平成9年度開始分 研究評価委員会「中間評価」報告書
 

2.研究推進委員会及び産学協力研究委員会の活動等について

(1)研究推進委員会

 理工領域、生命科学領域、複合領域に設けられた26の研究推進委員会の活動についての評価結果を「ア.研究推進計画(全体構想、方針、推進方法等)及び研究プロジェクトの選定について」、「イ.研究推進委員会による研究評価について」、「ウ.社会、経済への還元の可能性について」及び「エ.研究推進委員会の構成及び活動状況の全体的評価と総括」の4項目に分けて報告する。

ア.研究推進計画(全体構想、方針、推進方法等)及び研究プロジェクトの選定について
 本事業では、研究分野毎に研究推進委員会が設けられ、同委員会が研究推進計画を立案するとともに、これに沿って研究プロジェクトを構想し、プロジェクトリーダーを選定するというトップダウン方式が実施の基本となっている。
 総括的にいえば研究推進委員会が立案した研究推進計画の内容は概して妥当であり、現在の方向で推進すべきものが多い。また、研究プロジェクトの選定結果についても、全体的には概ね妥当な選定と考えられる。
 しかし、研究推進計画の立案に当たっての重点化や目標の明確化、研究プロジェクトの具体的選定に当たっての目標との整合性などいくつかの問題点も指摘されている。また、個々の研究プロジェクトの進捗状況は必ずしも期待どおりのものばかりとは言えない。以下に各研究分野の推進に対して、指摘された問題点を理工領域、生命科学領域、複合領域に分けて示す。
   
 理工系評価部会が担当した11研究分野のうち、「原子スケール表面・界面ダイナミクス」については、全体的に広がりすぎて焦点がぼけている印象を与え、惰性的に運営されている面が強いので、思い切った重点化が必要であるとの指摘があった。「次世代プロセス技術」については、省資源、省エネルギー、環境調和、あるいはエコマテリアルを目指すという研究推進委員会の全体方針は良いが、研究プロジェクトの内容には問題があり、目標の実現からはかなり遠いとの印象を受けることから、研究プロジェクトの選定の適切さに疑問があるとの指摘があった。「知能情報・高度情報処理」については、マルチメディア・コンテンツの高次処理の研究は既にいろいろと実施されているので、未来開拓学術研究推進事業の特徴をどのように発揮すべきか、研究推進委員会と研究プロジェクト間でさらなる検討が望まれる。「シンセシスの科学」については、新しい学問体系の創設を意図した研究推進委員会の全体構想は妥当と評価されている。しかし、研究プロジェクトにおける研究内容は独創性に乏しく、曖昧な印象を与えており、具体的な成果が得られるかどうかにかなりの疑問がある。「革新的未来型エネルギー生成・変換の方式、材料、システム化」については、研究プロジェクトに新鮮さが乏しく、問題の整理の必要性が指摘された。「エネルギー利用の高効率化と環境影響低減化」については、構想と運営方針は適切で、研究プロジェクトの選定も妥当と評価されたが、研究プロジェクトを推進している研究者に対して、研究推進委員会の構想の周知が不十分であるとの指摘があった。また、研究プロジェクトの焦点をより明確にすべきとの指摘があった。
    
 生命科学系評価部会が担当した9研究分野のうち、「感染と生体防御」並びに「ゲノム微生物学」において、研究推進委員会のより一層きめ細かい研究プロジェクトの立ち上げ、指導が望まれるとする指摘があった。「生命体の形成機構」については、研究プロジェクト設定後の変更等の在り方について問題点が指摘された。「成人病−遺伝素因と環境因子の解明」については、非常に包括的な多くの分野に関与するものであるが、研究推進計画と研究プロジェクト選定との整合性に欠ける点があるとの指摘があった。
 複合領域に係る評価作業グループが担当した6研究分野のうち、「生命情報」については、研究推進計画の目的・理念達成のための個々の研究テーマの位置付けを明確にし、その実現のために研究推進委員会は指導性を発揮し、研究を活性化して欲しいとの指摘があった。「生体の計測と制御」については、各研究プロジェクトにおける立案・計画の詰めが甘いとの指摘があり、今後、研究対象を絞り込み、責 任を果たすよう、最善の努力をしてほしいとの指摘があった。「環境負荷の影響評価と軽減」については、類似の研究を行っている科学研究費補助金や他省庁などの研究との協力や住み分け、未来開拓学術研究推進事業としての特色の明確化、人文・社会科学との連携の必要性などが指摘されている。「アジア地域の環境保全」については、他機関の研究との関連を考慮して、未来開拓の視点から特徴、性格等をはっきりさせる必要がある。選定されたテーマが本当に効果的なものであったかを全体構想の面から検討して、研究分野の位置付けを明確にすることが望まれる。
 また、今後の複合領域の研究推進委員会による全体構想及び方針の策定や研究プロジェクトの選定に当たっては、複合領域に相応しい横断的な研究推進計画の作成や研究推進のための協力者の選定等で、人文・社会科学系の研究者を含めた、より広い視野が必要であると考える。
    
イ.研究推進委員会による研究評価について
 全体的に見て、昨年度の研究評価委員会で指摘された問題点の改善が進み、格段に客観的で適正な評価が研究推進委員会により行われていることは喜ばしい。しかしながら、一部の研究推進委員会においては、研究推進委員会委員とプロジェクトリーダーの兼務が行われている場合も見受けられる。兼務の是非は、各研究推進委員会の運営方針によるもので、一概に非とするものではないが、外部からの批判に耐えるよう、兼務のある研究推進委員会においては、一層厳しい内部評価を行う必要がある。
    
 理工系評価部会が担当した研究分野については、「次世代人工物質・材料の探査的研究」は、各研究プロジェクト毎に専門的な指導・助言を行うための研究推進委員会委員(2名以上)によるアドバイザー制を設けるとともに、各研究プロジェクトの評価に当たっては、更に2〜3名の第三者を加えて行うなど、研究推進委員会による内部評価に関しては模範的な体制を作り上げている。また、「マルチメディア高度情報通信システム」では、産業界の研究推進委員会委員を含め、内部評価体制の改善が図られている。その他、平成9年度にスタートした8つの研究推進委員会では、研究推進委員会委員とプロジェクトリーダーの兼務を避けているなど適正な評価に向けての改善が認められる。しかし全体としては、厳しさが不十分な印象を与えている場合も多いので、研究推進計画との整合性、目的達成のための重点化などに留意した適正な評価が行われるよう、一層の努力を期待したい。
     
 生命科学系評価部会において昨年度に引き続き評価対象となった研究分野については、昨年度に比べ格段に客観的で厳正な評価が行われているという認識となった。しかしながら、本年度初めて評価の対象となった研究分野については、評価に不満足な点が多かった。例えば、「感染と生体防御」及び「ゲノム微生物学」については、研究推進委員会としての評価を再検討し、研究プロジェクト自身の再構築を求めることになった。「生命体の形成機構」については、研究推進委員会の評価は適切であるが、プロジェクトリーダーが途中で研究の方向性を大きく変えるのがトップダウン方式として適切であるのかどうかについて、研究評価委員会においてはかなり厳しい意見があり、このことは今後検討すべき課題である。また、「細胞シグナリング」については、研究プロジェクトの成果について問題点の指摘があったが、研究推進委員会に検討を願うこととした。
    
 複合領域に係る評価作業グループが担当した研究分野については、概ね適切な評価が研究推進委員会により行われていると判断された。しかし一部の研究推進委員会については、評価が高すぎるとの指摘があった。また、研究分野の重点化に問題があると指摘されるものがあることから、研究の進展を見ながら一層の重点化を考慮する必要があろう。
    
ウ.社会、経済への還元の可能性について
 研究成果を社会や経済に真に還元するためには、具体的な特許や企業化への展望が必要である。本事業の実施方法にもそのことは明記されており、“研究の成果については人類共通の「知的資産」として広く普及に努め、かつ、特許等に結び付く成果が現れれば速やかな処理に努め”とあることから、研究推進委員会委員及びプロジェクトリーダーはこのことを認識し、広く参加する研究者に徹底することが必要である。
    
 理工系評価部会が担当した研究分野における研究プロジェクトについて見ると、その多くは社会的に意義ある研究成果を目指して立案されており、少なくとも長期的に見れば社会へ還元される知的財産の形成が期待できる内容である。また、多くの研究プロジェクトで特許取得への努力が見られている。一方、研究内容が極めて基礎的で、実用的な成果を望みにくい研究プロジェクトもあるが、基礎研究において高く評価される業績は社会への貢献の一種と考えることができる。
    
 生命科学系評価部会が担当した研究分野における研究プロジェクトについても、社会への直接的な還元を目指したものが少なくない。「食資源動物の科学」の中の諸研究プロジェクトは直接そのようなことを目指したものである。また、「感染と生体防御」及び「成人病−遺伝素因と環境因子の解明」分野の諸研究プロジェクトは、直接病気の原因解明と治療を目指すものであり、社会的な貢献は著しいものと考えられる。その他の研究プロジェクトについては、直接的な社会的還元が認められなくとも、いずれも重要なテーマであり、その発展の如何によっては、おおいに社会的な還元が期待される研究プロジェクトである。
    
 複合領域に係る評価作業グループが担当した研究分野における研究プロジェクトについては、環境、福祉などへの貢献をはじめ、今後の推進如何によってはいずれも社会、経済への貢献が期待できる内容である。その成否は今後の研究プロジェクトの推進如何にかかっていると言える。とりわけ、「再生医工学」は、再生治療医学に革新的手法を提供するとともに、三次元構築した培養細胞の応用は社会、経済への波及効果が極めて大きいと考えられる。
    
エ.研究推進委員会の構成及び活動状況の全体的評価と総括
 26研究推進委員会の活動状況の全体的評価の集計結果は、「極めて適切」が3、「概ね適切」が16で、両者を併せると全体の70%を超え、数字の面からは大部分の研究推進委員会の活動は適切に進められていることになる。しかしながら、評価部会や評価作業グループにおける評価作業の段階においては、研究推進委員会の活動の現状や在るべき姿について多くの問題点が指摘された。それらのうち、比較的共通に指摘された問題点を以下に示す。
    
1)研究推進委員会の構成について

研究推進委員会委員とプロジェクトリーダーとの重複に慎重に配慮すること。この点は前年度の研究評価委員会「中間評価」報告書においても評価の客観性の視点から強く指摘され、その取扱いは各研究推進委員会の判断に委ねられた。幸い各研究推進委員会の努力により改善の方向に進んでいるが、なお、十分な配慮を必要とするという意見が評価委員の間で強かった。

所属する研究プロジェクトについて具体的な指導、助言を行うことを含めて研究推進委員会の任務を積極的に遂行できる委員構成をとること。メンバーが多忙で具体的な指導が困難と認められるいくつかの研究推進委員会について、研究推進委員会委員の交代や追加の指摘がなされている。また、研究推進委員会の活動状況等報告書から見て、本事業推進に対する情熱と責任感が希薄と感じられる研究推進委員会もあった。この観点から、一人の委員が複数の研究推進委員会の委員を兼務することについても慎重な配慮が必要と考える。

異分野の研究者を研究推進委員会委員に加えること。未来開拓学術研究推進事業に相応しい新しい分野の開拓研究は、異分野の融合によって生まれる場合が多いと考える。この視点から研究分野によっては、研究推進委員会に異分野の研究者が加わり、計画の策定と推進に参加することが望まれる。複合領域においては、人文・社会科学系研究者の参加も含めてこの問題は特に重要である。

    
2)研究プロジェクトの選定と構成について

研究分野の性格、目標を明確に示し、それと整合性のある研究プロジェクトを重点的に選定すること。評価部会や評価作業グループの評価作業に当たって、分野の性格や目標が明確ではなく、研究プロジェクトの選定に整合性を欠き、また、研究内容の重点化を必要とするケースが多く見受けられる。この点について、事業全体の立場からも根本的な改善策を考える必要がある。

研究プロジェクトの選定をできるだけ客観的かつ適正に行うため、フィージビリティスタディ、事前評価、主題をきめた後の一部公募制など競争原理に基づく新しい制度を積極的に導入すること。また、科学研究費補助金、他省庁の関連ある研究事業、本事業の他の研究推進委員会や産学協力研究委員会のプロジェクトとの関連に留意し、未来開拓学術研究推進事業に相応しく、かつ当該研究推進委員会の目的に沿った特色ある研究プロジェクトを選定すること。

研究プロジェクトの構成について、優れた研究者個人を中心とし、総合研究的になることを避けること。また、若い優れた研究者の登用に配慮すること。

    
3)研究推進委員会による研究評価について
 研究推進委員会の努力により、前年度の研究評価委員会「中間評価」報告書で指摘された問題点の改善が進んでいることは喜ばしい。しかしながら、評価に外部の第三者の意見を積極的に取り入れた一部の研究推進委員会を除いては、その評価が客観性を欠き、一般に高すぎるとの意見が評価委員の間に多かった。この点については、新しい評価制度の導入も含めて積極的な対応を進める必要があり、“4.事業全体について”の項で改めてふれる。
    
4)研究推進委員会の活動状況等報告書について
 報告書の中には、研究成果を網羅的に記述しただけで主旨が分かりにくく、中間評価のヒアリングを聴いて初めて理解できるものもあった。研究の性格や目標を明確に示すことはもちろん、研究プロジェクトを取り上げた意図や背景についても説明を加えるなど、報告書の書き方を工夫してほしい。研究の内容を説明するために“Video”や“CD−ROM”などのマルチメディア形式の資料を加えることも検討課題である。


(2)産学協力研究委員会

 産学協力系評価部会では、産学協力研究委員会及び当該産学協力研究委員会に所属する研究プロジェクトについて評価するとともに、評価の根拠となる各研究プロジェクトの位置付け、評価の在り方と意義などについて活発な討議が行われた。ここでは評価結果を「ア.産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定について」、「イ.産学協力研究委員会による研究評価について」及び「ウ.産学協力研究委員会の研究プロジェクトに係る活動状況の全体的評価」の3項目に分けて報告する。

ア.産学協力研究委員会による研究プロジェクトの選定について
 研究プロジェクトの多くは、各産学協力研究委員会の取り扱う研究分野における一つの先端的研究プロジェクトに焦点を絞り、未来への活路を切り開こうとする性格を持っており、研究プロジェクト選定については概ね妥当と評価された。
    
イ.産学協力研究委員会による研究評価について
 研究プロジェクトそれぞれは、現在活動中の産学協力研究委員会の提案に基づくものであり、各産学協力研究委員会は常に研究プロジェクトの進捗状況を把握し、適切な評価に基づく助言、支援を行うことが必要である。
 各産学協力研究委員会による研究評価の適切さについて、評価部会委員の意見を集約したところ、7産学協力研究委員会について、「極めて適切」ないし「概ね適切」と評価された。したがって、産学協力研究委員会の研究評価は、高すぎる場合も二、三あるが、ほとんどの産学協力研究委員会で概ね適切になされていると判断される。しかし、いくつかの場合について、具体的な問題点が指摘されており、各産学協力研究委員会が、より厳しい目で客観的に研究プロジェクトを評価し、助言や支援を行うことが必要である。特に厳しい指摘がなされているのは、委員長がプロジェクトリーダーを兼ねている場合や、産学協力研究委員会の主要メンバーの多くが研究プロジェクトに参加しているなど自作自演の傾向が強い場合であり、これらの産学協力研究委員会では、今後、客観的な研究評価の体制の整備や、それに基づくテーマの絞り込みを早急に行う必要がある。
 また、産学協力研究委員会とプロジェクトチームの関係と役割を明確に分け、第三者から、産学協力研究委員会の未来開拓研究プロジェクトであることを踏まえた厳正な評価を得て、尖鋭的で、先導的な成果を挙げることが研究プロジェクトに求められている。
    
ウ.産学協力研究委員会の研究プロジェクトに係る活動状況の全体的評価
 研究プロジェクトに対する助言や支援等の産学協力研究委員会の活動については、全体として概ね適切であると評価できるが、いくつかの研究プロジェクトで研究計画が総花的で、産業化、実用化を全く意識していないものも見られる。産学の適切な役割分担について今後さらに検討する必要がある。
 共通なコメントとして、特許取得など知的財産の蓄積と保護について、今後の強力な指導を期待する点が強調された。この点に関しては、一部の評価委員から、大学の研究者は本事業の趣旨を踏まえ、知的財産権に対する重要性をより深く自覚すべきであること、大学の研究者と弁理士が直接相談できる機会の提供など特許取得を促進する措置を日本学術振興会がとるべきであることなどの意見も出された。この点については、産学協力研究委員会、研究プロジェクト、日本学術振興会の密接な協力のもとに、この問題が改善の方向に具体的に進むことを期待する。また、このことは、本事業全体としても重要な問題でもあるから、「4.事業全体について」の項で改めてふれる。
 産学協力研究委員会による研究プロジェクトについては、産学協力研究委員会が研究プロジェクトの進捗状況を常に把握し、適切な研究評価、助言、支援を行うことが、研究プロジェクトの成否の一つの鍵となるものであり、各産学協力研究委員会は、指摘事項を積極的に取り入れて、その活動をさらに高めることを切に希望する。

平成9年度開始分
中間報告書 目次
1.序 文
  2.研究推進委員会及び産学協力研究委員会の活動等について
    3.研究プロジェクトの評価と今後の取扱いについて
  4.事業全体について
日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業