| 研究推進分野名 | 成人病−遺伝素因と環境因子の解明 | |
| 研究プロジェクト名 | 血圧調節系遺伝子ネットワークの機能発現とその制御 | |
| (英文名) | Genetic Function of Molecular Network on Blood Pressure Regulation | |
| 研究期間 | 平成9年度 〜 平成13年度 |
| プロジェクト・リーダー名 | 研究経費 | 445,622千円 | ||
| 氏名・所属研究機関 所属部局・職名 |
深水昭吉 ・筑波大学 ・先端学際領域研究センター ・教授 | 内訳 | 平成 9年度 | 106,152千円 |
| 平成10年度 | 91,920千円 | |||
| 平成11年度 | 97,550千円 | |||
| 平成12年度 | 75,000千円 | |||
| 平成13年度 | 75,000千円 | |||
1.研究組織
| 氏名 | 所属機関・部局・職 | 研究プロジェクトでの役割分担 |
| 八神 健一 | 筑波大学・生命科学動物資源センター・教授 | 遺伝子改変マウスの作製・維持・管理 |
| 多久和 陽 | 金沢大学・医学部・教授 | 7回膜貫通型受容体のシグナル解析 |
2.研究計画の概要
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成人病の中で心臓病・脳卒中・がんは,死亡原因の高い割合を占めています。高血圧が糖尿病や動脈硬化と並んで脳卒中や心臓病を誘発する主要因の一つであるように、血圧制御システムの機能破綻は病態発生の重篤なリスクファクターとして個体に大きく影響すると予想されます。私達は、血圧制御システムには遺伝子発現の階層性とプログラムされた関連遺伝子の機能的カスケードが存在しネットワークを形成していることを類推しています。一方で、血圧制御システムは,遺伝的素因と環境因子が相互作用し巧妙に調節されていると考えられていますが、その詳細なメカニズムは不明な点が多く残されています。 そこで本研究は、血圧調節系遺伝子ネットワークを同定し、その機能発現の制御メカニズムを解明することで、生活習慣病の発症病態を明らかにすることを目指します。 |
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本研究プロジェクトは、組織及び時期特異的に遺伝子の量的・質的形質をコントロールする遺伝子改変動物の系を開発し、血圧制御システムの遺伝子及びその産物の機能発現と環境因子の相互作用機序を明らかにすることを目的としました。分子生物学的・発生工学的な手法を駆使して遺伝子の機能発現を領域・時限的に制御することは、成人病の特徴から考えると必要不可欠であり、その発症機序の理解の基盤的研究となり得るものです。そこで、血圧調節系遺伝子そのものの個体機能解析と、それら遺伝子の発現機構の解明に取り組むために転写制御-共役因子にも着目して、以下のプロジェクトを遂行いたしました。 1) レニン-アンジオテンシン系構成遺伝子改変マウスの作製と解析 2) 妊娠高血圧マウスの生理機能解析 3) 新規7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体の生理機能解析 4) 転写共役因子複合体ネットワークの同定と細胞生理機能解析 |
| 4−1 研究計画、目的に対する成果 |
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1) レニン-アンジオテンシン系構成遺伝子改変マウスの作製と解析:アンジオテンシノーゲン遺伝子欠損マウスの血液脳関門の障害再生機能の著しい低下を発見し、アンジオテンシンペプチドの新規作用を提唱しました。また、レニン遺伝子欠損マウスを作製し、循環血液中ではレニンが唯一のアンジオテンシン産生酵素であることを明らかにすると共に、脳内ではレニン以外の産生酵素の存在を示唆しました。 2) 妊娠高血圧マウスの生理機能解析:当研究室が世界で唯一所有する発生工学的に開発したマウスの妊娠高血圧が、アンジオテンシンII1a型受容体のみを介して発症することを遺伝交配解析によって解明いたしました。 3) 新規7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体の生理機能解析:心臓・腎臓・血管・脂肪・筋肉・肺に発現する新規受容体の遺伝子欠損マウスを作製し、空腹時血糖値の低下が観察される表現型を得ました。 4) 転写共役因子複合体ネットワークの同定と細胞生理機能解析:腎臓近位尿細管や肝臓に特異的に発現する核内受容体・HNF4が、アンジオテンシノーゲン遺伝子の活性化因子であることを明らかにしました。一方、転写共役因子・CBPがこのHNF4の共役因子であることを明らかにすると共に、新規zincフィンガー型因子、RNA結合型因子、フォークヘッド型因子がHNF4の共役因子であることを見出しました。さらにフォークヘッド型因子はDNA結合性の転写因子であり、インスリン刺激に感受性であること、および核内修飾によって転写活性が巧妙に調節されていることを解明しました。 なお、当初目指しましたHNF4遺伝子欠損マウスの作製は、ES細胞樹立には成功したものの、生殖系列に取り込まれずに断念いたしました。アメリカのグループによって作製されましたので、今後入手可能です。 |
| 4−2 研究計画、目的外の成果 |
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1) レニン-アンジオテンシン系構成遺伝子改変マウスの作製と解析:高血圧マウスの食塩負荷時に、血圧の変動を伴わず負荷後30日以内に全てのマウスが動脈瘤破裂によって死亡したことは、予想を遙かに超えた表現型でした。 2) 妊娠高血圧マウスの生理機能解析:妊娠高血圧マウスから生まれる新生児の生存率が極めて低いことが判明しました。胎児期と新生児期の相違点を明らかにできるモデル系であると考えます。 3) 新規7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体の生理機能解析:当初血圧との関連を推定しておりましたが、予想外にも血糖調節とのリンクが観察されました。細胞内シグナル経路の詳細も判明しつつありますので、その関与の作用点を解明できる可能性が高いと考えます。 4) 転写共役因子複合体ネットワークの同定と細胞生理機能解析:意外にも、HNF4が各共役因子の共通の作用点になっている結果になりました。核内受容体が異なるモチーフを持つ共役因子と複合体を形成することは、異なる機能を有する可能性があり、その詳細を今後明らかにします。 |
| 4−3 研究成果の展望 |
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1) レニン-アンジオテンシン系構成遺伝子改変マウスの作製と解析:脳内ではレニン以外の産生酵素の存在を示唆しましたが、今後この候補酵素を同定することは新しいアンジオテンシン産生経路を見出す事につながります。レニン遺伝子欠損マウスは、その同定に不可欠なマウスとなりました。 2) 妊娠高血圧マウスの生理機能解析:少子化が叫ばれている現在でも、母体と胎児に関する産科領域の研究分野は世界的にも大きく立ち後れています。本未来開拓プロジェクトによって開発・解析された「妊娠高血圧マウス」は、妊娠中毒症の一部の病態を模倣していることも明らかになりつつあり、さらに新生児の発育不全に対する画期的なモデル動物であることも判明しているため、新しい研究分野の発展に大きく貢献することを確信しております。特に、妊娠中毒症と自己免疫疾患との関係が明らかになりつつあり、本モデル動物が自己免疫疾患とのつながりも重要な検討材料となり得ます。本モデル動物から得られる結果は、単にホルモン系の病態発生の解明に止まらず、免疫系との接点による病態解明も期待できるものであり、大きなインパクトを持つと自負しております。 3) 新規7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体の生理機能解析:アンジオテンシンII1a型受容体と高い相同性を持つこの新規受容体は、空腹時血糖の制御に関わっている可能性が遺伝子欠損マウスからの解析で判明いたしました。7回膜貫通型受容体は創薬のターゲットとしても注目されている作用点ですので、今後アゴニスト・アンタゴニストを標的とした低分子化合物の探索にもつながる重要な知見を得たと考えています。 4) 転写共役因子複合体ネットワークの同定と細胞生理機能解析:血圧制御系遺伝子を活性化させる核内受容体HNF4に、複数の転写共役因子が作用することは、多様な転写活性制御の存在を示唆するものです。今後、この多様性がどのような生体シグナルによって調節されているのか、またその破綻がどのような病態につながっていくのかを明らかにする優れたモデル系になり得ると考えます。特にHNF4は若年性発症型糖尿病MODY-1の原因遺伝子でもあり、インスリン調節と多様な転写共役因子群の複合体機能制御の解明に重要なツールになると考えます。 |
| 4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割 |
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高齢化社会を迎えると共に,私達のライフスタイルの欧米化により、高血圧や動脈硬化等によって脳・心臓・腎臓などの循環器に致死的血管病が引き起こされる割合が増加し、それらが国民的死亡原因の上位を占めるようになっています。また、胎児は生命線ともいうべき臍帯という血管で母体とつながっているため、循環器疾患を持つ母体や環境ホルモンの汚染下にある母体からの出生児の体質異常は,遺伝的背景も含めた母体の内外環境の強い影響を受けて生じていることが示唆されています。 血管と心臓は、従来血液を送り出すポンプとそのパイプ役としての認識しかありませんでしたが、それらがホルモンなどの多彩な生理活性物質や感知器(受容体)を産生していることが少しづつ分かってきました。そして、そのような物質は,血液を全身に供給するために安定した血圧・血行動態を維持する生命機構の中枢的な役割を担っているのではと考えられるようになってきています。しかしながら、その科学的本質は未だ理解されていません。 本プロジェクトは、成人病の発症や妊娠時における胎児・母体系の病態発生の分子機構を明らかにしようとするものです。血管・血圧の維持作用メカニズムは、多様な細胞や分子が関与しているため大変複雑です。しかし私達は、そこには構成される遺伝子発現の階層性とプログラムされた関連遺伝子の機能的カスケードが存在しネットワークを形成していることを類推しており、そのベールを一枚一枚剥がしていこうと考えています。このような方向性から生まれてくる研究結果は、成人病において複数の病態を合併しうる原因ともなる血管病変の分子メカニズムを理解する上で、極めて重要な基盤的知見を与えてくれるものと期待されます。 |
5.キーワード
(1)高血圧、(2)レニン、(3)アンジオテンシン
(4)ノックアウトマウス、(5)トランスジェニックマウス、(6)妊娠高血圧
(7)7回膜貫通型受容体、(8)動脈硬化、(9)糖尿病
6.研究成果発表状況
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Yanai, K., Saito, T., Hirota, K., Kobayashi, H., Murakami, K., and Fukamizu, A. | Molecular variation of the human angiotensinogen core promoter element located between the TATA box and transcription initiation site affects its transcriptional activity | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| J. Biol. Chem. | 272 | 48 | 30558-30562 | 1997 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Kakinuma, Y., Hama, H., Sugiyama, F., Goto, K., Murakami, K., and Fukamizu, A. | Anti-apoptotic action of angiotensin fragments to neuronal cells from angiotensinogen knock-out mice | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| Neurosci. Lett. | 232 | ??? | 167-170 | 1997 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Kakinuma, Y., Hama, H., Sugiyama, F., Yagami, K., Goto, K., Murakami, K., and Fukamizu, A. | Impaired blood-brain barrier function in angiotensinogen-deficient mice | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| Nature Med. | 4 | 9 | 1078-1080 | 1998 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Yanai, K., Hirota, K., Taniguchi-yanai, K., Shigematsu, Y., Shimamoto, Y., Saito, T., Chowdhury, S., Takiguchi, M., Arakawa, M., Nibu, Y., Sugiyama, F., Yagami, K., and Fukamizu, A. | Regulated expression of human angiotensinogen gene by hepatocyte nuclear factor 4 and chicken ovalbumin upstreampromoter-transcription factor | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| J. Biol. Chem. | 274 | 49 | 34605-34612 | 1999 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Yanai, K., Saito, T., Kakinuma, Y., Kon, Y., Hirota, K., Taniguchi-Yanai, K., Nishijo, N., Shigematsu, Y., Horiguchi, H., Kasuya, Y., Sugiyama, F., Yagami, K., Murakami, K., and Fukamizu, A. | Renin-dependent cardiovascular functions and renin-independent blood brain barrier functions revealed by renin-deficient mice. | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| J. Biol. Chem. | 275 | 1 | 5-8 | 2000 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Miyagishi, M., Fujii, R., Hatta, M., Yoshida, E., Araya, N., Nagafuchi, A., Ishihara, S., Nakajima, T., and Fukamizu, A. | Regulation of lef-mediated transcription and p53-dependent pathway by associating ?-catenin with CBP/p300 | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| J. Biol. Chem. | 275 | 45 | 35170-35175 | 2000 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Fukamizu, A. | Genomic Expression Systems on hierarchy and network leading to hypertension : Long on history, short on facts(Invited) | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| Hypertens. Res. | 23 | 6 | 545-552 | 2000 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Hisada, Y., Sugaya, T., Tanaka, S., Suzuki, Y., Ra, C., Kimura, K., and Fukamizu, A. | An essential role of angiotensin II receptor type 1a in recipient kidney, not in transplanted peripheral blood leukocytes, in progressive immune-mediated renal injury | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| Lab. Invest. | 81 | 9 | 1243-1251 | 2001 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Hatta, M. and Fukamizu, A. | PODs in the nuclear spot: Enigmas in the magician's pot(Invited) | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| Science | ??? | ??? | ??? | 2001 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Fujii, R., Okamoto, M., Aratani, S., Oishi, T., Ohshima, T., Taira, K., Baba, M., Fukamizu, A., and Nakajima., T. | A role of RNA helicase A in cis-acting transactivation response element-mediated transcriptional regulation of human immunodeficiency virus type 1 | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| J. Biol. Chem. | 276 | 8 | 5445-5451 | 2001 |
| 全著者名 | 論文名 | |||
| Aratani, S., Fujii, R., Oishi, T., Fujita, H., Amano, T., Ohshima, T., Hagiwara, M., Fukamizu, A., and Nakajima, T. | Dual roles of RNA helicase A in CREB - dependent transcription | |||
| 学術雑誌名 | 巻 | 号 | ページ | 発行年 |
| Mol. Cel. Biol. | 21 | 14 | 4460-4469 | 2001 |