平成15年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究成果報告書概要



研究推進分野名   血管新生と分化制御
 
研究プロジェクト名   ケモカインの血管形成における作用機構の研究
 
(英文名)   The Functions of Chemokines in Blood Vessel Formation
 
研究期間   平成11年度 〜 平成15年度

プロジェクト・リーダー名 研究経費 総額  192,951千円
氏名・所属研究機関
所属部局・職名
長澤 丘司・京都大学
再生医科学研究所・教授
内訳 平成11年度
49,875千円
平成12年度 32,930千円
平成13年度 36,146千円
平成14年度 37,000千円
平成15年度 37,000千円

1.研究組織

氏名 所属機関・部局・職 研究プロジェクトでの役割分担
橘 和延 大阪府立母子保健総合医療センター研究所・免疫部門・研究員 SDF-1/PBSF欠損マウス及びCXCR4欠損マウスの血管形成異常のメカニズムの解析、及びCXCL12の生理的標的細胞に関する解析
(平成13年3月31日まで)
川端 健二

大阪府立母子保健総合医療センター研究所・免疫部門・流動研究員、 日本学術振興会研究員 SDF-1/PBSF欠損マウス及びCXCR4欠損マウスの血管形成異常のメカニズムの解析、及びCXCL12の生理的標的細胞に関する解析(平成14年3月31日まで)
氏川 郁穂


大阪府立母子保健総合医療センター研究所・免疫部門・流動研究員 SDF-1/PBSF欠損マウス及びCXCR4欠損マウスの血管形成異常のメカニズムの解析(平成12年3月31日まで)
荒 敏昭

京都大学・再生医科学研究所・リサーチアソシエイト、日本学術振興会研究員 SDF-1/PBSF欠損マウス及びCXCR4欠損マウスの血管形成異常のメカニズムの解析、及び造血幹細胞ニッチに関する研究
(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで、
平成14年4月1日から)
榮川 健

大阪府立母子保健総合医療センター研究所・免疫部門・流動研究員 CXCL12の生理的標的細胞に関する解析
(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)
天田 啓

大阪府立母子保健総合医療センター研究室・免疫部門・流動研究員 CXCL12の生理的標的細胞に関する解析
(平成13年4月1日から平成13年9月30日まで)
長久保 大輔

京都大学・再生医科学研究所・ リサーチアソシエイト、日本学術振興会研究員 細胞種特異的CXCR4欠損マウスの作成と解析。SDF-1/PBSF、CXCR4と相互作用する血管形成関連分子の検討
(平成14年6月1日から平成15年3月31日まで)
常世田 好司

京都大学・再生医科学研究所・助手、日本学術振興会研究員 SDF-1/PBSFの発生における共通の作用機構の解析
(平成14年4月1日から)

2.研究計画の概要

  1. 血管は、全身にくまなく分布し、共通の管腔構造を有するため、その形成機構は、部位を意識されず研究されてきた。しかしながら、私たちは、ケモカインCXCL12 (SDF-1/PBSF) およびその受容体CXCR4が、胃腸管を栄養する血管の形成に必須であることを見出し、臓器特異的な血管形成機構の存在を示したが、その詳細は明らかでなかった。そこで、本研究では、胃腸管を栄養する血管の形成機構をケモカインCXCL12の作用機構を基盤に検討する。正常マウスの発生中期の、腸間膜内で形成される腸管を栄養する血管の可視化を実現させ、腸管を栄養する血管の形成機構を解明し、その上で、CXCL12欠損マウスおよびCXCR4欠損マウスの血管形成異常を解析し、CXCL12の役割、臓器特異性の本態を明らかにする。
  2. CXCL12の作用機構を明らかにするために、CXCL12は、発生において共通の作用機構を有するとの考えのもと、実験系として利点を有する血球系で作用機構を解析し、これから得られた知見を血管系に還元する。

3.研究目的

CXCL12および、その7回膜貫通G蛋白質結合型受容体CXCR4が血管形成に必須であることから、臓器特異的な血管形成機構の存在を示した発見を発展させ、その作用機構を明らかにすることを目的とする。

4.研究成果の概要

4−1研究計画、目的に対する成果
  1. 腸を栄養する血管の形成機構と、これにおけるCXCL12の役割
    正常マウスでは、胎生11.5日に、隣接する上腸間膜動脈と腸管表面の原始血管叢の間に短い結合血管が多数認められ、翌胎生12.5日目には、腸間膜の成長に伴い、この結合血管が伸長していた。更に上腸間膜動脈の血管壁の内皮細胞に多数の細胞突起が認められ、原始血管叢と結合していた。CXCL12 (SDF-1/PBSF) 欠損マウスにおいては、隣接する上腸間膜動脈と腸管表面の原始血管叢の間の結合血管が認められず、上腸間膜動脈の血管壁の内皮細胞からの細胞突起も認められなかった他、上腸管膜動脈上のCXCR4の発現が胎生12日目に消失していた。また、Tie-2 プロモーターを用いたCre-lox Pシステムによる血管内皮細胞特異的CXCR4欠損マウスにおいても、全く同様の表現型が認められた。以上より、腸を栄養する血管の形成においては、隣接する大型の動脈と原始血管叢が直接結合した後、結合血管が伸長するという、臓器特異的な血管形成機構が存在し、CXCL12は、上腸間膜動脈の血管壁の内皮細胞に作用し、CXCR4の発現を維持し、細胞突起の形成を誘導し、隣接する大型の動脈と原始血管叢を結合させることにより、この臓器特異的な血管形成を支持していることが示唆された。これらの研究により、臓器特異的な血管形成機構の一端が、細胞レベル、分子レベルで明らかになった。
  2. 2. Bリンパ球の生成におけるCXCL12の役割、作用機構
    これまでCXCL12が、Bリンパ球の発生のどの分化段階で作用しているのかは明らかでなかった。そこで、前駆細胞が発生系列にそって経時的に出現する胎児肝に注目し、胎児肝における最も早期のB前駆細胞分画を同定した。この分画はCXCL12欠損マウスでは著減していた。また、CXCR4欠損造血幹細胞により造血を再構築された放射線キメラマウスにおいて、成体骨髄での最も早期のB前駆細胞分画の候補は、いずれも著減していた。CXCL12は、胎児肝の最も早期のB前駆細胞の走化性誘導と生存促進活性を呈した。以上より、胎児および成体のBリンパ球造血における分離可能なCXCL12の生理的標的細胞と細胞生物学的機能の一部が明らかとなった。また、CXCL12産生細胞を可視化することにより、骨髄での発生過程における前駆細胞の細胞性ニッチ(発生に適した骨髄内の特定の微小環境)間の移動が初めて明らかとなった。
  3. 造血幹細胞におけるCXCL12の役割、作用機構
    胎生期、造血の場は大動脈周囲から肝を経て骨髄に至るダイナミックな移動を行う。CXCL12欠損マウス胎児の造血幹細胞数を、競合的造血再構成法を用いて定量した結果、正常マウスと比較して、胎児肝で著差なかったが、骨髄で著明に減少しており、逆に、末梢血においては著増していた。これより、CXCL12は、胎生期の末梢血から骨髄への造血幹細胞のホーミングに必須であることが明らかとなった。次に、CXCL12欠損マウスの血管内皮細胞のみにCXCL12を発現させたところ、造血幹細胞の骨髄への定着が完全に回復し、CXCL12発現細胞は、血管に隣接して分布していた。以上の結果より、血管内皮周囲のCXCL12が、造血幹細胞のホーミングを支持することが明らかとなった。
4−2研究計画、目的外の成果
始原生殖細胞におけるCXCL12の作用
造血幹細胞のホーミングにおけるCXCL12の必須の役割が明らかになったので、発生過程で組織幹細胞がダイナミックに移動することが知られている生殖細胞の組織幹細胞である始原生殖細胞の発生過程における移動をCXCL12欠損マウスと正常マウスとの間で比較した。CXCL12欠損マウスの始原生殖細胞は、尿膜基部での出現、腸間膜での移動において著差は認められなかったが、生殖腺へのホーミングが三分の一以下に減少していた。以上より、CXCL12は、造血のみならず、発生過程における細胞の臓器へのホーミングの制御に必須のサイトカインであることが明らかとなった。

4−3 研究成果の展望
管は、全身にくまなく分布し、共通の管腔構造を有するため、その形成機構も、部位を意識されず研究されてきた。それに対して、本研究では、ケモカインCXCL12(SDF-1/PBSF) およびその受容体CXCR4が、胃腸管を栄養する血管の形成に必須であることを明らかにした発見を基盤に、胃腸管を栄養する血管の形成に特有の機構を見出し、臓器特異的な血管形成機構およびその制御機構の一端を、細胞レベル、分子レベルで明らかにした。この研究により、生体の他の多くの臓器における臓器特異的な血管形成機構研究の端緒となると考えられる。また、ここで見出した腸管特異的な血管形成機構が他の臓器でも用いられている可能性があり、今後の研究が期待される。また、この、ケモカインCXCL12依存的な腸管特異的な血管形成機構が、ある種の癌など病理的血管形成で用いられている可能性があり、今後の研究が期待される。  
一方、CXCL12の発生における共通の機能を解析する過程で、CXCL12は、造血にとどまらない発生過程における細胞の臓器へのホーミングを支持することが明らかとなった。また、骨髄での発生過程における前駆細胞の細胞性ニッチ間の移動が初めて明らかとなった。このような細胞外情報伝達分子はこれまで報告されておらず、多臓器動物の発生における細胞動態制御の研究においてきわめて重要な知見となった。この作用機構と血管形成における細胞生物学的機能との関係が今後の重要な問題である。また、本研究で明らかとなった分離可能なCXCL12の生理的標的細胞は、今後、CXCL12の作用の分子機構の解明に非常に有用であると考えられる。

4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割
XCL12および、その7回膜貫通G蛋白質結合型受容体CXCR4が血管形成に必須であることから臓器特異的な血管形成機構の存在を示した発見を発展させ、臓器(腸管)特異的な血管形成機構およびその制御機構の一端を、細胞レベル、分子レベルで明らかにした。これによって、ほとんど明らかでない臓器特異的な血管形成研究の端緒となる成果が得られた。今後、病理的血管形成の理解においても臓器特異的な血管形成の研究は、ますます重要になると考えられる。
更に、本研究では、発生過程における臓器内、臓器間の幹細胞、前駆細胞の動態に、CXCL12が必須であることを明らかにすることにより、細胞増殖、分化の研究と比較し研究が進んでいない発生過程における細胞動態の制御機構の研究にきわめて重要な知見を加えた。幹細胞、前駆細胞の動態制御は、再生医学の臨床応用においても重要である。

5.キーワード

1.  発生・分化 2.  免疫学 3.  ケモカイン
4.  血管形成 5.  造血  

6.研究成果発表状況

A.学術雑誌論文(Journal Papers)
全著者名 論文名
Ara T, Tokoyoda K, Okamoto R, Koni PA, and Nagasawa T The role of CXCL12 in the organ-specific process of artery formation (in press)
学術雑誌名 ページ 発行年
Blood
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全著者名 論文名
Tokoyoda K, Egawa T, Sugiyama T, Choi BI, and Nagasawa T Cellular niches controlling B lymphocyte behavior within bone marrow during development
学術雑誌名 ページ 発行年
Immunity
20 6 707-718 2004

全著者名 論文名
Ara T, Tokoyoda K, Sugiyama T, Egawa T, Kawabata K, and Nagasawa T Long-term hematopoietic stem cells require stromal cell-derived factor-1 for colonizing bone marrow during ontogeny
学術雑誌名 ページ 発行年
Immunity
19 2 257-267 2003

全著者名 論文名
Stumm RK, Zhou C, Ara T, Lazarini F, Dudois-Dalcq M, Nagasawa T, Hollt V, and Schulz S CXCR4 regulates interneuron migration in the developing neocortex.
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Neurosci.
23 12 5123-5130 2003

全著者名 論文名
Ara T, Itoi M, Kawabata K, Egawa T, Tokoyoda K, Sugiyama T, Fujii N, Amagai T, and Nagasawa T A role of CXC chemokine ligand 12/stromal cell-derived factor-1/pre-B cell growth stimulating factor and its receptor CXCR4 in fetal and adult T cell development in vivo
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Immunol
170 9 4649-4655 2003

全著者名 論文名
Ara t, Nakamura Y, Egawa T, Sugiyama T, Abe K, Kishimoto T, Matsui Y, and Nagasawa T Impaired colonization of the gonads by primordial germ cells in mice lacking a chemokine, stromal cell-derived factor-1 (SDF-1)
学術雑誌名 ページ 発行年
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
100 9 5319-5323 2003

全著者名 論文名
Gao P, Zhou XY, Yashiro-Ohtani Y, Yang YF, Sugimoto N, Ono S, Nakanishi T, Obika S, Imanishi T, Egawa T, Nagasawa T, Fujiwara H, and Hamaoka T The unique target specificity of a nonpeptide chemokine receptor antagonist : selective blockade of two Th1 chemokine receptors CCR5 and CXCR3
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Leukoc. Biol
73 2 273-280 2003

全著者名 論文名

Zhu Y, Yu T, Zhang XC, Nagasawa T, Wu JY, and Rao Y

Role of the chemokine SDF-1 as the meningeal attractant for embryonic cerebellar neurons
学術雑誌名 ページ 発行年
Nat. Neurosci
5 8 719-720 2002

全著者名 論文名
Honke K, Hirahara Y, Dupree J, Suzuki K, Popko B, Fukushima K, Fukushima J, Nagasawa T, Yoshida N, Wada Y, and Tanigushi N Paranodal junction formation and spermatogenesis require sulfoglycolipids.
学術雑誌名 ページ 発行年
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
99 7 4227-4232 2002

全著者名 論文名
Nagasawa T Role of chemokine SDF-1/PBSF and its receptor CXCR4 in blood vessel development
学術雑誌名 ページ 発行年
Ann. N. Y. Acad. Sci

947

??? 112-116(discussion:115-116) 2001

全著者名 論文名

Egawa T, Kawabata K, Kawamoto H, Amada K, Okamoto R, Fujii N, Kishimoto T, Katsura Y, and Nagasawa T

The earliest stages of B cell development require a chemokine stromal cell-derived factor/pre-B cell growth-stimulating factor
学術雑誌名 ページ 発行年
Immunity
15 2 323-334 2001

全著者名 論文名
Nagasawa T A chemokine, SDF-1/PBSF, and its receptor, CXC chemokine receptor 4, as mediators of hematopoiesis
学術雑誌名 ページ 発行年
Int. J. Hematol
72 4 408-411 2000

全著者名 論文名
Kawabata K, Ujikawa M, Egawa T, Kawamoto H, Tachibana K, Iizasa H, Ktsura Y, Kishimoto T, and Nagasawa T A cell-autonomous requirement for CXCR4 in long-term lymphoid and myeloid reconstitution
学術雑誌名 ページ 発行年
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
96 10 5663-5667 1999

全著者名 論文名
Nagasawa T, Tachibana K, and Kawabata K A CXC chemokine SDF-1/PBSF: a ligand for a HIV coreceptor, CXCR4
学術雑誌名 ページ 発行年
Adv. Immunol
71 ??? 211-228 1999

D.特許等取得状況
特許等名称 発明者名 権利者名
動脈内皮細胞の判別方法 長澤丘司,山下潤,小林貴美,荒敏昭 国立大学法人京都大学
種類 出願番号 ISBN番号 出願年月日 設定登録年月日
発明 平成16年 特許願第379799号 平成16年12月28日 出願中



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