お問い合わせ先

独立行政法人 日本学術振興会
研究事業部 研究助成企画課、研究助成第一課、研究助成第二課
〒102-0083
東京都千代田区麹町5-3-1
詳細はこちら

科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.85(平成28年2月発行)

「エネルギー資源と二酸化炭素削減について」

佐々木 久郎 先生
佐々木 久郎
九州大大学院工学研究院地球資源システム工学部門
平成27年度に実施している研究テーマ:
「低品位炭の自然発火防止に関わる海外オンサイト試験」(基盤研究(B))
「高圧雰囲気中における石炭の急速加熱による燃焼およびガス化特性の迅速測定」(挑戦的萌芽研究)

私が大学院修士課程に入学したのは1979年で,大学院学生として実験に明け暮れていた時期から既に30年以上経過しており,その頃のことを含めることに逡巡もあるが,ご容赦いただきたい。大学院修了後は,乱流拡散や地下の多孔質流動などの熱・物質伝達を含む複雑系の流れやエネルギー資源の生産に関わる研究を手掛けてきた。この間,熱・流体分野の研究手法は大きく変化し,例えば,流れの実験ではPIV 流体計測(Particle Image Velocimetry)などが,数値解析では数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)シミュレーションソフトウェアがコンピュータの急速な性能向上と共に利用できるようになり,研究ツールの高度化とその成果には目を見張るものがある。
   大学院生のときの研究では,解析プログラムや実験装置は概ね自分で設計し,装置なども研究室の技術職員の方に手伝ってもらって製作した。実験装置の構造や精度などもいわば「肌感覚」で理解し,変更や改造の積み重ねによって新たな方向や測定項目の追加,測定精度の向上を手探りした記憶がある。このように書けば,一見「きれい」な研究プロセスのように見えるが,現実は失敗も多く「床を這う」苦しさを味わったことも事実であるため,現在の学生にストレートに伝えることに正直なところ躊躇している。
   いま,研究資金が潤沢な研究プロジェクトであれば,高度な測定装置や商業解析ソフトウェアを利用でき,「マニュアル」に沿った測定や数値解析が可能となっていることで,大学院学生も初期段階から,例えばナノレベルの先端研究などにも参画することができる。また,数値解析ではカラーインデックスで3次元画像として結果が表示され,手間のかかる実験を実施しなくとも何らかの結果が得られるので,研究成果が短期間に終結できる場合も多くなっている。一方,これらの研究では測定装置や解析手法の内部が「ブラックボックス」化し,測定や解析結果の適否の判断が難しくなっていることもあり,学生が結果を「鵜呑み」にしてしまうことや新たに思いついた内容を反映させようとしても変更や改造が簡単にできないことも多く,ジレンマがある。さらに,大学の技術職員が減少していることで研究室に導入した装置やソフトウェアを継続して維持することが難しくなりつつある状況も運営上の悩みとなっている。
   1990年頃から取り組んだ主要な研究テーマは,炭化水素エネルギー資源の生産と二酸化炭素利用・地中貯留に関するものである。とくに,石炭,重質油,天然ガスなどの化石燃料資源を地下から採掘し,その燃焼ガスが大気中に蓄積され温暖化の誘因になっているということが1990年頃から指摘されるようになったため,エネルギー資源と二酸化炭素利用を含めた地中貯留などの挙動解析や全体システムの評価などの研究を実施してきた。現在では,二酸化炭素などの温暖化ガス削減は,日本のみならず世界が協力して取組むべき重要課題として浮上しており,フランス・パリで2015年12月に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において,2020年以降の世界的な温暖化対策の枠組みが議論され,合意がなされた。すなわち,二酸化炭素などの温暖化ガス大気放出量の削減対策は「待ったなし」で推進しなければならない政策課題となっているが,その解決と実現のためには科学技術によって解決すべき課題も多く含まれている。とくに,「南北間格差」や二酸化炭素の排出量が多い「石炭」が象徴的なせめぎ合いの対象となっている。石炭火力発電所などの大規模排出源での二酸化炭素の分離・回収と元々賦存していた地下への固定や貯留を組合せる CCUS (Carbon Capture Utilization & Storage)あるいは CCS(Carbon Capture & Geological Storage)と呼んでいるシステムを経済的に実現できれば,エネルギー供給と温暖化防止の両面で貢献できる。また,地球上における大気と海洋,土壌や地下との炭素循環バランスをこれ以上崩さないために二酸化炭素の地中貯留は必要な措置の1つである。これらの課題に対する各国の開発競争も次第に激しくなっており,日本の科学技術の積極的貢献が期待されている。
   このような,人類が直面する課題の科学的検証を伴う研究は,申請課題の内容に制限がなく,研究者による「ピアレビュー」と「倫理的運用」を基本とする競争的資金である「科研費」は,日本の他の研究費に比較して最も理想に近い形で運営されていると感じている。産業界からの研究資金とは異なる「学術的な自由度」の許容が,多くの研究者の努力によって維持・発展してきたことが理由であると推測する。研究に参画する大学院学生などにとっても外部への成果公表についての制限を基本的に受けないことから,「科研費」が大学の基盤的研究と教育を支えていることを実感している。
   私も,2003年9月~2006年3月までの2年半,学術システム研究センターの専門研究員として,工学とくに総合工学分野の業務に携わった。総合工学には,地下,大気,海洋,地球,資源や核エネルギーなど広範な科学技術分野が包含されるため,ともすると社会からのニーズはあっても産業界のニーズが十分とはいえず,若手人材育成が滞ることへの危機感が大きくなっていた時期であった。そのため,地球温暖化問題は,まさに社会科学を含めた学際的な研究を必要とする課題であるが,とくに総合工学が担うべき内容が多いことを,この分野への提言とキーワード等に含めさせていただいた。
   地球や地下などの「見えない対象」を観察・把握し,課題に挑戦する若手研究者の適切な育成と支援は,産業,地域,国などの個別の利益に留まらない地球温暖化問題解決の基盤である。最後に,若手研究者や大学院学生には,「マニュアル」に頼らない「手作り」の研究が,新たなブレークスルーに繋がる可能性を持つことを伝えたい。

※所属・職名は執筆時のものです。

これまでに掲載された記事は下記からご覧いただけます。
過去の掲載記事はこちら。