平成14年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究成果報告書概要



研究推進分野名   革新的未来型エネルギー生成・変換の方式、材料、システム化
 
研究プロジェクト名   極限放射線環境下での材料挙動のモデリングと新材料開発のための基盤的研究
 
(英文名)   Basic Research on the Development of New Materials Used under Strong Radiation Fields
 
研究期間   平成10年度〜平成14年度

プロジェクト・リーダー名 研究経費 総額  406,355千円
氏名・所属研究機関
所属部局・職名
勝村庸介
東京大学・大学院工学系研究科・教授
内訳 平成10年度 88,100千円
平成11年度 90,255千円
平成12年度 90,000千円
平成13年度 79,000千円
平成14年度 59,000千円

1.研究組織

氏名 所属機関・部局・職 研究プロジェクトでの役割分担
班目 春樹 東京大学・大学院工学系研究科・教授 高温高圧下流体の電熱劣化現象模擬実験と数値シュミュレーション
関村 直人 東京大学・大学院工学系研究科・教授 量子化学モデルを用いた耐腐食性合金材料開発
高橋 浩之 東京大学・人工物工学研究センター・助教授 極限環境下計測材料の劣化機構の解明と耐劣化特性評価
岡本 孝司 東京大学・大学院工学系研究科・助教授 高温高圧下流体の電熱劣化現象模擬実験と数値シュミュレーション
越塚 誠一 東京大学・大学院工学系研究科・助教授 高温高圧下流体の電熱劣化現象模擬実験と数値シュミュレーション
中沢 正治 東京大学・大学院工学系研究科・教授 極限環境下計測材料の劣化機構の解明と耐劣化特性評価

2.研究計画の概要

1) 高分解能走査電顕内イオン照射環境下引張及び疲労試験装置と高温腐食環境下AFM観測実験を用いた実験の実施。
2) 開発した超伝導X線マイクロカロリメータを用いて、実際の試料から蛍光X線を測定し、材料劣化挙動について検討する。解析を行なうと同時に、マイクロカロリメータそのものの特性につき更に向上をはかる。SNOMを用いた試料観察を行ない、光学的変化により得られる材料挙動について検討を行う。
3) 高温高圧水パルスラジオリシス法による実験実施。室温から500℃までの温度領域でOHラジカルと反応生成ラジカルの吸収スペクトル、収量、反応性の測定。様々なラジカルに対象を展開する。超臨界水定常照射ループでの実験開始。
4) 伝熱流動模擬試験装置と熱流動可視化装置を用い、速度、温度、密度、乱れ強さ分布などの測定を実施。実験結果のモデリング化とその数値計算とを比較する。

3.研究目的

 電子・原子といった空間レベルで、時間分解能をもった実験手法による観測と、量子レベルでのモデル化により、原子力材料の特徴である放射線環境における材料の振る舞いの理解と、高機能材料を創製するための基盤的研究の実施を目的とする。
1) 腐食環境や放射線照射下など複合的な極限環境で利用される機器材料挙動を定量的に予測するための、損傷基礎過程に基づいた材料特性と物質表面特性変化評価について、とりまとめを行う。
2) 極限環境下計測材料の劣化機構の解明と耐劣化特性評価:高温、強放射線場を代表とする極限環境下での様々な計測材料の劣化を局所的に、その場観察を実施し、劣化機構の解明と耐劣化特性評価手法の確率のための基礎的な研究を行う。
3) 高温高圧水放射線反応:高温水の放射線分解挙動をパルスラジオリシスなどの時間分解能をもつ手法により、追跡、把握することにより、冷却水の化学環境に与える影響評価とその評価のためのシミュレーション手法確立のための研究を行う。
4) 高温高圧下流体の伝熱劣化現象模擬実験と数値シミュレーション:伝熱劣化現象に関する新提案数値シミュレーションの検証と発展を図るため、模擬実験を行い、比較検討を進める。

4.研究成果の概要

4−1 研究計画、目的に対する成果
四つの研究テーマごとに成果をまとめる。

量子レベルモデル開発による耐環境性材料評価と設計
 イオン加速器結合型トンネル顕微鏡を用い物質表面に特有の損傷機構を明らかにした。また、モデル合金の照射試験結果に基づいて照射環境における材料特性変化モデル開発を行い、ミクロ機構に立脚した材料寿命予測手法の開発と放射線複合環境での耐性材料の設計研究を進めた。さらに、様々な時間・空間レベルのマルチスケールモデリングを進めた。

高温圧下流体の伝熱劣化現象模擬実験と数値シミュレーション

 超臨界圧二酸化炭素の疑似臨界点近傍における強制対流熱伝達時の流れ構造を可視化し、一定以上の熱流束で、比較的大きな構造を持つ流体塊が超臨界状態でも発生することがわかった。さらに、フレームストラドリング照明法で2次元流速分布を定量化した。
 超臨界圧水熱流動の2次元数値シミュレーションコードを用いて、式中に壁温を用いず、設計研究に適用しやすく、伝熱劣化領域も適用範囲に含む熱伝達相関式を導いた。

高温高圧水放射線反応と水化学

 超臨界水中の各種ラジカルの吸収スペクトル温度依存性を観測し、長波長シフト、短波長シフトがラジカルの種類に依存する事が分かった。超臨界水中の水分解G値を評価し、著しい圧力依存性を見い出した。γラジオリシス実験からは超臨界水中の反応が室温反応と大きく異なる事、超臨界水中の圧力依存性は水分解G値変化と良い対応を示す。

極限環境下計測材料の劣化機構の解明と耐劣化特性評価
 日本で初めて超伝導転移型マイクロカロリメータによる蛍光X線分析を行った。数値計算により素子内部の温度、抵抗率、熱容量、電流密度を計算し、内部が超伝導と常伝導状態に相分離することが分かった。
 照射劣化挙動を走査型プローブ顕微鏡を用いて照射下での観察を行い、雲母の場合、LETが小さな粒子では隆起は生じないが、石英ガラスではLETが0.9MeV/μmの鉄イオンビームの照射で隆起が観察された。


4−2 研究計画、目的外の成果
 当初予想していた以上に超臨界水の放射線効果は複雑であり、また、関連する問題も山積していることから数年ではとても研究し尽くせないものであることを実感すると共に、継続した研究の必要性を認識し、さらなる展開を図るべく公募研究に積極的に応募し、研究展開を図ることを目指し、実現する運びとなった。


4−3 研究成果の展望
 材料の放射線劣化や損傷の分野ではイオン加速器とAFMによる劣化のその場観察手法とモデリングの確立が目指されていたが、マルチスケールモデルに代表されるような統合的なモデリングの完成にさらに一歩近付き、学問的にも原子力、核融合材料分野に大きなインパクトを与え、モデリング分野の発展を加速した。
 伝熱・流動分野ではその場観察、可視化技術の進展の大きな一助となり、超臨界流体中での伝熱挙動は複雑であるが、可視化技術によるその場観察が有力な手段であることを示すことが出来た。これらは益々広く活用されるはずである。同時にシュミレーション技術開発で゛も大きな寄与を果たし、伝熱挙動の計算による予測が十分に成立することを示した。さらなる進展が期待される。
 超臨界水は工学的な利用分野で最近の進展は目覚ましいものがあるが、そこでの反応について、特に時間分解能をもった手法の適用については十分でなかったが、放射線化学分野のパルスラジオリシスの手法を世界に先駆け導入し、超臨界水化学分野に衝撃を与えた。同時に、放射線化学分野における極限状態化学という新しい分野を開拓したことは特筆に値する。超臨界水の特性が温度のみならず圧力をパラメータとして検討すべきことを指摘したこと、種々のラジカルや水和電子等の吸収スペクトルは温度に大きく依存することから理論的な課題を提供したことで理論分野の進展が期待される。
 超高エネルギー分解能を有する検出器開発では国内最高、世界的にもトップレベルの超伝導転移型マイクロカロリメータ素子の開発を達成できたこと、同時に、内部で生じている過渡現象を観測し、解析することができることになり、より高性能の素子開発に不可欠の手法を確立できたと判断している。また、走査型プローブ顕微鏡を活用したナノレベルでのイオン照射効果の観測が強力な手段であることを最初に示すことが出来、今後、この手法は広く利用されると思われる。


4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割
 この間、2000年11月に本事業の活動の一貫として「SCR 2000 (Supercritical water-cooled reactor) 国際シンポジウム」を開催した。これが引き金となり国内外での研究が相次ぎ開始された。
 欧州共同体での研究プロジェクト(FZK,CEA,Framatom,PSI,EdF,VTT,KFKI,東大, 2000-2002, 2004-)、米国におけるNERI (Nuclear Energy Research Initiative)にも関連テーマが採択された。国内では(財)エネルギー総合研究所が実施の革新的実用原子力技術開発提案公募事業の一テーマとして採択され、基礎研究が展開されている(東芝、日立、東大、九大, 2000-)。
 さらに米国では INERI (International Nuclear Energy Research Initiative) が展開されることになった。DOE の 超臨界水冷却原子炉がGENES-IV (第四世代原子炉) の一つとして検討されている。
 一方、水化学の分野では文部科学省による革新的原子力システム技術開発公募事業においても「放射線環境下の超臨界圧水化学に関する技術開発」(東大、東芝、日立、電中研、原研, 2002-)と題したテーマが採択されることになった。ここでは、超臨界水の放射線分解、材料、界面の三つのキーワードで産官学の連携で研究展開がはかられることになっている。超臨界水と放射線の関わる課題が炉の成立性を大きく影響するとの認識で、研究所、メーカーの呼び掛けに積極的に協力を受け、大学から発信した課題の有望性、重要性か広く認識された結果、大学、研究所、メーカーを含む産官学連携のテーマとして実施されることになったことは本事業で開発した実験手法を活用する場が提供されることになり、本未来開拓事業としての役割を十分に果たしたことを示すものである。

5.キーワード

(1)超臨界水冷却原子炉 (2)マルチスケールモデル (3)その場観察
(4)可視化 (5)放射線分解 (6)パルスラジオリシス
(7)超伝導転移型マイクロカロリメータ    

6.研究成果発表状況

A.学術雑誌論文(Journal Papers)
全著者名 論文名
Guozhong Wu, Yosuke Katsumura, Yusa Muroya, Minzhang Lin and Tomomi Morioka Temperature Dependence of Carbonate Radical in NaHCO3 and Na2CO3 Solutions:Is the Radical a Single Anion?
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Phys. Chem. A 106 11 2430-2437 2002

全著者名 論文名
Satoh, T., Sekimura, N., and Okita, T. Effects of Solid Transmutation and Helium on Microstructural Evolution in Neutron-Irradiated Vanadium
学術雑誌名 ページ 発行年
Journal of Nuclear Materials 307-311 ??? 385-388 2002

全著者名 論文名
K.Amemiya, H.Takahashi, M.Nakazawa, H.Shimizu, T.Majima, Y.Nakagawa, N.Yasuda, M.Yamamoto, T.Kageji, M.Nakaichi, T.Hasegawa, T.Kobayashi, Y.Sakurai, K.Ogura Soft X-ray imaging using CR-39 plastics with AFM readout
学術雑誌名 ページ 発行年
Nucl. Instr. and Meth., B 187 ??? 361-366 2002

全著者名 論文名
K. Kitoh, S. Koshizuka and Y. Oka Refinement of Transient Criteria and Safety Analysis for a High-temperature Reactor Cooled by Supercritical Water
学術雑誌名 ページ 発行年
Nucl. Technol 135 ??? 252-264 2001

全著者名 論文名
Guozhong Wu, Yosuke Katsumura, Yusa Muroya, Minzhang Lin and Tomomi Morioka Temperature Dependence of (SCN)2- in Water at 25-400℃ : Absorption Spectrum, Equilibrium Constant and Decay
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Phys. Chem. A 105 20 4933-4939 2001

全著者名 論文名
T. Okita, T. Kamada and N. Sekimura Effects of Dose Rate on Microstructural Evolution and Swelling in Austenitic Steel under Irradiation
学術雑誌名 ページ 発行年
Journal of Nuclear Materials 283-287 ??? 220-223 2000

全著者名 論文名
Daiji Fukuda, Hiroyuki Takahashi, Masashi Ohno, Yoshihiko Noguchi, Masaharu Computer calculation of the ETF-TES property and development of the Ir TES for x-ray microcalorimeters
学術雑誌名 ページ 発行年
Ionizing Radiation 26 1 95-103 2000

B.国際会議発表論文(International Conferences)
全著者名 論文名
Okamoto, K., Ota, J., Sakurai, K. and Madarame, H. Transient velocity dirtributions for the supercritical carbon dioxide forced convection
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
3rd Korea-Japan Symposium on Nuclear Thermal Hydraulics and Safety (NTHAS3) Kyeongju, Korea ??? 275-278 2002

全著者名 論文名
Yosuke Katsumura Observation of Transient Species in High Temperature and Supercritical Water by Pulse radiolysis (Plenary Paper, Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
Third Asian Photochemistry Conference (APC-2002) & Sixth Biennial Trombay Symposium on radiation & Photochemistry (TSRP-2002) Mumbai,India ??? ??? 2002

全著者名 論文名
Yosuke Katsumura Radiation Induced Intra-Track Reactions in Aqueous Solutions (Plenary Paper, Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
Pune University on radiation and Photochemistry Pune,India ??? ???

2002


全著者名 論文名
S.Shimakawa, N.Sekimura and N.Nojiri NPRIM Computer Code for Radiation Damage Calculation
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
11th International Symposium on Reactor Dosimetry Belgium ??? ??? 2002

全著者名 論文名
Yosuke Katsumura Pulse Radiolysis of High Temperature and Supercritical Water (Plenary Paper, Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
PULS'2000 PULS'2000$Leba,Poland ??? ??? 2000

全著者名 論文名
K.Sakurai, H.S.Ko, K.Okamoto, H.Madarame Visualization of Supercritical Carbon Dioxide
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
4th JSME-KSME Thermal Engineering Conf. Kobe,Japan D209 305-309 2000

C.著書(Books)
全著者名 書名
H. Kudoh and Y. Katsumura "Ion Beam Radiation Chemistry", Radiation Chemistry: Present Status and Future Trends (Editor: C. D. Jonah and B. S. M. Rao)
出版者名 出版場所 ISBN番号 ページ 発行年
Elsevier Science Amsterdam ??? 37-66 2001

全著者名 書名
Yosuke Katsumura "Radiation Chemistry of Concentrated Inorganic Aqueous Solutions", Radiation Chemistry: Present Status and Future Trends (Editor: C. D. Jonah and B. S. M. Rao)
出版者名 出版場所 ISBN番号 ページ 発行年
Elsevier Science Amsterdam ??? 163-174 2001


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