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科学研究費助成事業

私と科研費

最近の研究結果

 科研費により支援する学術研究では、毎年度、数多くの優れた研究成果が生み出されています。文部科学省及び日本学術振興会では、四半期毎に「科研費NEWS」を発行し、「最近のユニークな研究成果の例」として、科研費による研究成果の一部をご紹介しています。

 このコーナーでは、過去に「科研費NEWS」で掲載された「最近のユニークな研究成果の例」を分野毎に紹介しています。


人文・社会系理工系生物系


理工系(工学)

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錯視と視覚の数学的方法による研究

東京大学大学院数理科学研究科教授 新井 仁之

【研究の背景】

 近年、視覚の研究は脳科学の発展に伴い、急速に進展しつつあります。しかし未解明な部分も多々あります。例えば、視覚のどの機能が、脳のどの部分と関連しているのかは解明されつつありますが、そこでどのような計算により視覚の情報処理が行われているのかは分からないことが多いのです。私はこの部分の研究には、先端的な数学が有効に使えると考えています。しかし、先端的な数学を駆使した視覚の体系的研究はほとんど進んでいなかったと言わざるを得ません。

【研究の成果】

 私の研究方法は次のものです。まず脳内の視覚情報処理の数理モデルを構築します。そして、そのモデルが、人の視覚のモデルとして適切かどうかを視覚の錯覚である錯視を用いて調べます。もし適切ならばその数理モデルを実装した計算機は錯視を発生させるはずです。逆に計算機が錯視を発生させるような方法を見出すことにより、視覚の未知のメカニズムを推測していきます。
 私は数理モデル構築のため、当初ウェーブレット・フレームと呼ばれる数学を用いました。そして脳のV1野で発生すると考えられるある種の錯視を、統一的な方法で計算機に発生させることに成功しました。その後、視覚の神経科学に適するように改良した新しいウェーブレット・フレームを共同研究者の新井しのぶといくつか開発しました。さらにそれを用いて、私たちが発見したフラクタル螺旋錯視を数学的に分析しました。そしてその錯視の要因を特定し、それを取り去ることにより錯視を消すことに成功しました(図1)。このウェーブレット・フレームは脳のV4野のニューロンに深く関連しているものと考えています。

【今後の展望】

 今回開発したウェーブレット・フレームはV4野の数理モデルの構築に発展することが期待できます。また画像処理など他分野への応用も期待できます。こういった視覚と錯視の数学的研究は新しい数学の発見にもつながっていくはずです。

【活用された科研費】

平成16―17年度 萌芽研究「ウェーブレットによる視覚情報処理と錯視の研究」
平成16―18年度 基盤研究(B) 「マルチウェーブレット・フレームとその調和解析への応用」
平成19―21年度 基盤研究(B) 「調和解析の研究及びその多次元信号処理への応用」

図1

図1 上図:フラクタル螺旋錯視.同心円状に配列されたフラクタル島が渦巻いて見える
下図:ウェーブレット・フレーム解析による錯視成分の除去

※所属・職名は執筆時のものです。

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