リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業

参加者の声

第58回参加者

第58回リンダウ・ノーベル賞受賞者会議 報告書

日本学術振興会の支援による参加者の報告書より抜粋

氏名 山本 達
所属 FOM Institute for Atomic and Molecular Physics (AMOLF)【オランダ】
専攻 表面化学
リンダウ会議領域 物理学

リンダウ会議という会議の存在さえ知らなかった私が、今回日本学術振興会によって参加する機会を与えられ、今後の自分の研究生活を考えるよい機会に恵まれたことに感謝いたします。ノーベル賞受賞者による数ある講演の中で、特にアメリカ出身のノーベル賞受賞者の講演の見事さが印象的でした。彼らはアメリカで研究資金を得るために非常に激しい競争を勝ち抜かねばならず、その過程でプレゼンテーション能力を磨いていったのだと思います。自分自身のプレゼンテーション技術をどのように改善すべきかを考えさせられました。また、今回の会議で、色々な社会的背景をもった人と会ったことを通じ、改めてコミュニケーション能力の重要性を痛感しました。今後はコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力を改善するための行動をおこしていきたいと考えています。

ノーベル賞受賞者との個別のディスカッションにおいて、私の研究分野に近い、今日の超高速分光を可能にしたレーザーの開発に初期から関わっているBloembergen 教授に質問する機会を得ました。「現在、日・米・欧で計画が進んでいるX線領域でのレーザー(X-ray Free Electron Laser; X-FEL)に関して、これまでに開発された可視光・赤外光領域のレーザーで見られている非線形現象がX-FELによりX線領域でも期待できるか」という私の質問に対し、教授は「非常に興味深い質問であり、X線領域で非線形現象を示す物質をまず見つけることが重要だが、今後X線領域での非線形現象についての研究分野が活発になるかもしれない」との答えを頂きました。また、レーザーの発展の歴史について当事者ならではの非常に面白い話も聞くことができました。

日常の研究生活においてノーベル賞受賞者から直接助言を受ける機会はめったにないと思いますが、今回リンダウ会議に参加した事で、講演・ディスカッションを通じ、今後研究を進めるうえでの多くの重要な助言を得ることができました。特に私は海外特別研究員として新しい分野に挑戦しているため、「自分がその研究分野において貢献できることは何かよく考えること」「自分の知らないことを指摘されることを恐れるのでなく、積極的に学会に参加して他人からの意見・批判をうけること」という助言が心に残っています。



氏名 井原 慶彦
所属 パリ南大学【フランス】
専攻 物理学
リンダウ会議領域 物理学

ノーベル賞受賞者は非常に気さくに学生、若手研究員からの質問を受け付けていました。研究内容に限らず、発見に至った経緯や、研究の進め方、今後の科学の展望、ポスドク問題など多岐にわたる議論がなされ、時にはかなり個人的な内容の質問も出ましたが、それに対しても丁寧に回答していました。また、ディスカッション・セッション以外にも、初日の夕食時、最終日のエクスカージョン時などノーベル賞受賞者と個人的に会話をする機会が豊富に設けられており、折に触れてそれぞれの受賞者の意見を聞くことができました。

学生からポスドクまで幅広い年齢層の参加者が世界各地から集まっていたので、他の参加者との交流の中で社交性の必要を感じました。これまでは議論の中に割り込むことは苦手でしたが、会話の中に加わり発言をすることは重要な能力であると痛感しました。また、議論に割り込むにははっきりとした持論を持っていないといけないこと、そのためには物理に限らず幅広い分野に関する興味と知識を持つ必要性があることを感じました。研究の持続には、ある程度の政治力が必要性であることも実感しました。これまではいい研究ができれば満足だと思っていましたが、研究が十分に評価されるためには地道な宣伝活動も必要であることを理解しました。

研究面では、どの受賞者もそれぞれの研究に対する哲学を持ち、それぞれのやり方で大発見へと至っているため、一概に正しい道を得られたわけではありませんが、どの受賞者も物理に対する真摯な姿勢を持っている点は参考になりました。Klitzing教授やOscheroff教授など特に実験系の受賞者では最善を尽くした実験結果について熟慮を重ねたことにより、思いもよらない新しい概念にたどり着いています。これらの結果を参考に、今後の研究は安易に奇抜なアイデアに走ることなく地道な積み重ねに重きをおきたいと考えています。この種の研究には時間、労力、資金がかかるうえ、人間の時間スケールで成果が出る保証がないため、十分なサポートを受けることが難しいことは明白です。アウトリーチ活動などの宣伝活動もできる限り力を入れて基礎研究の重要性が一般に受け入れられるよう努力する必要があることに気づかされた点が研究以外の面で参考となりました。

今回の参加によって、今後の研究活動に対して強く動機付けられました。また、後進の教育やアウトリーチ活動にも興味を持つようになったので、然るべきときには研究以外の活動にも従事したいと考えています。



氏名 柳澤 啓史
所属 チューリッヒ大学【スイス】
専攻 表面物理
リンダウ会議領域 物理学

リンダウ会議に参加されたノーベル賞受賞者は皆高齢の方たちではありましたが、声にはとてもはりがあり、その講演はいずれも聴講者を意識した刺激的な内容で、ノーベル賞受賞の研究だけでなく、先生方の現在の興味や研究等、多岐にわたるものでした。研究分野に近い、遠いに関わらず受賞者の講演およびディスカッションで展開された話は示唆に富み、また具体的で、今後の研究を進める上で非常に大事なものになると感じています。

特に印象に残った話は、実験に対する姿勢を示してくれた受賞者たちのものでした。その一人が、超伝導トンネル現象を発見されたギャエバー先生です。先生は物理学者としてではなく機械工学士として教育を受けられたのですが、その後どういう経緯で物理学分野のこの研究に興味を持ち、どのような発想があって、その検証実験に着手したかを説明しておられました。さらに興味をもって、ひたすら情熱を燃やすことの大切さを説き、実験に対する心構えを具体的に挙げておられました。また、超流動を初めて実験により確認したオシェロフ先生は、学生時に行ったこの実験のノートを通して良い実験をするための指針を示してくれました。

今回会議に参加し、ノーベル賞受賞者たちの話を聞くうちに、受賞者たちは皆、自分の研究に対する興味や関心の趣くままに研究を進め、また疑問を持ち、研究を重ねてノーベル賞というすばらしい業績を残すに至ったのではないかと思えてきました。今、自分の研究に対する興味や感覚を以前よりさらに信じようと考えております。これから、このような考えを持つ機会を与えてくれたこの会の存在を多くの人に伝えていくのは私の役割だと思っています。