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科学技術研究員派遣事業

派遣専門家活動内容報告

案件名 (科学技術)ナノテクノロジー
派遣専門家 杉山 進
所属機関 立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構・教授
派遣期間 平成21年9月6日~平成23年3月5日
相手国名 スリランカ
相手国研究機関 スリランカナノテクノロジー研究所(Sri Lanka Institute of Nanotechnology (SLINTEC))

(ナノテクノロジー)MEMS研究開発拠点の形成
(平成21年9月~22年2月)

1. 背景

スリランカでは輸出産業として紅茶および繊維産業が活発であるが、産業の国際競争力は高いとはいえず、また国内には未だ貧困など克服すべき問題も多い。こうした現状を改善するため、産業の国際競争力の向上、及びその基盤となる技術開発能力の向上が求められている。このような技術開発能力向上には公的な支援が必須である。ナノテクノロジーに対しては、スリランカにおける様々な産業の基盤技術として近い将来、国際競争力を向上させるものとして期待が高い。こうした中、スリランカ政府と現地企業との産官連携の形で準備が進められ、2008年4月スリランカナノテクノロジー研究所(Sri Lanka Institute of Nanotechnology (SLINTEC))が設立された。しかしながら、ナノテクノロジーの分野はすそ野が広く、研究資金も膨大となる。スリランカの強みであるニッケル、シリカ、活性炭などの豊富な鉱物資源やゴムを代表とした天然資源と、成人識字率90%以上で代表される優秀な人的資源を活用できる分野に絞り、かつ産業化が描け、持続的に研究所経営ができる戦略が必要となる。そこで、天然資源と人的資源と産業化を織りなす共通技術としてMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術に着目し、ナノテクノロジー研究の横糸として、その研究開発拠点の形成をSLINTECの中で進めることとなった。

2. 事業活動内容

(1)MEMS研究開発拠点の立ち上げ
MEMS技術を体系化するとデザイン、製造プロセス、実装、試験の各技術に分けられる。この中で、製造プロセス技術は設備導入に数十億円以上の膨大な資金が必要となる。そこで、スリランカの国情に合ったMEMS技術の獲得として、市場に接する入口と出口、すなわちデザイン技術と試験技術の獲得を第一段階として取り組み、そのための研究開発環境を整備する。他の技術領域は他国で既に進んでいる最先端製造拠点にアウトソーシングしグローバルな視点に立って、スリランカの特長ある技術を育成獲得する方針とした。

(2)MEMS技術の指導および人材育成
この目的のため、日本人研究者とスリランカ研究者間で共同研究テーマを設定し、オンジョブトレーニングを通じて、スリランカの技術能力の開発と人材育成を行う。

3. これまでの活動内容

(1)MEMS研究開発拠点の立ち上げ
SLINTEC内にMEMS/NEMS Design Centerを設置し、MEMSのデザイン(構造およびパーン設計)および基本計測ができる必要最低限の機器の設置・整備を行った。また、MEMSのみでなくナノ材料研究に重要なクリーンルーム(簡易型)の企画・設計を行うと共に、クリーンルーム内に設置する設備・機器に関して提案・指導した。

今後は、MEMSの試験ができる必要最低限の機器を設置・整備するとともに、クリーンルームの施工管理、完成後の運用および保守管理の指導を行う予定である。

(2) MEMS技術の指導および人材育成

① SLINTECおよび企業の研究者・技術者に対しMEMS技術の背景や基礎知識を知ってもらうセミナーを開催し啓蒙を図った。

月 日 場所 セミナー・タイトル
9月8日(火) SLINTEC Introduction MEMS/NEMS Technology
9月14日(月) SLINTEC -Project Proposal for MEMS/NEMS R&D in Sri Lanka-
"Function of MEMS/NEMS Design Center in SLINTEC"
9月17日(木) SLINTEC R&D at MEMS/NEMS Design Center in SLINTEC
9月18日(金) The Auditorium of Industrial Technology Institute, Colombo Progress of Integration in MEMS and New Industry Creation
9月18日(金) Dialog本社, Colombo MEMS/NEMS Application into ICT
12月28日(月) University of Peradeniya, Kandy Micro Electro Mechanical Systems--MEMS Design,
Fabrication Process and Packaging--
2月19日(金) Lanka Precision Engineering (Pvt) Ltd. New Progress of Integration in MEMS

② MEMS開発グループを組織し、MEMS技術の基礎知識習得のため実際に企業から委託を受けた工業計測に用いるワイヤレスセンサモジュールの開発を課題に上げ、企画・設計から試作・応用までの一連の開発業務の実地指導を行っている。
今後は、MEMSセンサとして工業計測、自動車、医療、アミューズメントに応用できる外形ミリメートルの超小型圧力センサおよび加速度センサの設計、試作(アウトソーシング)、実装、試験および応用開発の一連の各技術を実地指導するとともに、現地研究者と一緒にスリランカにおける産業創生のシナリオづくりを行い本事業のまとめとする

スリランカナノテクノロジー研究所の正門から見た風景

  SLINTECの研究員メンバー等
スリランカナノテクノロジー研究所の正門から見た風景   SLINTECの研究員メンバー等
    左から立命館大学からの指導研究員(PhD)、JSPS事業担当者、筆者、有機化学部門主任研究員(PhD)、研究施設技術課長、 MEMSグループ研究員

4. 所感

スリランカの研究者・技術者の知識レベルは非常に高く、世界レベルに達していると言える。これは、共通語が英語であり、ITを通じて多くの世界の情報に容易に接し得るのが一因と言える。多くの優秀な研究者・技術者は英国、米国をはじめとした先進国でPhDを取得し、そのまま外地にて教育・研究機関や先端企業に就職し、帰ってこないのが現状である。国内には彼らを受け入れる環境が用意されていなく、まさに頭脳流出現象がここに起きている。このような意味でも、MEMS技術の研究開発拠点が根を下ろし、先端技術産業の創生につながり、国内に彼らが活躍できる場が少しでも早くできることに、微力ながら協力できることを喜びとしている。
企業向けセミナー風景  

科学技術大臣を交えたSLINTEC役員幹部向けセミナー風景

2009年9月18日(金):
The Auditorium of Industrial Technology Institute, Colomboで行った企業向けセミナー風景
  科学技術大臣を交えたSLINTEC役員幹部向けセミナー風景
(SLINTEC代表取締役や国立科学財団理事業等が参加)
 
(平成22年5月~10月)

1. これまでの活動内容(2010年4月~12月)

(1)MEMS研究開発拠点の立ち上げ
SLINTEC内のMEMS/NEMS Design Centerにおいて、MEMSセンサとして超小型圧力センサおよび3軸加速度センサのマスク設計の実地指導および特性測定ができる計測機器の設置・整備を行った。また、MEMSおよびナノテク研究に必要な実験用クリーンルームの設計および導入・設置指導を行った。

今後は、MEMSセンサの製作(ファブレス・アウトソーシング)管理と実装法および測定試験法の指導、クリーンルーム完成後の運用および保守管理の指導を行う予定である。

(2) MEMS技術の指導および人材育成

① SLINTECにおいてスリランカの指導者、技術者に対しMEMSのデザインと製法プロセス技術および産業応用に関する解説・セミナーを開催し啓蒙を図った。

月 日 場所 セミナー・タイトル, 解説内容
5月6日(木) SLINTEC Lecture of MEMS Sensors Design
5月10日(月) SLINTEC Lecture of Process Technology- Difusion
5月11日(火) SLINTEC Lecture of Process Technology- Etching
5月12日(水) SLINTEC Lecture of Process Technology- Photolothograpy
6月19日(土) SLINTEC スリランカ経済開発大臣、技術研究大臣、農業大臣、産業商業大臣へMEMSの産業応用に関して解説を行った
7月8日(金) SLINTEC スリランカ財務企画大臣へMEMSの産業応用に関して解説を行った
7月29日(木) SLINTEC Lecture of Synchrotron Radiation X-ray Lithography for Fabrication of 3-D Micro/Nano Structures

② MEMS技術の応用として、洪水災害軽減を目的としたリヤルタイムワイヤレス水位測定センサモジュールの開発を課題に上げ、企画・設計を行い、以下に示す関係機関と協議を行った。

月 日 関係機関 協議内容
10月19日(火) 国際地形情報応用研修センター
N. T. Sohan Wijesekera 教授・所長
洪水災害及び防災マネージメントの専門家としての意見を聴取
10月19日(火) Moratuwa大学
電子通信学科S .A. Dileeka Dias 教授、
同機械工学科Hans Gray 講師 その他
エレクトロニクス、GSM無線通信の専門家として公衆回線の利用、災害マネージメントシステム構築のための、ハードウエア、ソフトウエアの研究開発を協議
10月25日(月) 防災省 防災センター
Gamini Hettarachchi局長
スリランカの防災現状把握と、研究の有意義性に関する意見聴取および事業実施時の指導協力の要請

2. 所感

スリランカの指導者および研究者のMEMS技術に関する関心は非常に高い。また、ITに関する知識レベルは非常に高く、世界レベルに達していると言える。MEMSとITを組み合わせたネットワークセンサシステムの応用はスリランカ国内の新産業創生の候補として有望であると思われる。そのためにはインフラの整備と先端技術教育が急務である。一刻も早くMEMS技術の研究開発拠点が根を下ろし、先端技術産業の創生につながることを期待するものである。
MEMSセンサのマスク設計図    

MEMSセンサのマスク設計図
上段:3軸加速度センサ、下段:圧力センサ、
それぞれ寸法は3㎜角

 

 

 

     

クリーンルーム組立試験の様子

  スリランカ経済開発大臣、技術研究大臣にMEMSの産業応用を解説している様子
クリーンルーム組立試験の様子   スリランカ経済開発大臣、技術研究大臣にMEMSの産業応用を解説している様子

スリランカ財務企画大臣へMEMSの産業応用を解説

 

スリランカ財務企画大臣へMEMSの産業応用を解説している様子

スリランカ財務企画大臣へMEMSの産業応用を解説   スリランカ財務企画大臣へMEMSの産業応用を解説している様子
     
 
(平成23年1月~3月)

1. これまでの活動内容(2011年1月~3月)

(1)MEMS研究開発拠点の立ち上げ
 SLINTEC内のMEMS/NEMS Design Centerにおいて、MEMSおよびナノテク研究に必要な実験用クリーンルームの完成確認を行い運用開始した。(写真1)

写真1

写真1 クリーンルーム設備検査、本格運転開始


 本派遣事業のまとめとして、スリランカ側より科学研究省秘書官、SLINTEC研究所長、研究部門代表者他、日本側よりJICAスリランカ事務所長他の出席を得て、派遣事業活動報告会および日本から移送・設置し本事業に使用したMEMS研究開発用機材のスリランカ科学研究省、科学財団への移譲式を行った。(写真2、写真3)
 今後は、科学財団がMEMS研究開発用機材の運用管理を行い産学管連携・応用研究開発に役立たせる。

写真2

 

写真3

写真2 派遣事業活動報告会の風景

 

写真3 MEMS研究開発用機材の移譲式行事風景

(2) MEMS技術の指導および人材育成

① MEMSセンサとして超小型圧力センサおよび3軸加速度センサの試作完成品の受け入れ検査、パッケージング、電子回路システム、性能評価試験方法の実地指導を日本より移送設置したMEMS研究開発用機材を用いて行い、本派遣事業のまとめを行った。(図1、写真4)

写真4   写真5

図1 派遣事業活動報告会の風景

 

写真4 3軸加速度センサチップの走査型電子顕微鏡(SEM)写真

② MEMSセンサの応用として、洪水災害軽減を目的としたリアルタイムワイヤレス水位測定センサモジュールの開発やゴム工業関連としてソリッドタイヤ内圧力センシング、医療モニタリングシステムをターゲットして検討を進めてきた。スリランカ国内のメカトロニクスおよびMEMS産業の将来の市場動向や新産業創生に関し、スリランカ国内の電気機器企業および産業開発公社を訪問し意見聴取・討論を行った。

月 日 場所 内容
3月7日(月) SLINTEC 着任
3月8日(火) SLINTEC クリーンルーム設備検査、本格運転を開始
3月10日(木) Kevilton Electrical Products PVT 社長のRukmal Jayasingh氏に面会しスリランカの電気機器企業の現状と今後の技術開発展開について意見聴取・討論した。
3月10日(木) スリランカ産業公社(Industrial Development Authority) 所長のThusitha Pasqual氏に面会しスリランカにおける先端技術関連の新規企業設立の動向について意見聴取・討論した。
3月11日(金) SLINTEC
MEMS/NENS研究グループ
Lecture of MEMS Characterization
3月14日(月) SLINTEC
MEMS/NENS研究グループ
MEMS研究開発拠点の活用と産業応用についての討論
3月15日(火) SLINTEC
MEMS/NENS研究グループ
MEMS研究開発拠点の活用と産業応用についての討論
3月16日(木 SLINTEC
出席者:(スリランカ側)科学研究省秘書官Ms.Dhara Wijayathilaka,
SLINTEC研究所長Mr. Asela Gunawardena、
研究部門代表者Prof. Ajith De Alwis以下十数名、
(日本側)JICAスリランカ事務所志村哲所長、
Indika Kabral現地所員、武尾昭秀担当所員
-研究機材移譲式および活動報告会-
日本から移送・設置し本事業に使用したMEMS研究開発用機材のJICAからスリランカ科学研究省、科学財団への移譲式、および本派遣事業の活動報告を行った。
3月18日(金) SLINTEC 派遣業務まとめ

2. 所感

 スリランカの技術者・研究者のICTやエレクトロニクス技術に関する知識レベルは非常に高く、世界水準に達していると言える。これは英語が母国語に次ぐ公用語として広く使われており、インターネットを通じ世界の最新情報がリアルタイムで獲得できることがその要因の一つであると思われる。さらに若者は新しい技術に対する強い好奇心と向学心を持っており、その積極的な姿勢に教わるものが多くあった。ICTやエレクトロニクス製品は、現在、ほとんどを輸入に頼っているが、近い将来メードインスリランカ製品の生まれ機運が、日々高まりつつあることを肌で感じた。今回の技術支援事業の進め方は専門家が現地で技術指導し研究開発拠点の形成を支援する形であった。先端科学技術の支援に関しては、被援助国の将来の核となる技術者・研究者を日本へ招聘し、技術研修を行い、引き続き現地で研究開発拠点づくりを支援する形をセットで行うのが効率が良いと考える。支援者、被支援者間の事前すり合わせ期間や事業予算規模に制約がある中で、可能な限りこの形で推進されることを希望する。一方、被支援国の国情が大きく事業遂行に影響したことも上げておきたい。今回の派遣事業期間は企画段階から2年余の短い期間であったにもかかわらず、内戦の終結、大統領選挙、総選挙、内閣改組、担当大臣の交代、カウンターパートであるSLINTEC代表者(CEO)の交代など、めまぐるしい変化があった。そのため、本事業企画当初の方針や目標が関係幹部に実質的に引き継がれて行かなかった。情勢変化の度に派遣専門家自らが本事業の目的、目標を交代した関係幹部に説明したのが実情であった。そんな中で、カウンターパートの技術者・研究者は一貫してプロジェクトメンバーとして携わってくれたことは幸運であった。いずれにしても、技術は「人」である。「人」が核となり技術を継承し育むのである。手先が器用でソフトウエアが得意であるスリランカの国民性のもと、ICTやMEMSを融合したエレクトロニクス関連技術は新産業創生の候補として有望であると感じる。彼らがこの新しい小さな拠点から、産業創生に向かって大きく成長し活躍することを期待する。本科学技術研究員派遣事業を通し、「人」から「人」へ技術移転ができたものと確信する。任務終了後もフォローアップを続けて行きたい。
 
案件名 アルボ(蚊媒介性)ウイルス感染症の新しい診断法の開発
派遣専門家 井上真吾
所属機関 長崎大学 熱帯医学研究所 ウイルス学分野・助教
派遣期間 平成21年10月7日 ~
相手国名 ケニア
相手国研究機関 公衆衛生省 ケニア中央医学研究所(Kenya Medical Research Institute(KEMRI), Ministry of Public Health and Sanitation)

アルボウイルス、特に黄熱病およびリフトバレー熱の迅速診断キットの開発
(平成21年10月~22年4月)

私は平成21年10月からケニア中央医学研究所(KEMRI)にJICA個別派遣長期専門家として活動しています。黄熱病は、野口英世博士がガーナにて一身を捧げて研究調査された蚊が媒介する疾病で、よく効く弱毒生ワクチンもありますが、1992年にケニア西部、2003年、2005年に隣国スーダン南部で流行しました。その可能性としては、以下の3点が考えられます。

 

(1)

ワクチンの効かない強毒株の出現

 

(2)

様々な蚊による媒介の可能性

 

(3)

新規発生地域の拡大

幸い、黄熱病に関するこれら3つの現象の報告はされていませんが、流行が散発的に発生するのはワクチンを充分に接種していないと考えられます。有効なワクチンがあるにも関わらず、接種できない原因としては「高価なワクチン」、「コールドチェーンがうまく保たれていない」、「交通の不便な僻地への不充分なワクチン供給」、「内戦、異常気象などによる不充分なワクチン供給」、「黄熱病に対する政府の理解が低いことや、他の疾病に比べて優先順位が低い」等の様々な要因が黄熱病を始めとする熱帯ウイルス病には関係しています。

ワクチンを接種する以外に黄熱病に対する方策を確立することが私の目指す活動であり、これは(1)簡単に診断できるキットの開発、(2)感染症流行ネットワークの構築になります。ケニア各地に展開しているKEMRIや医療機関に簡単に診断の出来るキットを配布することにより、疑わしい患者が発生した際に素早く診断し、医療機関のネットワークによってどこまで流行が拡大しているのかを把握し、その周辺地域にアナウンスすることで被害を最小限に抑えることが可能となります。

この試みには、私だけでなく、KEMRIのローズマリー先生、ウガンダ国境沿いのKEMRI支所長のムアウ先生(私のカウンターパート)、長崎大学熱研、そしてケニア人大学院生たちが協力して取り組みを始めています。「自分たちの病気は自分たちで診断する。」これが私たち研究グループのテーマです。当たり前のことのようでなかなか発展途上国ではできないことで、他国のラボに頼らない診断体制や診断薬の供給を目指しています。

ケニア人大学院生に細胞培養の指導

  ケニア医学研究所内の長崎大学熱研ケニア拠点P3実験室にて
ケニア人大学院生に細胞培養の指導を行っている様子
 
(平成22年6月~22年12月)

 

昨年、10月にケニアに赴任して1年と2ヶ月経ちました。 これまでの主な活動成果は下記の通りです。

 

  (1)

KEMRI製造部門での細胞培養室、P2実験室の整備の完了


  (2)

長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点のP3実験室でのウイルス学実験の開始(特にウイルス分離)


  (3)

博士課程大学院生の研究指導


  (4)

KEMRI製造部門のスタッフおよびNUITM-KEMRI P3実験室スタッフのトレーニング開始


  (5)

黄熱ウイルスのウイルス大量培養およびその精製、モノクローナル抗体の精製、抗体へのぺルオキシダーゼ酵素標識など迅速診断キットおよび関連試験用の原材料の製造を開始


  (6)

JICA-JST「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」に対する申請としてケニア政府(KEMRI)側からの案件形成に協力し、日本(長崎大学)側からの申請書原案を作成


  (7)

感染症アウトブレーク即時対応ネットワーク形成の一環でナイロビ(首都)、ブシア(ケニア西部)に続いてモンバサ(インド洋沿岸)の調査準備を開始


(1)の実験室の整備はJICA、JICS、JSPS並びに長崎大学の多大なるご支援によりわずか1年間でほぼ完了することが出来ました。機器類の購入もさることながら、KEMRI本部のワークショップ(施設課)のスタッフの尽力には特筆すべき物があります。実験用ベンチ製造、炭酸ガスボンベ固定台製造、流し台用の水道工事、排水管工事、LPG配管工事、炭酸ガス配管工事、機器類の移動設置など終わってしまえば誰にも顧みられないところばかりですが、とてもいい仕事をしてくれました。外部の業者に依頼する方法もありますが、KEMRIの人材を活用するという観点から彼らに依頼してお互いに実績として残る良いものが出来上がったと思います。

(2)、(3)、(4)、(5)の学生1名の指導およびスタッフ5名のトレーニングが12月現在で最も力を注いでいるところです。今年度中に試薬調製、細胞培養、3つのウイルス力価測定試験、4つの抗体価測定試験、ウイルス大量培養・精製、抗体の大量培養・精製、抗体のぺルオキシダーゼ酵素標識を基本実験手技としてみんなにマスターしてもらおうと計画しております。12月までで細胞培養、ウイルスのプラックアッセイ、抗原検出ELISA(酵素免疫測定法)、抗体の精製、ぺルオキシダーゼ酵素標識は既に実施しました。これら精製ウイルスや抗体といった原材料を使っていよいよ来年度早々に迅速診断キットの試作品(第一世代)に入る予定です。スタッフには第1世代キットの中規模製造とその評価試験(感度、特異度、耐用度など)を担当してもらい、学生には私と共に第2世代キット用の組換えDNA抗原や新しいモノクローナル抗体の開発を担当してもらいます。

(6)JICA-JST「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」に対する申請については4月から11月まで主として力を注ぎました。国際協力と科学研究という微妙にベクトルの異なる事業を双方とも満たすためにその案件形成にはかなり苦心しました。但し、基本はあくまで「ケニアのためになる、ケニアの人たちの医療向上に役立つ活動をしよう。」そしてその活動の中でいろいろな科学的に重要な発見、知見、情報が提供・報告できれば良いのではないかと考えております。その一環として、製造部門にて新たに各種ウイルス病の診断サービス(有料)を開設する予定です。

(7)医療現場を見て初めて各病院の中央検査室の状況が判り、どの位病院に簡易診断キットが必要なのかが見えてきたところです。また、マラリア疑いの熱性疾患数が多くしかもその中でマラリア陰性の割合が非常に高いことにも驚かされ、それらに対するアルボウイルス感染症診断の必要性を感じたところです。

KEMRI製造部門の試薬調製室にてスタッフがELISA用試薬を調製している様子

 

KEMRI製造部門の細胞培養室にてスタッフと細胞継代用のトリプシン溶液を濾過滅菌している様子 (左側に井上科学技術研究員)

KEMRI製造部門の試薬調製室にて
スタッフがELISA用試薬を調製している様子
  KEMRI製造部門の細胞培養室にて
スタッフと細胞継代用のトリプシン溶液を濾過滅菌している様子
(左側に井上科学技術研究員)
     
 
案件名 気候変動の将来シナリオの予測
派遣専門家 楠昌司
所属機関 気象研究所 気候研究部 第一研究室(気候モデリング)・室長
派遣期間 平成21年11月20日~12月18日
相手国名 ブラジル
相手国研究機関 国立宇宙研究所気象研修センター(Instituto Nacional de Pesquisas Espaciais, Centro de Previso de Tempo e Estudos Climatico)

気候変動の将来シナリオの予測

1. 背景

平成21年度科学技術研究員派遣事業「気候変動の将来シナリオの予測」では、ブラジル国立宇宙研究所(INPE)/気象予測気候研究センター(CPTEC)から、気象研究所に対し研究者の派遣が要請された。ブラジルだけでなく中南米における気候変動予測、脆弱性の評価が目的である。気象研で実施している20km格子全球大気モデルによる地球温暖化予測データをブラジルだけでなく中南米を対象に解析することが目的である。

2. 活動概要

11月20日(金) ブラジル入国。サンパウロから首都ブラジリアへ移動
国立水庁にて講演
11月23日(月) ブラジル科学技術庁官房気候変動省庁間委員会議長Jose MIGUEZ氏を表敬訪問
JICAブラジル・ブラジリア事務所で、JICA職員に対し講演
日本大使館表敬訪問
11月24日(火) ブラジリアからカショエイラ・パウリスタのCESへ移動
11月25日(水)~
12月3日(木)
データ解析準備
11月27日(金) サン・ジョゼ・ドス・カンポスのINPE本部で講演
11月30日(月) CPTECのIracema Fonseco Albuquerque CAVALCANTI博士とSilvio Nilo FIGUEROA博士との議論
12月4日(金) データ解析開始
現在気候実験の水蒸気の水平輸送について、25年平均の気候値の作成の完了
12月7日(月) 鉛直積分した水蒸気の水平輸送の図の作成
12月8日(火) 鉛直積分した水蒸気の水平輸送から水蒸気の収束量の計算
CPTEC訪問  CAVALCANTI博士とSilvio Nilo FIGUEROA博士との議論
12月9日(水) 850 hPa面の水蒸気の水平輸送の計算
12月10日(木) 水蒸気輸送の解析
カショエイラ・パウリスタからイグアスへ移動
12月11日(金) イタイプ・ダムにて講演および視察
12月14日(月) 水蒸気輸送の解析の完了
12月15日(火) 温暖化予測データの解析の完了
CPTECでの講演のための資料作成
12月16日(水) CPTECでの講演のための資料作成
12月17日(木) CPTECでの講演のための資料作成
12月18日(金) カショエイラ・パウリスタのCPTEC講堂で気象専門家向け講演

3. ブラジリア訪問

INPE/CPTEC滞在の前に、ブラジリアの関係機関を訪問した。11月20日には、国立水庁を訪問し、講演を行った。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対する日本の貢献、革新プログラムの概要、極端現象チームの概要、20km格子全球大気モデルによる温暖化実験の結果を紹介した。特に、ブラジルの河川流量の変化について詳しく述べた。

11月23日午前中は、ブラジル科学技術庁官房気候変動省庁間委員会議長Jose MIGUEZ氏を表敬訪問した。MIGUEZ氏は、ブラジル国内の気候変動対策のまとめ役であり、今回の科学技術研究員派遣事業の提案者である。また、気候変動枠組み条約締約国会議(COP/FCCC)のブラジル代表として、コペンハーゲンのCOP15の準備に奔走していた。ブラジルで一番忙しい人といわれているのにもかかわらず、時間を割いてくれた。ブラジルでは、今まで英国ハドレー・センターの協力の下に、ブラジルの地球温暖化による気候変化を領域モデルで研究してきた。日本に、すばらしいモデル(20km全球大気モデル)があることがわかり、温暖化の予測の不確実性を評価するためにも、気象研の協力が必要だという認識である。単独の結果ではなく、いろいろな国のモデルの予測結果を総合的に判断する必要がある。

11月23日午後は、JICAブラジル・ブラジリア事務所で、JICA職員に対し講演を行った。内容は、国立水庁での講演と同じだが、日本語で行った。JICA職員は科学の研究者ではないので、気象学やモデルを知らない一般向けとして、わかりやすさを考慮した。
その後、日本大使館に移動し、宮下参事官、國方公使を表敬訪問した。大使は不在であった。今回のブラジル滞在の目的、意義などを説明した。

4. INPE本部で講演

11月27日にINPE本部があるサン・ジョゼ・ドス・カンポスまで、INPEの公用車で1時間半かけて移動した。アメリカ間研究所Inter-American-Institute(IAI)の講堂で講演を行った。

5. CPTEC訪問

CPTECの建物を訪問した(図1)。短期予報現業室、スーパー・コンピュータ室(図2)、長期予報現業室を視察した。視察を終えたあと、Silvio Nilo FIGUEROA博士,Iracema Fonseco Albuquerque CAVALCANTI博士とモデルの実験結果について議論した。二人は気象モデルの専門家である。気象研のモデルは、CPTECのモデルに比べ、低分解能モデルでも南米の降水量分布が非常に良いという。とくに、アマゾンからサンパウロ方面に伸びる南米収束帯の表現が良いらしい。この2人の研究分野は、楠の研究分野に最も近い。20kmモデル・データに関心を示したので、さっそく複写して渡した。

図1:カショエイラ・パウリスタ施設内のCPTEC正面玄関

 

図2:スーパー・コンピューター室

図1 カショエイラ・パウリスタ施設内のCPTEC正面玄関   図2 スーパー・コンピューター室

6. イタイプ・ダム訪問

12月11日に、イグアス市のイタイプ・ダムを訪問した。世界最大の水力発電所である。気象研では、20kmモデルの陸面の流出量を世界河川モデルに与え、流量の将来変化予測を行っている。雨の変化、河川流量の変化など水資源にかかわる講演を行った(図3)。その後、ダムの視察を行った(図4)。

図3:イタイプ・ダムでの講演

 

図4:イタイプ・ダム。放水路スピルウェイからの放水

図3 イタイプ・ダムでの講演   図4 イタイプ・ダム。放水路スピルウェイからの放水

7. 成果

日本のシナリオモデルの南米における適応にかかる有効性の調査のため、20km格子の全球大気モデルによる現在気候再現実験25年間(1979~2003年)を中南米における気温や降水量などの観測と比較し、モデルの精度を評価した。また、近未来25年間(2015~2039年)および21世紀末25年間(2075~2099年)の予測結果を用い、ブラジルを含む中南米における気温や降水量などの変化を解析した。

CPTECには英語を話す研究者が極めて少数ではあったものの、研究分野の近い研究者との議論により、CPTECにおける研究能力、研究テーマおよび能力強化が必要な部分の把握ができた。

8. 略語表

CES: Center for Earth system Science 地球システム科学センター
COP: Conference Of Parties 締約国
CPTEC: Centro de Previsao de Tempo e Estudos Climaticos気象予測気候研究センター
ETA: 領域モデルの名称、略語ではない
FCCC: Framework Convention of Climate Change 気候変動枠組み条約
IAI: Inter-American-Institute ア側からの案件形成に協力し、日本(長崎大学)側からの申請書原案を作成メリカ間研究所
INPE: Instituto Naciaonal de Pesquisas Espaciais 国立宇宙研究所
IPCC: Intergovermantal Panel on Climate Change 気候変動に関する政府間パネル
NCEP: National Center for Environmental Protection 米国環境保護センター

 
案件名 気候変動の将来シナリオの予測
派遣専門家 京都大学 防災研究所 社会防災研究部門 防災技術政策・准教授
所属機関 山敷庸亮
派遣期間 平成22年7月から1ヶ月
相手国名 ブラジル
相手国研究機関 国立宇宙研究所気象研修センター(Instituto Nacional de Pesquisas Espaciais, Centro de Previso de Tempo e Estudos Climatico(INPE/CPTEC))

気候変動の将来シナリオの予測

1. 今回の訪問先


ブラジル国(サンパウロ州、リオデジャネイロ州、パラナ州、サンタカタリーナ州、ブラジリア市)

 

1)  

国立宇宙研究所気象予測気候研究センターInstitúto Nacional de Pesquisas Espaciais、Centro de Previsão de Previséo de Tempo e Estudos Climaticos (INPE/CPTEC)

 

2)  

サンパウロ州政府電力水資源局Departamento de Aguas e Energia Elétrica

 

3)  

サンパウロ総合大学サンパウロ校 Universidade de São Paulo

 

4)  

サンパウロ総合大学サンカルロス校 Universidade de São Paulo

 

5)  

ペトロブラス Petrobras

 

6)  

フルミネンス連邦大学Universidade Federal de Fluminense

 

7)  

アメリカ地球物理学連合(AGU)アメリカ大会 (Foz do Iguaçu)

 

8)  

サンタカタリーナ連邦大学 Universidade Federal de Santa Catarina

 

9)  

ブラジル国立水資源機構Agência Nacional de Aguas

 

10)  

リオデジャネイロ州の豪雨による土石流/地滑り調査

 

2. 活動の成果概要

1)  

INPEのカウンターパートであるJose Marengo氏が、INPE/CPTEC所属の大学院生らを通じてデータを利用し、他のGCM(HadGEM)のアウトプットを用いた結果との影響評価比較の研究を進めており、我が国や他の南米諸国における熱烈なる利用状況とは異なるものの、確実に利用していることを確認した。また同時に、連携機関となりうるサンパウロ大学からのデータへのアクセスを可能とした。

 

2)  

今回の出張においてはイタイプーダムの緒元の収集と、完成された湖・貯水池気候変動影響評価モデルのINPEメンバーへの技術移転を試み、その情報を提供。3月に影響評価と移転完了予定である。

 

3)  

主要河川における水文モデルを完成、TOPMODELの各セルでの流速を最適化するMulti-velocity Approachを採用した。またHydro3Dの同河川流域への適用データを準備した。

図 図 左図 Multi-velocity approachを用いて計算したアマゾン川の流量の計算値と観測値の比較

 

 

4)   Hydro-Debris3DをRio de Janeiroおよびサンタカタリーナに適用した。気象研究所領域モデルの計算結果と融合する。本モデルを各地で紹介した。
図   左図  Hydro-debris3DをRio de Janeiro市周辺部に適用し、
気象研究所領域モデルを用いて計算した降水を適用。
脆弱な斜面を算定

 

 

5)  

INPE/CEPTEC、ブラジル災害軽減研究センター(Centro de Estudos e Pesquisa sobre Redução de Desastres, Referência em Gestão do Conhecimento ,CEPED-RGC)、サンタカタリーナ大学などで我が国における気候変動に対する水災害適用策について講演を行なった。 6)AGU Meeting of Americaにて、INPE/Marengo氏らの主催したセッション、ポスター発表会場および湖沼セッションにて、出張者らが気象研究所MRI-GCMを用いた影響評価結果を紹介し、また湖や貯水池に対する影響評価の結果の発表を行なった。同時にAGU期間中INPE/CPTECおよびサンパウロ大学関係者と今後の進め方についてミーティングを持った。

 

6)  

AGU Meeting of Americaにて、INPE/Marengo氏らの主催したセッション、ポスター発表会場および湖沼セッションにて、出張者らが気象研究所MRI-GCMを用いた影響評価結果を紹介し、また湖や貯水池に対する影響評価の結果の発表を行なった。同時にAGU期間中INPE/CPTECおよびサンパウロ大学関係者と今後の進め方についてミーティングを持った。

 

【総括】

   

1)-6)のTORについて順調な進展を有した。予定していた次回派遣において完成する項目もいくつかあり、また今回の派遣の後に日本において継続が必要な項目もある。そのため現地機関との連絡を密にとり、TOR進展を続ける予定である。

 

AGU大会会場にて気象研究所モデル計算結果をデモ

 

AGU大会 展示風景

AGU大会会場にて気象研究所モデル計算結果をデモ   AGU大会 展示風景

サンパウロ州水エネルギー局本部にてBiwa-3Dの紹介風景

 

サンパウロ大学サンカルロス校にて講義を受けた大学院生らと撮影

サンパウロ州水エネルギー局本部にてBiwa-3Dの紹介風景   サンパウロ大学サンカルロス校にて講義を受けた大学院生らと撮影
 
案件名 気候変動の将来シナリオの予測
派遣専門家 佐々木秀孝
所属機関 気象庁 気象研究所・主任研究官
派遣期間 平成23年10月11日~20日
相手国名 ブラジル
相手国研究機関 国立宇宙研究所気象研修センター(Instituto Nacional de Pesquisas Espaciais, Centro de Previso de Tempo e Estudos Climatico)

気候変動の将来シナリオの予測

(平成23年10月11日 ~ 20日)

1. 活動概要

10月11日 USP サンカルロス校にて講演
10月12日 祭日、洪水跡見学、講演準備
10月13日 サンカルロス校マリオ氏とNHMの利用について打ち合わせ
10月14日 サンパウロへ移動
IAGASにおいて、業務内容の紹介、若手研究者の日本への派遣、NHMの貸与、計算機の利用可能性等についてテルシオ氏と打ち合わせ
10月15日 ジョアンペソアへ移動
10月16日 ブラジル気象学会・国際気候変動シンポジュウム出席
10月17日 同上
10月18日 ブラジル気象学会・国際気候変動シンポジュウムにて、NHMを用いた地球温暖化予測、NHMを利用したリオデジャネイロの豪雨の再現について講演
INPEマレンゴ氏と打ち合わせ
10月19日 ブラジリア到着
10月20日 大使館、科技庁、JICAブラジル事務所訪問

2. 活動成果概要

1)  本来の目的は、INPEのスーパーコンピュータへNHMをインストールし、地域気候モデルとして利用方法を指導することであったが、先方の意向によりコンピュータの利用ができなくなり、NHMの利用可能性について各機関の事情を調査した。その結果、USPサンカウロス校はNHMの利用について強く希望しているが、コンピュータの性能上困難であると思われた。IAGASは人材的にも、計算機能力上も有望であり、かつNHMの導入についても積極的に考えている。INPEは自国のETAモデルで地域気候実験をやる予定であり、当面NHMの利用は考えていないようであったが、ここのDr. Chou はNHMに深い興味を示した。その後訪れた科技庁のカルロス氏からはNHMの性能について高い評価を受けた。日本大使館では、ブラジルの科学者を日本へ派遣するブラジル工学系留学プログラムの紹介を受けた。気象研はこのプログラムへ応募し、ブラジルから若手研究者を招待することとした。

2) 講演内容
 講演は、NHMを用いた地球温暖化予測についてとNHMを利用したリオデジャネイロの豪雨の再現についての2つのテーマについて行った。
NHMを用いた地球温暖化予測について
 格子間隔5kmのNHRCMを用いて、20年間の積分を行い日本付近の現在気候の再現実験を行った。その結果年平均地上気温はほとんどの観測点で±1℃以内、年降水量は±20%以内の高い精度で現在気候が再現された。図1はNHRCMによって再現された月平均気温と月降水量を観測と比較したものである。NHRCM は日本の季節変化をよく再現しており、6月から7月にかけてと9月に二度の降水量のピークがあることなども良く再現している。1時間毎の降水量強度の頻度を見ると、全球モデルでは強い降水の頻度が観測と比べ大幅に減少しているが、NHRCMはそれをよく表している。NHRCMで計算された最大積雪深は観測と比べやや深めに計算しているが、積雪の開始から、ピーク期、融雪期の状態をよく再現している。このようにNHRCMを用いたダウンスケーリングは、高い精度で成し遂げられている。このモデルを用い21世紀末の日本付近の気候変化予測を行った。その結果、気温は年を通してほぼ3℃上昇する。降水は秋には減少する期間もあるが他の季節では増加し、特に2月と8月の降水量の増加が顕著である。最大積雪深はほとんどの領域で減少するという予測結果が出た。

図1 月平均気温と月平均降水量

図1 月平均気温(上)、月平均降水量(下)
NHMを用いた地球温暖化予測について
 NHMを用いて2010年4月に起きた洪水を伴う豪雨の再現実験を行った。図2に示したように、JCDAS では再現されない局地的な降水をNHRCMでは再現することができた。

図2 24時間降水量分布図

図2 24時間降水量分布図。JCDAS(左)、NHRCM(右)

3. 略語

IAGAS サンパウロ大学大気・宇宙研究所
INPE 国立宇宙研究所
JCDAS 気象庁気候同化システム
NHM 非静力学モデル
NHRCM 非静力学気候モデル

サンパウロ大学校内

 

サンパウロ大学校内(日本風庭園)

サンパウロ大学校内   サンパウロ大学校内(日本風庭園)

 
案件名 南米アルゼンチン南端リオ・ガジェゴスにおける大気質観測拠点整備事業
派遣専門家 水野亮
所属機関 名古屋大学 太陽地球環境研究所・教授
派遣期間 平成21年12月から2回派遣
相手国名 アルゼンチン
相手国研究機関 レーザー応用技術研究センター(Centro de Investigacionese en Laseres v Aplicaciosnes(CEILAP)

南米アルゼンチン南端リオ・ガジェゴスにおける大気質観測拠点整備事業
(平成21年12月~22年1月)

アルゼンチン共和国のパタゴニア地区南部にはマゼラン海峡を挟んでリオ・ガジェゴス市やウシワイヤ市などの都市が存在している。南極上空の春先に発生するオゾンホールはこれらの都市の上空にも達し、住民にとってオゾンホールは南極の特殊な現象ではなく日常的な問題となっており、同地域は世界中でもっともオゾン層破壊の影響が深刻な地域となっている。また、同地域はオゾンホールの崩壊によりオゾンの減少した空気塊が中緯度帯に輸送・拡散・混合して拡がっていくプロセスを観測的に研究する上で、科学的にも重要でかつユニークな場所に位置し世界的にも注目されている。本事業では、チリ共和国アタカマ高地で稼働中の2台の超伝導ミリ波分光放射計のうちの1台をリオ・ガジェゴス市にあるアルゼンチンのCEILAP(レーザー応用技術研究センター)の観測施設に移設し、既設の差分吸収ライダー(JICA支援の「レーザーレーダを用いたオゾン層観測強化プロジェクト」(2005-2007)で整備)と組み合わせてオゾンホールの境界部分の動態と構造を詳細に研究するための観測体制の強化を図ることを目的とする。また、そのために必要な技術移転と人材育成を行う。
本年度は、リオ・ガジェゴスの観測施設にミリ波分光放射計を設置するためのインフラ整備と現地研究者に対するミリ波観測の概要説明を行った。アルゼンチン側の研究者とともに、現地に2台のコンテナハウスから成る観測室を設計・新設し、観測装置に電源を供給するための変電装置の整備等を行った。また、ミリ波分光放射計移設後の技術移転計画および現地運用のための人員体制についても議論した。当初計画では年度内にチリからの観測装置の移設を完了する予定であったが、通関手続きの若干の遅れに加え、2月末のチリ地震と3月のチリ政府の政権交代の影響を受け、移設を延期せざるを得なくなった。2年度当初に移設を行う予定である。一方、アルゼンチン側の受け入れ体制整備はほぼ計画どおりに順調に進んでいる。

ミリ波観測用のコンテナハウス

 

超伝導ミリ波分光放射計

ミリ波観測用のコンテナハウス。
リオ・ガジェゴス観測施設内で設置作業風景
  リオ・ガジェゴスに移設予定の超伝導ミリ波分光放射計

 
(平成22年9月~10月)

南米南端のアルゼンチン・パタゴニア南部地区では南極上空の春先に発生するオゾンホールがしばしば上空に達し、住民にとってオゾンホールは南極の特殊な現象ではなく暮らしに密着した日常的な問題となっている。また、同地域はオゾンホールの端、すなわち境界領域に位置するため、オゾンホールが夏に崩壊しオゾンの減少した空気塊が中緯度帯に拡散・輸送・混合して拡がっていくプロセスを研究する上で、科学的にも重要かつユニークな場所である。本事業では、アルゼンチン共和国最南端部のリオガジェゴス市のCEILAP(レーザー応用技術研究センター)観測施設に、昼夜を問わず連続してオゾンの鉛直分布が測定可能なミリ波分光観測装置を新たに設置し、夜間晴天時のみだがミリ波よりも高い高度分解能のデータが取得可能な差分吸収ライダー(既設、JICA支援の「レーザーレーダを用いたオゾン層観測強化プロジェクト」(2005-2007)で整備)と組み合わせて2つの異なる観測装置による相補的な観測を行う。オゾンホールの動態と構造を研究するための日亜共同観測体制を確立するとともに、地域住民へオゾン・紫外線情報をリアルタイムで公開し必要に応じて注意を促すことを目的として事業を進めている。


今回の派遣では、
(1)チリ共和国アタカマ高地からのミリ波観測装置の移設とリオガジェゴスCEILAP観測施設への設置調整
(2)現地研究者・技術者へのミリ波オゾン観測の講義および実機を用いた専門技術指導を行った。

本事業でリオガジェゴスに設置する装置は、チリ共和国アタカマ高地の名古屋大学観測施設で稼働している2台のミリ波観測装置のうちの1台である。当初計画では平成21年度中にミリ波観測装置の移設を行う予定であったが、チリ共和国の政権交代、そして2月末のチリ大地震の影響を受け、年度内の移設が困難となり、今年度に延期することとなった。チリ大地震の影響は5月には収束したが、チリとアルゼンチンの2国間の輸出入通関処理手続きに予想以上の時間を要し、実際の物資輸送が開始できたのは8月後半に入ってからとなった。これに合わせて、8月31日より9月28日まで約一カ月弱の間、CEILAP本部のあるブエノスアイレスおよび観測施設のあるリオガジェゴスに渡航した。まず、ブエノスアイレスで輸送の状況と今後の共同研究の議論を行った後、リオガジェゴスでミリ波分光観測装置による調査研究を直接行う研究者、大学院生に対して、ミリ波観測装置およびミリ波観測法の原理に関する講義を行った。その後、昨年度3月に準備したコンテナハウスの観測棟内の整備および日本規格の100Vおよび200Vの電力を供給するためのトランスおよび変電施設のつなぎこみを行い、観測装置の受け入れ準備を進めた。チリ共和国アタカマ高地からアンデス越えの約5,500㎞の陸上輸送を経て、リオガジェゴスに観測装置が到着したのは9月の半ばであった。9月15日に税関での輸入手続きを済ませ、観測棟にミリ波分光観測装置を搬入した。超伝導受信機を冷却するための極低温冷凍機および液体窒素製造装置を設置し、現地研究者および技術者に各装置の起動方法、停電時の対処法について説明・実習を行った。単なる操作法の説明にならないよう、なるべく各装置の仕組みについても言及するようにし、典型的なトラブルに対する対処法については英文のマニュアルを作成して丁寧に説明した。これまでにも何度か概論的な説明はしてきたが、今回のように詳細な原理・メカニズムについてのつっこんだ講義を行ったこと、さらに実機を組みあげながら各部の説明をしたことは、現地の研究者・技術者からも理解が深まったと好評であった。


滞在期間中に冷却受信機系の立ち上げまではほぼ完了したが、その後の電波光学系の調整、分光計のつなぎこみ、システム全体の最終調整は10月3日よりアルゼンチン入りした長濱智生准教授に引き継いだ。


また、現在JICAの科学技術協力プロジェクトで進められているアルゼンチンとチリのパタゴニア南部でのオゾン・紫外線の研究調査に関する国際会議に出席し、今回のミリ波観測装置の概要と共同研究の目的等について報告を行なった。また、同会議において2011年3月にオゾンゾンデ、ライダー、ミリ波を用いた同時観測を行い、測定データの相互比較を行う計画をまとめた。

チリ共和国アタカマ高地より到着したコンテナ(クレーンで吊り上げているもの)。  下のコンテナハウスは昨年度設置したミリ波観測棟

 

到着したコンテナからミリ波観測装置を搬出する手伝いをしてくれている研究者のJacobo氏(左)と技術者のRaul氏(右)

チリ共和国アタカマ高地より到着したコンテナ
(クレーンで吊り上げているもの)。
下のコンテナハウスは昨年度設置したミリ波観測棟
  到着したコンテナからミリ波観測装置を搬出する手伝いをしてくれている研究者のJacobo氏(左)と技術者のRaul氏(右)

リオガジェゴスの観測棟内に組み上げ中のミリ波観測装置。

 
リオガジェゴスの観測棟内に組み上げ中のミリ波観測装置。 左手前が体窒素発生装置。 中央が極低温冷凍機により心臓部が絶対温度4Kまで冷却された超伝導受信機部、 右側は超伝導受信機の制御機器および発振器群
   

 
案件名 南米アルゼンチン南端リオ・ガジェゴスにおける大気質観測拠点整備事業
派遣専門家 長濱智生
所属機関 名古屋大学太陽地球環境研究所
派遣期間 平成22年10月から3回
相手国名 アルゼンチン
相手国研究機関 レーザー応用技術研究センター(Centro de Investigacionese en Laseres v Aplicaciosnes(CEILAP) )

南米アルゼンチン南端リオ・ガジェゴスにおける大気質観測拠点整備事業
(平成22年10月)

南米パタゴニア地区南部には人口5万人以上の都市が点在している。アルゼンチン共和国においてもサンタ・クルス州の州都リオ・ガジェゴス市などが同地域に存在し、多くの住民が生活している。南極域上空の初春から初夏にかけて発生する南極オゾンホールは、これらの都市の上空にもしばしば到来し、住民に紫外線量増大による健康被害の脅威をもたらしている。またこの地域は、初夏から夏にかけて南極オゾンホールが崩壊・消滅していく過程において、オゾン破壊された空気塊が中緯度帯にまで輸送され、拡散・混合していくプロセスを連続して観測できることから、科学的にも重要かつユニークな場所である。本事業は、チリ共和国アタカマ高地で稼働していた超伝導ミリ波分光放射計を、リオ・ガジェゴス市のCEILAP(アルゼンチン・レーザー応用技術研究センター)観測施設に移設し、CEILAPが所有するオゾン差分吸収ライダーとの共同観測により、南極オゾンホールの境界領域での動態と構造を研究するための観測体制を強化し、また必要な技術移転と人材育成を行うことが目的である。

 
昨年度、リオ・ガジェゴス観測施設のインフラ整備を進めたのに引き続いて、本年度はチリにある観測装置の移設を進めた。9月にリオ・ガジェゴスの現地まで分解されて輸送された超伝導ミリ波分光放射計を、準備したコンテナハウス内で再組み立てして無事に設置した。その後、受信器用冷凍機を動作させてミリ波受信器が絶対温度4Kまで正しく冷却され、ミリ波帯電波が受信できることを確認した。現地では大気中の水蒸気量がチリ・アタカマ高地よりも多く、ミリ波電波の吸収量が大きいため、アタカマ高地と同じ観測周波数では観測に適さない。そのため、現地でのオゾン観測に最適となるスペクトルの周波数調査をまず行った。はじめに、本装置で観測可能な195~210G㎐までの周波数範囲で1G㎐ごとに大気の透過率を求め、次にこの範囲にあるオゾンスペクトルを測定してその強度とS/Nを調べた。その結果、現地においては208.6G㎐のオゾンスペクトルを観測に用いるのがよいことがわかった。10月末より試験観測を開始し、装置の安定性、取得されるオゾンデータの質及び観測精度の検証行っている。また、アルゼンチン側の研究者に対してミリ波観測装置に関する技術移転及び現地運用のための観測装置の動作原理とオペレーションに関する詳細説明を行った。今後、技術情報や運用に関する情報を文書化して技術移転をさらに進めていく予定である。

リオ・ガジェゴス市のCEILAP観測施設内に設置されたミリ波観測用コンテナとアルゼンチン側研究者(左は筆者)。  

移設された超伝導ミリ波分光放射計

リオ・ガジェゴス市のCEILAP観測施設内に設置されたミリ波観測用コンテナとアルゼンチン側研究者(左は筆者)。   移設された超伝導ミリ波分光放射計
 
(2010年12月、2011年3月)

  アルゼンチン共和国パタゴニア南部地区の都市では、南極上空の春先に発生するオゾンホールが上空にも達し、オゾン層破壊の影響を強く受ける。またこの一帯は、初夏にオゾンホールが崩壊・消滅する過程において、オゾン減少した空気塊が中緯度帯に輸送・拡散・混合して拡がるプロセスが観測できる科学的に重要な場所でもある。本事業はチリ共和国アタカマ高地で稼働している超伝導ミリ波分光放射計のうち1台をパタゴニア南部のリオ・ガジェゴス市にあるアルゼンチンCEILAP(レーザー応用技術研究センター)の観測施設に移設し、既設のオゾンライダーと連携してオゾンホール境界部分の動態と構造の詳細を研究するための観測体制の強化を図り、またそのために必要な技術移転と人材育成を行うことを目的としている。

  2010年12月及び2011年3月の派遣では、リオ・ガジェゴス観測施設に移設されたミリ波分光放射計の定期メンテナンス及びの試験観測結果に基づく装置の調整、観測・解析ソフトウエアの導入と改良、観測パラメータの最適化を中心に行った。2010年10月より行ってきた試験観測データを基に、現地における大気透過率の時間変動を調査し、現地の気象状況に合わせた観測手法の最適化を行った。また、これにあわせて各種観測パラメータの最適化、装置及び観測制御ソフトの調整・改良を改めて行い、208 GHz帯のオゾンスペクトルが正しく検出されることを確認した。続いて、観測されたスペクトルから高度分布を解析するソフトウエアを導入し、現地にてほぼ実時間でデータ解析が行えるようにした。これにより30分ごとにオゾン高度分布を高度25 kmから80 kmの範囲で得ることが可能である。また、これらの観測データの利用法について現地研究者に解説を行い、今後のライダーやオゾンゾンデによる観測データとの比較が現地研究者によって行えるようにした。

  新たに、現地見学者のためにミリ波観測装置に関する紹介ポスターを観測室内に設置した。ポスターでは本プロジェクトの概要と観測の目的、装置の説明等を行っている。この紹介ポスターの内容の詳細を現地研究者にも解説し、見学者への説明に利用できるようにした。今回の派遣期間中にはオゾンゾンデによる比較検証実験を現地にて行う予定であったが、気球の準備の都合で延期となった。そこで期間中に現地研究者と観測データの利用方法や相互比較解析手法について議論を行い、効果的な観測データの精度検証が行えるようにした。オゾンゾンデによる観測実験は派遣期間終了後の3月18日に行われ、現在オゾンゾンデ、ライダー、ミリ波の各データの比較検証が進行中である。

  また、今後の共同研究について現地研究者と議論を行った。現在行っている成層圏オゾンのモニタリング観測に加えて、大気微量成分のうち二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの観測を新規に行う可能性について議論を行った。今後1年程度をめどに予備的な実験を日本で行い、その結果をもとにアルゼンチンで観測を行った場合の予想される成果などについて共同して研究を行うこととなった。

夏のリオ・ガジェゴス観測施設。手前がミリ波 観測施設で左側はライダー観測施設である。  

ミリ波観測室。紹介用ポスターを準備し、見学者に対応している。

夏のリオ・ガジェゴス観測施設。
手前がミリ波観測施設で左側はライダー観測施設である。
  ミリ波観測室。紹介用ポスターを準備し、見学者に対応している。
現地宿泊施設の食堂にて。アルゼンチンCEILAP現地技術者と名古屋大学技術職員。    

 

現地宿泊施設の食堂にて。
アルゼンチンCEILAP現地技術者と名古屋大学技術職員。
     
 
案件名 南米アルゼンチン南端リオ・ガジェゴスにおける大気質観測拠点整備事業
派遣専門家 杉本伸夫
所属機関 独立行政法人国立環境研究所 大気圏環境研究領域・室長
派遣期間 平成22年11月15日~11月29日
相手国名 アルゼンチン
相手国研究機関 レーザー応用技術研究センター(Centro de Investigacionese en Laseres v Aplicaciosnes(CEILAP) )

南米アルゼンチン南端リオ・ガジェゴスにおける大気質観測拠点整備事業

本案件は、南米地域における成層圏オゾンの連続観測体制を確立するとともに、地球温暖化や地域環境に影響するパタゴニアダストや森林火災エアロゾルなどの対流圏エアロゾルの観測体制確立のための基盤を整備することを目標とする。オゾン層観測については、JICAプロジェクト「オゾン層観測強化プロジェクト」(2005-2007)において、アルゼンチン南部のリオガジェゴスにオゾンライダーが設置され観測が継続的に行われてきた。また本案件で、ミリ波オゾン分光計がリオガジェゴスに設置され、成層圏オゾンの昼夜の観測体制が確立されている(名大、水野教授)。一方、対流圏エアロゾルについては、地球温暖化や地域環境において重要であるにもかかわらず、南米においては観測体制が整備されていない。東アジア地域では、国立環境研を中心に、日、中、韓、モンゴルなどの合計約20地点から構成される自動観測ライダー観測網が構築されている。また、WMOのGAWでは、東アジアや欧州などの既存のライダー観測網を連携したグローバルなネットワークGAW Aerosol Lidar Observation Network (GALION)が構築されている。本案件は、東アジアのライダー観測網で蓄積した技術を移転して南米地域のエアロゾル観測網を確立することをねらいとする。

現在、アルゼンチン側研究機関であるCEILAPでは、エアロゾル観測用ライダーの開発が行われている。今回の派遣では、まず、ブエノスアイレスにあるCEILAPを訪問し、開発中のライダーの進捗状況を視察するとともに、ライダー技術の詳細や観測網構築のための考え方について助言を行った。また、森林火災や野焼きなどのバイオマス燃焼エアロゾル、火山性エアロゾル、鉱物性ダストなどのエアロゾルを捉えるための最適なネットワーク観測サイトについて、衛星データやエアロゾル輸送モデルの結果に基づいて意見交換を行った。具体的には、パタゴニアダストについて、まずリオガジェゴス観測サイトにおいて昼夜連続自動観測を実現すべきことなどの提言を行った。その後、リオガジェゴスの観測サイトを訪問し、オゾンライダー、紫外放射計、サンフォトメータ、ミリ波オゾン分光計などによる観測状況を視察した。また、エアロゾルライダーを設置する場合の技術的な検討を行った。

リオガジェゴス観測サイトのオゾンライダーコンテナ

 

オゾンライダーコンテナの内部

リオガジェゴス観測サイトのオゾンライダーコンテナ   オゾンライダーコンテナの内部

 
案件名 温室ガス削減と地球温暖化防止に資する森林再生
派遣専門家 角張嘉孝
所属機関 静岡大学 農学部・教授
派遣期間 平成22年3月から5回派遣
相手国名 タジキスタン
相手国研究機関 タジキスタン共和国政府付属環境保護委員会(Committee for protection of environment under Government of Republic of Tajikistan)


温室ガス削減と地球温暖化防止に資する森林再生
(平成22年3月9日~3月24日)

1. はじめに:

タジキスタン国(以下、「タ」国という)は、中央アジアのなかで最貧国であり、森林率のもっとも低い国である。「タ」国は、ソビエト崩壊後の内戦状態を脱出したばかりで、経済的に困窮しており、違法な伐採等により森林が急速に減少している。その結果土砂崩れ、洪水等の災害がもたらされている。「タ」国政府は現地日本大使館を通じて「温室ガス削減と地球温暖化防止に資する森林再生」に対する協力を要請してきた。

2. 調査研究目標:

調査研究では、日本国科学技術研究員と「タ」国研究者(森林研究所)およびその専門家(森林公社)が共同で森林減少の現状とその結果生じる問題を調査するとともに、その調査結果に基づき、パイロット地域を選定し、森林再生にはどのような対策が有効であるかを整理し、具体的なパイロット地域における森林保護・再生と維持管理の研究計画を作成する。これらの成果が実践されるようなプロジェクトの創出をタジキスタン政府と日本政府に提案することが、調査研究の目標である。


3. 研究調査はどのように:

主要な生態系は高山生態系、針葉樹林、ポプラ林、果樹林、草地生態系、砂漠生態系の5つに分類される。これらの生態系をC/Pとともに現地調査を行っている。2010年度は高山生態系、ポプラ林、砂漠生態系の調査研究を計画している。2011年度にはこれらの成果を受けて調査研究プロジェクトとして提案する。

4. 期待されていること:

生態系の荒廃の主要な原因は貧困であり、上位目標を達成するためには「流域単位の住民の経済生活が向上すれば森林生態系の回復が持続的に継続される」との仮定に立ち、それらを実践可能とする新しい土地利用の戦略が検討されている。


具体的には、リモートセンシング技術を導入して森林のモニタリングが図られ、森林の減少状況が時系列的に把握される。配慮すべき脆弱な生態系の特徴を把握し、重点的に修復措置を導入する。また既存のJuniper 林(日本のビャクシン類;木材資源としてはあまり期待できない)は生物多様性を維持しつつ、生態系サービスを取り込んだ自然保護区として位置づける。一方再生可能な森林資源として、草地生態系と森林生態系との境界領域において、草地に一時的な家畜の進入を制限することによる「土地利用休養区」を設け、本来の森林・草地生態系の維持回復能力を期待し、拡大させる手法を導入する。膨大な費用を要し、しばしば失敗例の多いこれまでの人工造林一本やりを避ける。これまで導入されたことのなかった斬新な方法を導入し、自然の修復を図る。山岳地のポプラ林では河川からの灌漑水を導入することにより、その成長が大幅に見込まれる。建築資材の増産も視野に置く。これまで100%輸入されている木材を国内生産に切り替える体制や木材市場の開設なども流域経済を向上させる上で、きわめて重要な事項である。ここで開発される技術は「タ」国ばかりでなく広く中央アジアの諸国や中東、西アフリカなどの乾燥地における自然修復に貢献する汎用的な技術であると思われる。

ヒッサール谷   平成22年3月 JSPS-JICA科学技術研究者派遣事業 キックオフ プレスリリース(タジク第一テレビ放映)ステートメントを読み上げる「タ」国サハロフ森林局長、JICAタジキスタン海保所長(中央)と角張科学技術研究員(中央奥)

家畜の過剰な利用により窮した草地生態系と森林生態系 (ヒッサール谷)平成21年9月(JSPS予備調査から)

 

平成22年3月 JSPS-JICA科学技術研究者派遣事業 キックオフ プレスリリース(タジク第一テレビ放映) ステートメントを読み上げる「タ」国サハロフ森林局長、JICAタジキスタン海保所長(中央)と角張科学技術研究員(中央奥)


 
(平成22年6月1日~22日、8月21日~9月17日、11月6日~12月4日)

研究調査によってどのようなことが分かってきたか:

調査研究は平成22年3月、6月、9月、11月に実施された。タジキスタン国(以下、「タ」国という)の主要な生態系のうち高山生態系(パミール)を除く、針葉樹林、ポプラ林、果樹林、草地生態系、砂漠生態系の5つについて調査が実施された。58カ所に及ぶ調査箇所がデータベース化され、調査研究プロジェクトを企画する場合に必要な情報が引き出せる構造になっている。データベースは高山生態系(主としてパミールあるいは主要河川の源流部分)、針葉樹林(針葉樹林+草原)、ポプラ林(水路沿いのライン状+ポプラ林)、果樹林(冷温帯;リンゴ、アプリコット、クルミ等、暖地+乾燥林;ピスタチオ、アーモンド等)それに同国の南東部に位置する砂漠地帯と細分される。これらの特徴ある生態系とそこを管理する森林公社、地域住民等の要望、優先すべきカテゴリー等を含む評価資料も準備された。

 

調査研究プロジェクトを開始する前に、必要な要素技術を開発・確認するために、3カ所のパイロットサイト(植林面積13㏊)を設置した。具体的には、電気柵(Electric Shepherd Systemと呼ぶ)を設置し、羊やヤギ、牛などの家畜の一時的な土地利用を制限し、劣化した草地などが自然の力で回復するのを待つ。同時に自然の力で樹木が稚樹を発生させる力を利用(天然更新という)して、荒廃した自然の修復を計る。また補助的に、果樹や植林を行い、地元住民のインセンシブを高め、社会造林の仕組みを流域単位で構築する見通しを得た。

 

調査した中には、荒廃した場所だけでなく、自然と人間の共生(ある種の低炭素社会)が維持されている場合がある。このような場合には上記手法を導入せずに、次のステップをめざしてもらう。すなわち小型水力発電機の導入。製材所の開設、木工業の展開、果物の人工乾燥による高付加価値化を計る。また豊富な河川水を利用した内水面漁業開発による羊産業依存体質の改善。薬草などを植栽・保全することで生物多様性の増進。小規模養蜂活動の推進、多様な職種の創造をはかる計画である。流域単位における住民の経済的な安定と発展なくして、森林面積減少や森林破壊の動きに歯止めはかからない。単なる植林活動では情勢分析が圧倒的に足りない。多方面に亘る深い理解と多様な要素を丁寧にシラベあげ、それを再合成し統合化することが何よりも問題解決の近道である。

 

次期プログラムに必要な要素は、1)人材育成、2)研究と計画立案、3)植林などの実践活動が欠かせない。ソビエト連邦崩壊後のタ国では内戦も生じたこともあり、有能な人材が国外に逃れ、絶対的に人材が不足している。最優先での人材育成。特に公務員のサービス等質の向上や勤労者の意識改革が不可欠である。また、ソビエト崩壊直前には森林および自然環境保全についての研究がたち行かなくなっていたと思われるので、研究環境を至急立ち上げる必要がある。同時に、タ国全体の自然環境モニタリングシステムの構築が必要で、その研究成果に基づき全土に及ぶ自然管理計画を至急確立しなければならない。植林については、現在進行中のパイロットサイトのノウハウを普遍化するため、58カ所の中から、データベースに基づいた優先順位を構築、パミールを含む20カ所程度に絞り込んだプログラムサイトで実践・情報の普及を同時に展開する必要がある。植林計画は植林可能な面積の厳密な査定(立地評価)をへたうえで実践されるべきである。

 

タ国はクールアースプログラムに中央アジアから唯一選定された。タ国国民が必要なエコロジカルサービスを受領できる体制をGEF (Global Environment Fund) などと協力しながら、早急に対応しなければ成らない。その具体的な構想のひとつが④である。プロジェクト申請書は12月1日にタ国国家委員会に提出された。

 

JSPS-JICA科学技術研究員派遣事業として、④の申請書の実践を前提に、GTZ(ドイツの代表的な援助団体)と接触した。ドイツの研究者は「日本の援助戦略がない」のでどのように自国の戦略とすりあわせが可能か検討することが著しく困難である旨発言があった。「日本としての援助戦略」に関する要望が多い。JSPS-JICA科学技術研究員はJICAの戦略が明確(具体的な条件の提示がない)でないため、共同してやるための設計図が描けない。またJICAには本事業の遂行に対して物心両面の支援をお願いしたい。

 

期待されていること:

生態系の荒廃の主要な原因は貧困であり、上位目標を達成するためには「流域単位の住民の経済生活が向上すれば森林生態系の回復が持続的に継続される」との仮定に立ち、それらを実践可能とする新しい土地利用の戦略が検討され、一部はすでに実践されている。来年度はさらにパイロットサイト数を拡大し、より多様なタ国の生態系に準じたサイトにおいて情報を収集し的確な計画が提案できるよう研究を進める。
本事業のTORの実現のため必要な努力を続け、真にこの国の森林減少に歯止めがかかり、多様性の向上に向けたステップに立てるよう努力したい。この場を借りて関係各位に感謝すると共に、さらなるご支援をお願いしたい。

中山大使(スコップを持っている)をお迎えして記念植樹(右に一人置いて、Safarov森林公社長官)

中山大使(スコップを持っている)をお迎えして記念植樹
(右に一人置いて、Safarov森林公社長官)
 

家畜による食害を制限する電気柵 角張嘉孝科学技術専門家

 

植林されたマツ

家畜による食害を制限する電気柵 
角張嘉孝科学技術専門家
  植林されたマツ
 
(平成23年9月18日 ~ 10月11日)

はじめに

 タジキスタン国の自然環境修復に必要な要素技術を評価するため、パイロットサイトを設定し小規模な実験を行い、各種作業を実施し検討すべき項目の洗い出しを行っている。その3回目の報告をする。派遣事業の経緯等については以前の報告を参照されたい。


なにがより重要な視点か?

① 

森林公社のキャパシティービルディング不足。

② 

JICAのF/Uの枠で森林公社に管理を委託させた場合は協力者への給料未払い等が常在化し、モチベーションを低下させた。

③ 

JSPS-JICA科学技術研究員派遣事業で直接契約して実施した場合は比較的良好である。管理運営上の問題が極めて重要だ。

④ 

食害の甚大な場所において、太陽電池を利用した電気柵によって一時的な家畜の土地利用を制限した。草原が回復し、森林部分では稚樹が家畜の食害を免れ効果が現れた。

⑤ 

大苗を植林地に植えることが多い。植栽直後では根が十分吸水できない。葉量が多いため蒸散が増え、水収支が悪化し枯損する場合が多い。育苗技術および灌漑技法等の指導が必要だ。

⑥ 

土壌浸食に対して効果がある。

⑦ 

柵内では干し草を売り収益が上がった。

⑧ 

秋季には家畜による保全された草原への進入圧が高まる。

 

 この国の破壊された森林や草原を修復し、自然環境を保全するうえで、解決しなければならない技術的・管理運営上の重要なヒントが入手できた。しかし、この国の多様な生態系に対応した管理体制を持続可能にするにはもっと経験を積み上げる必要がある。

 

 本研究の実施時間内で修復・保全される面積は、たかだか数十haから百haで極めて小規模である。しかし、「新しく導入された手法によって自然が修復された」という事実は非常に大きな教育的な意義がある。すなわち、この研究プログラムに参加した地域住民は「家畜の適切な管理(草地の利用制限)」によって、荒廃した自然が再生し、さらに質の高い資産(たとえば高い生物多様性:価値の高い蜂蜜や薬草などが得られる)となって自らに還って来ることを理解できる」。このような体験無くして、持続可能な管理システムの運用センスは獲得できない。住民たちは、はっきりと知るだろう。何をすれば自然は正を生み、何をすれば負の生産をするか? つまり、地域住民は明確に「自然との共生」のための道筋(新しいアジェンダ)をイメージすることができる。

 

明確な研究目標と実践としては、この国の政策として定着できるよう、監視を怠らず、継続的に必要な情報の発掘に努め、適宜適切なアドバイスを行い、この国の人々が等しくエコロジカルサービスを享受出来るようになる。タジキスタン国において「持続可能な植林システム」として、長期に亘って利用してもらうために、当面軌道に乗りつつある植林システムの指導と監視を徹底して行うため、日本国における無償援助やJICA等の公的援助機関のサポートにより実践のチャンスを保証してほしい。最終的には、このプログラムの成果を応用して発展途上国で拡大している森林面積の減少に歯止めがかかる。

中山大使(スコップを持っている)をお迎えして記念植樹(右に一人置いて、Safarov森林公社長官)

森林公社創立80周年記念国際会議で講演の後、
局長より民族衣装等を授与される専門家
 
 
案件名 オイルパーム・バイオマス総合的利用システムの開発
派遣専門家 田中良平
所属機関 (独)森林総合研究所 バイオマス化学研究領域・領域長
派遣期間 平成22年3月~4月、9月~10月、平成23年1月
相手国名 マレーシア
相手国研究機関 マレーシア科学大学(Universiti Sains Malaysia)


オイルパーム・バイオマス総合利用システムの開発
(平成22年3月16日 ~ 4月15日)

このたび、科学技術研究員派遣事業「オイルパーム・バイオマス総合利用システムの開発」案件の短期専門家として2010年3月16日~4月15日の1ヶ月、マレーシアに派遣されました。

 

プロジェクトの目的は、オイルパームの木質バイオマスから各種ボード及び複合材料を製造する技術を開発し、オイルパーム全体を総合的に利用するシステムを作り上げることですが、最初の派遣として1ヶ月という短期間の中で次の3点を主体的に遂行しました。

 

ネットワーク作りのための関連機関や大学への訪問と関係者との面談(聞き取り調査)

 

技術開発のための基礎的実験(ラボワーク)

 

工場およびプランテーションの調査と見学

 


これらの調査や研究を行なうために、ペナンにあるUniversiti Sains Malaysia(USM、マレーシア科学大学)に拠点を置き、当大学のSchool of Industrial Technology(工業技術学部)のDr Othman Sulaiman准教授をカウンターパートとして実施しました。

 
まず、①について、マレーシア森林研究所(FRIM)、パームオイル機構(MPOB)、木材産業協会(MTIB)、プトラ大学(Universiti Putra Malaysia, UPM)を訪問し、面談と聞き取り調査を行ないました。面談のアポイントメントは渡航前に関係者を通じて行なった場合とDr Othmanのアレンジによる場合があり、いずれも1~2時間程度、部長クラス以上または学部長クラスと話をすることができました。全体の目的としては実際に案件が事業化される見通しを立てることですが、今回はまずはキーポイントとなる機関に赴き、幹部クラスと面識を持ち、本格的な調査をするためのネットワーク作りに主眼を置いています。そのためにこちらから説明資料を持参し、概要を説明した上で今後の協力を要請したところ、すべての機関で快諾を得ることができ、ミッションとしてまずは好スタートを切ることができました。  

ネットワーク作りのための関連機関や大学への訪問と関係者との面談(聞き取り調査)

 
②は実験室仕事で、実際にUSMで木質コンポジット(複合材料)担当のDr Tay Guan Sengと協力して、新規コンポジット用ポリマー開発の基礎となるべく実験を数日にわたって行ないました。この基礎実験では植物原料100%のコンポジットを目指し、現段階では使えそうな原料について定性的に利用可能性を追究しました。その結果、パーム油を含む植物性油脂を原料とする高分子材料と、オイルパーム繊維を組み合わせることにより実現しうることがわかりました。この作業ではUSMの学生を指導しつつ、実験を進めました。  

技術開発のための基礎的実験(ラボワーク)

 

工場およびプランテーションについて(③)は、木質家具工場と小規模農家の見学、調査を行ないました。家具工場は現地の広葉樹を主原料としていますが、原材料の減少によりパーム等これまで使用してこなかった材の利用も今後は検討していく必要がある、ということがわかりました。また、こうしたパームバイオマスの利用は、プランテーション内から工場まで原料を運び出す手間、労力も充分に勘案する必要があり、政府系大規模プランテーションよりも小規模農家によるもののほうが、事業化に向けた調査研究を行なう場合に協力が得られるのではないか、という考えが示されました。この点は非常に注目すべき点であり、今後さらに調査を進めていきたいと思います。

工場およびプランテーションの調査と見学

 

工場およびプランテーションの調査と見学


 
(平成22年9~10月、平成23年1月)

前回2度の派遣に続き、2010年9~10月、2011年1月それぞれ3週間ずつマレーシアに滞在した。本プロジェクトは二名で実施しており、報告者(田中)は共同研究プロジェクト提案に向けたネットワーク作りと情報収集、杉元倫子博士(国際農林水産業研究センター)は基礎的性質を把握する研究手法の確立をそれぞれ担当している。提案を予定している共同研究プロジェクトは、オイルパームの未利用木質バイオマスをボードや複合材料などに利用する技術を開発し、それによって環境保全と社会還元に役立てるためのシステムを構築することを目指している。従って、今回の派遣ではこれまでの調査結果を活かし、また新たにいくつかの研究機関や民間企業を訪問して情報を集めることにより、共同研究実施を念頭に置いた体制作りと研究内容の方向性を明らかにした。


その中で、マレーシア経済省の管轄にある規格・工業技術研究所(SIRIM)が、我々の考えている共同研究プロジェクトを非常に前向きに捉えていることがわかった。9月に内容説明のために初めて訪問した際に良好な感触を得たため、1月には2回、拠点としているマレーシア理科大学(USM)の研究者とともに打ち合わせ会議を開催した(写真1)。SIRIMはマレーシアの工業技術全般にわたる研究や規格化、標準化に関する業務を行なう機関であり、これまでオイルパームに関わるバイオマス利用の研究開発にも携わっている。また、同国の環境改善にも力を入れており、パームオイル産業からの廃棄物利用は環境面からも極めて重要であるとの認識がある。会議では、バイオマス活用の技術的な開発と同時に、LCA(ライフサイクルアセスメント)を含む環境保全、社会還元に向けた取り組みを含む総合利用システムの構築を目指すことで意見の一致を見た。具体的には①原料供給、②製造技術の開発、③環境影響・経済性の三部門に分けて研究に取り組むことが提案された。


一方、オイルパームからの木質バイオマスを、実際に製品化している工場の調査も行なった。油脂を含む果実を採取した後に残る空果房(Empty fruit bunch = EFB、写真2)からパルプを製造している工場で、マレー半島中央部Perak州と南部Johor州の二カ所を訪れた(写真3)。製品としてはそれぞれ包装用紙や紙容器であり(写真4)、パルプとしての生産量は一工場当たり日産20トン程度である(日本の中堅パルプ工場の1/10以下)。こうしたオイルパームパルプの工場はマレーシア全土でもまだごく少数で、これらの工場も規模的、設備的に充分とは言い難い。しかしながら、この分野は需要面から見ても非常に有望であり、今後の新規参入や生産能力の向上などが期待される。今後我々が目指す総合的なバイオマス利用システムを構築する上で、このような「先駆け」分野を調査することにより、例えば環境との調和など参考にすべき点を洗い出すことができた。。


SIRIM、USMとの会議出席メンバー

 

オイルパーム空果房

SIRIM、USMとの会議出席メンバー   オイルパーム空果房

Perak州のパルプ工場内部

 

空果房パルプから作った紙製品

Perak州のパルプ工場内部   空果房パルプから作った紙製品

 
案件名 オイルパーム・バイオマス総合的利用システムの開発
派遣専門家 杉元 倫子
所属機関 独立行政法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)林業領域・主任研究員
派遣期間 平成22年5月~6月、平成23年2月~3月
相手国名 マレーシア
相手国研究機関 マレーシア科学大学(Universiti Sains Malaysia)

オイルパーム・バイオマス総合利用システムの開発

3月中旬から4月中旬にかけて派遣された田中良平博士に続き、科学技術研究員派遣事業「オイルパーム・バイオマス総合利用システムの開発」案件の短期専門家として5月30日~6月29日の1ヶ月、マレーシアに派遣されました。

 
オイルパームプランテーションの盛んなマレーシアですが、現在は実からのオイルの収穫がほとんどで、その他大量に発生する木質バイオマス(更新の際に発生する樹幹や、茎葉、実を収穫した後に残る空果房など)は、有効利用されていません。そこで本案件は、オイルパームの未利用バイオマスからボードや複合材料を製造する技術を開発し、オイルパーム全体を「総合的に」利用するシステムを作り上げるために、その準備としての調査、基礎データの収集を行うことを目標としています。

 
滞在期間中は、現状把握のための現地見学および調査として、①「第2回環境研究と技術に関する国際シンポジウム(2nd ICERT)」への参加、および②USMのサンプリングに同行し、オイルパームプランテーションの見学を行いました。また、有効利用を考える際に、対象となるバイオマスの化学分析は欠かせないのですが、今まで利用されず分析もされていなかったものが相手なだけに、一般的に用いられている分析手法では問題があることもあります。その点を考慮しつつ、③オイルパーム樹幹の化学分析を行いました。拠点としたのは、ペナンにあるUniversiti Sains Malaysia(マレーシア科学大学;USM)のSchool of Industrial Technology(工業技術学部)です。


①の国際シンポジウムは6月2日~4日の3日間にわたり開催され、計119件の発表が予定されている大規模なものでした(写真1)。本件の関連では、オイルパーム産業に関するライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment;LCA)評価の発表が非常に興味深かったです。材料開発の研究計画立案の際に、原料供給現場の研究および評価が重要であることを改めて感じました。
余談ですが、コンポスト(堆肥)化技術や未利用バイオマスなどを利用しての水浄化などは、日本ではある程度一段落ついた感のある研究テーマですが、マレーシアにおいてはまだ普及していない部分もあるようで、関心が高かったです。LCAに関しても別途「我々(マレーシア)はLCAの研究をもっとしなければならない」ということを主張した発表があったくらいで、まだまだ日本とマレーシアで協力して解決できる問題がたくさんあるのだろう、という印象も受けました。


③のオイルパーム樹幹の化学分析に関しては、分析手法の部分は整理が出来てきつつあります。しかしサンプリングの大掛かりさから、どうしても少ない個体数の分析となることが多く、得られた分析値が、品種固有、樹齢特有、(純粋な)個体特有のものだったりしないのか、USMの学生とも協力しつつ検討を進めていく必要を、感じています。

写真1 国際シンポジウムの様子

 

写真2 オイルパーム幹の根の様子

写真1 国際シンポジウムの様子   写真2 オイルパーム幹の根の様子
(解説)初めてオイルパームの根を見たのですが、地
上部の個体の大きさに対してかなり貧弱な印象で、
はりも浅いということを知りました。

 

(平成23年2月15日~3月13日)

本事業による短期専門家派遣は、昨年3月中旬の田中良平博士の1回目から数えて、今回で5回目となります。報告者(杉元)としては今回が2回目の派遣となり、2月15日~3月13日の約1ヶ月間マレーシアで、研究開発のための基礎データの構築に目的を絞った活動を行いました。実験は全て、Universiti Sains Malaysia(マレーシア科学大学;USM)のSchool of Industrial Technology(工業技術学部)で、行っています。

未利用バイオマスの有効利用を考える際に、対象となるバイオマスの化学分析は欠かせません。しかし、木材に対して用いられている分析手法を、そのままオイルパームに用いて、きちんとした結果が出せるかどうかは分かりません。前回派遣でそのあたりを整理し、分析手法を確定したので、今回は実際に、オイルパーム幹の構成糖分析、リグニンや灰分の定量を行いました。

またオイルパーム幹には、一般的な木材には含まれないデンプン、グルコースなどの単糖類も多く存在しています。これらがボードなどのマテリアルを製造する際に、どのような影響を与えるのかについても、検討しなければなりません。実際に製造したボードの性能評価はマレーシア科学大学で行っていますが、元々単糖として含まれていたグルコースの定量分析の方は、派遣中に行いました。

分析結果そのものは目新しいものではなかったのですが、今後共同研究プロジェクトを発展させていく上で基礎となる、重要なデータが得られたことになります。また同じ分析手法を、部位や品種などの異なる試料に適用することにより、それらの特性の把握に役立てられるようになりました。

写真 オイルパーム幹の断面(乾燥後)

写真 オイルパーム幹の断面(乾燥後)
(解説)立っているときは、一般的な樹木のものと同じように見えるオイルパームの幹ですが、 内部はこのようにすかすかしていて、化学成分や強度などが異なっています。

 
案件名 マナグア湖南部流域におけるマルチ・ハザード調査研究
派遣専門家 箕輪親宏 酒井直樹
所属機関 (独)防災科学技術研究所
派遣期間 平成22年3月21日 ~ 3月29日
相手国名 ニカラグア
相手国研究機関 マナグア国立自治大学地球科学研究センター(Centro de Investigaciones Geocientificas(CIGEO), Universidad Nacional Autonoma de Nicaragua en Managua)

ニカラグア マナグア湖南部流域におけるマルチ・ハザード調査研究

2010年3月21日から29日まで中米にあるニカラグア国立自治大学(UNAN) 地学研究センター(CIGEO)に「マナグア湖南部流域におけるマルチ・ハザード調査研究」のため派遣された。ニカラグアは1972年の地震、1992年の津波、1998年のハリケーンによる地すべりなどの災害を受けている。このため防災対策を重要視している。我々が訪れたUNANは首都マナグアに位置し、CIGEOはUNANの広々とした所にある平屋の建物の研究・教育施設である。地質学と地球物理・防災の分野に分かれている。この地球物理・防災にある地震工学と地すべり洪水の支援が本派遣プロジェクトの主たる目的である。本プロジェクトにおいては2年間にわたり数回、毎回派遣者を換え、CIGEOを支援のため訪れる。今回は地震工学の箕輪と地すべりの酒井が派遣された。CIGEOでは所長のDr. Dionisio Rodorguezが主に対応した。

CIGEOではまず研究体制・状況について説明を受けた。基礎的な研究分野(地質学,地球物理学等の理学分野)はしっかりできていると感じられた.ただし,その知識を活用し,災害分野において実効性を伴った成果を出すには時間が必要と思われた。我々もセミナーを行い「強震動の基線補正」、「防災科研の地すべり研究」を発表した。約30人の出席者があり、検証方法、実験方法について活発な質問がなされた。次にCIGEOの研究設備を案内されたが、地震・地盤探査用には深さ100m地震観測井戸等があったが、土の物性や強度を調べる試験装置が不足していると強く感じられた。現在はメキシコの大学に赴いて実験を行っているとのことである。

過去の災害現場として、1972年にあった地震のマナグア市内の痕跡を見た。マナグア市内に10階を越える建物は1,2見られるだけで、それもこの地震前に立てられた建物である。この地震以降、高い建物は殆ど建てられず、近郊に広がり、スラム化しているところもある。さらに1998年ハリケーンミッチの豪雨災害の跡を訪れた。この豪雨でCasita火山(標高1300m超)頂上付近に起きた大規模崩壊により発生した土石は、数分で5kmほど麓にある町を直撃し、土砂が数mに渡って堆積し、そこにあった村では2500名超の犠牲者を出した。そこにはこの災害の記憶を後生に残そうとする記念館が建てらていた。その他ニカラグア外務省を表敬訪問し、ニカラグアの防災行政組織について知識を得た。さらにニカラグア国土研究所(INETER)を訪れニカラグアの地震・火山監視体制について説明を受けた。

今年に入り1月12日のハイチ地震、2月27日のチリ地震があり、ニカラグアで地震災害に対する不安感が高まっている。このためか、我々の訪問が大きく新聞で取り上げられた。CIGEOは近代的な2階建ての研究棟を現在地から100m程離れたところに新築し、この4月末に引っ越す。今までの建物は試験棟になる。これからニカラグアの防災研究の拠点、人材育成の拠点としてふさわしい建物である。今後設備を充実し、ニカラグア独自で多くの調査、試験が出来ることを期待する。今回の我々の訪問がCIGEOにとって有益に働くことと信じてやまない。

3月26日現地新聞  

本プロジェクト関係者集合写真

我々の派遣が3月26日現地新聞のトップに載る   「新研究棟」の前での本プロジェクト関係者集合写真
 
首都マナグア市内   Casita火山の大規模崩れ壊
1972年マナグア地震以来高層建築が無く高層建物のすくない首都マナグア市内   1998年ハリケーンミッチの豪雨によるCasita火山の大規模崩れ壊
 
豪雨災害記念館前  

セミナー風景

1998年ハリケーンミッチの豪雨災害記念館前   セミナー風景

 
案件名 マナグア湖南部流域におけるマルチ・ハザード調査研究
派遣専門家 横井俊明
所属機関 (独)建築研究所国際地震工学センター 上席研究員
派遣期間 平成22年9月18日~9月30日
相手国名 ニカラグア共和国
相手国研究機関 ニカラグア国立自治大学マナグア校 地球科学研究センター(Centro de Investigaciones Geocientificas, Universidad Nacional Automoma de Nicaragua en Managua (CIGEO- UNAN))

マナグア湖南部流域におけるマルチ・ハザード調査研究

・日程
月日 業務 業務地等 宿泊地・備考
平成22年
9月18日(土)
  成田 - Houston - Managua 移動日 機中泊
     19日(日) 資料整理・セミナー準備 Hotel マナグア市
     20日(月) 打ち合わせ、機材検査
ソフトウェア:インストール及び動作確認等
CIGEO-UNAN
     21日(火) セミナー(講義)
接続試験(K2とEpisensor)
JICA事務所表敬
CIGEO-UNAN
JICA事務所
     22日(水) 接続試験(K2とEpisensor)・セミナー(講義・演習) CIGEO-UNAN
     23日(木) 野外測定(K2とEpisensorでSPAC法)
室内接続試験(長周期地震計)
CIGEO-UNAN
     24日(金) 野外測定(K2とEpisensorでSPAC法、
長周期地震計による3成分観測,
固有周期1秒の地震計とK2の接続試験
CIGEO-UNAN
     25日(土) マナグア市・グラナダ市と周辺視察  
     26日(日) 資料整理 Hotel
     27日(月) 野外測定(K2と固有周期1秒の地震計でSPAC法 CIGEO-UNAN
     28日(火) 野外測定(K2と固有周期1秒の地震計でSPAC法
打ち合わせ(JICA事務所)
大使館表敬
CIGEO-UNAN
JICA事務所
日本大使館
     29日(水) データ解析指導・打ち合わせ CIGEO-UNAN
     30日(木)   Managua - Houston 移動日
10月1日(金)
     -2日(土)
  Houston-成田 移動日 機中泊

・カウンターパート

機 関 : ニカラグア国立自治大学地球科学研究センター
1990年にスウェーデンの援助で、ニカラグア国立自治大学に設立された。地質・材料工学、鉱物学、岩石学、岩石物理学、GIS、Remote Sensing及び、岩石・地盤標本担当の部門がある。
関係者: Dionicio Rodriguezセンター長(博士、地質学)
Blenda Leyton研究員(博士、地球物理学)リモートセンシング
Marvin Corriols研究員(博士、地球物理学)電気探査
Lener Sequeira研究員(博士、地球物理学)電磁気探査(MT法)
Claudio Romero研究員(修士、物理学)微動探査・地震探査

・使用機材

データロガー: Altus K2(Kinemetrics #2227) 内蔵3ch+外付け3ch(内1chは接続ケーブル(Junction-BoxとES-U2の間)が切断)
地 震 計 : Episensor(Kinemetrics) 加速度計1成分外付用(ES-U 1台(故障)、ES-U2 2台)
Episensor(Kinemetrics) 加速度計3成分(Altus K2に内蔵)
SE型速度計3成分(負シャント抵抗による過減衰化と積分増幅器の組み合わせによる速度型地震計。5秒まで平坦特性。)
固有周期1秒速度計(保坂製、上下動3台)

・実施した観測と結果の概要

H/V観測用長周期地震計とAltus K2の接続試験
携行機材であるSE型速度計3成分及び特注した専用接続ケーブルと、AltusK2との接続試験を実施した。この際に取得した微動記録を使った長周期帯域でのパワースペクトルには周期3~4秒付近にピークが観測された。また、H/Vスペクトル比では周期6秒付近にはっきりしたピークが観測された。加えて、内蔵加速度計のH/Vスペクトル比との比較により、周波数3.5Hz以下では内蔵加速度計による観測記録の解析結果は信頼性が低い事がわかった。

 

加速度計によるSPAC法の観測
Altus K2と内蔵のES-Tの上下動成分及び外付けES-U22台を使って、正三角形アレイ(辺長100m,50m,25m,10m)での観測を、UNAN内CIGEOの実験室と強震観測室周辺で実施した。外付けES-U2のS/N比が、4Hz付近より低周波数側で解析に耐えない程度に低くなり、極く表層を除いては探査には使えないことを確認した。ちなみに、4Hz以上という周波数帯域は、高精度表面波探査(MASW)でカバーできるので、わざわざ微動を使う必要が無い。

 

固有周期1秒速度計によるSPAC法の観測
固有周期1秒速度計3台をJunction Boxを介してAltus K2に接続し、上記と同じ正三角形アレイ(辺長100m, 50m)での観測を実施した。28日午前中に、正三角形アレイ(辺長25m, 10m)での観測を終了した。データ解析は滞在中に終えるのは無理なので、帰国後電子メール等を使って指導を続ける。

帰国後、Claudio Romero研究員と電子メールで連絡をとりながらマナグア現地で取得したデータの解析を進め、固有周期1秒速度計によるSPAC法で表面波の分散曲線を求めた。また、CIGEOの保有するEpisensorのSPAC法、H/V法への適用限界周波数帯に関する検討を実施した。今後もClaudio Romero研究員と連絡を取りつつ、地下速度構造の推定を進める予定である。

 

固有周期1秒速度計によるSPAC法の観測
固有周期1秒速度計3台をJunction Boxを介してAltus K2に接続し、上記と同じ正三角形アレイ(辺長100m, 50m)での観測を実施した。28日午前中に、正三角形アレイ(辺長25m, 10m)での観測を終了した。データ解析は滞在中に終えるのは無理なので、帰国後電子メール等を使って指導を続ける。

 

 

現地作業風景

   
現地作業風景 右側に横井科学技術研究員    
 

作業機材

 

現地作業風景

作業機材   現地作業風景

 
案件名 危険害虫の生物的制御に有用なバチルス・スファエリクス資源の分類学的整理と有用遺伝子資源の探索
派遣専門家 小柳津広志
所属機関 東京大学 生物生産工学研究センター・教授
派遣期間

平成22年4月から2回派遣

相手国名 アルメニア
相手国研究機関 アルメニア微生物保管センター (Microbial Depository Centre (syn. State Microbial Depository Centre, RCDM), Department of the Centre of Microbiology and Microbial Depository, NAS of Armenia)


アルメニアでの活動について
(平成22年4月7日~5月1日)

平成22年4月7日から5月1日の間、アルメニア国科学アカデミーの微生物株保存センターに滞在して、Bacillus thuringiensisおよびBacillus sphaericusとその近縁細菌の遺伝子レベルの同定を行ってきました。

このグループの細菌はほとんどの株が細胞内に細胞の長さの1/4ほどのサイズの巨大なタンパク質の結晶を生成します。この結晶性タンパク質は昆虫を殺す作用があり、自然界ではこの細菌は植物の葉の上に生息し、葉が昆虫に食べられると腸内で毒性を発揮して昆虫を殺し、昆虫の死がいを栄養物として利用して増殖します。このセンターではこのような結晶性のタンパク質を生成する細菌を約8000株保有しており、世界でも稀にみる大きなコレクションとなっております。私は同センターからこれらの結晶性タンパク質を有効に利用できないかと依頼され、菌株の同定と結晶性タンパク質の特性を調査することになりました。

センターの長はEvrik G Afrikian(写真右)という方で86才という高齢にもかかわらず、頭脳明晰で自ら実験を行うという超人的な研究者でこれには驚きました。アルメニア国は旧ソビエト連邦の1つの国であり、ソ連邦時代は連邦の中心的な微生物研究所であったそうようで、当時は3000人のスタッフを擁する一大研究機関であったそうです。しかし、現在は約50人の規模になってしまいました。研究所は午前10時に職員が出勤してきますが、毎日午後2時過ぎには断水してしまいます。実験で汚れた手も洗えず、トイレも使用できない状態になってしまいます。

また、同国の人口は約300万人と少なく、試薬の代理店も限られているため、必要な試薬の購入には高額な価格が設定され、時間がかかるという状況でした。同国の南はイラン、東はアゼルバイジャン、西はトルコとグルジアに囲まれており、チグリスーユーフラテス文明の発祥した地域に近く、文明は紀元前から発達した非常に古い国です。しかしながら、長い間周辺の国の侵略を受け、現在では非常に小さな国になってしまいました。特に20世紀の初頭に起こったオスマントルコによる侵略は悲惨な虐殺を含むものであったため、多くの民衆が海外に逃げたそうで、米国を中心とした海外在住のアルメニア人は1500万人にも達するということです。

集合写真

 

左は一緒に研究を行った研究員、
真中は筆者で右はセンター長のEvrik G Afrikian教授


 

危険害虫の生物的制御に有用なバチルス・スファエリクス資源の分類学的整理と有用遺伝子資源の探索
(平成22年9月26日~10月21日)

今回のアルメニア国への訪問は、4月に訪問した続きの研究を行うためであった。前回の派遣と同様にBacillus属菌株の培養、菌体からのDNA抽出および菌株の顕微鏡観察を行った。今回用いた菌株は約400株であった。前回対象とした菌株約350株と合わせて合計750株にも達したため、菌株の番号間違いなどの混乱を防ぐため、使用した菌株の由来、アルメニア微生物保管センターでの顕微鏡観察、生理生化学的性質に基づく同定結果などの情報を整理した。抽出したDNAは日本に持ち帰り、すべての生物が保有して進化の歴史において生物間で移動がなかったと考えられている遺伝子であるリボソームRNAの塩基配列解読を行った。塩基配列の解読では使用する試薬類が高価であるため、配列解読を行う菌株を限定して行った。まず、Bacillus thuringiensisLysinibacillus sphaericus (旧名Bacillus sphaericus)を区別する遺伝子増幅反応(PCR)を行い、Bacillus thuringiensisと考えられる菌株を除外した。残りの菌株について、リボソームの小サブユニットに存在する16S rRNAの塩基配列の5’末端から約500塩基付近までを解読した。


つぎに、リボソーム16S rRNAの塩基配列の結果に基づき、これらの菌株の系統関係を近隣結合法(NJ法)という系統樹作成のアルゴリズムを用いて類推した(図)。図の上の部分に形成されているクラスターがLysinibacillus属と考えられる菌株で、下の部分のクラスターはそれ以外のBacillus属菌株と考えられる。Lysinibacillus属菌株は約10の異なる系統に分かれている。現在までに記載されているLysinibacillus属は5種であることから、これらの菌株のなかには少なくとも5種の新種が存在している。Lysinibacillus属以外の菌株はさまざまな系統に属すると考えられ、アルメニア微生物保管センターの同定が不十分であることを示している。今後は、これらの菌株について詳細な性状検査と生産する結晶性タンパク質の遺伝子構造の解明を行い、新種の記載などの学術論文を公表する予定である。

アルメニア国の微生物株保存機関に保存されている約250株の<i>Bacillus</i>属菌株のリボソームRNA塩基配列に基づく系統関係 (約400塩基を解読)

アルメニア国の微生物株保存機関に保存されている約250株のBacillus属菌株のリボソームRNA塩基配列に基づく系統関係 (約400塩基を解読)

 
案件名 気候変動に伴う沿岸域のリスク軽減
派遣専門家 鳥居謙一、山岸宏光、中村孝幸
所属機関 愛媛大学 防災情報研究センター 他
派遣期間 平成22年9月18日~9月26日
相手国名 モザンビーク共和国
相手国研究機関 環境問題調整省(Ministry for the Coordination of Environmental affairs(MICOA))、沿岸域持続的開発センター(Center for Sustainable Development of Coastal Zones (CDS))

気候変動に伴う沿岸域のリスク軽減

2010年9月18日から26日まで、アフリカのモザンビーク共和国に「気候変動に伴う沿岸域のリスク軽減プロジェクト」の共同研究のために派遣された。

モザンビーク共和国は、アフリカの南東部に位置し、モザンビーク海峡を挟んで対岸にはマダガスカル島がある。南北に細長い国土を有し、沿岸延長2700kmを有する沿岸国である。近年、沿岸部の都市近郊で海岸の侵食が進行し、砂浜の消失、護岸の倒壊、道路の流出が発生しており、海岸侵食問題が深刻化している。

沿岸国である我が国の経験と技術をもって国際社会に貢献することを目的に、モザンビーク共和国の環境問題調整省(MICOA)沿岸域持続的開発センター(CDS)との共同研究により、海岸侵食の著しいベイラ海岸の侵食メカニズムの解明と海岸侵食GISデータベースの構築を目的とする本プロジェクトが採択された。

特に、総合的な沿岸管理を見据えて、情報の共有化のための海岸侵食GISデータベースを構築することとした。沿岸部には様々な関係者が存在することから、海岸侵食を含め総合的な沿岸管理を実現するには、沿岸部の関係者の合意形成が不可欠であるためである。

また、今回のプロジェクトでは、CDS職員の能力開発も重要なテーマになっており、データベース構築に必要なデータ集収能力、GISデータ作成能力、海岸工学の基礎知識に関する能力開発を行うことになっている。このため、CDSが日本側の指導を受けつつデータの集収、GISデータの作成を進めるとともに、日本側は能力開発のための現地セミナー、CDSのデータやインターネットで集収されたデータに基づく海岸侵食メカニズムの分析を行うこととしている。

今回の派遣では、ベイラにおいて能力開発を目的としたセミナーとGISトレーニングを開催するとともに、関係機関へのヒアリング、資料集収、現地調査を行った。また、首都マプトでは、関係省庁、地元大学とGISデータベース構築に向けたデータ集収について、情報交換を行った。

帰国前にMICOAの副大臣から、海岸侵食はベイラ海岸だけではなく、モザンビーク国内の多くの海岸で発生している。できるだけ早く結論を出してほしい。旨の要請があり、本案件がモザンビーク共和国にとって緊要な課題であることが改めて確認された。

帰国後もCDSより作業の進捗状況を報告してもらい、現地作業を指導するとともに、入手した資料を元に侵食状況の解析や海浜流のシミュレーションのためのモデル開発に取り組んでいる。

本案件により、モザンビーク共和国における海岸の理解が進み、海洋国家である我が国の経験と技術がモザンビークの持続可能な開発に生かされることを期待する。

海岸侵食の進むベイラ海岸

 

ベイラで開催されたGISセミナー

海岸侵食の進むベイラ海岸   ベイラで開催されたGISセミナー

MICOA副大臣表敬

 

データ集収に関する関係者打ち合わせ

MICOA副大臣表敬

 

データ集収に関する関係者打ち合わせ


 
案件名 パナマ運河流域における水循環への気候変動の影響
派遣専門家 中山恵介
所属機関 北見工業大学 工学部社会環境工学科・教授
派遣期間 平成22年10月~4回派遣
相手国名 パナマ
相手国研究機関 パナマ工科大学 水理・水工研究センター(Universidad Tecnologica de Paname (Centro de Investigaciones Hidraulicas e Hidrotecnicas))


パナマ運河流域における水循環への気候変動の影響評価に関する活動報告
(平成22年10月1日~10月31日)

パナマ運河は世界の船輸送ネットワークにおける最重要航路の一つであり、運輸システムの国際化のため、その重要度はより増している(写真1)。運河はダムによって人工的に建設されており、その水源は熱帯雨林気候という多雨の条件を利用して維持されている。しかし近年、降水量や降水パターンの変化など、気候変動の影響と思われる多数の事例が報告されており、地球規模の影響がパナマ運河流域へもおよぶことが予想されている。そこで本派遣では、パナマ運河流域における水循環への気候変動の影響メカニズムを理解するため、パナマ工科大学の研究スタッフのキャパシティ・デベロップメントを行うことを目的とする。

パナマにおけるカウンターパートは、パナマ運河協議会において運河の水資源管理に関する研究を一手に引き受けているパナマ工科大学(UTP)のCentro de Investigaciones Hidraúlica e Hidrotécnicas(CIHH)である。第1回目の訪問期間は2010年10月1日から31日までであり、日本で言えば2月や3月に相当する時期であったため、研究成果を報告するためのシンポジウムが毎週のように実施されていた。その中でUTP創立30周年記念セミナーが開催され、メキシコ、キューバ、アメリカ合衆国から3人の研究者が招かれ、パナマ運河プロジェクトの紹介も合わせて4人で基調講演を行った(写真2)。

パナマ運河の管理は、返還前からアメリカ合衆国により運営されていたPanama Canal Authority(ACP)により行われており、運河内における全てのデータはACPを通して得られる。そこで、ACPにおいてモニタリングデータを一括して管理している気象・水文セクションにて本プロジェクトの紹介を行った。ACPでは、近未来や未来における予測に関して具体的に検討を実行しておらず、我々のプロジェクトの成果を利用させて欲しいとのことであった。さらに、GCMを利用した気候変動解析のため、国内の全ての気象データを管理しているEmpresa de Transmision Electrica、 S.A.を訪問し、気象データをいただくこととなった。

本派遣では、パナマ共和国が早急に対応しなくてはならない課題に対する検討を実施することを目的としており、世界的な運輸システムへの影響も大きいパナマ運河流域における研究推進を目指している。そのため、UTPおよび関係機関が協力的であり、予想以上に良好に研究およびキャパシティーデベロップメントを遂行することができている(写真3)。

写真1 パナマ運河

  写真2 UTP創立30周年記念セミナーでのパネルディスカッションの様子

写真1 パナマ運河

 

写真2 UTP創立30周年記念セミナーでのパネルディスカッションの様子

写真3 研究スタッフおよび関係者らとの集合写真

   

写真3 研究スタッフおよび関係者らとの集合写真

   

 
(平成23年1月29日~2月13日)


最重要航路の一つであるパナマ運河は、ダムにより水路が確保されていることから、将来における気象条件の変化により、水路の確保が困難となるかもしれない。そこで本派遣では水資源に与える影響を評価し、さらにパナマ工科大学の研究スタッフに対して水資源管理に関するキャパシティ・デベロップメントを行うことを目的として活動を行っている。今回の派遣は、前回の第1回派遣が1ヶ月間であったことに比較すると、2週間という短いものであった。しかし、気象研究所から仲江川主任研究官と共に2名で活動を行い、効率の良い派遣活動を行うことができた。

カウンターパートであるパナマ工科大学(UTP)のCentro de Investigaciones Hidraúlica e Hidrotécnicas(CIHH)において、活動内容の確認および今後の活動について打ち合わせを行うためにセミナーを開催し、仲江川氏および中山から講演を行った。具体的には、本派遣で実施するキャパシティ・デベロップメントは、GCMを利用した降雨現象に関する解析、および分布型流出モデル(DHM)を利用したパナマ運河流域における水資源管理に関することをあらためて確認し、解析に必要なデータの入手に関する打ち合わせを行った。

まず、活動に必要なデータの入手のために、気象関連のデータを取り扱っているEmpresa de Transmisión Eléctrica(ETESA)に出向き、本活動の目的の説明、日本側から提供できる技術に関する紹介を行い、パナマ共和国の95地点における30年間程度のデータを入手できることとなった。パナマ運河がアメリカ合衆国により管理されていた背景もあるからだろうが、中米において30年間程度のデータが95地点も利用可能であることには驚いた。ETESAから、Nebraska大学との共同研究として、GCMの解析結果を境界条件として利用した中米における再解析を実施し、将来予測を行う予定であると紹介があった。我々の解析結果と比較し、検討することで信頼性に関しても検証することができるため、CIHHを通して互いに連絡を取り合うこととした。

パナマ運河流域に関する流出解析のためには、ETESAでは入手不可能な詳細な観測データが必要であるため、運河流域を管理しているPanama Canal Authority(ACP)を訪問した。我々のこれまでの成果を紹介し、流域内における雨量データの入手をお願いした。その際、それらのデータを利用した解析を行い、次回以降の訪問においてワークショップおよびレクチャーをACPとETESAのスタッフを対象として実施することになった。UTPのスタッフのみならず、パナマ運河に関係する他機関の関係者に対してもキャパシティ・デベロップメントを行うことができることになり、良い訪問であったと感じている。

CIHHにおけるキャパシティ・デベロップメントに関して、前回の訪問で基礎的な資料の収集がほぼ終了したこともあり、解析手法の教授に専念することができた。個々人に対する指導では、ある観測点におけるGCMの解析結果の適用まで進めることができた。さらに、全スタッフに対しても講義を実施し、本派遣における解析手法および予想される結果に関する指導を行うことができた。今回の派遣でも、予想以上に良好に研究活動およびキャパシティ・デベロップメントを遂行することができており、今後の展開が楽しみである(写真3)。

写真1 ETESAでの打ち合わせの様子。データをいただき、日本からは技術提供を行うこととなりました。

  写真2 ACPでの打ち合わせの様子。次回以降の訪問で、解析手法および成果に関してETESAおよびACPと共にワークショップを開催することとなりました。

写真1 ETESAでの打ち合わせの様子。
データをいただき、日本からは技術提供を行うこととなりました。

 

写真2 ACPでの打ち合わせの様子。
次回以降の訪問で、解析手法および成果に関してETESAおよびACPと共に
ワークショップを開催することとなりました。

写真3 CIHHにおける指導の様子。

   

写真3 CIHHにおける指導の様子。

 

 

 

 
案件名 パナマ運河流域における水循環への気候変動の影響
派遣専門家 中山恵介、山敷庸亮
所属機関 北見工業大学 工学部社会環境工学科・教授、
京都大学 防災研究所 社会防災研究部門 防災技術政策・准教授
派遣期間 平成23年6月~7月
相手国名 パナマ
相手国研究機関 パナマ工科大学 水理・水工研究センター(Universidad Tecnologica de Paname (Centro de Investigaciones Hidraulicas e Hidrotecnicas))


パナマ運河流域における水循環への気候変動の影響評価に関する活動報告
(平成23年6月26日~7月17日)

2010年10月の第1回および2011年2月の第2回の派遣に引き続き、パナマにおける第3回目の活動を実施した。あらためて派遣目的を紹介させていただくと、人造湖により構成されているパナマ運河が、地球規模の環境変動によりどのような影響を受けるかを解析するための手法の指導および共同研究の実施である。カウンターパートは、パナマ共和国における主要な工学系大学のパナマ工科大学(UTP)である。短期派遣専門家は、北見工業大学の中山、気象研究所の仲江川氏および京都大学の山敷准教授である。今回は、山敷准教授および中山がパナマを訪問した。

第3回目の訪問ということもあり活動内容はほぼ軌道に乗っており、訪問開始直後からUTPにおけるGCMの解析手法の指導を順調に開始することが出来た。前回の訪問から今回の訪問までの間に、電子メールやスカイプを利用した指導を行ってきたこともあり、新しい解析手法の指導にも問題は生じなかった。その結果、派遣期間終了までに、予想以上の成果を上げることが出来た。さらに、山敷准教授は今回が初めての訪問であることから、研究活動の紹介を兼ねてセミナーにて講演を行っていただいた。ポルトガル語が堪能でスペイン語での会話が可能であることから、"portunol"で講演を行っていただき好評を得た(写真no.1)。

今回の派遣における活動内容が、パナマ運河を運営しているPanama Canal Authority(ACP)にとっても大変重要であることから、今回もACPを訪問し、これまでにいただいたデータを利用した解析結果を紹介した。今後の活動に関する検討についても、ACPの実質のナンバー2であるCarlos Vargasを中心としたメンバーと打ち合わせを行い、ACPとしてもJICA側に協力をお願いしたいとのお話しをいただいた(写真no.2)。また、UTPの学長とも面談を行い、本派遣の成果報告および今後の協力体制に関するUTPとしてのサポートが可能であることを確認した。

もう一つの派遣目的である、分布型流出モデル(DHM)を利用したパナマ運河流域における水資源管理に関する検討については、今回の訪問までの間に日本において進めておいた解析結果を紹介した。今回の訪問にて、本解析手法についても指導を行いたかったが、GCM解析に時間を多く割いたため、指導すべきスタッフや学生への簡単な説明のみとなった。しかし、関連する観測装置に関する指導を行うことは出来た(写真no.3)。また、気象のデータをいただいているEmpresa de Transmisión Eléctrica(ETESA)やACPにおけるワークショップの開催について検討し、解析が終了した時点での開催が望ましいとのことから、最後の派遣において開催することとした。

写真no.1:山敷准教授による特別講演開催の様子。

  写真no.2:ACPでの打ち合わせの様子。

写真no.1:山敷准教授による特別講演開催の様子。

 

写真no.2:ACPでの打ち合わせの様子。

写真no.3:UTPにおける観測機器設置および計測方法指導の様子。    

写真no.3:UTPにおける観測機器設置および計測方法指導の様子。

   

 
案件名 メキシコ遺伝資源の持続的利用の基盤構築
派遣専門家 町田(平野)僚子
所属機関 筑波大学 遺伝子実験センター・客員共同研究員
派遣期間 平成22年7月~12月
相手国名 メキシコ
相手国研究機関 国立農牧林研究所(National Forestry, Agriculture and Livestock Research Institute)

メキシコ遺伝資源の持続的利用の基盤構築

1. 背景と目的

メキシコは生物遺伝資源豊富なメガダイバーシティー国であるが、その収集、多様性保全のみならず持続的利用促進の基盤研究や研究事例が少なく、遺伝資源の保全体制の整備が遅れている。現在メキシコ政府は自己投資で、国内の食糧生産に関わる遺伝資源の長期保存を目的とした国立遺伝資源センター(Centro Nacional de Recursos Genéticos)を設立準備中である(写真1)。このセンターの立ち上げの支援およびCNRGの持続的運営に関わる遺伝資源管理についての研究基盤構築のため、ジーンバンク運営管理及び遺伝資源の保全・評価・利用のための基盤研究協力と技術移転を目的とする。

2. 活動内容

(1)   メキシコ国内における遺伝資源の状況調査
(2)   CNRGにおける遺伝資源保全に関するアドバイス
(3)   CNRG職員に対する技術移転

3. 現在までの成果

(1)    CNRGが保全の対象としている遺伝資源は作物、森林、家畜、水産、微生物と非常に多岐にわたっている。収集保全の対象となっているこれらの遺伝資源のメキシコ国内での保全の現状を把握し、CNRGへの遺伝資源の導入計画策定のため、最も整備の進んでいる作物遺伝資源について国内に存在するコレクションの現状調査を開始した。これまでに国内の遺伝資源研究者とジーンバンクに関する情報を収集し、各所の遺伝資源関連施設の訪問を計画・実施している(写真2)。これらの情報をCNRGにおける遺伝資源収集の優先種の選定に反映させる予定。
(2)   現在のところ、施設建設の遅れからCNRGの活動開始には至っていないが、2011年早々の開所式の開催および活動開始を目指した、施設整備の支援に先行して取り組んでいる。CNRGは遺伝資源の長期保存および長期保存法に関する研究を行う施設になるため、施設の運用に必要な設備および研究機器等の選定・設置をカウンターパートと共に行っている(写真3)。
(3)   2010年11月から12月にかけてJICA運営指導調査団として日本から遺伝資源保全の専門家を招いたワークショップを行った。メキシコ国内から多くの研究者が集まり、ジーンバンクでの遺伝資源管理等について非常に活発な議論が交わされた(写真4)。2011年1月には、5名の研究者が筑波大学および(独)農業生物資源研究所ジーンバンクでの、植物遺伝資源調査研究の研修に参加する予定である。

写真1 国立遺伝資源センター(CNRG)外観

 

写真2 INIFAP、CEVAMEX試験場のトウモロコシのアクティブコレクション。室温0-5℃、湿度コントロールの無い状態で約11,000系統が保存されている。CNRGでは室温-18℃、湿度12%以下の状態で長期保存される。

写真1 国立遺伝資源センター(CNRG)外観。   写真2 INIFAP、CEVAMEX試験場のトウモロコシのアクティブコレクション。室温0-5℃、湿度コントロールの無い状態で約11,000系統が保存されている。CNRGでは室温-18℃、湿度12%以下の状態で長期保存される。

写真3 実験室の機器整備の様子。CNRG運用開始のための基本的な機材の購入設置は完了しているが、研究機器の整備は遅れている。

 

写真4:ワークショップ参加者集合写真。

写真3 実験室の機器整備の様子。
CNRG運用開始のための基本的な機材の購入設置は完了しているが、
研究機器の整備は遅れている。
  写真4 ワークショップ参加者集合写真。

 
案件名 障害者のリハビリテーションにおける動作分析装置開発
派遣専門家 坂井一浩
所属機関 新潟医療福祉大学 医療技術学部 義肢装具自立支援学科・准教授
派遣期間 平成23年2月上旬
相手国名 タイ
相手国研究機関 国立シリントンリハビリテーションセンター(Sirindhorn National Medical Rehabilitation Center)

障害者のリハビリテーションにおける動作分析装置開発

タイが現在抱える問題の一つに“南タイの問題”があり、同地域では、民族あるいは宗教間の摩擦に起因した紛争による多くの犠牲者が報告されている。対するタイ政府の取り組みの一つに『構造改善融資プロジェクト』(Structural Adjustment Loan-SAL project)があり、保健省(Ministry of Public Health)による南タイの障害者支援もこれに含まれる。タイ国立Sirindhorn National Medical Rehabilitation Centre(以下、シリントーン・リハセンター)は、同国政府保健省管轄下の医療施設を束ねる中枢機関として、地域のみならず広く同国の医療およびリハビリテーションサービス向上を担っており、SALプロジェクトにおいても同様に、実行組織としての役割が求められている。障害者支援においては、提供される医療/リハビリテーションサービスの“量”やこれらへの“アクセシビリティ”もさることながら、その“質”についても問われるべきことは言うまでもないが、これまで発展途上国においては、その緊急性や社会基盤の欠如などの理由から、往々にして前者、すなわち如何に多くの障害者へサービスを提供するかに重きが置かれてきた感がある。一方、タイ国においては経済的・社会的発展から、より高度なレベルでのサービス提供が求められるようになっている。科学的根拠に基づいた医療の実践はこれを実現するための一手段であり、シリントーン・リハセンターでは三次元動作分析装置、床反力計、筋電位計測計などを導入し、これらを対象者の機能評価や医療サービスのアウトカム評価に用いることによりEvidence Based Rehabilitationの確立を目指している。2009年2月より、江原および坂井は、同センターと動作分析にかかわる共同研究提携関係を構築しており、また、2011年からは科学技術研究員派遣制度の枠組みを得て現在に至っている。本事業の目的は、特に動作分析システムの活用を通し、同国のリハビリテーション領域における研究開発、臨床評価、および専門職教育の発展に寄与することである。 2011年2月、現地にて専門家とカウンターパート間でコンセンサスミーティングが開催され、全体的な事業概要の確認がなされると共に、研究開発・臨床評価・専門職の各3分野における具体的な目標設定と計画が協議された。2011年度末までの中間到達目標は、研究開発部門では動作分析装置のオペレーション技術獲得、臨床評価においては特に脳卒中片麻痺者の動作分析、さらに、専門職教育では、マヒドン大学医学部義肢装具学士課程の若手インストラクターを対象としたバイオメカニクス教育セミナーの複数回開講である。このうち、計画実行の第一段階として、3月に研究開発および専門職教育にかかわる2つのテクニカルセミナー開催を予定していたが、震災の間接的な影響によりこれをキャンセルし、5月へ延期することとなった。また、本年度は、9月、10月、2月にそれぞれ現地活動を予定している。

カウンターパートとの コンセンサスミーティング

 

動作分析システムによる歩行解析

カウンターパートとのコンセンサスミーティング   動作分析システムによる歩行解析

バイオメカニクスセミナー開催準備打合せ

 

バイオメカニクスセミナー

バイオメカニクスセミナー開催準備打合せ   バイオメカニクスセミナー

 
案件名 二酸化炭素回収・貯蓄(CCS)にかかる共同研究プロジェクト
派遣専門家 佐藤徹
所属機関 東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授
派遣期間 平成23年3月下旬
相手国名 ブラジル
相手国研究機関 リオグランデ・ド・スル ポンチフィカルカトリック大学 二酸化酸素貯留研究センター(Carbon Storage Research Center (CEPAC) Pontifical Catholic University of Rio Grande do Sul)

ブラジル国二酸化炭素回収・貯留(CCS)に係る共同研究プロジェクト運営指導調査(第一次)

(平成23年3月10日~3月24日)
専門家に随行した調査団員:
尾崎雅彦 東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授
喜田 潤 財団法人海洋生物環境研究所・主任研究員(当時)
末包哲也 徳島大学大学院工学研究科・教授
竹本明生 東京大学サステイナビリティ連携機構・特任研究員(当時)

1. 活動内容
  (1) 技術指導

◊ ポンチフィカルカトリック大学CCS研究所(CEPAC)において、ワークショップを開催し、研究者4名および博士課程学生約5名に対し以下の講義、当該分野にかかる世界的情勢の情報の提供およびそれらに関連する議論を実施した。
  • Overview of the Nagaoka pilot project – Storing CO2 in saline aquifer –
  • Mechanisms of migration and trapping of CO2 in pore scale
  • Ship-based CCS
  • Stances and perception of worldwide organizations on CCS
  • Regulatory framework on CCS

 
◊ サンパウロ大学(USP)にて、海洋工学および土木工学の学生約30名に対し、以下の講義を実施した。
  • Environmental assessment methodology for CCS – Monitoring and modelling –
  • Environmental management of offshore CCS – Development of EIA methodology in Japan –
  • Mechanisms of migration and trapping of CO2 in pore scale
  • Ship-based CCS

 

◊ ブラジル国営石油会社ペトロブラス社中央研究所(CENPES)
  • 気候変動対策室長および室員計3名に対し、CO2海域地中貯留の環境リスク評価手法と社会的受容性の重要性につき講義した。
◊ トランスペトロ社
  • 石油の輸送を担当するペトロブラスの子会社であるトランスペトロ社にて、石油・ガス輸送の専門家2名に対し、CO2輸送につき技術指導を実施した。
◊ 以上より以下のことを達成した。
  • ブラジルの専門家が、地中に隔離されたCO2のMMVの技術が日本において既に確立されていることを理解できた。また、大水深でのMMV技術の適用・確立のためには、研究課題の明確化とともに日本との共同研究が必要との共通認識が得られた。
  • ブラジルにおけるサイト固有の問題点を抽出し,研究課題を明確化した。
  • ペトロブラスが今後巨大投資を行おうとしているサントス油田のプレサル層開発において、石油・天然ガスに随伴するCO2の処理・有効利用が喫緊の重要課題であることが共有され、CO2海上輸送手段が有望な方策であると認識された。
  • CEPACの専門家に、世界のCCSに関する規制枠組みについては理解させることができた。

  (2)相手国が保有する施設・設備の調査

◊ CEPAC
  • 陸域地中貯留施設(Porto Batistaパイロットサイト)
    • ECBM (Enhanced Coalbed Methane Recovery)としてCO2圧入
    • 深さ350mの2本(間隔20m)の井戸(直径70,9mm、ケーシング101.6mm)

 

 

 

◊ USP
  • 海底下CCSの海域実験に関連して、現地の海洋環境調査能力と共に、以下に説明する現地の計算技術や水槽実験の能力について調査した。
    • 数値水槽:細分化された造波板を四方に隙間なく配置し、予め計算された挙動をさせることで任意な形状の三次元波を作成できる。日本には海洋技術安全研究所が同様の水槽を保有。
    • 洋上構造物の安全設計には十分な能力と人材、研究設備を有している。

 

  • クラウドコンピューティング施設:複数の大学、研究機関の計算機をネットワークでつなぎ、大型計算を分散処理する。

 

  (3)相手国の研究活動の調査

◊ CENPES
  • ペトロブラス社は2003年からCCSの研究を実施している。これは気候変動枠組条約会議とは別に、クリーンなイメージを出して、欧米の石油メジャーと肩を並べたいという意識から。
  • 陸域では、1987年から10年間、Buracica Fieldsにおいて、年13万トンでCO2をEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収)目的で注入しており、次のMiranda Field Project(2011年から年290万トンのCO2をEOR)のためのMMV技術の評価や、貯留層とキャップロックの地質化学的調査、井戸の耐性調査を実施中。
  • またRio Pojuca Fieldでは帯水層貯留を2007年から年4.3万トン規模で実施中。

 

◊ CEPAC
  • ペトロブラスは、利益の1%をブラジル国内大学に寄付し、人材育成に貢献する義務がある(ちなみに2010年の純利益は350億レアル、1兆7500億円、1%でも175億円!)。その一環として、ポンチフィカルカトリック大学にCCS研究センターCEPACを設置した。

 

  • CEPACは総勢20名程度の小規模な研究所で、小規模な陸域貯留サイトを所有し、計測とモデル計算を実施している。博士課程の学生やポスドク以外の、実際に独立した研究者は研究所長以下5名程度。

  (4)共同研究計画立案の可能性調査

◊ CEPAC
  • 今回の日本から提案した共同研究に関する以下の発表を実施したところ、大変関心を示し、ブラジル内での資金獲得や実験サイト選定などで、ペトロブラスに積極的に働きかけることとなった。
    • Draft plan proposed for collaborative research – Sub-seabed storage with large depth –
◊ CENPES
  • Head of Technological Program for Climate Change MitigationのDr. Paulo Negraisに対し、CEPACとの共同研究案を説明し、協力を要請した結果、以下、大変興味を示し、本件に関してCEPACと検討することとなった。
    • これまでペトロブラスが実施してきたEORや計画中のCCSプロジェクトは全て陸域であり、海底油田からの石油生産時の随伴ガスとして出てくるCO2をEORで注入したい希望があり、海域に興味がある。
    • 具体的には、海中でのパイプの挙動、経済性、CO2流の保証、CO2の圧縮とポンプシステム、海底下貯留層のモニタリング技術に興味がある。

2. 所感

  • これまでのブラジル政府の立場(CCS反対)から、ブラジルではCCSの研究はほとんど行われてこなかったと思っていたが、ペトロブラスという国営大企業が、自身の中央研究所(CENPES)においてフィールド試験を実施していることが判明した。CENPESの研究遂行能力は非常に高いことが推測されるが、所内のCCS研究組織の全体像は不明。
  • CEPACの研究遂行能力としては、博士課程の学生やポスドク以外の実際に独立した研究者は研究所長以下5名程度で、力不足の感あり。
  • CEPACの専門家の間では、海底下CCSの環境影響評価、CO2輸送システム技術等について理解が進んだが、専門が地質学関係に偏っていた。この分野について共同研究を進めるためには、USPやCENPESの海洋環境(物理、化学、生物)の専門家と協議を進めることが動機や能力(領域)の点でふさわしい。
  • USPの保有する計算技術・水槽実験の能力を考慮すると共同研究相手としてふさわしいと評価できる。
  • CCSに関する規制枠組みについては法制度を担当するブラジルの政府の関係者に対しても講義を行う必要がある。また、同国内でCCSの法制度を構築することについては、まだ具体的なアイデアが不足していると感じられた。今後は、石油法などCCSに関連するブラジルの国内法の知識を両国の専門家で共有するとともに、ブラジルにおけるCCSの規制枠組を構築するための課題と方策について、政府関係者も交えて理解を深めることが重要である。
  • ロンドン条約によって、商業目的でCO2を海域に放出することは禁じられており、この点について、日本の海洋汚染防止法の解釈では、実験も禁止であるのに対し、ブラジルはまだ国内法の対応がない。一方で、イギリスではCO2海域放出実験を実施することを公式に発表しており、その法解釈について確認した上で、ブラジルで放出実験ができるか否か調査する必要がある。
  • ブラジルでは全般的に環境保全の意識がアマゾン流域の生物多様性に向けられているようであり、海底下CCSや沖合石油開発等に係る海洋環境保全の認識が日本や欧米諸国に比べて発展途上にあると思われた。海底下CCSに係る環境影響評価技術を進展させるためには、まず現地の海洋環境についてベースライン調査が必要であることから、これら知見の現状を調査することから始めなければならない。このためのブラジルの海洋環境の専門家との協議が望まれる。
  • MMV技術については、陸域においては日本の技術を参考にブラジル独自でもある程度開発できると思われるが、海域における技術開発はブラジルサイトの利用と日本の技術供与がふさわしいと考えられる。
  • ブラジルにおいてCCSを行う場合、キャップロックが大深度炭酸塩岩となる場合が多い.ブラジルのサイト固有の問題として、大深度での圧力温度状態における炭酸塩岩、坑井構造物,CO2の化学反応および水力学的特性に与える影響の解明が必要である。このような課題に対してまさに研究開発に着手し始めたところであり、開発を促進し、高度化するためには日本からの協力が必要である。
  • ブラジルでは、CO2排出量削減を直接的な目的とするCCSは将来課題である一方、資源開発とりわけ沖合大水深のプレサル層の石油・ガス開発でのCO2大気放出回避は喫緊の重要課題であり、大規模CCSの早期適用の実需があると考えられる。一般に海域における産業活動に対する環境影響評価への意識はあまり高くなく、技術・経済性に重点が置かれがちであるが、CCSのプロジェクトを推進するためには、国際的な視線も考慮に入れた総合的な取組が必要であり、要素研究を所掌する組織(例えばCEPACやUSP)を相手にした指導以上に、政府あるいはペトロブラスの関係先への働きかけが重要である。

3. 今後の予定(派遣時期と活動計画)

本年8月頃を目途に、再度ブラジルを訪問し、ペトロブラスの幹部に対し、CEPACと協働してワークショップを開催し、日本側が提案する大水深海底下CCS実験への出資を促すとともに、CEPACと共同研究プロジェクトの計画立案を行う。

 
案件名 ボツワナにおける地域適合型エネルギーシステムの設計
派遣専門家 奥村英之、手塚哲央、永田素彦
所属機関 京都大学大学院エネルギー科学研究科 准教授
京都大学大学院エネルギー科学研究科 教授
京都大学 人間・環境学研究科 准教授
派遣期間

平成23年3月下旬

相手国名 ボツワナ
相手国研究機関 ボツワナ大学(University of Botswana)


ボツワナにおける地域適合型エネルギーシステム(RAES)の構築
(平成23年3月)

 この研究プロジェクトはアフリカでも比較的小さな国であるボツワナ(2010年国連推計人口200万人:アフリカ56か国・地域の42番目)の農村部において、地域に適合したエネルギーシステムをデザインし、導入することを主目的としている。つまり伝統・文化などの遺産を守りながら、そこに暮らす人々が幸せを感じられるような地域適合型エネルギーシステム(RAES)の導入を現地の人々やボツワナ大学(UB)研究者とともに検討し、循環型社会・持続型社会の構築を目指して調査・研究を行うものである。

 ボツワナの国土面積は58.2万平方キロ(日本の約1.5倍)であるが国土の8割をカラハリ砂漠に覆われているため農耕地は少ない。1966年の独立以来、ダイヤモンド産業を中心に経済が発展し、一人当たりGDP成長率は4~7%を示す一方、高いHIV感染率(約20%)、大きな貧富の差(ジニー係数0.6以上)などの問題も抱える。人口の50%以上には電気などのエネルギーアクセスが存在せず、農村部では樹木伐採などに頼り生活している。またボツワナは電力の約70%を南アから輸入しており、砂漠化などの環境問題とも関連し、生活に必須のエネルギー形態等の調査・研究は急務である。

 2010年8月初旬の現地予備調査に基づき、新しく2名の専門派遣員を加えて今年3月にプロジェクトが始動した。農村部の伝統的生活様式から鑑みて現地が望むエネルギー利用の規模は大きくないため、まずは農村部の生活様式に適したエネルギー需要調査が必要である。つまり自然エネルギー関連(風力、太陽光、バイオ)の基礎データ収集とともに、各地域の集落や居住民のエネルギー需要を含めた社会調査を行う必要がある。今回はプロジェクトの方向性の検討およびデータ収集を含むフィールド調査を行う場所の選定が主な活動であり、そのため実際に砂漠地帯や貧しい地域を含む農村地域や集落・村落の幾つかを訪れた。すなわち(人口は2001年統計)、Moshaneng (人口1336人)、Phuduhudu(700人)、Inalegolo(489人)、Tsetseng(395人)、Lentsweletau(4025人)、Mahetlwe(591人)、Botlhapatlou(915人)、Ngware(573人)、Seisantse(68人)などに訪問し、伝統や文化、地方行政形態、生活事情なども含めて、地域に何が最も必要か、そして自然エネルギーの利用が生活向上に結び付くのか、という観点から調査を行った。また、どのサイトがエネルギー基礎データ収集に相応しく、プロトタイプRAESの設置場所として望ましいか、という観点からも現地の聞き取り調査を行った。

 またボツワナイノベーションハブや水資源省なども訪れ、BOTEC(ボツワナテクノロジーセンター)も訪問してソーラーチムニー研究者らとも議論し、技術供与や財政的支援、共同研究の可能性などについて検討を行った。そして社会調査の一環として、QOL向上のためHIVのデータについては日本人専門家がいるLocalGovも訪問し、一方JICA青年海外派遣員らとも面談し、農村地域の栄養状態や、循環型社会構築とも関連してリサイクルシステムの現状等について資料収集を行った。

 貧しい農村部では水を貰うために薪を拾う必要があり、その水を得るのも一日仕事である。食べ物はとうもろこし(maze)とモロコシ(sorghum)、乾燥野菜(ビルトン)を主食とし、肉は一年に数回のみである。またチブクと呼ばれる酸味の強いmaze発酵飲料を楽しむ。少し幹線道路に近い村落ではグリッドが存在しても、高価すぎて購入できない人が殆ど(95%以上)であり、もしコネクトしても電気代が払えないなど、政治的な側面が大きい。

フロー図

  左図フローは基本的な作業手順である。まずRAESデザインに意思決定者として参加する人間((地方)政府、製造業者、管理者、使用者など)を特定し、そのエネルギー需要量、エネルギー利用に関わる考え方、行動要因、制度の影響などをインタビュー調査等を通して分析し、最終的に地域に適切と考えられるエネルギー政策を明らかにする。

放し飼いの牛とPan

 

集落共同体

放し飼いの牛とPan
(雨期に出来る巨大な水溜り)

 

集落共同体
(家の屋根は藁葺き、壁は土と
牛糞を捏ねて固めた煉瓦造り。)

集落共同体

 

農村部の大家族とともに

集落共同体

 

農村部の大家族とともに
(一番右がお母さん、その次が筆者、
一番左はボツワナ大学のマタサネ氏。)

ソーラーチムニー

 

Inalegolo地方政府の家

ソーラーチムニー

 

Inalegolo地方政府の家
(屋根に太陽パネル、家の中に
バッテリーがあり、テレビも見れる。)

乾燥野菜(ビルトン)

 

農村部の大家族とともに

乾燥野菜(ビルトン)
(噛むとシャリシャリといい余り美味しいものではない。)

 

地方の中学生
(とても人懐っこい。)

ツェツェンのコータ前

 

農村部の大家族とともに

ツェツェンのコータ前
(左から(敬称略)、手塚、マタサネ、永田、
モルワニ、コーシ(長)、運転手、奥村。)

 

ボツワナ大学にて
(左から(敬称略)、手塚、MBM、ネバ、
永田、奥村、クレバ、モルワニ。)


 
案件名 シャーガス病治療薬開発能力向上
派遣専門家 山田裕之
所属機関 国立保健医療科学院 地域医療システム研究分野・協力研究員
派遣期間

平成23年8月6日 ~ 12月18日

相手国名 エルサルバドル
相手国研究機関 エルサルバドル科学研究センター(Centre for Scientific Research of El Salvador (CICES))

シャーガス病治療薬開発能力向上
 

 今回の派遣は、平成23年8月6日から12月18日までの間、中米にあるエルサルバドル共和国(以下、エルサルバドル国)において『シャーガス病治療薬開発』の一環として行われた。

 

 シャーガス病はアメリカ型トリパノソーマTrypanosoma cruziの感染による寄生虫疾患で、エルサルバトル国内の感染者は232,000人と推測されている。 多くが貧困層の住む藁葺き屋根や土壁の家屋に生息する、吸血性カメムシ(サシガメ)を通じて感染するため、「貧困層の病気」と呼ばれている。感染後まもなく壊死性の潰瘍や瞼の浮腫等の急性期症状が見られることもあるが、多くは無症状のまま慢性期に移行し、循環器系疾患を併発し死に至る疾患である。他の中米5カ国のシャーガス病血清陽性率が1.0%以下であるのに対し、エルサルバドル国における血清陽性率は2.7%と高く、また、国内の他の感染症の陽性率と比較しても高い(B型肝炎(0.24%)、C型肝炎(0.32%)、HIV(0.09%)、梅毒(0.83%)。国内感染者の多くは成人の慢性患者であるが、既存の2つのシャーガス病治療薬は急性期患者と15歳未満の慢性患者のみに有効であり、またその低い薬効と強い副作用から、シャーガス病治療薬の新薬開発が地球規模で望まれている。

 

 エルサルバドルでは、2009年6月に発足した新政権が国内の研究を促進し、科学技術の革新を図ることを目的として、教育省管轄下にエルサルバトル科学技術センター(CICES)を設立した。CICESの研究課題の一つに、シャーガス病の対する新しい治療化合物の開発が含まれている。また、2009年に作成された保健省の5カ年計画にも、シャーガス病の科学技術研究の強化が挙げられていることから、「シャーガス病治療薬開発」は教育省のみならず保健省の開発計画とも合致しており、国をあげて推進すべき課題となっている。

 

 そこで、本プロジェクトでは、CICES研究室において、シャーガス病に対する新しい治療化合物の開発を行う実験環境と人材育成の構築を支援することを目的としている。

 今回の派遣では、CICESの現状を確認しながら、以下の内容を目的に活動した。
  a. エルサルバトル科学技術センター(CICES)の実験環境整備に関し指導する
  b. T. cruzi の昆虫内型(エピマスティゴート)の培養を指導する


 -a. 派遣当初、実験室として使用予定であった建物は、分子生物学的・生化学的実験が行える環境ではなかった。そのため、【防風・防塵の面から見た実験室のドアや窓の形式、各実験内容に適した設備、建物自体の防犯】等の指導を行い、分子生物学的・生化学的実験のための環境を整備する能力を強化した。しかし、派遣半ばに近隣住民から建物を実験室として使用することへの反対があり、予定していた建物自体が使用できなくなった。
 現在は、条件に合致した建物をCICESのスタッフと共に見つけたが、候補施設が実験室として使用できるかを確認中である。

 -b. 今まで、エルサルバドル国内で、T. cruzi のエピマスティゴートを培養できる環境が整っていなかったため、培養実験室の建設に先立ち、エルサルバドル国立大学内で、日本から持ち込んだT.cruzi の実験株を培養するための実験環境を整え、CICES職員に対し単独で作業できるように指導を行った。しかし、培養液などの試薬類は、日本から持ち込み継代を行っている。今後継続的な実験を行うためにも、国内で必要な試薬類の購入について現在確認中である。


エルサルバドル国立大学CENSALUD

 

CENSALUDの実験室

エルサルバドル国立大学CENSALUD(Health Research Center)
現在T. cruziを培養している施設
  CENSALUDの実験室で C/P がT. cruzi を
カウントし培養している様子

ツェツェンのコータ前
教育省内にあるCICESの事務室(女性がC/P)

 
案件名 気候変動(水資源)
派遣専門家 駒井克昭
所属機関 北見工業大学 工学部・准教授
派遣期間

平成23年9月6日 ~ 21日

相手国名 ペルー
相手国研究機関 ラ・モリーナ国立農業大学(La Molina National Agrarian University)

気候変動(水資源)
(平成23年9月6日 ~ 21日)

 ペルーでは乾燥地帯と半乾燥地帯に人口が多く農業生産の盛んな地域が集中している。チラ・ピウラ川、サンタ川、イカ川、コルカ川流域はペルーの海岸地域に位置する国内で最も重要な地域であり、各河川は水力発電と都市部の飲料水を担うとともに9つの大きな渓谷への灌漑用水の供給源となっている。ペルーでは70%の淡水が農業に利用されており、灌漑農業の発展にとって水は制限要因と認識されている。ペルーは世界で3番目に気候変動リスクが大きい国であるとの研究例もある。現在、太平洋に流れる河川流域のほとんどは人口増、非効率な灌漑による水ストレスに直面しており、水資源の競合問題を引き起こしている。このため、最新の科学技術によって気候変動の影響の分析を行うことは、持続的発展のためには水資源利用と国の開発戦略に関する政策策定にとって極めて重要となる。本派遣では、ペルー国の最も重要な流域のうちの一つであるイカ川を研究対象として、流域における水資源及び農作物への気候変動の影響メカニズムと結果を理解するためのラ・モリーナ農業大学大学院水資源研究科(Universidad: Universidad Nacional Agraria La Molina、 Departamento de Recursos Hídricos: UNALM-DRH)の研究スタッフのキャパシティ・ディベロップメントを図ることを目的としている。

 

 本案件のカウンターパートは主にUNALM-DRHに所属する教員である。UNALM-DRHでは、大学の目標達成のためメンバーが一丸となり活動を行っていることから、そのうちの数名の教員を中心としてキャパシティ・ディベロップメントを行った。また、UNALM-DRHで関係する専門分野の研究経験者、もしくは今後、博士号あるいは修士号取得を目指してその専門分野の研究を行う学生も対象に含む。ANA(Autorided Nacional de Aqua: 水省)、SENAMHI(Servicio Nacional de Meteorologia e Hidrologia del Peru: ペルー国立気象水理センター)、および理学部(Faculty of Science)も本案件にとって重要な関係協力機関である。

 

 今回の派遣では主に、UNALM-DRHが主催する国際会議(IV Congreso Nacional y III Congreso Iberoamericano de Riego y Drenaje)での情報収集、UNALM-DRHの研究スタッフを対象とした講義・演習形式の指導、および学内の研究施設見学を実施した。相手国カウンターパートにはアマゾン川周辺流域での農業に関する水資源管理プロジェクトや水文・河川モデルの開発、水利用の最適化システムの開発、等々に関する研究実績があり、海外での研究経験者も含まれている。ただし、気候変動に関する情報とその解析・応用技術が不足しているため、本派遣では相手国カウンターパートの具体的な詳細な要望を把握しつつ、第一段階としてペルーでの基本的な水文・気象データの取得状況の確認とデータ収集、および関連する基礎知識の教授を目指した。以下に主要な活動をまとめる。

 

(1) 関連する諸情報の収集と確認

 対象とするイカ川流域の降水量データ、地形データ、地質データ、およびペルーの水資源事情についての情報収集を行った。イカ川流域では約20地点での数10年間の降水量のデータが取得されており、断面データ等の地質情報も入手可能なことが確認された。また、ペルー国内において流域毎に行われている水資源管理の現状も確認された。


(2) 気候変動データの解析・適用手法の教授

 GCMによる気候変動データをイカ川流域に適用し、近未来~未来における気象条件の変化を予測するための支援を講義と演習形式で行った。水資源の予測に向けて、降水量予測のためのGCMの結果のデータ解析の基本的な考え方とその具体的な方法について教授を行った。


(3) 流出解析モデルに関する情報交換と分布型流出モデルに関する基礎知識の教授

 現在、UNALM-DRHで利用されている流出解析モデルは数種類あり、それぞれの特徴や対象とする水文現象についての情報交換を行うとともに、分布型流出モデルの特徴や適用方法の概要について説明を行った。
 今回の派遣では大学が休業期間にあり、残念ながら学生への直接指導はできなかったが、UNALM-DRHの教員を中心として核となる人材育成を行うことができれば、今後のペルー国への技術移転が効果的に進むことが期待できる。相手国カウンターパートはこれまで、イカ川流域だけでなく他にもペルー国の主要な流域に関する研究を進めており、本派遣で教授したことは様々な流域への応用も可能である。このため、引き続き、ペルー側と連携して検討を進めるとともに、ペルーの水資源および農業生産の将来予測と政策提言に資する効果的な技術移転を円滑に進めるため、情報交換を続ける予定である。



写真-1 UNALM-DRHスタッフとの集合写真
写真-1 UNALM-DRHスタッフとの集合写真

写真-2 UNALM-DRHでの指導の様子

 

写真-3 灌漑実験施設

写真-2 UNALM-DRHでの指導の様子   写真-3 灌漑実験施設

 
案件名 気候変動(水資源)
派遣専門家 増田周平
所属機関 (独)海洋研究開発機構 地球環境変動領域 海洋環境変動研究プログラム・チームリーダー(主任研究員)
派遣期間

平成23年9月7日~27日

相手国名 ペルー
相手国研究機関 ラ・モリーナ国立農業大学(La Molina National Agrarian University)

気候変動(水資源)
(平成23年9月7日 ~ 27日)

1. 専門家活動内容と成果達成状況

(1)活動内容:
 ペルー国太平洋沿岸の温帯地域に位置するイカ川流域における水循環および農業生産に対する気候変動の影響評価モデルを構築する上で重要となる、当該地域での気候変動メカニズムの理解促進を目的とし、ラ・モリーナ農業大学(UNALM)において最新の気候変動データセットを提供すると同時に気候変動のメカニズム解明に資する解析手法の伝授を行う。

 本案件のカウンターパートは主にUNALM-DRHに所属する教員である。UNALM-DRHでは、大学の目標達成のためメンバーが一丸となり活動を行っていることから、そのうちの数名の教員を中心としてキャパシティ・ディベロップメントを行った。また、UNALM-DRHで関係する専門分野の研究経験者、もしくは今後、博士号あるいは修士号取得を目指してその専門分野の研究を行う学生も対象に含む。ANA(Autorided Nacional de Aqua: 水省)、SENAMHI(Servicio Nacional de Meteorologia e Hidrologia del Peru: ペルー国立気象水理センター)、および理学部(Faculty of Science)も本案件にとって重要な関係協力機関である。


(2)達成状況:
 カウンターパートに結合再解析データを提供し、可視化のための技術移転を行うことで研究者独自で降水データや大気物理量の時系列を描画・解析できるようになった。


写真-1

 気候力学的な見地からペルーの気候変動に大きな影響を持つENSO現象の基本力学や予報モデルの現状などを解説することでカウンターパートの気候変動現象に関する理解を深めることができた。



写真-2

(3)人材育成の観点での活動内容:
 現地で、対話方式のセミナーを隔日で行い、カウンターパートの興味や問題意識をくみ取りつつ気候変動に関する理解の深化に努めた。


(4)計画と進度に齟齬があった場合、その理由:
 当初、現地で演習などに用いるPC機材を設置する予定であったが、調達できずカウンターパートの資材で代用した。このためソフトウェアのインストールなどに時間がとられ、より高度な解析コードを実行するまで立ち会うことが出来なかった。


2.指導分野およびその関連分野にかかる受入国、協力先の現状と問題点

 ペルーは太平洋にひらけた沿岸地域からアンデス山脈に続く高山地帯まで性質の異なる地勢を含んでおり、地域ごとの綿密なモニタリングと地域間の連携研究が必要である。しかしながら広範な地域を網羅するインフラ整備などを即座に実施するのは容易ではない状況のようである。


3.今後の予定(派遣時期と活動計画)

 引き続きカウンターパートとリモートでコンタクトをとりつつここで得られた気候変動の知識が水循環・農業生産の研究に結びつくよう指導していく。今後の訪問については平成24年10月上旬を予定しており、気候変動の影響評価モデルの実装に向けた活動を予定している。