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リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業 担当
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リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業

参加者の声

第4回(経済学)参加者


参加者アンケート結果(PDF)

第4回リンダウ・ノーベル賞受賞者会議(経済学) 報告書

日本学術振興会の支援による参加者の報告書より抜粋

氏名 古市 将人
所属 帝京大学・経済学部・助教

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  それぞれの講演者は、極めてエネルギッシュにそれぞれの研究内容を紹介していた。その熱気に会場全体が引きつけられていた印象を持った。講演の内容は、極めて専門的な内容から、講演者のノーベル賞受賞研究とは距離のある内容まで幅広いものであった。異分野の理論的な講演もあり、中には理解に苦しんでしまったものもあった。しかし、講演者が理論の細部に入る前に、丁寧に理論の位置づけや背景を説明してくれたので、異分野の研究者にとっても啓発的な講演が多かった。さらに、講演内容と関連づけながら、若手研究者へのメッセージや今後の研究課題を提示する講演もあり、それは印象的であった。全体的な雰囲気は、様々な分野の参加者の発言を歓迎するものであった。

ノーベル賞受賞者の講演―George A. Akerlof:
  Akerlof教授は、共同研究者と共に進めてきた「アイデンティティ経済学」という新しい研究をテーマに講演をされた。講演の骨子は、ある個人が同一の状況にいながら、異なる意志決定をする背景に個人のアイデンティティがあることを指摘し、個人の意志決定におけるアイデンティティの重要性を様々な研究を援用しながら示すといったものであった。
  この講演から、私は、今後歴史学、社会学、経済学などの社会科学の相互作用が一層促進される可能性があると感じた。特に、そのことを感じたのが、フロアからの質問である。社会学を専攻するその質問者は、Akerlof教授が、社会学の成果をモデルへと翻訳することについて、いくつか質問を投げかけていた。そのやりとりから、今後、経済学の実証分析にもエスノグラフィックな研究がしかるべき位置を占めなければないと痛感した。Akerlof教授の研究は、単に「アイデンティティが重要である」と指摘するだけではなく、研究者に「意志決定者のアイデンティティと行動の関係について、分厚い記述をしろ」という課題を投げかけているのかもしれない。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象:
  事前に、レクチャーをしてからディスカッションに入るかどうか参加者に質問することもあったが、多くの参加者がレクチャーよりもディスカッションを希望し、私が参加したものはすべてディスカッションのみであった。改めて、参加者のモチベーションの高さを感じることが出来た。
  ディスカッションの場にいるのは、ノーベル賞受賞者と参加者のみであり、ゲストや他の受賞者が閉め出されていた。そのため、ディスカッション自体は、講演や講義と言うよりは、大学院のゼミのような雰囲気であった。このような運営側のきめ細やかな準備もあって、各ディスカッションの内容は極めて自由なものであった。ディスカッションの内容は、ノーベル賞受賞に関係する研究や講演に限定されずに、研究者としての心構えやある特定の国の歴史や経済問題にまで、話が拡がっていった。ノーベル賞受賞者の方々が、多様な質問を受けつけていたこともあるが、参加者の専攻が歴史学、経営学、社会学、経済学などと多岐にわたっていたことがディスカッションの幅を広げた一因であると考えられる。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
(1) 社会科学全体を意識した研究戦略
  多くのノーベル賞受賞者は、単に研究史の空白を埋める研究ではなく、高い目的意識に導かれた研究戦略を構築している印象を持った。特に、印象深かったのは、積極的に社会学のエスノグラフィー研究を参考に、まったく新しい理論構築を行うことで、学際的な研究をしているAkerlof教授の講演と個別ディスカッションであった。研究者にとって、個別専門領域で業績を重ねることが目標の一つであるが、常に他分野の動向を意識しながら研究をすることも自分の研究内容を豊富化する経路であることがわかった。
(2)研究成果の社会への還元
  多くのノーベル賞受賞者が、各国が直面している様々な問題を意識しながら研究をしていたのは印象的であった。常に、自分の研究成果をどのように社会に還元できるのか意識する必要性を痛感させられた。
(3)研究内容のプレゼンの仕方
  多くの講演者は、シンプルな構文とパワフルな単語を組み合わせることで、簡潔ながら、熱意のあるプレゼンを行っていた。このような手法は自分の研究をプレゼンするときにも応用しなければならないと、強く感じた。



氏名 森田 忠士
所属 大阪大学・経済研究所・GCOE研究員

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  講演を聴いて一番よく伝わったのが、ノーベル賞受賞者はみな一様に、自分たちが世の中の問題に対して答えを出し、それを用いて国の経済を現在よりもよりよくしよう、という意欲に満ちていたということだ。また、若手経済学者が大半の講演ではあるが、一般の人が聞いても理解できるようなわかりやすい言葉で講演を行っていたので、研究と現実の対応を常に意識しているということが伝わってきた。

ノーベル賞受賞者の講演―James A. Mirrless:
  Mirrless氏の講演内容は、経済成長と不平等に関するものであった。この問題を解決するために、一国の中の所得分布を考慮に入れたモデルを構築する必要があるとした。そこで、所得の多い人から少ない人への所得移転によって、経済成長が上向く可能性があることを示唆していた。また、豊かな国から貧しい国への所得移転も有用である、と指摘していた。所得分布を考慮したり、人々の持つ能力を考慮したりするモデルを構築し、現実経済を考察することの必要性を感じた。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象:
  ノーベル賞受賞者とのディスカッションは、受賞者が若手経済学者の質問に対して答える、というものだった。もちろん、若手経済学者の質問にはいい質問もあれば、答えにくいような一般的な質問までいろいろあったが、一つ一つの質問に対して、丁寧に答えている姿が印象的だった。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  会議に参加して、変わらなければならないと思うことが三つある。一つ目は、ノーベル賞受賞者の話を聞いて、経済学を現実に役立てることをもっと強く意識する必要があることである。そのためには、まず現実で何が足りていないのか、何が問題なのかについてもっと真剣に考え、日本でも議論することが必要である。もう一つは、海外の人との積極的な交流である。海外の人は、にこやかに挨拶を交わし、会話を行っていた。自分の英語の能力など気にせず、堂々と意見を述べて、話に行くことが必要だと感じた。最後に、海外の研究者は経済学だけでなく、歴史、社会学といった他分野と経済学とのかかわり方について積極的に話していた。経済学という枠にとらわれず、幅広い知識を身に付ける必要があると感じた。