プロジェクト研究名:
(英訳名)
「失われた10年」の克服−日本の社会システムの再構築−
( Overcoming "Lost 1990's Dcade" - Rebuilding Japan's Societal System - )
プロジェクト・リーダー名:
(所属機関・部局・職)
青島 矢一
一橋大学・イノベーション研究センター・准教授
プロジェクト研究の目的:
80年代に世界のお手本として君臨した日本の社会・経済システムが、90年代以降、様々な批判を浴びるようになった。「失われた10年」といわれる90年代以降の日本の状況に関しては多くの解明すべき点が残されている。そこには、日本の社会経済システムの構造的な問題が絡んでいると考えられる。最近経済面ではある程度の回復が見られるが、それも、構造問題の解決によるものか、短期的な需給バランスの改善によるものなのか、慎重に見極める必要がある。そのためにも、90年代以降に日本が直面した問題の根本的な原因を、社会経済システムのレベルできちんと解明する必要がある。それが本プロジェクトの目的となっている。
90年代に顕著に見られた日本の抱える諸問題は、これまでにも、経済学、経営学、教育学、政治学など人文社会科学の様々な分野で研究が行われてきた。しかしそれらは各学問領域の内部で完結する形で行われる傾向にあった。日本の抱える問題は、経済システム、経営技術、社会政策、政治・外交、教育システム、科学技術の進歩などの様々な要因が複合的に絡んで生じていると考えられる。それゆえ、縦割りの学問領域内で行われる個別の研究では問題の核心に迫ることができず、有効な解決策を見出すことはできない。ここに分野横断的なプロジェクト研究の必要性がある。
学術的には2つの意義がある。第1に、90年代以降の日本の低迷を、学問分野を超えて総力を上げて解明することによって、日本社会のシステムとしての本質的な性質があらためて浮き彫りになる。戦後の日本の経済成長を支えてきた経済社会システムに関してはこれまでの多くの研究がなされてきた。しかし、それらはみな「成功」を説明するための研究であった。今回は「失敗もしくは破綻」の研究である。「成功」の研究と「破綻」の研究の双方が組み合わさって初めて本質的な理解が生まれると考える。
第2に、分野横断的な研究を通じて、実際の学融合が起きるという意義がある。これまでのところ、例えば分野的に近い経済学と経営学でさえ協同して研究することはほとんど皆無である。協同が起きない理由の一つは、分野間で問題の共有が図られていないことにある。90年代以降の低迷は誰にも問題と認識できる一般的な研究対象であり、自然と分野間での問題共有が可能となる。それゆえ、本研究を様々な分野を巻き込む形で広げることによって、実際の学融合が起きることが高い確率で期待できる。
現在のところ本プロジェクトは3つの研究ループから構成されている。加登グループは、80年代に日本企業の競争力の源泉といわれてきた品質管理自体に大きな問題が生じつつあることに焦点をあてて、その原因究明と解決策を模索している。
品質管理問題にも関係するが、日本の社会・経済の抱える問題の根本には教育・人材育成の問題があると考えられる。他の2つのプロジェクトは、この教育・人材問題に異なる角度からアプローチしている。石川グループは、経営学の立場から、企業組織内の人材育成の問題を扱う。
一方、苅谷グループは、日本社会の問題の背後にある教育問題を、学校教育を中心として、より大きな視点から捉える。特に、「教育の失敗」というイメージ形成そのものを扱うことに特徴がある。教育の失敗という解釈のもとに様々な施策がうたれる一方で、「失敗」自体が、客観的な事実であるというより社会的につくられたイメージであることが多い。往々にして間違った処方箋を導く「教育の失敗」というイメージがなぜ、いかにして形成されるのか、を明らかにすることが本グループの目的となっている。この研究は、本プロジェクト全体にとっては2つの意味をもっている。1つは、企業内教育に焦点をあてる石川グループを補完する役割である。もう1つは、本プロジェクトの前提である「失われた10年」というイメージ自体をあらためて考え直すための、論理や枠組みを提示するという役割である。
|