平成13年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究成果報告書概要



研究推進分野名 環境負荷の影響評価と軽減
 
研究プロジェクト名 都市廃棄物による環境負荷を低減するための新規微生物処理技術の開発
 
(英文名) A New Technology to Evaluate the Risk of Envivonmental Toxic Agents to Human
 
研究期間 平成9年度 〜 平成13年度

プロジェクト・リーダー名 研究経費 398,776千円
氏名・所属研究機関
所属部局・職名
五十嵐泰夫 ・東京大学 ・大学院農学生命科学研究科 ・教授 内訳 平成 9年度110,400千円
平成10年度83,298千円
平成11年度80,078千円
平成12年度55,000千円
平成13年度70,000千円

1.研究組織

氏名 所属機関・部局・職 研究プロジェクトでの役割分担
横田 明 東京大学・分子細胞生物学研究所・助教授 微生物の同定・分類
山川 隆 東京大学・大学院農学生命科学研究科・助教授 処理システムの構築と分析
石井正治 東京大学・大学院農学生命科学研究科・助教授 微生物生態学的解析
児玉 徹 東京大学・名誉教授 微生物生態学的解析
新村洋一 東京農業大学・応用生物科学部・教授 微生物生態学的解析
西原宏史 茨城大学・農学部・助手 微生物生態学的解析
春田 伸 日本学術振興会研究員 微生物生態学的解析

2.研究計画の概要

 我が国に於いて多量に排出される都市廃棄物、特に家庭ゴミを微生物を用いて効率的に処理をする技術を確立する。
 そのために、まず実際の家庭ゴミの組成から標準的な家庭ゴミを策定し、これを用いて家庭用コンポスターを運転、どのような微生物が主に存在しまた働いているかを検討する。次ぎに、分解過程において律速となっている因子(例えば油分の分解)および問題となる因子(臭気の発生)の確定、および微生物学的手法による律速因子の解除または問題因子の排除を行う。
 最後に、微生物学の面から最も効率的・安定的・安全と考えられるシステム(装置)を提案する。

3.研究目的
 本研究は、微生物機能を用いた効率的な家庭ゴミの処理システムの開発を目的に、以下の研究を行った。
(1)標準生ゴミの設定
(2)標準生ゴミを用いた家庭用コンポスターの運転
   @分解過程に働く微生物叢の解析
   @分解律速因子、運転上の問題点の抽出
(3)事業用コンポスト化装置における微生物叢の解析
(4)微生物添加による分解律速因子の除去
(5)運転条件改良等による問題点の解決
(6)効率的なコンポスト化システムの設計

4.研究成果の概要
4−1 研究計画、目的に対する成果
(1)スーパー等で一年中入手可能な家庭用標準生ゴミを策定した。
(2)家庭用コンポスターにおける分解処理過程中に存在する主な微生物を分子生態学的に解析した。また、運転条件による微生物叢の違いと臭気発生を関連付けた。
(3)安定にコンポスト化が進む業務用コンポスターにおける微生物叢の変遷を追跡し、経験的手法の正当性を微生物学の面から裏付けた。
(4)コンポスター内に於いて生存可能な油分解菌の導入により、コンポスターの油分解能力を高めた。
(5)水分および通気量のコントロールにより、微生物叢を乳酸菌主体にする方法を確立し、それによって臭気発生を抑えられることを示した。
(6)残念ながら最終目標である効率的なコンポスト化システムの提案には至らなかった。これは以下の要因によると考えられる。
 (ア)装置の面からは、既に数百のメーカーによって開発が試みられていた。その全ては経験によるものであり微生物学からの裏付けのないものであったが、経験的な改良はそれなりに効果的であって、微生物学的解析はその正当性を確認するに止まった。
 (イ)生ゴミの微生物分解処理過程は極めて複雑なプロセスであり、現時点での分子生態学的解析、応用微生物学制御手法では、これをコントロールすることができなかった。

4−2 研究計画、目的外の成果
 生ゴミ分解過程に働く微生物叢の解析の中から、我々がBLxと名付けた特徴的な微生物が検出された。この微生物は、コンポスト化や下水処理のシステム中に普遍的に存在するようであり、我々のコンポスト化システムの中では全菌数の30-50%の割合で存在する。この菌には際だった特長がなく、コロニー形成能が弱く、基質の資化性も狭い。何かこの菌がドミナントになる要因があるはずである。また外来の微生物の多くは、安定に機能している生ゴミ分解微生物叢に投入しても、そこに生き残ることはできない。これらの現象は生ゴミ分解微生物叢が特別な社会を形成していることを示しており、またその安定化要因があるはずである。

4−3 研究成果の展望
 自然界における微生物よる有機物の分解作用が数多くの微生物の総合作用であることは良く認識されていたが、その内容に本格的に取り組んだのは恐らく我々の研究が初めてである。生ゴミの分解過程をこれほどの大金をかけて研究した例は世界に無い。その結果、おぼろげながら、分解過程に働く微生物叢が見えてくるようになってきた。少なくとも、お金と人材と手間をかければ、複雑な自然界の微生物活動が見え得ることを示したことに、本研究の第一の意義を感じる。
 またその微生物叢の解析の結果、(1)格別の能力も無いように見えるが、ドミナントに存在する微生物の発見、(2)外来の微生物を導入しようとしても追い出されてしまう現象(我々はこれを「微生物界のいじめ現象」と命名)等、微生物が特別に組織化された社会を形成しているとしか考えられない現象を確認した。この社会はある条件下ではそれなりに安定であり、先ほどのドミナント微生物の存在要因と共に社会の安定化の要因は何かと言うことが問題となる。我々はこのようなことを研究する学問を「微生物社会学」と名付け、現在その手法開発も含めて、この新しい学問の確立に向けて新たな研究段階に入っている。
 さらに我々は、本研究の成果として得られた微生物叢の解析技術を、清酒・醤油・つけもののような伝統的発酵食品の製造過程に適用することを提案し、平成14年度に食品会社系の財団からの補助金の受領が確定している。伝統食品製造技術に新たな局面を拓くものとして注目を集めつつある。

4−4 本事業の趣旨に鑑み、果たした役割
 20世紀の応用微生物学は、単離した一匹の微生物を殺菌した培地で生育させて、その機能を十二分に発揮させるという手法であった。しかし、環境問題に微生物機能を利用しようとする場合、殺菌操作といったものは考えにくく、また機能面からも集団としての機能が重要となる。このような微生物の利用方法は排水・廃棄物処理や発酵食品の製造では古くから行われていたが、近年の分子生物学的手法(分子生態学的手法)で本格的に解析を試みたのが本先導研究である。
 その成果は、学問的には既に述べたように「微生物社会学」という微生物集団の構造や安定化要因を解析するという新しい学問分野の勃興を促した。一方で応用微生物学の面からは従来の純粋培養系の利用から脱皮して「集団としての微生物機能の解析・制御・利用」という新しい局面を生み出した。本研究の5年間という限られた期間では、「生ゴミの分解」という極めて複雑な過程を完全に理解し制御することはできなかったが、本研究の過程に於いて、より解析が容易と考えられる微生物叢を既に取得しており、それらの解析の結果が待たれる。

5.キーワード

(1)廃棄物処理、(2)都市ゴミ、(3)生ゴミ
(4)微生物処理、(5)微生物叢解析、(6)分子生態学
(7)微生物社会学、(8)複雑微生物系

6.研究成果発表状況

A.学術雑誌論文(Journal Papers)
全著者名 論文名
Miho Aoshima, Mannix Salvador Pedro, Shin Haruta, Linxian Ding, Tomoko Fukada, Asuka Kigawa, Tohru Kodama, Masaharu Ishii, Yasuo Igarashi Analyses of Microbial Community within a Composter Operated Using Household Garbage with Special Reference of the Addition of Soybean Oil
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Biosci. Biuoeng. 91 5 456-461 2001

全著者名 論文名
Mannix Salvador Pedro, Shin Haruta, Masaru Hazaka, Rumiko Shimada, Chie Yoshida, Koichiro Hiura, Masaharu Ishii, Yasuo Igarashi Denaturing Gradient Gel Electrophoresis Analyses of Microbial Community from Field-Scale Composter
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Biosci. Bioeng. 91 2 159-165 2001

全著者名 論文名
Mannix Salvador Pedro, Nobuhiro Robert Hayashi, Takashi Mukai, Masaharu Ishii, Akira Yokota, Yasuo Igarashi Physiological and chemotaxonomical studies on microflora within a composter operated at high temperature
学術雑誌名 ページ 発行年
J. Biosci. Bioeng. 88 1 92-97 1999


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