歴史系・副教授)(シンガポール経済)
蔡 志祥(香港中文大学・教授)(タイ華僑)
張 寧(中央研究院・近代史研究所・準研究員)(ネットワーク論)
THU Timothy Yun Hui(シンガポール国立大学・日文系)(ネットワーク論)

 なお、すでに若手研究者を随時引き入れながら次世代の研究へ連結を意図しているが、それを今後も続けてゆく。

これまでの研究成果:

<概要>

 2005年度(いわゆるパイロット・ケースは03年秋から05年3月まで)から開始したこの委託研究は、17世紀から現在までのアジアにおける広域市場秩序の存在を検討している。主権国家をつくりだすことが優先課題である近代の時代には、境界線の明確でない「地域」は各政治主体の利害が激しく対立する場として描かれてきた。主権国家または国民国家に成熟できていなかったアジアの諸「地域」は、多様な政治勢力の争奪の対象になったからである。しかし、本共同研究では、地域をそうした対立の場ではなく、むしろ「秩序」を有していた場として捉えなおそうとしている。主権国家にむけてのレッスンはなくとも、朝貢システムなどのアジア的な伝統径路をこの地域は有していたとするならば、決して正面から主権を主張しない歴史的主体の存在をとらえなおすことも、改めて必要であろう。国民ではない域民としての華僑や印僑は、舞台の脇役ではなかったとする認識が、本研究では含意されている。
 グループ・リーダー(G.G.)は、日本近代史を専攻してきたので、その文脈から本研究を企画した。これまで19世紀の日本をふくめた、東アジア史研究で検討されてきたことは、「自由貿易」原則の強制というヨーロッパの近代的帝国主義がもたらした「衝撃」と、それに対応する旧「帝国」の清朝中国・「鎖国」後期の徳川日本のあり方であった。政治過程に注目するならば、戦争・開港といった近代への移行の「断絶」面が強調され、アジアにおける「独立国」、「植民地」化、またはその中間の半植民地化、といった歴史的大舞台での配役選択の遡上にのせられた。そのことは、完全に植民地化した東南アジアにもあてはまる。
 しかしヨーロッパで制度的な規範となった自由貿易原則という「国際基準」が、長期間を通して読み込まれながらアジアに浸透していった過程そのものについては、いまだ十分に明らかにされていない。主権をも侵害しかねないグローバル・スタンダードがいかにして地域的世界に浸透し、また受け入れられたのかを、その提供(強制)者と受容者の双方から検討することは必要であろう。今風に言えば、「国際社会」という普遍的な概念を理解しない相手には強制力を用いても、徹底的にその概念を植えつけようとし、対象となる相手側にもその概念の価値を理解する意志を欠いている場合がある。西欧でうまれた制度は移植されるものではなく、それらを受け入れるアジア側の論理があったはずである。制度の受容に抵抗を示しながらも、それらを受け入れつつ、また帝国主義が圧倒できなかった伝統的径路はあったといえるが、歴史的な教訓としては、国際的基準を強制することの行為になんらかの正当性を調達しようとして案出される戦略がアジア史のなかには、いまだ十分に書き込まれていない点であろう。
 近代日本にとっては、自由貿易原則の強制は関税自主権という主権の「侵害」そのものであった。通史的説明では、その主権の回復過程と、そうした制度に依拠して登場する近代的な経済主体の動向に分析の焦点が絞られてきた。あきらかに自由貿易は、アジアで新たにうまれでようとする主権国家に制約をくわえる外圧的な制度であった。しかし、近年の「アジア共同体」論が示唆するように、アジアにおける自由貿易体制の構築と維持は広域な通商政策課題になっている。東アジアにおいて、いかにして自由貿易原則が根付いたのかという関心が、ヨーロッパの経験を横目にしながら、高まっているのであろう(これはP.R.の遠藤氏の課題でもある)。しかし、主権国家の利害に即ししたアジア史的視点はそうした関心に十分にこたえているとは言いがたい。それゆえ、朝貢や互市体制、またミーラース体制などの伝統的なアジア「帝国」秩序が、欧米うまれの制度と接触したときに、いかにしてそれらを吸収したのかを長期的な視点にたって検討することには、グローバル・ガバナンス論にとって大いに意味があるように思う。

<学際性について>

 本共同研究は、中国史、インド史、そしてアメリカ史の蓄積を交換しながら、アジア・太平洋に存在した広域市場秩序を検討しており、現状の問題としてグローバル・ガバナンス論との連携を試みている。
 周知のように、18世紀までの東アジアでは、清朝帝国の「広東システム」や、日本の「鎖国」といった管理体制が基調であり、自由貿易とは無縁であった。むしろこの世界地域では、陸の政権が海上の安全を保障する政治経済的システムの構築に優先課題があった。元寇や倭寇の襲来をうけた東アジアならではの関心が強かったからであろう。また、その無縁さには、市場経済的な側面においても、歴史的な背景があった。アジアでは市場経済の発展から地域内での物産の自給が可能であり、対外的にも物産が流れ出るような「売り手」市場であった。金銀銅の鉱物も、たんなる交換手段としてだけではなく、物産としても豊かであった。
 近世の東アジアは、西欧のような、多国間の経済的競争が問題ではなく、重商主義とは無縁であった。むしろ問題はアジアの商人が通商を通して、多くの富をたくわえ、そしてそのときどきの王権への反抗的勢力になることを未然に防ぐことであった。東アジアの為政者は、16世紀の「倭寇的世界」の再来を懸念していたのであり、陸の政権が海上の安全を保障する世界地域的なガバナンスに課題があった。通商の「自由」そのものは課題ではなく、むしろ土地を持たない商人が、海外に移住して豊かになり、そのときどきの王権への反抗的勢力になることを未然に防ぐことに課題があった。産業を保護し、国家財政を増やすことに目的をおくような重商主義はアジアでは問題とならず、そして多国間の経済的競争や商業独占などとは無縁であったアジアを、どのように認識するかが改めて問われている。
 近代的西欧の政治経済的勢力が、アジアの管理貿易にたいして自由貿易を強制したときに案出した戦略的商品が、アヘンであった。近代的な制度の移植そのものは、アジアでは困難だと欧米の帝国主義勢力が悟ったときに、この魅力的な商品を開発したといえる。近代的な制度の委嘱は短期間では難しく、また対象とするアジアにもそうした制度を学ぼうとする姿勢がないと判断した場合(幕末の日本やタイは学ぼうとした事例と考えている)、この新商品が交渉相手のアジアを一気に貫くような(開港)、エッジになった。グローバル・ガバナンス論においても、ドラッグはいかなる文明をも震撼させるような、有無をいわせぬ、エッジであった。
 近年の中国史はアヘン戦争をつぎのように描いていることがわかった。当初、アヘンは中国産茶葉を引き出す役割を担っていた。アヘンと茶葉の取引の増加は、着実に旧帝国の管理貿易体制を崩した。そして1840年のアヘン戦争の勃発は体制の転換を余儀なくさせた。インドから中国へのアヘン取引は、<中国からイギリスへの茶葉取引>と<イギリスからインドへの綿糸布取引>とあわせて、英印中の三角貿易の一環として捉えられてきたが、アヘンの取引そのものは、当時の世界的な金融の中心であったロンドン・シティの多角的決済機構の形成と維持に深く関わっていた。産業革命をえたイギリスは原料の棉花をアメリカから輸入した。そしてこのイギリスに対してアメリカ合衆国(1776年に独立)の商人は、ロンドン宛の手形(アメリカ手形)を振り出し、アメリカ商人はそれを直接ロンドンへ送付するのではなく、中国からの茶葉輸入に使った。さらにこの手形は、インドから中国へのアヘン取引に活用され、最終的にはイギリスからインドへの綿製品取引を通して、ロンドンに還流して、決済された。ロンドンを決済点とする多角的な貿易網が形成されており、いわばアヘン戦争は、この貿易網の維持とロンドン・シティの金融的利害を背景にしたものであった。換言すれば、アヘン取引そのものの通商的利害は、イギリス帝国主義の金融決済網の展開と維持を支えることにあり、英国製品の市場的広がりよりは、広域であった。グローバル・ガバナンスを財の広がりよりは、むしろマネーの広がりから考察する必要性が示唆されている。
 アヘン取引は本来、清朝の禁制品であったために、東インド会社はイギリス人(スコットランドが多い)のカントリー・トレーダー(地方商人)をつかってアヘンと茶葉の取引を組み合わせていた。しかし、いったん、アメリカ商人が、インドと中国間のアヘン取引に参画したときに、イギリス人のカントリー・トレーダーらは、東インド会社の独占(重商主義)そのものを批判し始めた。有益なアヘン取引に、アメリカ人、そしてインド人、中国人が参画するなかで、取引の競争激化が生じ、イギリス商人も重商主義の独占の解体を望んだ。

<社会提言について>

 以上のように、本共同研究は、自由貿易原則とは、ヨーロッパにおける主権国家間競争や重商主義(商業独占)のコストが明確に理解され、あわせてそのコストを引き下げるために案出された制度や基準であったことを理解した。そして、アジアにおける自由貿易原則の浸透と定着は、アヘンを通した密輸取引の延長上にあったともいえる。自由貿易原則などの、欧米うまれの国際的基準や制度が、世界地域で共有されてこそグローバル化が進展するが、周辺の世界地域においては、その基準や制度が不在であり、また世界地域がそれらを学ぼうとしないときには、いななる文明をも貫くようなエッジが用いられた。「未開」の相手が世界基準とみえる諸制度を学習しようとしないと認識されたときに、大国は相手に学習時間を与えるのではなく、そこへ誘引するような、物産文明をちらつかせた。これらのことは、現在のアメリカの覇権体制下においても同様であることを社会に示唆したい。

<人材育成について>

 グループ・リーダーの所属する関西において、できるかぎり博士課程在籍の大学院生の参加を求めている。とくに対象とする時代や地域にこだわらずにいるが、まずは基礎となる時代・地域性は固守しつつ、いわゆる「他分野」の報告にはコメントを求めている。大阪外国語大学(地域文化)、京都大学(経済)、大阪市立大学(経済)、神戸大学(国際文化)の院生が多い。

シンポジウム、ワークショップ等の開催状況:

2005年
17回(第1回から16回は03年秋から04年末のパイロット企画で開催したが、ここでは略す):1月21日(金)
陳天璽(国立民族学博物館)「華商ネットワークとアイデンティティ −そのイメージと実体−」
18回:2月4日 (金)
宮城大蔵(北海道大学法学部)「戦後アジア国際政治の中の日本 ?海域東南アジアへの関与を中心に?」
19回:4月15日(金)
籠谷直人「「帝国とネットワーク」研究の方向性について:研究協働を通した展望」
20回:5月13日(金)
大石高志(神戸市外国語大学)「印僑商人論の研究動向」
21回:5月27日(金)
神田さやこ(慶応義塾大学)「18世紀末〜19世紀前半のベンガルにおける塩市場の形成と変容−ベンガル「植民地化」に関する一考察」
22回:6月10日
谷口謙次(大阪市大大学院経済学研究科・D3)「十八世紀後半のベンガルにおけるイギリス東インド会社の貨幣政策」水野祥子(大阪大学)
「植民地の環境保護主義−英領インドにおける乾燥化理論の展開」

  • 6月12日(日)2005年度大阪歴史科学協議会・大会報告
    (関西大学・千里山キャンパス 第一学舎(法・文学部)第三会議室)
    籠谷直人「19世紀の東アジアにおける主権国家形成と帝国主義」
    西村雄志(松山大学)「19世紀のアジアにおける銀流通」
    23回:6月24日(金)
    石田憲(千葉大学)「帝国と介入−フレデリック・リース=ロスの国際金融政策」
  • 7月3日(日)
    国際ワークショップ:"The United States and Globalization: Power, Empire, and Business Networks"
    籠谷直人
    Thomas W. Zeiler,(Department of History, The University of Colorado)
    小野沢透(京都大学)
    井口治夫(名古屋大学)
    Marc Gallicchio,(Department of History, Villanova University)
  • 7月29日(金)−30日(土)
    共同ワークショップ(遠藤乾グループ+籠谷グループ)(北海道大学法学部)
    7月29日(金)
    課題:「グローバル・ガバナンスの思想」
    ベン・ミドルトン(フェリス女子大学)「世界社会論−高田保馬を手がかりに−」
    城山英明(東京大学)「A.ソルターの機能主義」
    遠藤乾(北海道大学)「補完性の思想−グローバル・ガバナンスの秩序原理?」
    池内恵(国立民族博物館)「世界政治における宗教」
    7月30日(土)
    課題:「戦後東アジアの帝国秩序」
    籠谷直人「東アジアにおける帝国と帝国主義」
    松浦正孝(北海道大学)「戦前戦後の連続と断絶−東アジア帝国秩序再論」
    大石高志(神戸市立外国語大学)「インド海域と東アジア地域秩序」
    城山智子(一橋大学)「上海・金融・銀本位制」
    田所昌幸(慶応義塾大学)「パックスアメリカーナと戦後アジア通貨秩序」
    宮城大蔵(北海道大学)「戦後日本外交と東南アジア国際秩序」
  • 8月26日(金)
    シンポジウム「帝国とネットワーク−アジア史における「長期の19世紀」−」
    会場:大阪市立大学文化交流センター(大阪駅前第2ビル6階)
    籠谷直人(京都大学助教授)(問題提起1)「近代日本からみた帝国とネットワーク」
    脇村孝平(大阪市立大学)(問題提起2)「アジア史における『長期の19世紀』」
    杉原薫(大阪大学)「19世紀前半のアジア交易圏」
    川村朋貴(富山大学)「イースタンバンク問題とイギリス帝国主義 (1853年−1867年)−英領インドと海峡植民地」
    村上衛(横浜国立大学)「19世紀末、ビン南商人の転換」
    大石高志(神戸市外国語大学)「モーリシャスのコメ貿易・流通とインド系ムスリム商人」
    コメント:岩井茂樹(京都大学)
    24回:9月16日(金)
    籠谷直人「旧帝国研究の動向についてのメモ」
  • 10月7日(金)−8日(土)
    国際ワークショップ:Networks and Empires: Indian Migrants/Merchants in East Asia and Beyond
    籠谷直人
    大石高志(神戸市立外国語大学)
    脇村孝平(大阪市立大学)
    Lee Pui-tak 李培徳(香港大学)
    Lin Man-hong 林紅満(中央研究院、台湾)
    Choi Chi-cheung 蔡志祥(香港科学技術大学)
    Siu-tong Kwok郭少棠(香港大学)
    村上衛(横浜国立大学)
    Wu Xiao an 小安(北京大学)
    Rajeswari A. Brown(SOAS, London University,UK)
    神田さやこ(慶応義塾大学)
    Claude Markovits(SOAS, London University,UK)
    Liu Hong 劉 宏(National University of Singapore)
    陳来幸(兵庫県立大学)
    松浦正孝(北海道大学)
    Zhong Shumin 鐘淑敏(中央研究院、台湾)
    城山智子(一橋大学)
    Wong Siu-lun黄紹倫(香港大学)
  • 10月9日(日)
    「アジア太平洋戦争研究」ワークショップ
    松浦正孝(北海道大学)「汎アジア主義における『インド要因』」
    鹿錫俊(島根県立大学)「日中紛争の『世界化』−中国の日中紛争解決構想と米英ソ参戦問題−」
    石田憲(千葉大学)「帝国と介入−フレデリック・リース=ロスの国際金融政策」
    25回:10月24日(金)
    篠原初枝(早稲田大学)「パラダイムの帝国−アメリカMBAプログラム」
    26回:11月11日(金)
    田嶋淳子氏(法政大学)「越境する社会空間:日本における中国系移住者の移動と定着をめぐって」

11月19日(土)

  1. ワークショップ:「日本におけるマイノリティ・ビジネスの歴史的展開」
    オーガナイザー: 籠谷直人(京都大学)・韓載香(東京大学)・曳野孝(京都大学)
    曳野孝(京都大学)「マイノリティ・ビジネスの歴史的展開:国際比較に向けて」
    韓載香(東京大学)「在日韓国・朝鮮人ビジネスの歴史的動態」
    高龍秀(甲南大学)「神戸における在日韓国・朝鮮人産業の発展」
    籠谷直人(京都大学)「華僑とネットワーク」
    陳来幸(兵庫県立大学)「在日華僑華人ビジネスの歴史的動態」
  2. 12月9日(金)−11日(日)
    国際ワークショップ:「疫病・環境・グローバライゼーション」(以下、各論題は略す)
    飯島渉(青山学院大学)
    脇村孝平(大阪市立大学)
    Mark Harrison(Wellcome Unit for the History of Medicine, Oxford, UK)
    Park Yunjae(Yonsei University, Korea)
    Robert Perrins(Acadia University, Canada)
    上田信(立教大学),
    Shi-yung Liu(Academia Sinica, Taiwan)
    V.R. Muraleedharan(Indian Institute of Technology Madras, India)
    Yawen Ku(Postdoctoral Fellow[2006〜], Research Center for Humanities and Social Sciences, Academia Sinica, Taiwan)
    Ki Che Leung(Academia Sinica, Taiwan)
    遠藤乾(北海道大学)
    David Arnold (SOAS, University of London, UK)
    Kalinga Tudor Silva(University of Peradeniya, Sri Lanka)
    城山英明(東京大学)
    後藤春美 (千葉大学)

    2006年
    27回:4月14日(金)
    籠谷直人「アジアにおける自由貿易原則の浸透」 28回:4月28日(金)
    岩井茂樹氏「18世紀の清朝の互市論−朝貢システム論批判」
    29回:5月19日(金)
    脇村孝平氏(大阪市立大学)「グローバル化・環境変容・疫病?19世紀アジアにおけるコレラを中心として」
    30回:6月2日(金)
    城山智子氏「市場とヒエラルキーを越えて:アジア商人のネットワーキング・20世紀・華僑送金網の組織と動態」
    31回:6月16日(金)
    後藤春美氏(千葉大学)「イギリス帝国とアヘン」

論文、著書等:

  • 籠谷 直人:
    • "The Chinese Merchant Community in Kobe and the Development of the Japanese Cotton Industry, 1890-1941," in Kaoru Sugihara(ed.), Japan, Chine and the Growth of the Asian International Economy, 1850-1949, Harvard University Press,2005,pp.49-72.
    • 「日本綿業における在華紡の歴史的意義」、森時彦編『在華紡と中国社会』京都大学出版会、2005年11月、3−32頁。岡本 隆司
  •  
  • 脇村 孝平:
    • 共編『帝国のなかのアジア・ネットワーク −「長期の19世紀」アジアの解明』世界思想社、2006年近刊。
  • 岩井 茂樹:
    • 「明代中国の礼制覇権主義と東アジアの秩序」、『東洋文化』85、東京大学東洋文化研究所。
    • 「16世紀中国における交易秩序の模索」編『中国近世社会の秩序形成』2004年3月、97-142頁。
  • 村上 衛:
    • 共編『帝国のなかのアジア・ネットワーク −「長期の19世紀」アジアの解明』世界思想社、2006年近刊。
  • Mark Harrison:
    • (eds.)Imperialism Vol.1〜3,Routledge,2004.
  • 石田 憲:
    • 編著『帝国の膨張と接触』東京大学出版会、2006年近刊。
  • 水野 祥子:
    • 『イギリス帝国からみる環境史』岩波書店、2006年。
  • 西村 雄志:
    • 共編『帝国のなかのアジア・ネットワーク−「長期の19世紀」アジアの解明』世界思想社、2006年近刊。
  • 川村 朋貴:
    • 「東インド会社解散以前のイースタンバンク問題、1847〜1857年」『社会経済史学』71巻2号、2005年、25-47頁。
    • 共編『帝国のなかのアジア・ネットワーク−「長期の19世紀」アジアの解明』世界思想社、2006年近刊。
  • 松浦 正孝:
    • 編『国際シンポジウム:植民地をめぐる日本・中国・南洋』2005年9月。
  • 木谷 名都子:
    • 「インド棉花輸出問題から観た英印民間会商と第一次日印会商」『社会経済史学』71巻6号、2006年25-47頁。
  • 宮城 大蔵:
    • 『戦後アジア秩序の模索と日本』創文社、2004年10月。
  • 小野沢 透:「米・中東関係」『アメリカ外交と21世紀の世界』昭和堂、2006年6月、129-173頁。
  • 大石 高志:「ムスリム資本家とパキスタン」黒崎卓ほか編『現代パキスタン分析』岩波書店、2004年1月、231-258頁。
  • 陳 来幸:
    • 『中華総商会ネットワークの史的展開に関する研究』兵庫県立大学経済学部、2006年5月。
  • 石川 亮太:
    • 共編『帝国のなかのアジア・ネットワーク−「長期の19世紀」アジアの解明』世界思想社、2006年近刊。
  • 帆刈 浩之:
    • 共編『帝国のなかのアジア・ネットワーク−「長期の19世紀」アジアの解明』世界思想社、2006年近刊。
  • 神田 さやこ:「植民地期インドの工業化に関する一考察」『慶応大学マーケット・リサーチ・プロジェクト』2005年、1-21頁。
  • 鐘 淑敏:
    • 編著『帝国の膨張と接触』東京大学出版会、2006年近刊。
  • 李 培徳:
    • 編『日本文化與香港』香港大学出版会、2006年3月。
  • 劉 宏:
    • 「ネットワークの原理」『東南アジア』京都大学東南アジア研究所、2006年3月、26-47頁。

(以上、紙幅の関係上、省略したものもあり、すべてではない)