平成16年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業
研究成果報告書概要


研究推進分野名   発生・分化・再生
研究プロジェクト名 遺伝子の系統的・網羅的解析による発生・再生原理の解明
(英文名) Elucidation of the Principles of Development and Regeneration by Systematic Analysis of Genes
研究期間 平成12年度 〜 平成16年度

プロジェクトリーダー 研究経費 総額  541,413千円
氏名・所属研究機関
所属部局・職名
上野 直人・自然科学研究機構
基礎生物学研究所・教授
内訳 平成12年度   118,713千円
平成13年度   106,700千円
平成14年度   104,000千円
平成15年度   112,000千円
平成16年度   100,000千円
  1. 研究組織(コアメンバー及び研究協力者)
  2. 氏名 所属機関・部局・職 研究プロジェクトでの役割分担
    餅井 真 兵庫県立大学・大学院生命理学研究科・助教授 アフリカツメガエル再生実験における系統的・網羅的解析の実施
    阿形 清和 理化学研究所・発生再生科学総合研究センター・グループディレクター 遺伝子の系統的解析によるプラナリア再生における幹細胞の性質解明
  3. 研究計画の概要(簡潔に記入)
  4.  受精卵は卵割を経てさまざまな性質をもつ細胞へと分化し生物固有の形態を獲得する。その間、遺伝子は活性化と不活性化を繰り返すが、その遺伝子動態の詳細についてはほとんど分かっていなかった。また、生物の組織や器官の再生現象については古くから知られているものの、生物はどのように失った組織を再生するのか、その仕組みについては分子レベルで理解されてかった。本研究プロジェクトでは、近年のゲノム科学の進歩に伴って得られる遺伝子情報を最大限に活用し、すべての遺伝子の変化を網羅的に解析し、遺伝子、タンパク質の動態を総体としてとらえることによって発生や再生現象がどのように遺伝子レベルで制御されているのかを明らかにすることを計画した。さらに、発生・分化・再生の仕組の解明を通して遺伝病の原因解明の基盤をつくるほか、多分化能をもつ幹細胞の単離によって臓器再生の人工的制御の実現に寄与することを目的とした。とくに線虫、アフリカツメガエル、プラナリアなど初期発生や再生研究に重用されてきたモデル動物の遺伝子情報基盤を充実させるとともに、マイクロアレイ法など洗練された遺伝子動態解析手法を導入することを計画した。
  5. 研究目的(研究プロジェクトが当初目指した開発、立証、解析、確立等の目的を箇条書きで簡潔に記入)
    1. 線虫C.elegans、アフリカツメガエル、プラナリアなど発生・再生研究に適したモデル動物の遺伝子情報基盤を完備し、DNAアレイ法など網羅的な遺伝子動態解析技術を確立し、発生・再生研究に応用する。
    2. 1.のために重複性を排除した良質のcDNAライブラリーを作製し、大量のEST解析を行い、クラスタリングによって、可能な限り遺伝子を網羅する。
    3. 遺伝子の過剰発現やRNA干渉法(RNAi)など系統的・網羅的機能解析によって、発生や再生現象に影響を及ぼす遺伝子の同定、生物学的意義の検証を試みる。
    4. これらの遺伝子構造、機能に関する包括的データベースを構築する。
  6. 研究成果の概要
  7. 4−1 研究計画、目的に対する成果(なお、研究目的が達成できなかったテーマについては、その理由及び今後の展開を記入)
     線虫C.elegansの豊富な遺伝子資源を利用し我々が世界に先駆けて作製した多細胞生物のDNAマクロアレイによって、さまざまな突然変異バックグラウンドにおける遺伝子動態が解析可能であることを実証した。その成果をもとにTGFβファミリーのCET1/DBL1がLON1遺伝子の発現抑制を介して体長を調節するという機構を明らかにした。その後、発生・再生研究において系統的・網羅的遺伝子解析が有効であることをさらに幅広いモデル動物で実証するためにアフリカツメガエルやプラナリアをモデルに研究を行った。本研究によるアフリカツメガエルEST解析はその数が24万を超え、現存するすべてのアフリカツメガエルESTの約30%に達した。それらcDNAのクラスタリング解析によって分類された4.6Kマイクロアレイを大量生産し、外部との共同研究によって数々の成果が得られている。マイクロアレイ(DNAチップ)については市販品の販売が開始されたが、まだ高価なこともあり、今後も海外の研究室とも協力し生産を続ける予定である。これら遺伝子の発生過程における時・空間的遺伝子発現に関する網羅的解析を行いすでに3,000遺伝子について解析を終えている。現在これらの情報を収めた包括的データベースの構築が最終段階に入っている。これら遺伝子の構造・機能の情報が整備されることにより発生・再生研究を圧倒的な速さで進めることができる。実際に我々はすでに中胚葉分化や原腸形成に関わる遺伝子を多数同定している。
     また、再生に関する研究でもアフリカツメガエルの尾の再生実験系で、再生に伴って発現量が急激に増加する遺伝子を同定した。現在、トランスジェニックガエルを作製し、再生を促進する活性があるか否かについて検討する予定である。プラナリアを用いた幹細胞の性質を決定する遺伝子探索によっても、複数の候補遺伝子に絞られており、プラナリア個体でそれら遺伝子の翻訳阻害を行い、そのうちのひとつの遺伝子は再生に必須であることが確認されている。
    4−2 研究計画、目的外の成果(経緯、状況、展望等を記入)
     アフリカツメガエルについてはcDNAライブラリーが予想以上に良質であったために、EST解析およびクラスタリング解析結果から、おそらく完全長を含むと思われる遺伝子を5,000個以上確認できた。その中から未知の機能を持つと予想される3000種について内部配列をすべて決定した。これらは当初の計画を上回る想定外の成果であり、「Xenopus3000プロジェクト」と名付け本研究から派生したプロジェクトとしてさらに発展させることとした。その塩基配列情報とともに、これら遺伝子を適切なベクターに導入することによって、未知の遺伝子機能の解析に用いることができる。したがって、本研究では過剰発現などによって、系統的・網羅的機能解析を行うとともに、リクエストに応じて研究者コミュニティーに供給している。実際に我々は網羅的過剰発現(発現クローニング)を実施し、原腸形成に必須の遺伝子を発見することができた。また、完全長cDNAの情報はXenopus tropicalisゲノム解読においても、遺伝子の位置決定等に役立てる予定である。また、プラナリア幹細胞の網羅的遺伝子解析に用いたHiCEP法は予想以上に感度が高く、遺伝子の網羅に適していることが判明した。
    4−3 研究成果の展望(学問的・学術的なインパクト、新分野の可能性等の今後の展望を具体的に記入)
     発生・再生研究に必須のモデル動物について、遺伝子構造、時空間的発現情報、機能などに関する情報が整備され、それを収納する包括的データベースが構築されたことで、ゲノム規模の遺伝子機能の解析が可能になり、発生・再生研究の推進を加速したものと確信している。アフリカツメガエルでは遺伝子産物の過剰発現やモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドによる機能獲得型、および機能欠損型の解析によって、プラナリアではRNAi法による翻訳阻害によって得られる発生や再生への影響を系統的に解析することができる。今後は、遺伝子の機能から、生物学的意義をどのように抽出するかが大きな課題となるであろう。そのために、多角的に発生・再生現象を観察し、可視化することの必要性が高まっている。単純に初期発生現象、再生現象における胚や個体の形態を外から観察するばかりでなく、細胞内局在、細胞内小器官の構造など、より詳細な細胞レベルでの解析を行い、それらのデータを 3Dや4Dで表示する技術の開発を進めるべきであろう。今後整備が完了した後は同遺伝子リソースを活用し、バイオイメージング技術を駆使した機能解析を推進すべきである。ひとつの現象を観察できるイメージング技術が確立すれば、系統的・網羅的解析によって、理論的にはその現象に関わる遺伝子をすべての遺伝子のなかから探索することができる。遺伝子リソースの整備も、このような生物学に根付いた観察技術の進歩と歩調を合わせる必要があると考える。
    4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割(未来開拓につながるどのような成果が得られたのか、具体的に記入)
     従来の発生・再生研究は個別の遺伝子に着目した小規模な研究の集積として進んでいた感があるが、近年のゲノム生物学は、大規模で網羅的なアプローチを可能にしつつある。その流れを受けて開始したのが本研究プロジェクトである。遺伝学が可能な線虫C.elegansはすでにゲノム解読が専攻しており、我々もその恩恵を受けてDNAアレイ法を用いて、円滑に系統的・網羅的解析を実施することができ、成果を上げることができた。しかしながら、アフリカツメガエルやプラナリアは、胚操作が可能であること、その著しい再生現象などによって発生・再生研究におけるその有効性が認められながらも、遺伝学の不在、それによるゲノムプロジェクトなど組織的な遺伝子収集やその情報基盤の整備が行われておらず、ゲノム規模のアプローチにおいてはマウス、線虫などに遅れをとっていた。本研究が意図したことは、遺伝子の系統的・網羅的解析において、それらモデル生物をマウス、線虫のレベル、あるいはそれ以上に引き上げることであり、実際に本研究によってその目標が達成した。それによって遺伝子構造や、時空間的遺伝子発現プロフィールや機能に関する情報が集積した現在、少なくともアフリカツメガエル、プラナリアを用いた発生・再生研究は、当初の目的であった「遺伝子はすでにあるものとして研究を進める」という状況を作り出した。余談になるが、米国のアフリカツメガエルを研究に用いる著名な分子生物学者に遺伝子をクローニングするためのcDNAライブラリーの分与を依頼した研究者に対し、彼は「遺伝子はもはやクローニングするものではなくて、in silicoで基礎生物学研究所の上野研究室のデータベース(XDB)から探して、リクエストをするものです」と返したという話を聞いた。まさに、我々が目標としたことが達成されたのではないかと思っている。アフリカツメガエル、プラナリアは現在、新たな研究ステージに移行しつつある。それは、いままでに本研究や他国の成果として得られた情報を活用していかに生物学を発展させるかであり、今まで以上に国際貢献・協力が求められている。このような研究の機会をあたえて頂いたことで、個別研究推進の重要性に対し、基盤整備にあたる研究の重要性も喚起できたものと考えている。
  8. キーワード
  9. 1.初期発生   2.再生   3. 形態形成
    4.ゲノム解読 5.機能ゲノム学 6. アフリカツメガエル
    7.プラナリア 8.マイクロアレイ 9. 幹細胞
  10. 研究成果発表状況
  11. A.学術雑誌論文(Journal Papers)[査読つきの論文に限ること。]

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Iioka, H., Ueno, N. and Kinoshita, N. Essential role of MARCKS in cortical actin dynamics during gastrulation movements.
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Cell Biol 164   169-174 2004

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Chung, H. A., Hyodo-Miura, J., Kitayama, A., Terasaka, C., Nagamune, T. and Ueno, N. Screening of FGF target genes in Xenopus by microarray: temporal dissection of the signalling pathway using a chemical inhibitor.
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Genes Cells 9   749-761 2004

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno N. and Greene ND. Planar cell polarity genes and neural tube closure (Invited)
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Birth Defects Res C Embryo Today 69 4 318-324 2003

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Takeuchi, M., Nakabayashi, J., Sakaguchi, T., Yamamoto, T. S., Takahashi, H., Takeda, H. and Ueno, N. The prickle-related gene in vertebrates is essential for gastrulation cell movements
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Curr Biol 13   674-679 2003

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ohkawara, B., Yamamoto, T. S., Tada, M. and Ueno, N Role of glypican 4 in the regulation of convergent extension movements during gastrulation in Xenopus laevis
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Development 130   2129-2138 2003

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Kinoshita, N., Iioka, H., Miyakoshi, A. and Ueno, N PKC delta is essential for Dishevelled function in a noncanonical Wnt pathway that regulates Xenopus convergent extension movements
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Genes Dev 17   1663-1676 2003

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ohkawara, B., Iemura, S., ten Dijke, P. and Ueno, N. Action range of BMP is defined by its N-terminal basic amino acid core
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Curr Biol 12   205-209 2002

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Morita, K., Flemming, A. J., Sugihara, Y., Mochii, M., Suzuki, Y., Yoshida, S., Wood, W. B., Kohara, Y., Leroi, A. M. and Ueno, N A Caenorhabditis elegans TGF-beta, DBL-1, controls the expression of LON-1, a PR-related protein, that regulates polyploidization and body length
    学術雑誌名 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Embo J 21   1063-1073 2002

    B.国際会議発表論文(International Conferences)[査読つきの論文に限ること。]

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N Molecular Dissection of Cell Movements During Vertebrate Gastrulation
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    13th International Conference, International Society of Differentiation Honolulu, Hawaii     2004

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N. Molecular Dissection of Cell Movements During Vertebrate Gastrulation
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    The CDB symposium 2004 " Developmental Remodeling" Kobe, Japan     2004

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N. Japan’s Xenopus projects
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    Xenopus Genetics and Genomics Workshop 2003 Bethesda, Maryland, USA     2003

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N. Regulation of Pattern formation by the interaction between growth factors and proteoglycans
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    International Conference on Morphogenesis and Pattern Formation in Biological Systems Aichi, Japan     2002

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N Role of glypican in gastrulation
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    9th International Xenopus Conference Cambridge,UK.     2002

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N. Xmsx-1 in ventralization and head repression
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    HFSP Workshop X "Axis formation in the vertebrate embryo" Strasbourg, France     2000

    全著者名 論文名(招待論文にはInvitedを明記)
    Ueno, N. Restriction of BMP diffusion in Xenopus ectoderm
    会議名 開催場所 論文番号 初めの頁-終わりの頁 発表年(西暦)
    International Congress on Differentiation and Cell Biology Queensland, Australia     2000

    C.著書(Books)

    全著者名 書名(分担による執筆の場合は編者を記入すること)
    上野直人、野地澄晴 「発生生物学がわかる」わかる実験医学シリ-ズ
    出版者名 出版場所 ISBN番号 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    羊土社 東京     2004

    全著者名 書名(分担による執筆の場合は編者を記入すること)
    上野直人 「形態形成におけるTGF-βファミリ-の役割と進化」(関村利朗ら編集「生物の多様性と進化」)
    出版者名 出版場所 ISBN番号 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    裳華房 東京   116-133 2003

    全著者名 書名(分担による執筆の場合は編者を記入すること)
    Ohkawara, B. and Ueno, N. "Regulation of pattern formation by the intereaction brtween growth factors and proteoglycans." In "Morphogenesis and Pattern Formation in BiologicalSystems
    出版者名 出版場所 ISBN番号 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Springer Tokyo   69-82 2003

    全著者名 書名(分担による執筆の場合は編者を記入すること)
    上野直人、野地澄晴 「DNAから解き明かされる形づくりと進化の不思議」
    出版者名 出版場所 ISBN番号 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    羊土社 東京   全巻監訳 2003

    全著者名 書名(分担による執筆の場合は編者を記入すること)
    上野直人、黒岩厚 「生物のボディ-プラン」シリ-ズバイオサイエンスの新世紀10
    出版者名 出版場所 ISBN番号 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    日本生化学会/共立出版 東京   全巻編集 2002

    全著者名 書名(分担による執筆の場合は編者を記入すること)
    Iemura, S. -I., Yamamoto, T., Takagi , C. and Ueno, N. The analysis of protein-protein interactions in early develoment: direct binding of follistatin, an organizer factor, to BMPs. in "Real time Analysis of Biomoelcular Interactions. Applications of BIACORE"
    出版者名 出版場所 ISBN番号 初めの頁-終わりの頁 発行年(西暦)
    Springer Tokyo   105-114 2000


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