平成15年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究成果報告書概要



研究推進分野名   血管新生と分化制御
 
研究プロジェクト名   血管新生及び再生を利用した新規治療戦略の開発
 
(英文名)   Development of New Therapeutics Using Angiogenesis and Regeneration of Endothelial Cells
 
研究期間   平成11年度〜平成15年度

プロジェクト・リーダー名 研究経費 総額  223,533千円
氏名・所属研究機関
所属部局・職名
森下 竜一・大阪大学
大学院医学系研究科・客員教授
内訳 平成11年度 50,043千円
平成12年度 41,727千円
平成13年度 43,763千円
平成14年度 44,000千円
平成15年度 44,000千円

1.研究組織

氏名 所属機関・部局・職 研究プロジェクトでの役割分担
里  直行 大阪大学・大学院医学系研究科・助手 分子機構の解明
(平成15年4月1日から)
谷山 義明 大阪大学・大学院医学系研究科・助手 臨床研究
青木 元邦 大阪大学・大学院医学系研究科・助手 臨床研究
冨田奈留也 大阪大学・医学部附属病院・助手 分子機構の解明
小池 弘美 大阪大学・大学院医学系研究科・研究員 新規血管新生療法の開発
(平成12年4月1日から平成15年3月31日まで)
鯉渕 信孝 大阪大学・大学院医学系研究科・リサーチレジデント 内皮細胞の分化・再生の検討
(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)

2.研究計画の概要

1) 血管新生因子HGFの遺伝子導入を用いた、末梢性血管疾患(閉塞性動脈硬化症・バージャー病)に対する遺伝子治療臨床研究を実施し、プラスミドDNAの安全性・有効性・至適用量の検討を実施する。また、HGFの作用として、血管新生作用のみならず、内皮細胞死に対する保護効果のメカニズムについて基礎的検討を加える。さらにHGF遺伝子の応用範囲を心疾患まで拡大し、虚血性心疾患・心筋症に対するその効果の検討を動物実験を中心に行う。さらに心筋への遺伝子導入システム(デリバリーカテーテル)の開発を行う。
 
2) 血管(下肢血管・冠動脈)形成術後再狭窄に対する遺伝子制御による新規治療法を開発する。 細胞増殖・内皮細胞保護効果に注目し、 転写因子E2F・NFkBに焦点をあて、pre-clinical studyで検討した後、臨床研究を行い、その有用性を検討する。 内皮細胞の分化・再生に関わる因子の同定を行う。特にHGF、テロメアなどに注目し、ゼノパスやコンディショナル マウスを作成し検討を行う。

3.研究目的

1) 難治性血管疾患に対する新規治療法の開発をTranslational Researchを実践することにより 確立する。血管新生因子HGFに注目し、そのnaked plasmidDNAの遺伝子導入を行うことに よる生体内血管新生が疾患に及ぼす治療効果・安全性について、末梢性血管疾患に対して実施し 検討する。さらに虚血性心疾患に対する治療法としてもpre-clinical studyを実施し、臨床研究の 実施までを目的とする。
2) 循環器疾患最大の課題のひとつである再狭窄予防に遺伝子制御療法による新規薬剤の開発を目的とする。再狭窄のメカニズムに大きく関与している転写因子E2F, NFkBを二重鎖核酸医薬のカテーテルによる血管壁への導入を用いて制御し、薬剤としての再狭窄予防効果を臨床研究を実施し検討する。
内皮細胞の分化・再生のメカニズムを詳細に検討し、さらに新しい遺伝子治療法の開発を目指す。

4.研究成果の概要

4−1 研究計画、目的に対する成果
1) HGF遺伝子プラスミドを用いた末梢性血管疾患に対する遺伝子治療臨床研究(Japan Trial to Treat Peripheral Arterial Disease by Therapeutic Angiogenesis Using Hepatocyte Growth Factor Gene Transfer : TREAT-HGF)を厚生労働省・文部科学省の承認を得て、平成13年5月から実施した。平成14年末に予定症例数22症例に対する遺伝子投与を終了した。遺伝子投与に起因する重篤な有害事象は現在までに確認されず、安全性は臨床上許容範囲と考えられた。また種々のパラメータにおいて6割強の改善が見られ、有効性も期待できると考えられた。さらに虚血性心疾患に対する効果をブタ心筋梗塞モデルにおいてNOGA injection catheter systemにより検討し、HGFの遺伝子導入による血流量増加・虚血部位の減少が確認された。現在臨床研究を行うため、大阪大学倫理委員会に申請準備中である。米国においては既にFDAに申請している。
2) E2Fデコイ(二重鎖核酸医薬)・NFkBデコイによる再狭窄予防効果についてブタ冠動脈バルーン障害モデルにおいて確認した。さらにデリバリーシステムとしてハイドロゲルバルーンカテーテル及びチャンネルバルーンカテーテルの有用性を同モデルで確認した。これらのデータをもとにデコイを用いた再狭窄予防に関する臨床研究を実施している。現在のところE2Fデコイ投与の安全性に大きな問題はなかったが有効性については今後症例数を増やす必要がある。NFkBデコイに関しては3施設による臨床研究であり、現在実施中である。現在のところ重篤な有害事象は確認されていない。
3) 内皮細胞の分化・再生の研究に関し、ゼノパスを用いた検討で、血球及び血管の発生の初期に重要な働きをしていると考えられている転写因子であるSCLの発現をHGFが支配していることが明らかになった。Tie-1 プロモーターにHGF受容体c-met・bax・テロメアを連結したコンディショナルマウスの作成は完遂できず、現在作成中であり今後の課題とし、同マウスを用いた内皮細胞の分化・再生について今後詳細に検討する。


4−2 研究計画、目的外の成果
1) 新規血管新生療法としてプロスタグランディン合成酵素(PGIS)遺伝子に注目し、ラットを用いた実験によりPGISとHGFの共遺伝子導入がHGFの血流増加作用を増加させる結果を得た。また転写因子etsにも注目し、ets遺伝子導入による血管新生作用を見出した。これらは虚血性疾患に対する次世代遺伝子治療法として有用である可能性がある。今後大型動物におけるpre-clinica studyを実施し臨床用を目指す。
2) さらにNFkBデコイに関してはマトリックス分解酵素(MMP)の遺伝子発現を制御していることが知られており、同デコイの血管壁への導入がラット及びウサギ大動脈瘤モデルにおいて瘤の進展を抑制しうることが示された。またグラフト血管の移植後再狭窄もウサギモデルにおいて確認しており、デコイの臨床応用範囲の拡大が示唆される。


4−3 研究成果の展望
 治療的血管新生の概念は既に約20年前より提唱されていたが、血管新生因子の遺伝子導入というアプローチでその臨床応用が可能になりつつある。海外においては既にVEGF, FGFを中心とした虚血性疾患に対する遺伝子治療の臨床研究が行われており、既に臨床治験に到達しているものもある。今回の我々の研究成果は、この分野で遅れていた感を否めない日本において、世界で初めてHGFの有用性を示唆した点にある。基礎実験においてHGFのVEGF, FGFに比較した非劣性あるいは一部優位性は我々を始め、いくつかのグループが報告しており、難治性血管疾患の新たな治療法として注目されるべきものであり、世界的にも本分野の発展に大きく寄与している。今後、一般的な治療法あるいは遺伝子医薬品として確立するためには有効性の評価が必須であり、末梢性血管疾患に関しては二重盲検法を用いた大規模臨床治験を実施する必要があり、平成16年から実施予定である。約120症例を対象に行い世界初の遺伝子医薬品の開発を目指す。
 また、転写因子制御療法は遺伝子発現をブルックする手段として画期的であり、早くから臨床応用の注目されていたアプローチである。海外ではE2Fデコイを用いた移植血管の再狭窄予防の臨床研究が既に実施されており、良好な結果を得ている。今回の我々の研究では同デコイあるいは新規にNFkBデコイを血管形成術後再狭窄に応用し、臨床研究として展開しており、その新規性は極めて高く、新たな治療法開発につながるものである。NFkBデコイに関しては、さらに症例数を増やし、世界初の核酸医薬品として開発する予定である。


4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割
 現在、動脈硬化性血管疾患は日本人の死因の多くを占める国民病と考えられる。多くの薬剤・治療法が存在するが、しかしなお、十分な治療効果を得ることのできない重症虚血肢・虚血心を有する患者は決して少なくない。また食生活の欧米化・社会の高齢化に伴い、近い将来これらの患者数はさらに増加することが予想されており、極めて重要な研究分野である。遺伝子導入というアプローチはその病態解明に大きな成果をもたらすだけでなく、直接治療法につながるものであり、医療界に大きく寄与できると考える。さらに従来治療法のなかったこれら重症虚血性疾患に対する血管新生療法が実用化すれば、その患者数が極めて多いことから社会的貢献度も大きいと考えられる。また、本研究は医療費高騰や新薬開発の遅延など社会的諸問題の解決に密接に関連しており、社会的要請の高い分野であるともいえる。実際、HGF遺伝子治療により、多くの患者の下肢切断を予防でき、入院期間の短縮も可能になる可能性がある。再狭窄のため、繰り返し行われる血管形成術の核酸医薬による予防は、医療費削減に直接結びつく。このように社会経済的にも重要な効果が期待される研究であると考える。既に本研究により、遺伝子医薬品開発の直前のステップまで到達しており、今後の発展が期待される。内皮細胞の分化・再生にかかわる詳細なメカニズムを検討し、さらに効果的な新規治療遺伝子候補を見出すことが今後の重要な課題である。

5.キーワード

(1)HGF (2)デコイ (3)閉塞性動脈硬化症
(4)虚血性心疾患 (5)カテーテル (6)再狭窄
(7)血管新生 (8)遺伝子医薬品 (9)NFkB

6.研究成果発表状況

A.学術雑誌論文(Journal Papers)
全著者名 論文名
Taniyama Y, Morishita R, Nakagami H, Moriguchi A, Sakonjo H, Shokei-Kim, Matsumoto K, Nakamura T, Higaki J and Ogihara T. Potential contribution of a novel antifibrotic factor, hepatocyte growth factor, to prevention of myocardial fibrosis by angiotensin II blockade in cardiomyopathic hamsters.
学術雑誌名 ページ 発行年
Circulation 10 22 246-52 2000

全著者名 論文名
Taniyama Y, Morishita R, Hiraoka K, Aoki M, Nakagami H, Yamasaki K, Matsumoto K, Nakamura T, Kaneda Y and Ogihara T. Therapeutic angiogenesis induced by human hepatocyte growth factor gene in rat diabetic hind limb ischemia model: molecular mechanisms of delayed angiogenesis in diabetes.
学術雑誌名 ページ 発行年
Circulation Nov 6 104(19) 2344-2350 2001

全著者名 論文名
Hiromi Koike, Ryuichi Morishita, Sohta Iguchi, Motokuni Aoki, Kunio Matsumoto, Toshikazu Nakamura, Chieko Yokoyama, Tadashi Tanabe, Toshio Ogihara, and Yasufumi Kaneda. Enhanced angiogenesis and improvement of neuropathy by cotransfection of human hepatocyte growth factor and prostacyclin synthase gene.
学術雑誌名 ページ 発行年
The FASEB Journal 17 ??? 779-781 2003

全著者名 論文名
Naruya Tomita, Ryuichi Morishita, Yoshiaki Taniyama, Hiromi Koike, Motokuni Aoki, Hideo Shimizu, Kunio Matsumoto, Toshikazu Nakamura, Yasufumi Kaneda and Toshio Ogihara. Angiogenic Property of Hepatocyte Growth Factor Is Dependent on Upregulation of Essential Transcription Factor for Angiogenesis, ets-1.
学術雑誌名 ページ 発行年
Circulation 107 ??? 1411-1417 2003

C.著書(Books)
全著者名 書名
Ryuichi Morishita Pharmacology and Therapeutics
出版者名 出版場所 ISBN番号 ページ 発行年
??? ??? ??? 105-114 2001

全著者名 書名
R. Morishita, M. Aoki, N. Hashiya, K. Yamasaki, H. Makino, K. Wakayama, J. Azuma and T. Ogihara Gene Therapy and Regulation
出版者名 出版場所 ISBN番号 ページ 発行年
??? ??? ??? 343-359 2002


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