平成11年度開始分 研究評価委員会「中間評価」報告書
 

2.研究推進委員会及び産学協力研究委員会の活動等について

(1)研究推進委員会

 理工領域、生命科学領域、複合領域に設けられた9研究推進委員会の活動について、評価結果を「ア.研究推進計画(全体構想、方針、推進方法等)及び研究プロジェクトの選定の妥当性について」、「イ.研究推進委員会による研究評価について」、「ウ.社会、経済への成果還元の可能性について」、及び「エ.研究推進委員会の構成及び活動状況の全体的評価と総括」の4項目に分けて報告する。

ア.研究推進計画(全体構想、方針、推進方法等)及び研究プロジェクトの選定の妥当性について
 本事業では、研究分野毎に研究推進委員会が設けられ、同委員会が研究推進計画を立案するとともに、これに沿って研究プロジェクトを構想しプロジェクトリーダーを選定するというトップダウン方式が事業実施の基本となっている。
 総括的にいえば研究推進委員会が立案した研究推進計画の内容は概して妥当であり、現状の方向で推進すべきものが多い。また、研究プロジェクトの選定についても、全体的に概ね妥当な選定であったと考えられる。
 しかし、研究推進計画立案に当たっての目標の明確化、研究プロジェクト選定に当たっての目標との整合性などいくつかの問題点も指摘されている。また、個々の研究プロジェクトの進捗状況として見れば必ずしも期待どおりのものばかりとはいえない。以下に指摘された問題点を理工領域、生命科学領域、複合領域に分けて示す。
   
 理工系評価部会が担当した4研究分野のうち、「光科学」については、明確な産業的用途が明らかとはいえないが、社会的貢献(技術の確立)に結びつく萌芽は一般的にこのような形態をとることが多いことから、当面は可否の議論よりは着実な観測と成果の集積に力を注ぐべきである。「知的で動的なインターネットワーキング」については、研究プロジェクト間のテーマのオーバーラップが多少見られるので、各研究プロジェクトの役割分担とその連携をより明確化する必要がある。「感性的ヒューマンインタフェース」については、学際的であるが故に研究対象が発散する心配が有るため、研究推進委員会の指導の下で特徴ある研究成果を挙げるよう努力することが望まれる。「電磁波の雑音レベルの低減」については、選定された4研究プロジェクト各々は、電磁波の雑音レベル低減のために重要なテーマであると認識されるものの、その取り組み方が古典的、伝統的なため、ますます先鋭化、複雑化する現在の電磁波環境問題に対処できるとは思われないという観点から、もっと野心的かつ斬新な取り組みに挑戦していく姿勢があって然るべきと考える。また、情報社会が高度化する状況にあって、電磁波環境問題の視点が変わってきていることから、現在問題となっている重要テーマに果敢に挑戦すべきである。
    
 生命科学系評価部会が担当した2研究分野のうち、「昆虫特異機能の発現機構と開発」については、昆虫という一般の人々の日常生活と関係の深い独自な対象を採り上げていることから、その為にかえって興味の中心が広がり焦点が散漫になりがちになっているため、今後は、研究の焦点を十分に絞り込むとともに、研究プロジェクト相互間の有機的連携を密にし、ホリゾンタルな連携研究を実現すべく、メンバーにインセンティブをもたらすような研究活動を推進してゆく姿勢が望まれるとともに、一部の研究プロジェクトについてはメンバーの再構築も考慮すべきである。「血管新生と分化制御」については、本研究領域の国際的競争の激しさをふまえて、一部の研究プロジェクトについては、目標とそれを達成する為の具体的な戦略についての再検討が必要である。
 複合系評価部会が担当した3研究分野のうち、「アジア地域の環境保全」については、選択されている地域が今後ますます開発の勢いにさらされるアジア地域の環境問題の本質を捉えるという目的に適しているか、また、方法論が適切かという点については、さらに検討の余地があることから、研究推進委員会は、研究プロジェクトの地域選定や方法論について、研究分野としての十分な代表性を持つ配慮が求められる。「外科領域を中心とするロボティックシステムの開発」については、5つの研究プロジェクトの中には、一部テーマが重複するものや各研究プロジェクト間の連携が不十分なものが見受けられるため、幾つかの研究プロジェクトについては、今後、統合を含めた重点化を図ることが必要であるとともに、後半の研究期間内に開発するシステムの明確化及び集約化を図ることが望ましい。
 
    
イ.研究推進委員会による研究評価について
 全体的に見て、研究評価委員会が昨年度指摘した問題点の改善が進み、格段に客観的で適正な評価が行われていることは喜ばしい。
    
 理工系評価部会が担当した研究分野については、「電磁波の雑音レベルの低減」を除く他の研究推進委員会では、概ね適切な評価がなされていると判断される。「電磁波の雑音レベルの低減」については、一部に論文等の成果発表や特許等の申請状況において不十分な研究プロジェクトがあるにもかかわらず、全ての研究プロジェクトの成果が同等と評価していることが疑問である。本事業は、多額の研究費を費やして実施する研究推進制度であることから、研究推進委員会では厳格な研究評価がなされるべきである。
     
 生命科学系評価部会が担当した研究分野については、概ね適切な評価がなされていると判断される。ただし、「昆虫特異機能の発現機構と開発」については、研究分野の全体構築における各研究プロジェクトの位置付けの明確化といった観点から、より適切な評価が望まれる。なぜならば、各研究プロジェクトの明確な方向付けが、研究分野全体の有機的連携の強化とそれによる新たな研究へのインセンティブをもたらし得るからである。また、「血管新生と分化制御」についても、同様な視点での一層の配慮が望まれる。
    
 複合系評価部会が担当した研究分野については、概ね適切な評価がなされていると判断される。ただし、研究推進委員会によっては、評価者間の評価に大きな相違があったり、研究評価部会による評価に比べて評価が高すぎる場合があった。また、研究推進委員会による各研究プロジェクトに対する評価は、どちらかと言うと画一的であったことから、いかなる視点による評価なのかを明確にするとともに、評価自体に未来開拓学術研究推進事業としての創造性の有無を評価する視点が望まれる。
    
ウ.社会、経済への成果還元の可能性について
 研究成果を社会や経済に真に還元するためには、具体的な特許や企業化の展望が必要である。本事業の実施方法にも、“研究の成果については、人類共通の「知的資産」として広く普及に努め、かつ、社会への還元に努めることとしています”とあることから、研究推進委員会及びプロジェクトリーダーはこのことを改めて認識するとともに徹底することが重要である。
    
 理工系評価部会が担当した研究分野について、「光科学」は、産業的に有用な技術となり得るかどうかについては現時点では判断できる段階にない。しかしながら、新しい未知の領域を切り開こうとする研究内容であり、いくつかの成果も挙がってきていることから、今後の進展に期待を持ちたい。「知的で動的なインターネットワーキング」は、まだ萌芽的な研究としての側面が強いが、次次世代インターネットとしての標準化に貢献していくことにより、21世紀型社会システムのインフラとして、社会、経済の発展に重要な貢献を果たしていくことが期待される。「感性的ヒューマンインタフェース」は、人間の能力開発への寄与、コンピュータとのインタフェースの改革の2つの面で、社会への成果の還元が期待される。「電磁波の雑音レベルの低減」は、将来の高度情報社会を実現するうえで避けて通れない重要な課題に取り組んでおり、目標が達成されれば、社会、経済への成果の還元が期待される。
    
 生命科学系評価部会が担当した研究分野についても、直接社会、経済への成果の還元を目指した研究プロジェクトが少なくない。「昆虫特異機能の発現機構と開発」は、環境との密接な関連下にあり、昆虫というユニークな対象がもたらす生物活性を有する新規な分子あるいは化合物の創出を期待し得ることなど期待は大きい。「血管新生と分化制御」は、社会の高齢化が進展しつつある現在、「老化は血管から始まる」という加齢、老化の研究領域から生み出された言葉が象徴するように、期待は大きい。がんの治療法として、近年、血管新生の制御が有力となっていること、脳梗塞、心筋梗塞などの動脈閉塞症の予防及び治療法の開発、並びに再生医療においても血管新生の重要性が認識されつつあることを指摘しておきたい。基礎から臨床応用への一貫した流れの創出を目指す本研究分野の独自性は、研究成果の社会、経済への還元という視点から大いに注目されてよい。
    
 複合系評価部会が担当した研究分野について、「アジア地域の環境保全」は、十年単位の観測と人間行動の政治、文化、社会的調整が必要であり、単純な経済的利益に換算しがたい価値がある。この研究分野は長期的に見れば大きな社会的成果還元が期待できるものであり、いわゆる「底辺からの取り組み」によって「一定の指針を与える」期待が持てるものである。また、地域に根ざした環境保全の展開に大いに寄与する可能性も秘めている。「強磁場下の物質と生体の挙動」は、磁場による生体への影響が本当にあるのかという日常的かつ社会的な不安や疑問に答えるだけではなく、各種の学問的な問題にも取り組んでおり、全体的には探索的研究を主体としながらも、磁場を利用した環境汚染物質の除去や資源循環利用など、切実な社会のニーズに応える大きな可能性を秘めている。さらに、強磁場下での溶融凝固、焼結、結晶化における新規効果の発見、均質材料や超磁歪材料の製造、微粒子、高分子、セラミックス等の磁場配向による異方材料の創成など、既にいくつかの特許を取得しており、社会、経済への成果還元について実績を持って応えつつある。「外科領域を中心とするロボティックシステムの開発」による外科手術などにおけるロボティックシステムの導入は、工学的手法とコンピュータ支援外科の融合による医療分野への応用であり、外科治療学のみならず今後の医療のあり方を大きく転換させる可能性を持っている。特に外科手術がどの地域においても安全かつ正確に、絶大な信頼性と再現性をもって行われることは社会の切実な願いでもある。医学と工学の最先端の科学技術を融合した外科領域を中心とするロボティックシステムを開発することによってその願望が実現できれば、社会への多大な貢献が期待される。
    
エ.研究推進委員会の構成及び活動状況の全体的評価と総括
 9研究推進委員会の活動状況の全体的評価は、「極めて適切」が1委員会、「概ね適切」が7委員会であり、大部分の研究推進委員会の活動は適切に進められていると判断される。しかしながら、研究評価部会における評価作業の段階においては、研究推進委員会活動の現状や在るべき姿についての問題点がいくつか指摘された。それらのうち、比較的共通に指摘された問題点を以下に示す。
    
1)研究推進委員会の構成について
 研究推進委員会が研究プロジェクト及びプロジェクトリーダーの選定を行うため、研究プロジェクトに及ぼす影響が少なくない。また、研究推進委員会は、未来開拓学術研究推進事業の中核的役割を担っており、特に、複合領域では、どのような視点で研究推進委員会を構成するかによって、当該研究分野の活動状況が大きく影響されると考えられる。
    
2)研究推進委員会の活動状況の全体的評価と総括

研究プロジェクトの構想、選定にあたり、プロジェクトメンバーとして既に評価の定まった研究者を選定している傾向が見受けられる。近視眼的な選定は避け、たとえ実績は少なくても、一部に若い研究者を思い切って選定してゆく方策を考慮すべきである。また、研究の独創性や意欲の高い研究プロジェクトを重点的にサポートするシステムの構築、中長期的な視点から今後発展が望める研究分野を持続的にサポートするシステムを考慮すべきである。これらは、本事業で採用しているトップダウン方式による研究推進制度の評価を高める方策にもなると考えられる。

研究推進委員会によっては、研究プロジェクトの企画案を公募したことが当を得た方策であったり、時宜を得た先駆的企画が功を奏した例があった。このことは、研究推進委員会が常にプロジェクトリーダー等の動向に通じていたことにより、研究プロジェクトの進捗状況の把握と指導・助言のための緊密な連絡体制がとれていたことの表れと考えられる。



(2)産学協力研究委員会

 産学協力系評価部会では、産学協力研究委員会及び当該産学協力研究委員会の提案による研究プロジェクトについて評価するとともに、各研究プロジェクトの位置付け、評価の在り方と意義などについて活発な討議を行った。ここでは、評価結果を、「ア.産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定について」、「イ.産学協力研究委員会による研究評価について」、及び「ウ.産学協力研究委員会による研究プロジェクトに係る活動状況の全体的評価」の3項目に分けて報告する。

ア.産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定について
 8研究プロジェクトは、各産学協力研究委員会が取り扱う研究分野における重要かつ特徴のある先端的研究プロジェクトに焦点を絞っており、その点で未来への活路を切り開こうとする性格を持っており、従前にも増して産学連携による開発研究への意欲が認められた。
 なお、産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定については、ほとんどの研究プロジェクトについて「極めて妥当」、または「妥当」と判断したが、1研究プロジェクトについては、研究成果の産業化の観点から選定の妥当性について疑問があった。
    
イ.産学協力研究委員会による研究評価について
 8研究プロジェクトそれぞれは、産学協力研究委員会の提案に基づくものであり、各産学協力研究委員会は常に研究プロジェクトの進捗状況を把握するとともに評価を行い、適切な助言、支援を行うことが期待されている。特に、研究の進捗状況については客観的かつ厳しい評価が求められるが、各産学協力研究委員会による研究プロジェクトに対する研究評価については、1委員会については「極めて適切」、11委員会については「概ね適切」と判断した。
    
ウ.産学協力研究委員会による研究プロジェクトに係る活動状況の全体的評価
 9委員会については「概ね適切である」と判断し、1委員会については「極めて適切である」と判断した。なお、残りの1委員会については「やや不十分である」と判断した。
 

平成11年度開始分
中間報告書 目次
1.序 文
  2.研究推進委員会及び産学協力研究委員会の活動等について
    3.研究プロジェクトの評価と今後の取扱いについて
  4.事業全体について
日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業