平成10年度開始分 研究評価委員会「中間評価」報告書
 

2.研究推進委員会及び産学協力研究委員会の活動等について

(1)研究推進委員会

 理工領域、生命科学領域、複合領域に設けられた13の研究推進委員会の活動についての評価結果を「ア.研究推進計画(全体構想、方針、推進方法等)及び研究プロジェクトの選定について」、「イ.研究推進委員会による研究評価について」、「ウ.社会、経済への還元の可能性について」及び「エ.研究推進委員会の構成及び活動状況の全体的評価と総括」の4項目に分けて報告する。

ア.研究推進計画(全体構想、方針、推進方法等)及び研究プロジェクトの選定について
 本事業では、研究分野毎に研究推進委員会が設けられ、同委員会が研究推進計画を立案するとともに、これに沿って研究プロジェクトを構想し、プロジェクトリーダーを選定するというトップダウン方式が実施の基本となっている。
 総括的にいえば研究推進委員会が立案した研究推進計画の内容は概して妥当であり、現在の方向で推進すべきものが多い。また、研究プロジェクトの選定結果についても、全体的には概ね妥当な選定と考えられる。
 しかし、研究推進計画の立案に当たっての目標の重点化や明確化、研究プロジェクトの具体的選定に当たっての目標との整合性などいくつかの問題点も指摘されている。また、個々の研究プロジェクトの進捗状況は必ずしも期待どおりのものばかりとは言えない。以下に各研究分野の推進に対して、指摘された問題点を理工領域、生命科学領域、複合領域に分けて示す。
   
 理工系評価部会が担当した4研究分野のうち、「エネルギー利用の高効率化と環境影響低減化」については、平成11年度理工系評価部会中間評価報告書において「研究の全体構想・推進方法については評価されるものの、研究推進委員会の方針が個々の研究プロジェクト研究者に十分周知されてない」と指摘されていたが、今回は、研究推進委員会委員長から、研究の柱と分担課題の設定及び研究体制の整備、研究開発の最終目標を数量的に明示するとの報告があった。今後においても、研究の全体構想・推進方法について引き続き改善されることが期待される。なお、本年度評価対象の研究プロジェクトについては、個別の研究開発の意義は認められるが、その選定がボトムアップ的に採択されたもので、研究推進委員会が目指している立場の中での研究プロジェクト意義については十分の必然性があるとはみなし難いとの指摘があった。「光科学」については、本来のこの分野は広範にわたるので、研究プロジェクトが化学系のみに集中しているのは好ましくない。本研究分野の選定において他の研究分野との研究内容の調整が行われたとはいえ、本来「光科学」には非線形光学、光通信等の重要分野が当然含まれているとの指摘があった。また、化学分野に限定した場合の研究プロジェクトの選定は概ね適切であるが、プロジェクトリーダーの選定に際しては、リーダーの資質を勘案して目標の達成可能性を検討することが必要と思われるとの指摘もあった。
    
 生命科学系評価部会が担当した4研究分野のうち、「成人病−遺伝素因と環境因子の解明」については、未来開拓学術研究推進事業としての位置付けを考えたときに、研究者固有の独創的な視点(テーマ、対象遺伝子)を更に強化する必要があると指摘された。また、「成人病」ではテーマが広すぎるため、「血管生物学」など個体レベルのテーマに焦点を絞るほうがよいという意見もあった。「遺伝子発現制御ネットワーク」については、遺伝子の構造と機能の解明は学術的にも社会的にも重要な課題であり、研究推進委員会の目的は評価されるが、研究推進計画は総体的にみて独創性と開拓性にやや欠け、焦点の絞り込みも不十分という指摘があった。研究分野の全体計画における各研究プロジェクトの位置付けについての検討と研究プロジェクト相互間の有機的連携の強化が望まれるとともに、目標達成のためには統一的コンセプトの創出、それに基づく具体的戦略についての検討が必要との意見があった。
 いずれにせよ、各研究プロジェクト間の相互交流の促進策を今後どのように案出し、実行してゆくかという点において、研究推進委員会の前向きな対応が望まれる。
 
   
 複合系評価部会が担当した5研究分野のうち、「再生医工学」については、個々の研究プロジェクトの成果は国際的水準に達していると思われるが、それらを総括して、本研究分野が最終目標とする「再生組織の臨床応用」にどこまで到達できるか疑問である等の指摘があった。「生体の計測と制御」については、研究プロジェクト間の相互乗り入れ的研究やボーダレス研究の促進、更には、質問公募型の公開シンポジウム等を通じて、新課題の発見や本研究分野の新たな展開を期待する。「環境負荷の影響評価と軽減」については、研究プロジェクトの実施対象地域での文化、価値観に対する配慮をより明確に意識した研究推進委員会構成が望まれるとの指摘があった。「アジア地域の環境保全」については、研究分野の全体構想が出発点において不十分である。環境保全という課題は、多くの人が共通の「理念」 を真理のようにして共有しているために、課題や問題意識を対立的思考で検討することが少なく、本研究課題も出発点において対立概念が検討された形跡がない。また、最初のテーマの選択と研究対象の選択に問題があり、改善されつつあるが、最初の問題が尾を引いていると思われる。アカデミックな成果を政策に結び付けて社会の持続的発展に貢献することは実に困難である。アカデミックな専門性を保持しながら、具体的成果への努力をさらに踏み出してほしいとの指摘があった。今回の評価対象研究プロジェクトは、“比較的閉鎖的な形態で維持されてきた自然と人間の共生関係が、どのような条件下において持続的で、どのような条件で破壊に至るかの過程を、複数の弄(ろん:カルスト地形によって形成されたすり鉢状の盆地集落のうち、直径が1q以内の小盆地集落を中国では特に弄と称している)の比較に基づいて究明できる可能性が高い”と位置付けられており、その重要性は理解できるが、必要な作業量は今後益々膨大となることが予想されるため、初期の目的達成が危惧されるとの指摘があった。「電子社会システム」については、その全体構想、方針、推進方法等は概ね妥当といえる。しかし、研究推進委員会の重要な役割の一つである個別の研究プロジェクトの推進に係る指導・助言については、形式的で必ずしも機能していないのではないかという疑問を持たざるを得ない研究プロジェクトもある。それ故、研究プロジェクトによっては、研究方針や推進方法等について、指導・助言などによる軌道修正等を含む突っ込んだ議論の展開が望まれるとの指摘があった。
    
イ.研究推進委員会による研究評価について
 全体的に見て、昨年度の研究評価委員会で指摘された問題点の改善が進み、格段に客 観的で適正な評価が研究推進委員会により行われていることは喜ばしい。
    
 理工系評価部会が担当した研究分野については、適切との判定、又は前年度に比べ改善を評価される研究推進委員会がある一方で、研究成果の評価から考えて、研究推進委員会の研究プロジェクトの把握は不適切と評価された研究推進委員会や研究プロジェクトによっては成果評価が甘いと評価された研究推進委員会もある。多額の研究費を費やして行うプロジェクト研究であるため、それに見合う適切な評価が研究推進委員会でなされることが望ましい。
     
 生命科学系評価部会が担当した研究分野については、概ね適切であると評価された。しかしながら、「遺伝子発現制御ネットワーク」については、やや過剰評価と思われる点も認められる。これは研究推進計画全体における各研究プロジェクトの位置付けの不明確さに起因するものと考えられ、この点についての一層の配慮が必要であるとされた。また、解明すべき問題の具体的把握とその攻略法の創出に弱さがあるとの指摘がなされ、今後新しいコンセプトの創出を目指すとともに、それに向けての各研究プロジェクトの重点化並びに相互交流によるブレークスルーの実現が期待される。
    
 複合系評価部会が担当した研究分野については、概ね適切であると評価されたが、強いて言えば、評価が高い方に偏る傾向がないわけではない。研究推進委員会による研究評価は、必然的に研究推進委員会の在り方にフィードバックされる。その意味においては、研究推進委員会の自己点検評価としても意義があり、可能なかぎり厳正に行われなければならない。
    
ウ.社会、経済への還元の可能性について
 研究成果を社会や経済に真に還元するためには、具体的な特許や企業化への展望が必要である。本事業の実施方法にもそのことは明記されており、“研究の成果については人類共通の「知的資産」として広く普及に努め、かつ、特許等に結び付く成果が現れれば速やかな処理に努め”とあることから、研究推進委員会及びプロジェクトリーダーはこのことを認識し、広く参加する研究者に徹底することが必要である。
    
 理工系評価部会が担当した研究分野における研究プロジェクトについては、エネルギー関連の研究である「革新的未来型エネルギー生成・変換の方式、材料、システム化」、「エネルギー利用の高効率化と環境影響低減化」は、目標が達成されれば直接社会、経済への還元が期待される。一方、「計算科学」は、短期的な還元ではなく、次世代の社会、経済の発展となる知的資産の形成につながると期待される。また、「光科学」は、新しい知識の創成とその波及効果が期待されるが、研究プロジェクトの内容によってその可能性は大きく異なる。
    
 生命科学系評価部会が担当した研究分野における研究プロジェクトについても、社会への直接的な還元を目指したものが少なくない。「高次脳機能」における脳解析技術開発における新展開、「細胞シグナリング」における糖尿病などの疾患に対する新しいアプローチの展開、「成人病−遺伝素因と環境因子の解明」におけるヒト疾患の分子病理解明へのアプローチなど、社会、経済への還元というレベルで今後の進展に期待し得るものは大きい。他方「遺伝子発現制御ネットワーク」にみられる基礎的研究の研究プロジェクトにおいては、その目指すところが生命科学の基盤解明へと向かっており、成果が達成されるに到った時には他の領域への波及効果は大きく、時間的ずれはあっても社会、経済への還元へと実質的に連なってゆくものである。基礎研究無しには本当の意味の応用研究も無く、基礎と応用が従来にも増して直結するようになった現代の生命科学の状況からして当然であろう。
    
 複合系評価部会が担当した研究分野における研究プロジェクトについては、未来開拓学術研究推進事業によって、従来科学研究費補助金では実現が困難であった複合領域の研究が本格的に活性化され、未来開拓にとって重要な様々な研究が勢いよく芽を吹きだした感がある。今回評価対象であった5研究分野は、何れも人類社会にとって重要課題であり、研究の成果が社会に還元されることは間違いない。「再生医工学」及び「生体の計測と制御」は既に社会、経済への顕著な還元が始まりつつあると言っても過言ではない。「環境負荷の影響評価と軽減」及び「アジア地域の環境保全」は問題が複雑なだけに時間を要するが、人類が避けて通れない必須の課題である。「電子社会システム」は人文社会科学系を主体とする現段階では唯一の研究分野であるが、その中の研究プロジェクトによっては、既に研究成果の社会、経済への還元が始まっている。しかも、研究推進委員会の指導や助言によって、異なる学問分野あるいは異なる専門分野間の交流や研究の相互乗り入れや共同研究が活発化しており、科学技術の新展開と社会の発展に大きな貢献が期待される。
    
エ.研究推進委員会の構成及び活動状況の全体的評価と総括
 13研究推進委員会の活動状況の全体的評価の集計結果は、「極めて適切」が2、「概ね適切」が7で、両者を併せると全体の約7割であり、数字の面からは大部分の研究推進委員会の活動は適切に進められていることになる。しかしながら、評価部会の評価作業の段階においては、研究推進委員会の活動の現状や在るべき姿についての問題点がいくつか指摘された。それらのうち、比較的共通に指摘された問題点を以下に示す。
    
1)研究推進委員会の構成について

研究推進委員会メンバーが多忙すぎることが十分な推進指導をすることを妨げているという点が、多くの研究推進委員会で表明された。

研究推進委員会は未来開拓学術研究推進事業の中核的役割を担っている。複合領域の各研究分野の研究推進委員会の構成は、最初の試みとしては概ね妥当と判断されるが、決して最良でもなく十分でもない。研究推進委員会の構成がどのような考え方あるいは根拠に基づいてなされたかは別として、その構成が研究推進委員会の活動状況に大きく影響することは確かであり、特に、研究プロジェクトやプロジェクトリーダーの選定を左右する可能性が高い。それ故、研究推進委員会の構成については、従来の経験だけに頼るのではなく、研究推進に対するより合理的な方策を見いだせるか否かについても検討する必要があろう。

    
2)研究推進委員会による研究評価について
 関係者のみでの実施を避けて、研究プロジェクトの内容を完全に理解し得る、かつ、現在研究の現場にある第一級の研究者を評価者に起用して、評価の客観性を高めるべきとの意見があった。


(2)産学協力研究委員会

 産学協力系評価部会では、産学協力研究委員会及び当該産学協力研究委員会に所属する研究プロジェクトについて評価するとともに、評価の根拠となる各研究プロジェクトの位置付け、評価の在り方と意義などについて活発な討議が行われた。ここでは評価結果を、「ア.産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定について」、「イ.産学協力研究委員会による研究評価について」及び「ウ.産学協力研究委員会の研究プロジェクトに係る活動状況の全体的評価」の3項目に分けて報告する。

ア.産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定について
 4研究プロジェクトは、各産学協力研究委員会が取り扱う研究分野における重要かつ得意な、特徴のある先端的研究プロジェクトに焦点を絞り、その点で未来への活路を切り開こうとする性格を持っており、一昨年度、昨年度と比較し、全体的に産学連携の開発研究への傾向と意欲が認められた。
 4研究プロジェクトそれぞれの選定の妥当性については、4産学協力研究委員会とも概ね妥当と評価された。
    
イ.産学協力研究委員会による研究評価について
 4研究プロジェクトそれぞれは、産学協力研究委員会の提案に基づくものであり、各産学協力研究委員会は常に研究プロジェクトの進捗状況を把握し、研究評価を行い、適切な助言、支援を行うことが期待される。
 したがって、研究の進捗状況について、客観的な厳しい評価が求められる。各産学協力研究委員会による研究評価の適切さについて、4産学協力研究委員会とも概ね適切と評価された。
    
ウ.産学協力研究委員会の研究プロジェクトに係る活動状況の全体的評価
 最後に、各産学協力研究委員会がその研究評価に基づき、研究プロジェクトへの適切な助言、支援等を行っているかを含めて、産学協力研究委員会活動の全体的評価を行った。評価部会委員、評価協力者の意見を集約したところ、4産学協力研究委員会とも「概ね適切」と評価された。
 

平成9年度開始分
中間報告書 目次
1.序 文
  2.研究推進委員会及び産学協力研究委員会の活動等について
    3.研究プロジェクトの評価と今後の取扱いについて
  4.事業全体について
日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業