昆虫の環境応答機構の解明と制御
Elucidation of response mechanisms of insects to environments and their utilization
プロジェクトリーダー 眞山滋志
神戸大学農学部(生物環境制御学科)教授



1.今までの研究成果
草食性昆虫の摂食行動メカニズムを解明するためには、昆虫とその摂食植物との生理生態的関係を解析するとともに、摂食植物に生存する細菌や昆虫体内の共生細菌との競合関係を明らかにし、このような植物を摂食した場合に昆虫がどのような影響を受けるかを明らかにする必要があります。過去2年半、草食性昆虫を取りまくこれら微生態環境を解析した結果、昆虫が摂食する植物には葉上(エピファイト)および内生細菌(エンドファイト)が生存し、これらが昆虫の摂食行動と成長に影響すること、エンドファイトが植物に内生した場合には、植物葉を介して昆虫の摂食行動を抑制することを明らかにしました。加えて、これら微生物の外来遺伝子導入系も確立しました。以上のことから、個々の相互関係を改善・強化することが可能となり、微生物を介した新規の昆虫制御系の開発が行えるようになりました。一方、昆虫の行動や成長を制御する物質の検索も試みられ、昆虫誘因忌避物質や疑似餌の利用と開発が進められました。また、昆虫の光周時計にかかわる制御遺伝子やその発現物質についても解析され、その詳細を明らかすることができました。
2.今後の研究方針・目標
上記の制御システムを利用した葉食害昆虫の防除法を開発します。この場合、環境に配慮した葉面限定的施用法が必要になりますので、細菌をアルギン酸ビーズ内に包埋した処理法について開発を進め、実用可能な昆虫制御システムの構築を推進します。本散布法によれば、周辺環境に飛散することなく安全に細菌を処理できますので、農業現場に適用することが可能であると考えています。また、このビーズ微粒子には、上記の細菌に加えて、「昆虫誘因物質」を内包させたり、「疑似餌」としての効果も持たせることも可能であります。さらに、昆虫光周性の概念に基づき、その発現制御物質を利用することも可能であります。このような研究目標を達成するため、以下の研究を進めてます。
1)細菌による葉食害昆虫の防除法を開発するため、アルギン酸ビーズ微粒子内への細菌包埋処理法を確立するため、次の研究を実施します。
a) 細菌の微粒子内包埋法の確立と生存性の確認2)エピファイトおよびエンドファイトへの外来遺伝子導入法を確立しましたので、 キチナーゼや殺虫性ペプチド遺伝子を導入し、より殺虫活性の高い形質転換体の作出を目指します。
b) 昆虫の葉摂食行動に及ぼすアルギン酸ビーズ微粒子サイズの影響
および疑似卵認識に対する検討
c)形質転換細菌内包ビーズの防除効果試験
3)昆虫−植物−細菌の相互関係において、植物および昆虫腸内におけるエピファイトおよび エンドファイトの動態を正確に把握するため、ファージを利用したモニタリング法を確立します。
4)植物内生細菌を保有する植物葉を昆虫に摂食させ、摂食抑制に関与する物質を解析するため、 次の研究を実施します。
a)植物内生細菌保有時に特異的に生成蓄積される物質の生理活性解析
b) 形質転換内生細菌を処理した昆虫における摂食抑制効果の検討
5)マダニ(Amblyomma variegatum)の寄生蜂トビコバチ(Ixodiphagous hookeri)および メクラカメムシの卵寄生蜂(Anaphes iole)における寄主認識物質の分離分析と構造解析を行い、 害虫と天敵昆虫の相互認識機構を解明します。
6)メラトニン合成系が概日時計の出力として機能し、光周時計の制御因子であることが 判明しましたので、メラトニン合成酵素NATとHIOMT遺伝子のクローニングおよび メラトニン受容体の解析を行い、昆虫における光周性と概日リズムの制御伝達機構を解明します。