平成13年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究成果報告書概要



研究推進分野名 次世代人工物質・材料の探査的研究
 
研究プロジェクト名 ナノ構造における量子光非線形効果とその応用
 
(英文名) Quantum Nonlinear Effects in Nanostructures and their Application
 
研究期間 平成9年度 〜 平成13年度

プロジェクト・リーダー名 研究経費 393,715千円
氏名・所属研究機関
所属部局・職名
川辺光央 ・筑波大学 ・物理工学系 ・教授 内訳 平成 9年度97,602千円
平成10年度85,070千円
平成11年度80,404千円
平成12年度66,139千円
平成13年度64,500千円

1.研究組織

氏名 所属機関・部局・職 研究プロジェクトでの役割分担
舛本 泰章 筑波大学・物理学系・教授 量子ドットの分光研究
中塚 宏樹 筑波大学・物理工学系・教授 量子ドットの量子光学的研究(平成13年3月まで)
服部 利明 筑波大学・物理工学系・助教授 量子ドットの量子光学的研究(平成13年4月から)
野村 晋太郎 筑波大学・物理学系・助教授 電場により作られた量子ドットの分光研究(平成11年4月から)
三品 具文 筑波大学・物理学系・講師 量子ドットの非線形分光研究(平成13年6月まで)
奥野 剛史 筑波大学・物理学系・講師 量子ドットの非線形分光研究
服部 利明 筑波大学・物理工学系・講師 フォトニック結晶と量子ドットの量子光学的研究(平成13年3月まで)
岡田 至崇 筑波大学・物理工学系・講師 量子ドットの外力による形成
池沢 道男 筑波大学・物理学系・助手 量子ドットの分光研究
藍  勝 筑波大学・物理工学系・助手 量子ドットの電子状態(平成12年3月まで)
宋 海智 筑波大学・物理工学系・助手 量子ドットの電子状態(平成13年9月まで)

2.研究計画の概要

本研究は光子と量子ドットの相互作用を利用して、極微弱光すなわち単光子による量子ドットのエネルギー制御および非線形光学への応用を目標とするものである。
光非線形性の基礎的な研究として量子ドットの電子状態と励起状態のダイナミックスの研究により光応答の概観をつかみ、単光子レベルでの量子ドットの光非線形性の根源を明確にし、量子ドットの光スペクトルの均一幅とその決定メカニズムを明らかにする。光非線形性の応用的な研究として、量子ドットの高速光スイッチ動作を近赤外波長域に広げ、量子ドットの新光機能性の探査的研究を行う。
それとともに、光波と量子ドットの相互作用を増強させる方法を研究することによって、新しい光デバイス作製の基礎を確立する。1次元フォトニック結晶構造を作成し,その線形光学的な特性を測定する。そこに量子構造非線形光学材料を導入し,その非線形光学効果の大きさと応答時間の測定を行う。また,フェムト秒パルス整形装置を作成し,超高速非線形光学効果の測定・制御を行う。
これらを実現するための基盤技術としてナノ構造形成法を確立する必要がある。有用な非線形光学デバイス実現において重要なことの一つは、量子ドットの高密度化である。高密度量子ドット形成に最適な自己組織化法に、表面エネルギー変調という制御パラメーターを加えて量子ドットの形成法、構造・配列の制御法を研究し、量子ドットの高密度化、積層化、二次元、三次元格子作製方法を研究する。

3.研究目的
1. 量子ドットが単光子を吸収することにより生ずる新しい励起状態の発見により、究極的に微弱な光による、量子ドットのエネルギー制御の可能性を追究し、光スイッチや光メモリ実現の基礎を与える。
2. 量子ドットの永続的ホールバーニング分光による量子ドット中の電子、正孔や励起子のエネルギー準位の解明を行う。
3. フォトニック結晶構造を用いて,光波モードの制御を行い,それによって,量子ドットなどの量子構造材料の非線形効果を増強・制御する。
4. フェムト秒光パルス整形により,超高速非線形光学効果の測定・制御を行う。
5. 格子歪を利用した量子ドットの自己組織化法を発展させ、光デバイスに要求される高密度、均一性の優れたドット形成方法を探索する。
量子ドット超格子構造を形成し、この構造の電子状態の研究より光デバイスへの展開を探る。

4.研究成果の概要
4−1 研究計画、目的に対する成果
1.立方体状のCuCl量子ドットを作成し励起状態の観測に成功した。InP量子ドットの次元性を反映した発光寿命の温度依存性と母体から量子ドットへのキャリア流入ダイナミクスを明らかにした。
2.CuCl量子ドット中に励起子2個が弱く結合した励起子分子の励起状態(2励起子状態)3励起子状態の観測に成功した。
3.CuCl、CuBrやCdSeの量子ドットの光スペクトル均一幅の研究が進み低温で極めて狭い線幅と特異な温度依存性が明らかになった。閉じ込められた音響型フォノンの励起と母体の微小なエネルギーの励起が低温部の均一幅の温度依存性を決定している。
4.1次元フォトニック結晶を用いて,実効的な非線形光学効果の増強に成功した。特に,量子ドットをドープした系に関して最適化に関する理論的な解析を行い,それに基づいて試料を作製し,非線形光学効果の比較測定を行った結果,数十倍の増強を確認した。また,いくつかの種類の構造を持つ試料を作製し,超高速光スイッチなど,それぞれの特徴に合わせた非線形光学現象を実現した。
5.GaAs高指数面におけるInGaAs量子ドットの自己形成機構とともに、ドットの中でInリッチ領域とGaリッチ領域に相分離していることを示した。ドット密度を109cm-2から1011cm-2にわたって制御する方法を確立した。さらに、ドットの配列構造を実現し、ドット超格子形成への手がかりを得た。
6.高密度、高配列性の試料において、ドット間相互作用による電子状態を観測した。

4−2 研究計画、目的外の成果
1.近赤外域を連続的にカバーできるPbSe量子ドットを作成し、ピコ秒オーダーの高速応答光スイッチを実現した。
2.量子ドットの輝尽発光をNaCl結晶中のCuCl量子ドットにおいて発見した。電場印加により結合の強さを制御できる量子ドットアレーを実現し、二次元の極限ではフェルミ端異常を発光スペクトルに観測した。
3.スラブ型ポリマー二次元フォトニック結晶を作成し,実験及びシミュレーションによって,導波モードの諸特性を解明した。
4.量子ドット二次元超格子構造において、面内電気伝導度に負性微分抵抗を観測した。この現象が現れる電界の前後において電気伝導度の温度依存性が逆転することがわかった。
5.InAs量子ドットの積層構造において、InP基板を使用することによって歪補償型積層構造を実現し、原理的には層数をいくらでも増やせることを示した。20層の積層構造で等価的に1012cm-2以上の高密度を得た。

4−3 研究成果の展望
1.単光子レベルでの量子ドットの光非線形性の根源を明確にしたことは学問的インパクトとなる。これより微弱光による量子ドットの光スイッチや光メモリが実現する可能性を生み出した。
2.量子ドットの光スペクトルの極めて狭い均一幅とその決定メカニズムを明らかにし、量子ドットのコヒーレント制御に道を開いた。
3.量子ドットの赤外域高速光スイッチや輝尽発光の研究成果により量子ドットの応用が広がる可能性がある。
4.一次元フォトニック結晶を用いた非線形光学デバイスの特徴を明らかにし,実際にプロトタイプを試作し,その特性を測定した。これによりこの種のデバイス実用化への基礎が築かれた。
5.一次元周期構造の半導体超格子を対象とした学問分野、応用分野の先には、必然的に量子ドット二次元、三次元超格子がある。本研究において開発した、整列性の良い結合量子ドット網および積層構造の形成技術は二次元、三次元超格子につながる重要な結果である。
6.量子ドットの光デバイスへの応用で最も大きな障害となっていた高密度化の問題に対し、歪補償構造とすることによって歪の蓄積なしに積層数を10層以上とする道を開いた。さらに、InAs量子ドットにおいて、歪緩和により光通信で必要とされる1.6μm帯での発光を得た。

4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割
量子ドットの光物性、光非線形性の根源や光スペクトルの均一幅とその決定メカニズムを明らかにすることで、量子ドットを光スイッチや光メモリとして利用する物理的基礎を与えた。また応用として高速光スイッチ動作を近赤外域の波長に広げ、量子ドットの輝尽発光という新光機能性を発見した。これにより、量子ドットの新しい応用の道を開いた。
量子ドットとフォトニック結晶の組み合わせは、微細化が要求される将来の光情報処理デバイスにおいて重要な働きをになう。本研究ではそのために必要な基礎的データを示した。
量子ドットの応用から見ると、まだアイデアが先行してデバイス実現が追いついていない。最大のネックはドット形成技術が十分でないところにある。この点における短期的な成果としては、量子ドットレーザー、光検出器で必要とされているドットの高密度化の方法を示し、応用展開の可能性を示した。長期的な成果としては、二次元超格子、三次元超格子の研究は、未来開拓につながるものとして非常に重要であるが、現状では、外力誘起による形成方法の開発が緒についたばかりである。本研究では、自己形成法による結果を示し、多次元超格子形成方法としての可能性を示した。

5.キーワード

(1)量子ドット、(2)光スイッチ、(3)光メモリ
(4)均一幅、(5)非線形光光学効果、(6)フォトニック結晶
(7)フェムト秒、(8)高密度量子ドット、(9)歪補償積層構造

6.研究成果発表状況

A.学術雑誌論文(Journal Papers)
全著者名 論文名
H.Z.Song,K.Akahane,S.Lan,H.Z.Xu,Y.Okada,and M.Kawabe In-planephotocurrent of self-assembled InxGa1-xAs/GaAs(311)B quantum dot arrays
学術雑誌名 ページ 発行年
Phys. Rev. B64 8 085303-1−085303-7 2001

全著者名 論文名
T. Okuno, Y. Masumoto, M. Ikezawa, T. Ogawa and A.A. Lipovskii Size-dependent picosecond energy relaxation in PbSe quantum dots
学術雑誌名 ページ 発行年
Appl. Phys. Lett. 77 4 504-506 2000

全著者名 論文名
M. Ikezawa and Y. Masumoto Ultranarrow homogeneous broadening of confined excitons in quantum dots: Effect of the surrounding matrix
学術雑誌名 ページ 発行年
Phys. Rev. B 61 19 12662-12665 2000

全著者名 論文名
Sheng Lan, Kouichi Akahane, Hai-Zhi Song, Yoshitaka Okada, Mitsuo Kawabe, Tetsuya Nishimura and Osamu Wada Capture, relaxation and recombination in two-dimensional quantum-dot superlattices
学術雑誌名 ページ 発行年
Phys.Rev. B61 24 16847-16853 2000

全著者名 論文名
Y. Masumoto and S. Ogasawara Photostimulated luminescence of CuCl quantum dots in NaCl crystals
学術雑誌名 ページ 発行年
Jpn. J. Appl. Phys. 38 6A/B L623-L625 1999

全著者名 論文名
N. Tsurumachi, S. Yamashita, N. Muroi, T. Fuji, T. Hattori, and H. Nakatsuka Enhancement of nonlinear optical effect in one-dimensional photonic crystal structures
学術雑誌名 ページ 発行年
Jpn. J. Appl. Phys. 38 11 6302-6308 1999

全著者名 論文名
M.Kawabe, K.Akahane, S.Lan, K,Okino, Y.Okada and H.Koyama Self-Organization of High-Density III-V Quantum Dots on High-Index Substrates
学術雑誌名 ページ 発行年
Jpn. J. Appl. Phys 38 1B 491-495 1999

全著者名 論文名
K.Akahane, T.Kawamura, K.Okino, H.Koyama, S.Lan, Y.Okada and M.Kawabe Highly packed InGaAs quantum dots on GaAs(311)B
学術雑誌名 ページ 発行年
Appl. Phys. Letts. 73 23 3411-3413 1998

全著者名 論文名
T. Okuno, H.-W. Ren, M. Sugisaki, K. Nishi, S. Sugou and Y. Masumoto Time-resolved luminescence study of InP quantum dots in GaInP matrix: carrier injection from the matrix
学術雑誌名 ページ 発行年
Phys. Rev. B 57 3 1386-1389 1998

全著者名 論文名
M. Ikezawa, Y. Masumoto, T. Takagahara and S. Nair Biexciton and triexciton states in quantum dots in the weak confinement regime
学術雑誌名 ページ 発行年
Phys. Rev. Lett. 79 18 3522-3525 1997

全著者名 論文名
T. Hattori, N. Tsurumachi, and H. Nakatsuka Analysis of optical nonlinearity by defect states in one-dimensional photonic crystals
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Opt. Soc. Am. B 14 2 348-355 1997

B.国際会議発表論文(International Conferences)
全著者名 論文名
Y. Masumoto Energy and phase relaxation in quantum dots (Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
8th Int. Workshop on Femtosecond Technology Tsukuba TB-2 31-34 2001

全著者名 論文名
M.Kawabe Self-assembled InGaAs quantum dots superlattices(Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
Nanomeeting 2001 Minsk ??? 15-21 2001

全著者名 論文名
Y. Masumoto, M. Ikezawa, B.-R. Hyun, K. Takemoto and M. Furuya Homogeneous Width of Confined Excitons in Quantum Dots at Very Low Temperatures (Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
Int. Conf. Semiconductor Quantum Dots Munich ??? ??? 2000

全著者名 論文名
M.Kawabe, K.Akahane, H.Z.Xu and H.Z.Song Formation of Laterally Coupled Quantum Dots and Their Optical Properties (Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
2000 International Symposium on Formation, Physics and Device Application of Quantum Dot Structures Sapporo Tu1-1 70 2000

全著者名 論文名
Mitsuo Kawabe Self-Organized Quantum Dots by Hydrogen-Assisted Molecular Beam Epitaxy(Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
The 5th International Symposium on Advanced Physical Fields Tsukuba ??? 345-347 2000

全著者名 論文名
M. Sugisaki, H.-W. Ren, S.V. Nair, J.-S. Lee, S. Sugou, T. Okuno and Y. Masumoto Imaging and single dot spectroscopy of InP self-assembled quantum dots (Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
Int. Conf. on Luminescence and Optical Spectroscopy of Condensed Matter Osaka ??? ??? 1999

全著者名 論文名
Y. Masumoto Persistent Spectral-Hole-Burning in Semiconductor Quantum Dots and its Application to Spectroscopy (Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
2nd Int. Symp. on Formation, Physics and Device Application of Quantum Dot Structures Sapporo ??? ??? 1998

全著者名 論文名
Mitsuo Kawabe Self-Organization of High Density Close-Packed Quantum Dots by Hydrogen Assisted Molecular Beam Epitaxy(Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
The 4th International Conference on Intelligent Materials(ICIM'98) Makuhari 12.K 314-315 1998

全著者名 論文名
Mitsuo Kawabe Self-Organized Formation of High Density III-V Quantum Dots on High Index Substrates(Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
1998 International Symposium on Formation, Physics and Device Application of Quantum Dot Structures Sapporo Tu4-1 116 1998

全著者名 論文名
H. Nakatsuka, N. Tsurumachi, and T. Hattori Enhancement of optical nonlinearity by using one-dimensional photonic crystals
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
14th Interdisciplinary Laser Science Conference (ILS-XIV) Baltimore, USA ??? ??? 1998

全著者名 論文名
Y. Masumoto Semiconductor Quantum Dots Behave Like Molecules (Invited)
会議名 開催場所 論文番号 ページ 発行年
Int. Symp. Similarities and Differences between Atomic-Nuclei and Clusters: Toward a Unified Developments for Cluster Sciences Tsukuba ??? ??? 1997

C.著書(Books)
全著者名 書名
Yasuaki Masumoto Semiconductor Quantum Dots: Physics, Spectroscopy and Applications. (Editors: Y. Masumoto and T. Takagahara)
出版者名 出版場所 ISBN番号 ページ 発行年
Springer Heidelberg ISBN3540428054 1-460 2002


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